日本百名山を振り返って (2)

思い出の山々~ベスト5

風格ある山の姿、絶景と草花

 

百名山の中でどの山が印象に残っていますか?と訊かれれば、いくつかの山を挙げることができます。
深田久弥は、”山高きをもって尊しとせず” という格言を用い、山の品格・歴史・個性を尊重しました。人それぞれ好きな山があり、登ってみて初めてその山の魅力に触れることもあるでしょう。
天気の悪い時に登った山は、その印象は多分低いでしょう。逆に晴天の時は、絶景や花々の美しさが深く思い出に残るのではないでしょうか。

今回、私は最も印象に残った山を5つ挙げてみました。その基準は山の姿、絶景、草花です。そして、好天に恵まれたことも共通しています。

 

■利尻岳(北海道)

2017年夏、利尻島に一週間滞在しました。この時、いつでも登れる準備をしていましたが、あいにく天候不順が続き断念した山です。また来年来ればいいじゃないかと、あっさり諦めました。
翌年の夏、道東の清里町に滞在した後、天気の様子をうかがっていました。2、3日後に晴れの予報が出ていたので、急きょ民宿に予約を入れ稚内を目指しました。稚内からはフェリーで利尻島に渡りました。

 

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フェリーから望む利尻岳と鴛泊港(おしどまりこう)

島全体が一つの山を形成し、しかもその高さが1700mもあるような山は、日本には利尻岳以外にはない。こんなみごとな海上の山は利尻岳だけである。
深田久弥著「日本百名山」

 

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中腹からの雄姿、頂上から北方にオホーツク海と礼文島

一年待って再訪した甲斐がありました。海上から、山麓からもキリリと立つその雄姿を望むことができました。頂上からは、どこまでも広がるオホーツクの海原、北海道の屋根と言われる大雪山山系と十勝連峰、そして、宗谷岬を頂点とする北海道のカタチもクッキリ見渡すことができました。

ブログ:利尻岳

 

■鳥海山(東北)

退職後、藤沢周平の時代小説を読んで庄内平野への関心が高まっていました。又、いくつかの作品も映画化になり、田園風景が映し出される場面では必ず鳥海山がバックにそびえていました。
鳥海山の特徴は、日本海からすぐに立ち上がっていることです。百名山の中でも珍しい存在の山です。

山容秀麗という資格では、鳥海山は他に落ちない。眼路(めじ)限りなく拡がった庄内平野の北の果てに、毅然とそびえ立ったこの山を眺めると、昔から東北第一の名峰とあがめられてきたことも納得できる。
「日本百名山」

この頃から単にピークハントするだけの登山ではなく、何かもっと面白い登山ができないか?と考えていました。海ぎわから立ち上がっている地図を見て、海抜ゼロメートルからの登山をしてみようと思いました。そして、どうせなら海までまた戻って(下山)きたらどうかと。

鳥海山は、百名山の中で唯一「ゼロtoゼロ」(海抜ゼロメートルから登り、海抜ゼロメートルまで下る)で登山した山です。

 

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庄内平野から望む鳥海山。海辺の吹浦港から出発。

標高は東北の最高とは言え、わが国の中部へ持ってくると、決してその高さを誇るわけには行かぬ。しかしその高さは海ぎわから盛り上がっている。山の裾は海に没している。つまりわれわれはその足元から直ちに2240mを仰ぐのであるから、これは信州で日本アルプスを仰ぐのに劣らない。
「日本百名山」

 

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中腹から千畳ケ原と鳥海湖を望む。9月下旬、周辺は紅葉と草もみじが一面に広がっていました。

吹浦港から鳥海ブルーラインを歩き、途中の大平登山口から山間部に入って行きました。頂上直下の御室小屋(避難小屋)までの所要時間は11時間半でした。この日の小屋泊は私一人だけでした。

頂上付近からの眺めは圧巻でした。北方は果てしなく広がる日本海の海原、南西部に目を向ければ月山、岩手、朝日、飯豊、蔵王山、東方には青森の岩木、八甲田山など東北の名だたる名峰が一望できました。
千畳ケ原の豊かな高原帯や湖も含め、強烈に思い出に残る名山でした。

ブログ:鳥海山

 

■剱岳(北アルプス)

剱岳には二度登りました。最初は2010年8月、カミサンと共に立山三山縦走した後、剱沢から別山尾根を登ったコース。二度目は2016年、富山湾から早月尾根を辿ったルートです。
鳥海山のゼロtoゼロの経験から剱岳も同じように海抜ゼロメートルからチャレンジしてみようと実行してみました。

北アルプスの南の重鎮を穂高とすれば、北の俊英は剱岳であろう。層々たる岩に鎧(よろ)われて・・・一つの尖端を頂点として胸の透くようなスッキリした金字塔を作っている。
「日本百名山」

 

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海抜ゼロメートルの起点となる滑川市の海岸からいざ剱岳へ。登山口のある馬場島まで30kmのロード。

 

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歩いている途中、地元農家の人から凍ったペットボトルの水をいただきました。炎天下の中、コンビニ、自販機さえない山間部では助かりました。
中腹にある早月小屋から望むクライマー憧れの八ツ峰。

 

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切り立った岸壁を登る登山者。頂上からは富山湾と能登半島、北アルプスの山々が一望。
頂上までは2泊3日、下山も含めれば3泊4日の行程でした。下山は別山尾根を下り室堂へ。その後、黒部立山アルペンルートを利用し車を駐車しておいた滑川市まで戻りました。

日本百名山の中で最も印象に残り、NO1を挙げるとしたらこの剱岳を推します。

ブログ:剱岳(ダイジェスト版)

 

■塩見岳(南アルプス)

2016年夏、南アルプス大縦走(10日間80km)をした時、この塩見岳に出会いました。
三伏峠からの山容、そして、仙塩尾根からの姿、どちらも心に焼き付くような思い出の山でした。

塩見岳の特徴は、漆黒の鉄の兜(かぶと)、あるいはズングリした入道頭、こうおぼえておけば、遠くの山から南アルプスを眺めても、その中の塩見岳を見落とすことはないだろう。
「日本百名山」

 

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三伏峠からの塩見岳。なるほど ”漆黒の鉄の兜” という表現がピッタリでした。

 

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小河内岳から三伏峠にかけての稜線からはずっと鉄の兜を望みながら進むことができます。
頂上は二つの隆起からなり、南アルプスの主峰北岳と間ノ岳、農鳥岳の白根三山が目の前にそびえていました。南側には大井川源流の中俣が深く食い込み、山の奥深さが感じられました。

 

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塩見岳から北荒川岳に向かう仙塩尾根の稜線上には、なんと日本庭園か!?と思われる光景が飛び込んできました。ハクサンフウロ、マルバタケブキの群落が一面に咲き誇っていました。

一般的に塩見岳登山は、三伏峠からの往復がほとんどのようです。絶景やお花畑を楽しむというのであれば、仙塩尾根に抜ける縦走をお勧めします。(又は逆コース)
塩見岳の表裏の雄姿を眺めながらの登山ができます。

ブログ:塩見岳

 

■九重山(九州)

「くじゅう連山」の魅力はなんといっても頂上まで広がる草の山という絶景です。それは本土にはない特徴的な山容だと思います。
高い樹木はなく一面草原地帯といった感じです。5月にはミヤマキリシマが覆い、一面ピンク色に変わります。

この地域には、昔から同じ発音を持つ九重と久住の町(村)が存在していたことから、長い間この連山の字をめぐって争いが起きていたそうです。現在では山群の総称を九重、その主峰を久住山と呼んでいます。又、国土地理院は、ひらがなで「くじゅう連山」と表記されています。

 

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北千里浜と硫黄山

何より私が打たれたのは、あちこちに拡がる原であった。山上にある。東、西、北の千里浜、南国の山というのにそこにはコケモモが敷いていた。尾瀬を小さくしたような美しい湿原の坊がつる、ひっそりと山に包まれた佐渡窪、そんな原を横切らずにはどこへも行けないとは、なんと楽しい山であろう。
「日本百名山」

 

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西千里浜とミヤマキリシマ

 

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九重連山の主峰久住山

ブログ:九重山

 

5つの思い出の山を挙げてみました。これ以外にまだ多くの山々の思い出があります。
もう一度登ってみたい、ルートを変えて登ってみよう、今度は紅葉の時期に行ってみたらどうか、テントを背負って行くのも面白いな~・・・。
そんな思いを抱けば、またこれも楽しいプランが浮かんできます。

 

「日本百名山を振り返って」 つづく

次回は、百名山の中で特に「困難だった山」(事前準備やルートなど)、「平和を考えさせられた山」を挙げて振り返ってみたいと思います。

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