「見直し」だけが論点になっているが・・・
根本的な問題と方向性は!?
公的年金制度の仕組みに「第3号被保険者制度」があります。
この制度は簡単にいえば、専業主婦は夫が厚生年金保険や共済組合の被保険者であれば、保険料を負担しなくても基礎年金が受給できる仕組みです。
この制度の詳細についてはここでは省きますが、長年問題とされてきた ”保険料負担の不公平” や ”女性の社会進出” も併せながら考えてみたいと思います。
先日、東京新聞の特集版(1/21付)に「第3号被保険者制度を考える」というタイトルで記事が掲載されていました。この記事のキッカケもあったことから、私自身の体験も踏まえ考えてみました。
私は長年小売業(スーパー)にたずさわってきました。
この業界は8割以上がパート社員(総人時計算上)で占められています。特に女性の就労なくしては経営が立ち行かない業界と言ってもいいでしょう。
労働時間は週30時間を超える人もいますが、ほとんどは週30時間未満の短時間契約のパート社員です。
その方々の大半は専業主婦です。子育てが一段落したことで家計補助のために、又、「社会に出て働きたい」という意志を持った人たちでした。
毎年年末が近くなる頃、パート社員から勤務時間調整や休みの依頼が多数出てきます。年末の繁忙期を迎え頭の痛い相談事でした。
これがいわゆる「106万円の壁」問題です。年収でこの金額を越えると扶養から外れ、社会保険料負担が生じて手取りが減ることになるからです。
そんなことから、驚くことに時給アップを拒む人もいました。
見方を変えれば、労働意欲があっても女性の低賃金や社会進出を阻む制度と言ってもいいでしょう。
1/21付東京新聞記事「公的年金の仕組み」「年収の壁」資料記事
今回、東京新聞の「第3号被保険者制度を考える」記事では、「公的年金の仕組み」「世帯別の負担と給付の例」「政府の年収の壁支援強化策」などの資料も掲載されていました。
ここで不平等として注目されているのが、前述したように ”会社員と被扶養配偶者の夫婦” の場合だけ、保険料負担なしで、基礎年金の約6万6000円(月額)給付される点です。
この点について「見直し派」の意見は、(記事転用)
■自営業者らや共働き世帯、単身者世帯は保険料を負担するのと比べ不公平
■保険料を負担せずに給付を受けるのは社会保険の原則に反する
■女性の社会進出を阻害しかねない
会社員とその配偶者世帯以外の人たちからみれば、「どうしてそんな制度なの?」という疑問が起こるのも当然といえるでしょう。
私たち夫婦は、お互い退職するまで共働きでした。当然二人とも保険料は払い続けていましたが、扶養世帯の配偶者への給付については全く疑問も異論も持っていませんでした。それは、家事労働や社会を支える(子育てなど)労働として評価すべきだという考えがあったからです。
しかし、同じ境遇の自営業者やシングルマザーのことを考えると、これはやはり不公平な制度かな?と思うようになりました。
「世帯別の負担と給付の例」資料記事
こうした状況と「見直し」論は今に始まったことではなく、長い間議論されてきたようです。
特にリーマンショック以降、共働き世帯は急激に増え、逆に専業主婦世帯は減り続けていることから不公平感が助長され、更に女性の社会進出を阻害するものとしてクローズアップされてきたのでしょう。
この点について以前ブログにアップした、いのうえせつこさん著書「女性の自立をはばむもの」の中でも指摘されていました。
日本社会は、低所得の女性や無収入の女性に対して保険料負担なしに年金権を付与したことで、「女性パート労働者」という低コストの労働力を確保する根拠を得た。
こうした主婦やパート労働をする主婦を「優遇」する政策は、夫が定年まで元気に働き続けることを条件に保障されており、これが最大の落とし穴だ。死別に限らず、DVなどで離婚する場合にも、女性たちは一気に貧困への道を駆け降りることになりかねない。
このような見解も十分に考慮に入れて考えなければいけないと思いました。
この「第3号被保険者制度を考える」特集版には、「識者らの意見」が掲載されていました。
社会保障審議会年金部会委員
「女性の就労が今後も進展することが予想され、社会的背景が大きく変容していると思われる。今後は大きな見直しが必要」
芳野友子連合会長
「例えば女性が親の介護で仕事を辞めざるを得ないとなった時に、結婚している人は2号から3号に行くことができるが、結婚していなければ1号になる。どういう人生を歩むか、結婚しているか、いないかなどで女性の位置づけが変わってしまう」
西沢和彦日本総合研究所理事
「誰もが保険料負担が可能になるよう、労働市場における男女平等を追求する。こうした方法であれば『年収の壁』などは生じず、わが国のジェンダーギャップ指数が世界125位という惨状にもなっていなかったのではないだろうか・・・」
ジェンダー平等社会が大前提
この問題は、単に「見直し」と言っても多くの課題を内包していると思います。
私はこの制度は近い将来に無くしていく方向がいいと考えます。ただ、それには前提条件があります。それは、前述した西村氏の「誰もが保険料負担が可能になるよう、労働市場における男女平等を追求する」ことにあると思います。
社会保険の原則に立って、誰もが保険料を負担できる社会のしくみが必要だと考えます。
第3号被保険者制度で問われている基礎年金を含む厚生年金保険、健康保険、介護保険、雇用・労災保険などその保険料負担は大きいものがあります。
それらの負担が可能になるための雇用形態の改善とジェンダー平等を同時に進めるべきだと思います。
このことは今の社会において表裏一体として存在するからです。
現在、非正規雇用は2000万人を超え、賃金は正規雇用の67%にとどまってます。更に、女性が非正規雇用の7割を占めている現状をみても非正規雇用の拡大がジェンダー平等を阻害してきた要因とも言えます。
もちろん非正規雇用の男性も含めその改善が求められるのではないでしょうか。
■非正規雇用から正規雇用への転換~労働法制の改正
「同一労働同一賃金」「均等待遇」など男女差別のない給与保障。
■本人が望む非正規雇用であっても、給与アップと待遇改善を進める
最低賃金1500円以上。勤務時間調整することなく働くことができ、社会保険料負担が可能になる給与保障。
■中小零細企業への支援
賃上げに対応できない、又、各種社会保険料負担に対応できない企業に対し、国として直接支援する。
その他、子育てや介護、病気などで働きに出ることができない家庭への対応は課題として残るものの、まずは上記のような社会整備・しくみを改善していくことが求められると思います。
「第3号被保険者制度」の見直しを進める上で、小手先だけの見直しでは問題の解決に至らないと思います。
社会全体の労働環境や意識改革も含めて、改めて見直す機会にした方がいいのではないでしょうか。
第3号被保険者制度が出来る前は、専業主婦も保険加入が可能であったものを廃止
し、代わりにサラリーマンの保険料を値上げした経緯があったと聞きます。つま
り、サラリーマンの夫が妻の分を特別徴収されていたにすぎなかったのではないか
と考えます。自営業者(女性)と同様でよいものを、なぜ、わざわざ第3号被保険
者制度を作ったのか?サラリーマンから徴収すれば、とりっぱぐれがないと考えた
のではないかと邪推してしまいます。
匿名さん
>専業主婦も保険加入が可能であったものを・・・
私の母の時代がそうでした。専業主婦も国民年金加入が義務付けられ、母は継続して保険料を納付していました。この時はまだ徹底されていなかったためか、加入しない人が多くいたと聞いています。その後、第3号被保険者制度ができたようです。
父が亡くなってから母は遺族年金を受け取るようになり、同時に母の国民年金も支給されていました。
母が認知症で介護施設に入居する前後から、私が母の預金通帳を管理することになりました。
年金支給日には、母が亡くなるまで遺族年金と国民年金の2つが入金されていました。この年金があったからこそ、家族に負担をかけず介護施設に入居し続けることができました。本当にありがたかったです。
第3号被保険者制度ができた経緯については、私も詳しくはわかりません。
母のことを思うと、やはり誰もが保険料負担ができるような社会のしくみが必要だと思います。
コメントありがとうございました。
匿名さんの
・・代わりにサラリーマンの保険料を値上げした経緯があったと聞きます。つ
まり、サラリーマンの夫が妻の分を特別徴収されていたにすぎなかったのでは
ないか・・
この点については「夫が妻の分の保険料を負担してはいません。」全体のサラ
リーマンが第3号被保険者の保険料を負担したのです。独身者も夫婦ともに厚生
年金に加入している人たちは二人ともに負担率が上がったのです。
槌が崎さん
ありがとうございます。
第2号被保険者が全体で負担しているんですね。
こうした保険料の負担はわかりづらいです。ご指摘ありがとうございました。