山小屋ご主人のおもてなし ~ 燕山荘
以前、テレビ番組で泊まってみたい山小屋NO1になったことがありました。多くの登山者は、多分この燕山荘をご存じのことと思います。北アルプスの名峰を望みながらの縦走路は、表銀座として登山者の間ではあまりにも有名です。その出発点になるのがこの燕山荘です。北アルプス三大急登のひとつと言われる合戦尾根を登った稜線上に建っています。二百名山の燕岳は、北アルプスの女王として人気が高いです。 私は過去に三度この燕山荘に宿泊しました。なぜ「山小屋NO1」になったか?それは泊まってみて納得しました。今までの山小屋のトップクラスに位置付けても過言ではありません。
私は、現役時代小売業に勤めていました。この業界は、一言でいえば対お客様サービスに尽きます。競争が激しい中、お客様が望まれていることへの対応はもちろんですが、期待を超えるサービスは顧客の心をしっかりつかみます。
登山者の視点(お客様の視点)はどこにあるか? 疲れた足を引きずりやっと到着した今宵の宿からは、明るく元気な声で出迎えてくれるところからはじまります。登山者を待たせないスピーディなフロント対応はもちろん、部屋まで案内しながらの施設や周辺情報の説明などの接客です。建物は古くても黒光りするピカピカの廊下や壁、余計な障害物や装飾物がない通路、そしてなによりも清掃が行き届いたきれいなトイレなどの設備です。又、アンティークな雰囲気を醸し出している食堂の壁には、畦地梅太郎氏の「山男」シリーズの版画が飾られ、この山小屋の歴史を感じさせます。屋外のテラス周辺も雑草やゴミひとつなく、登山者の疲れを癒し景色を楽しめる環境が整っています。
ここまでが、NO1の理由かもしれませんが、「期待を超えるサービス」は赤沼さん(オーナー)のおもてなしにあると思うのは私だけではないでしょう。それは夕食後、山の自然を守るための登山マナーのお話とホルンの演奏です。特に登山者へのマナーのレクチャーはベテラン登山家からの話として充分説得性があります。その中で、ストックの使用自粛についてのお話がたいへん印象的でした。それは稜線上でのストック使用はできるだけ避けていただきたいということでした。理由は、最近石灰岩の登山道の崩壊が著しく、ストックによる崩れが助長していること、又、草花や木の根を傷めていることのようです。赤沼さんは、お客様である登山者をあまり刺激しないように柔らかく説明していましたが、私としては、なるほどと全く同感の想いでした。何も考えないで身体の一部として当たり前のようにストックを使う登山者が最近多くみられます。使う理由と使う場所をわきまえて使用することが必要ではないかと思っています。ほとんど平坦な稜線上では使う理由はありません。そのことをもっと真剣に考えてみなさいというのが、赤沼さんのメッセージの裏側にあるのではないかと私個人の考えですがそう思いました。こうしたことを登山者に伝えた山小屋のご主人は、今までこの赤沼さんと西岳山荘のご主人だけでした。
石灰岩の稜線上に建つ燕山荘 燕山荘の玄関
食堂には、版画家畦地梅太郎氏の作品 景色を眺めながらケーキセットで一息
夕食はハンバーグでした 夕食後、ホルンの演奏でおもてなし
「山と山小屋」 つづく