家族を介護している人
今や男性が約4割を占めてきている現実
今年2月にグループホームに入居した母の施設利用料の明細が届きました。
3月分(1ケ月間)の利用料は141292円でした(家賃、水光費、食費、介護サービス全て)当月に購入した消耗品類(日用品など)を入れても14万5千円ほどでした。
要介護認定による介護保険を使った介護サービス費の利用者負担額は、1ケ月2万7千円ですから思っていたより抑えられていました。
母と義父の場合、要介護認定を受けた時「一人暮らし」として登録されました。
このため、訪問介護サービスは保険の枠内で利用できました。
当初、認定を受ければ全ての介護サービス費は、介護保険対象になるものだと思っていましたが、要介護者が一人暮らしでない場合、訪問介護サービスのうち生活援助(家事援助)は保険の枠外であることを後で知りました。
私たちのようにお互いの親が一人暮らしだったことで、全面的に介護保険を利用することができましたが、現実的には子どもが同居して親の介護に携わるケースが圧倒的に多いと思います。 この場合、同居する嫁が義父母の介護に関わったり、母が父の介護をするケースだったり、又、実の娘が親の面倒をみたりするなど、ほとんどの場合女性が主介護者だと思っていました。 しかし、現実は変わってきているようです。
同居か別居にかかわらず、家族を介護している人の性別で男性は今や、約4割に上る。
また、同居して家族を介護する「主な介護者(主介護者)」の三人に一人が男性で、さらに男性介護者の三人に一人は、40歳代、50歳代の働き盛り世代だ。
中でも、息子が親を介護する割合はこの30数年の間に5倍の11.4%に激増し、かつて主に介護を担っていた嫁(9.6%)を上回っている。
「男という名の絶望」奥田祥子著
主に義父母の介護は「嫁」と思っていましたが、時代が変化してくる中、現実はこうした介護状況に変わりつつあるのかとちょっと驚きました。
周りをみれば確かにそうだな~と感じるものがあります。
私の母の場合も実家の近くに住む兄(次男。農家に婿養子)が、頻繁に母の身の回りの世話をしていましたが、婿に入った先の義父母の介護問題も出てきたことから、実母の世話まで難しくなり、兄から支援の連絡がきて私が主介護者になった経緯がありました。 又、私の義父母(妻の両親)の介護は、実家の近くに住む義弟(長男)が主介護者になり現在に至っています。 更に、私の知人(同年齢)は、自営業ということで実母を引き取り自宅で仕事をしながら母親の介護に携わり、奥さんが外に働きに出ているケースもありました。
私たちの場合、親が介護施設に入るという選択肢で直接介護に関わることから離れることができましたが、現実はそうではないようです。
「・・・心も身体も弱った母親を自宅で世話をするのは、息子の僕の・・・男の役目だから。男として母親を守るのは当たり前のことでしょ」 同著
全ての男性がそうではないと思いますが、こうした気持ちは大なり小なり「男として」「男だから」「男らしさ」など「男はこうあるべき」という風な社会的な呪縛にとらわれてしまう気持ちも一方ではあったりするのでしょうか。
その結果、例えば「長男だから親の面倒は俺がみる」と言いつつ、仕事の忙しさから嫁(妻)に介護の負担をさせてしまったり、独身男性の場合、家事やケア能力に乏しいため仕事と介護の両立がうまくできなくなり共倒れしてしまうケースもあるのかと思います。
身体の弱った母親から頼りにされ、その過剰な求めに応じ続けた末に自身の家庭崩壊の危機を招いた男性・・・。 共に暮らす母親に介護が必要となり、ケアされる側からケアする側に立場が逆転したことで苦悶し、危険な病に陥った独身男性。 さらには、要介護状態の母親に執心するがゆえに妻の異変を見逃し、自ら苦悩の隘路(あいろ)にはまり込んでいった男性。
同著
今や介護離職が年間10万人にも達していることも頷けます。 ※「母の認知症(3)」
男であることの苦悩と絶望
今の現代社会において、女性を取り巻く社会環境はまだまだ不備なことが多いです。
女性の社会進出が増えている中、男女機会均等、同一労働同一賃金、職場内での男女差別、又、最近話題になっている保育園の待機児童問題や子育て、非正規雇用、シングルマザー・・・。 そして、家庭内では仕事の忙しさを理由に家庭を顧みない夫、男(長男)だからと言って親の主介護者になっても実際の世話は妻(嫁)に任せきりという実態もあります。
そういう意味では、女性を取り巻く諸問題は社会的に大きな課題としてあると思います。
一方、男であることの苦悩もここ最近の社会変化に伴い浮きぼりになってきたようです。
近年の激変する職場環境や大きく揺らぐ家族のあり様(よう)により、いったんは旧来の「男らしさ」の呪縛から解き放たれたかに見えた男たちが再び、「男はこうあるべき」という社会、そして女性たちからの容赦のない要請に応えられずに、心中で白旗を掲げ、自ら固い殻に閉じこもってしまっているのである。
同著
※激変する職場環境=リストラ、賃金の頭打ち、非正規雇用の増大など
「女性たちからの容赦のない要請」というちょっと過激で誤解を招く文章もありますが、こうした状況に陥ってしまう男性もあるというのも現実ではないかと思います。
社会全般では、介護に関わるいろいろな諸問題を抱えているご家庭があると思います。 親を施設に入れるか入れないかということ、最期まで在宅介護で対応するという主介護者の考えや家族、兄弟など親族の意見もいろいろあることでしょう。
どちらにせよ大事なことは、主介護者が男性である場合、「男はこうあるべきだ」というプライドや矜持を一旦下ろして、素直に向き合うことではないかと思います。
男性は、親や家族に頼りにされる存在です。そのことから一人で悩む傾向になりがちになります。 私も親の介護に関わってきた中で、そうした状況になったこともありました。
まして、介護という専門的な知識や手立てはわかりませんでした。家事やケア能力に乏しい男ですからどうしても難しいことが起きてきます。
既婚男性の場合は、一番身近にいる妻とのコミュニケーション、更に兄弟、親族との十分な話し合いの中で進めていくことが、遠いようで最も近道な対応策が見出されるのではないかと思います。 独身男性の場合は、親族はもちろんのこと公共機関やケアマネジャーとの相談を密にしていくことが大事なことで、やはり「抱え込まない」ことが大きなポイントではないでしょうか。
「男はこうあるべき」ということをちょっとはき違えてしまうと、自身を追い詰めていくことになりかねません。 この結果、孤立が深まり、親の介護という一つの出来事が、貧困という深刻な問題につながり、更に下流老人、孤立死、老後破産という大きな問題に発展していくことになるのではないでしょうか。
白旗を上げても男としてのプライドや矜持に傷はつきません。
※参考書籍 「男という名の絶望」 奥田祥子著 幻冬舎新書