下流老人のリアル (2)

厚生年金未加入79万事業所の現実

1月13日、厚生労働省は、厚生年金に違法に入っていないと疑われる79万事業所を対象に緊急調査を実施することを発表しました。                       このことは、すでにメディアの報道でも大きく取り上げられています。

厚生年金に入る資格があるのに年金額の少ない国民年金に入っている人が約200万人と推定され、政府が対策に乗り出す。厚生労働省は13日、保険料負担を逃れるため、違法に厚生年金に入っていない可能性がある79万事業所を対象に緊急調査すると表明。

2016年金                        朝日新聞 1月14日

私たちシニアといわれる年代になると年金については大きな関心事になります。      しかし、働いていた若い頃は、毎月の給与やボーナスなど目の前にある現金に執着し、遠い将来の年金についてはほとんど関心はありませんでした。                              多分、このことはほとんどの勤労者に当てはまるものではないでしょうか。                50代になってそろそろ先のことを考える年代になった時、又、定年退職が近くなった時にようやく年金という言葉に触れて、どのくらいの金額?、いつからもらえるの?など、その年代のメンバーが集まれば話題になったります。                                               厚生年金の保険料は給与から毎月天引きされていますから、その意識はあったとしても今すぐ適用されないわけで関心は薄くなりがちです。

こうしたことから、厚生年金に入る資格があるにもかかわらず何ら疑問も持たないで働き続ける若者やそれをいいことに保険料の負担逃れ(保険料は労使折半)を意図的に行う事業所が後をたたない現実があると思います。                       厚生年金制度について全く関心がなく入社したとしても、その制度を適正に運用している会社であれば、退職時になって改めて「年金がもらえるんだ、良かった」という安堵につながります。これがまさに現実なのではないでしょうか。

若い頃は毎日の生活、子育て、家のローンなどに関心があり、将来の年金については漠然としたものではないでしょうか。                                                     そうした中で厚生年金未加入であったとしても、今の生活に大きな関心事があり、二の次、三の次になってしまうこともいたしかたないかもしれません。              であるなら、国は事業所に対して厚生年金加入の指導と点検をしっかり行う必要があると思います。「厚生年金制度に関心がなかった、知らなかった」という自己責任論では片づけられない面があると思います。なぜなら、事業所が意図的に加入逃れをしている現実があるからです。

近い将来の下流老人問題

2015年6月に発行された藤田孝典氏著書の「下流老人」は20万部を超えたそうです。    社会保障制度が厳しくなる中、多くの人の関心事になっているあらわれだと思います。     この著書では、今まで他人事と思っていた貧困を誰にでも起こりうる問題としてリアルに解き明かしています。そして、当事者だけでなく、全世代の国民にかかわる社会問題であると指摘しています。

今回の厚生年金加入の有無もこれからの貧困問題に大きく影響してくると思います。      ご承知のとおり国民年金だけでは老後生活は送れません。ましてや厚生年金があったとしても受給金額の削減、受給年齢の繰り上げなどによって厳しい状況にあります。         しかし、厚生年金は収入のない老後生活を送る上で経済的に大きな支えになっていることは間違いないと思います。                              ここにおいて、厚生年金未加入という問題は、ほぼ確実に下流老人の対象になってくるのではないでしょうか。

平均的な収入で40年間会社勤めすると厚生年金を月15万6500円受け取れるが、自営業者や非正規社員らが入る国民年金は保険料を40年間満額納めて月約6万5000円。将来の年金額が本来より少なくなる人が続出する可能性がある。                 保険料は国民年金なら月1万5590円、厚生年金なら平均的な収入の人で月約3万9千円を払い、雇い主も同額を負担する。                            この負担を逃れるため、厚生年金の適用を年金事務所に届けない事業所がある。       朝日新聞

このことは、一事業主の経営意識の問題であると同時に社会保障という大きな問題として捉えるべきものだと思います。

保険料の半分は事業主負担であるが・・・

厚生年金保険料の額は、標準報酬月額×保険料率で計算され、事業主と被保険者で半分ずつ負担することになっています。                               「保険料は毎月の給料で天引きされ、残りの半分は会社に出してもらっている」ということになりますが、はたして「負担してもらっている」という見方はどうなんでしょうか?

以前、あるサイトの投稿掲示板にこんなことが書かれていました。            保険料は労使折半であるが、「会社に半分負担してもらっている」というのはおかしい。会社の利益は我々社員が働いて生み出してきたもの。その利益で個々の社員の将来のために自分たちが全額保険料として負担しているもの。当然、事業主(経営者)のお金ではない。

たしかに言われてみればそうなのかもしれません。見方を変えれば考え方も変わります。  多くの優良企業の理念や社是には、その企業で働く社員を尊重した言葉があります。     社員を大事にする会社は成長しています。なぜなら会社を支え、利益を生み出しているのはそこで働く社員あってのものだということを経営者がわかっているからだと思います。   逆にそのことがわからない経営者は、目先の利益にとらわれ社員を育てることなく非正規雇用や短時間契約雇用で運営し、人件費削減のひとつの方法として厚生年金保険料負担逃れに走ることになるのではないでしょうか。                         最近よくいわれているブラック企業もその典型のひとつだと思います。

いずれにしても厚生年金に入る資格がある社員がいても、保険料負担を逃れるための疑いのある事業所が79万社もあることは、これからの社会にとって大きな問題だと痛感するばかりです。

 

 

4 thoughts on “下流老人のリアル (2)

  1. 本当に切実な問題です。
    運用で赤字を出されても困る。
    スイスや北欧の銀行は、マイナス金利になっているそうです。
    それでも確実に保管でき、将来に備えられるならいいのでは…と思っています。
    国民の将来に使うべきお金、最小限の経費を引かれても、年金支給額が
    確保されるよう、安心できるようにしてもらいたいと思うのは私だけでしょうか。

  2. 家犬さん

    コメントありがとうございます。
    厚生年金未加入問題もさることながら、家犬さんがおっしゃるように年金積立金の国内外の債券や株式運用も問題だと思います。
    株式市場は、海外投資家によるマネーゲームと政府主導による意図的な株価上昇施策により、本来の企業の経営力以上の株価上昇が続いています。しかし、こうした個々の利益確保のための株価のため、世界経済の状況によって大きく変化します。
    現在、GPIFによる債権や株式で運用されている金額は、厚生年金で約4年分、国民年金で約3年分の積立額だそうです。
    将来的な年金積立金の減少のための投資とはいえ、その資金の維持確保は別のかたちで対応していくことが望まれます。

  3. くろとごまです。

    今日(1月18日)の朝のNHKニュースで二人の中年男性が年老いた母親の介護をしていることを紹介していました。

    一人目は、残業ができないという理由で、正社員からパートになって収入は半減した状態で介護をしている事例の紹介でした。二人目は、現在53才で6年前から仕事をやめて母親の年金で生活しながら介護をしている事例の紹介でした。

    母親の看取り方のアドバイスが紹介されていましたが、看取った後の生活苦については語られておらず、行政の行っている福祉の現状のまずさ加減にうんざりです。

    このような方は全国にたくさんいると思います。私も母親が寝込んだり、重度の認知症になれば、仕事をやめて介護に専念するつもりでいます。(運良く定年まで働くことができましたので、何とか食べていくことはできると思っていますが、・・・。)

    働きながら介護をする方策が徹底的に遅れているように思えて残念でなりません。

  4. くろとごまさん

    コメントありがとうございます。
    介護離職が年間10万人もいるという数値が、今の日本の象徴的な現実だと思います。介護問題ももちろんですが、シングルマザーの子育て・保育施設問題、非正規雇用、年金問題、生活保護基準、そして、今回の厚生年金未加入など全て社会保障政策と関わりがあるものです。
    これらのことは、もう個人の域(自己責任)を超えていると思います。
    国として社会保障問題をどう捉えて対応していくかの考え方だと思います。    消費税増税が行われたとしても、社会保障に充てられるはずの予算は全く違うところで使われているのが現状です。欧州(特に北欧)のような税と社会保障が一体化され、国民に戻ってくるような政策であれば、今の日本のような事態にならないと思います。

    こうした税金の使われ方も、くろとごまさんがおっしゃるような「働きながら介護する方策」に対応されていかなければならないと思います。

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