まちの「豊かさ」に思うこと (3)

不動産会社によるまちづくり

まちづくりは、行政が行うものばかりではありません。                   ここ最近では、企業(不動産会社)が中心となって行うものが増えてきています。     郊外に大型の商業施設(ショッピングセンターなど)を開発して周辺地域からのお客さんを呼び込み、そのエリアの活性化につなげていくものがあります。                            私は現役時代、大手小売業に勤めていました。20年程前こうした郊外型の店舗開発プロジェクトに参加して、その開発にたずさわってきた経緯があります。           車社会が発達するにつれ、このような郊外型の商業施設の時代がやってきました。          こうした施設は、単に小売りだけでなく、今では映画館や遊園地、温泉、集会所、公園など幅広いサービス機能を持ち、一日中楽しめる娯楽施設に変貌してきています。

小売業の商圏範囲は、販売する商品にもよりますが、食品を中心としたスーパーマーケットの場合は約500m圏内です。これがホームセンターになると規模にもよりますが、だいたい10Km圏に拡大します。そして、これが大型ショッピングセンター(多機能型商業施設)になるとさらに拡大して30Km圏以上に広がってきます。                                   駅前商店街の駐車場がない個人商店では、100~200m位でしょうから衰退していくことは目に見えています。こうした商店街があるまちの郊外に大型商業施設ができれば、そのまち自体の集客があっても地元への経済効果は薄いのではないかと思います。          まちに人が来ても利用するのはそうした商業施設だけですから、経済的なシャワー効果の期待はほとんどないと思います。

駅前商店街の衰退は、こうした車社会の発達と経営者の高齢化、跡継ぎ問題などからきているといわれています。                                                           衰退がすすむにつれて空き家、空き地が増えてきます。そして空き家はシャッター、空き地は駐車場になっている所を目にします。

興味深いのは、不動産会社が「空間」と「コミュニティ」の関係に注目し始めているということだ。空き地を農地にしてテーマ型コミュニティの活動場所にしつつ、空き地のマネジメントによってエリア全体の価値を高めようとしている・・・。            空き地や空き家をそのまま放置するだけではエリアの価値が下がってしまう。それをうまく利用することによってエリア全体の価値が上がるのであれば、空き地自体がお金を生み出さなくても全体的な効果はあるという発想である。                    山崎亮著「コミュニティデザインの時代」

こうした考え方は、前述した商業施設開発だけでなく、衰退しつつあるまちの活性化に向けての取り組みのひとつとして関心があります。大資本による富の一極集中だけでなく、地元やその周辺の住民が参加するかたちでの活性化は、本来のまちの「豊かさ」につながるものだと思います。

まちの不動産屋さんによるコミュニティ活動

先日、TV番組の「カンブリア宮殿」でまちの不動産屋さんが取組む放送がありました。   千葉県房総にあるまちの不動産屋さんが、地域活動に積極的に参加して、そこに住む住民同士のコミュニティの場を提供したり、地域への社会奉仕に取り組んでいる内容のものでした。                                       不動産屋というと、住宅・土地の賃貸や分譲、管理の仕事が浮かびますが、会社の業務と直接関係のない「地域活動や社会奉仕」に?という驚きがありました。

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IMG_8602  IMG_8605   本業の不動産業以外に283種類の地域活動に取り組んでいるそうです。          その土地の住民からの信頼を生み、そうした貢献が直接間接的に企業の利益につながっていることで40年間黒字経営のようです。                              利益本位ということではなく、お客様や住民との信頼関係を築くことで経営の安定化が続いているということだと思います。                           このため、この土地に移住してくる若い方も多くなり、意図的な経営方針でなくても結果的にエリア全体の価値が高まっていくことにつながると思います。               こうしたことも、まちの「豊かさ」につながるひとつの事例だと思います。

シニアの「田舎暮らし」と「豊かさ」

定年退職してから今まで住んでいた土地を離れ、田舎に移住するシニア夫婦の話をよく耳にします。                                     今年8月に南アルプス北岳に登山した時、山小屋に同宿した団塊世代のAさんが、定年を機に都内から長野県佐久市に移住した話を聞きました。その土地を選んだ理由は、まわりに自然があり、好きな農作業や趣味の登山ができやすいことからのようでした。又、都心への交通も新幹線を使えば1時間程度で行けるからと言っていました。                         Aさんは移住してから数年経ち、快適な生活を送っているとおっしゃっていました。

田舎暮らしや海外への移住に憧れ、そこで生活をはじめたが実際には思っていたことと違っていた、期待したものとかけ離れていた、などの理由で移住生活を諦め帰ってきてしまう話もまた同時に耳にしたりします。                        こうした方々は、一概には言えませんが「田舎暮らし、移住が目的」になってしまっているのが多いのではないでしょうか。その場所で何をするのか、どういう暮らしをするのか、という具体的な目的がないと長続きしないと思います。                                                 老後を不自由なく生活していくために貯蓄や物が充分あったとしても、それだけでは満たされないものがあるように思えます。                                    その土地の人たちとのつながりやコミュニケーションは、そこで生活していく上で重要な要素だと思います。 

「豊かさとは何か」ということが20年以上前に問われてから、すでに「金と物」をたくさん持つことだけが豊かな人生ではないということは何となく共有されている。      ところが、実際には金と物以外に何を手に入れると豊かな人生を歩むことになるのかはあまり明確ではない。それは人それぞれだということになってしまう・・・。        そうしたなかで、人とのつながりが充実していることも人生を豊かにする要素だと認識されるようになってきた。コミュニティで活動する人たちは、総じて多くのつながりを手に入れている。生き方として可能性があると感じた。                    山崎亮著「コミュニティデザインの時代」

田舎暮らし、海外移住、そして、今住んでいる場所で生活していくこと、いずれにしても人とのつながりが充実していることが「豊かさ」に結びついているように思われます。   こうした豊かさは、さらにつながりを広めて、コミュニティという活動を通してまちの豊かさにつながっていくものではないかと思います。

これからの生き方を考えていく上で、こうしたつながりを意識していくことも大事なことかもしれないと思うようになりました。                                                 

 

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