日本百名山に思うこと (4)

山の名称について

山の名前というのは、その土地周辺の地域を冠にした名称、昔からの信仰宗教からくる名称、方位(東西南北)をあらわす名称、山の形や雪形を模した名称などさまざまです。    又、同一の山であっても地域によって異なる名前もあり、エリア外の人にとってはちょっと混乱してしまうこともあります。百名山の中でもそれに類する名称もありますから、日本全国の全ての山名の由来について調べたらキリがありません。

百名山の中で、個人的に気になる名称やちょっと納得がいかないな~なんて思ったりする山名があったりします。そんな山を抜粋して考察してみました。

日本第2位の高峰「北岳」

日本で一番高い山は富士山であることは誰でも知っているが、第二の高峰はと訊くと、知らない人が多い。北岳だよと教えても、そんな山はどこにあるのかといった顔つきである。 深田久弥著「日本百名山」から

2015北岳モデル1  2015北岳モデル

たしかに日本で二番目に高い山は?と問われたら、登山愛好家は別として、すぐに返答できる人はなかなかいないのかもしれません。北岳は、昔から「甲斐ケ根」と言われていたそうです。カイガネ?と言われてもピンときませんよね。                「北」というのは方位を示す文字ですから、北の方角にある山かな?と思ったりします。  南アルプスには白峰三山があり、南側から農鳥岳、間ノ岳、北岳の三つの山を総称して言います。三山の一番北にあることから北岳という名称になったそうです。         個人的な感想では、日本第二位の高峰なのに方位を示す北岳ではなんとも納得がいきません。それに比べ日本最高峰の富士山という名前は立派です。槍のように天を突く槍ヶ岳や白馬岳の方がカッコイイな~なんて思います。                     東西南北のそれぞれ一文字を付けた山名は日本全国無数にあります。愛好家の中でも東岳、西岳、南岳などと言ってもどこの山?って問い返される場合もありますが、北岳だけはストレートにわかってもらえます。そういう意味では固有名詞と化しているわけで、登録商標みたいなものです。だからと言って北岳でいいのか?私はやっぱり堂々とした山名を付けてもらいたかったと思っています。                        東岳、西岳、南岳に比べれば「キタダケ」という響きはシャープさがあります。その点で言えば、岳人共通のイメージになったのかと思います。

悪沢岳っていう名前、ちょっとイメージが・・・

日本百名山を含む全国の山の標高ランキングで堂々第六位が、南アルプスの悪沢岳です。

山をよく知らない人が「悪沢岳」の名に接すると、ぎょっとするだろう。だいたい、人名はもとより地名でも、マイナスイメージの象徴のような「悪」の字を当てることはないからだ。もちろん。「悪沢岳」の名の由来は、沢が難しい、危険であるといった状況からきているようだから、山そのものが「ワル」なのではない。                「新釈日本百名山」樋口一郎著

南アルプスの赤石山脈の中央部にある荒川岳は、前岳、中岳、悪沢岳の三山を総称して言います。荒川三山と呼ばれ、その最高峰が悪沢岳3141mです。              西から東に向かって位置順に前岳(荒川前岳)、中岳(荒川中岳)、悪沢岳(東岳または荒川東岳)と呼ばれています。

この山は国土地理院の地図には東岳となっているので、その呼称が普及しつつあるようだが、私たち古い登山者にとっては、どうあっても悪沢岳であらねばならぬ。悪沢という名はそれほど深く私たちの頭に刻みつけられている。・・・甲州の一猟師が、さりげなく言った悪沢岳という名が、やがて確定的なものになった・・・。                読者にお願いしたいのは、どうかこれを東岳と呼ばず、悪沢岳という名で呼んでいただきたい。一たい東岳という平凡な名はいつ付けられたのであろう。おそらく荒川岳の東方にある一峰と見なしたに違いない。しかし、荒川岳の続きと見るにはあまりにこの山は立派すぎる。南アルプスでは屈指の存在である。                                    深田久弥著「日本百名山」より

2015悪沢岳モデル1  2015悪沢岳モデル   悪沢岳                 頂上標識は「荒川東岳」

公式には東岳、または荒川東岳と登録されているにもかかわらず、「日本百名山」の中で深田氏が「悪沢岳」だと言い切ったことから、その後の登山愛好者の間では悪沢岳として通り、登山専門誌やガイド本などでは、ほとんど全て悪沢岳で案内されています。     そう思えば、この悪沢岳という名前は珍しさもあり、カッコイイ響きに聞こえてきたりして粋な感じがします。単なる平凡な東岳(又は荒川東岳)でなくて良かったと思います。

山の斜面に現れた雪形で名づけられた山名

もっとも代表的なものでは「駒ヶ岳」があります。駒=馬の形です。                   例えば、春になると雪解けがはじまり、山の残雪が馬の形に似ていることから○○駒ヶ岳などという名前で呼ばれるようになったようです。その馬の形が現れた頃が、田植えをはじめる時期としての目安になったということが伝えられています。            これと同じように「常念岳」(百名山)も一説があります。春に前常念岳の東北東の雪の斜面にとっくりを手にした坊さんの黒い姿の常念坊の雪形が見られ、安曇野に田植えの時季を知らせる雪形とされていたということです。

「駒ヶ岳」と名前の付く山は全国に数多くあります。百名山の中でも、甲斐駒ケ岳、木曽駒ヶ岳、会津駒ヶ岳、越後駒ヶ岳の四山もあります。                  ちょっと調べただけで全国に20の駒ヶ岳と付く山が存在しました。昔からどの地域においても自分たちの生活(水源と農耕など)と関わりを持った山ということで、親しまれた山名が付いたということだと思います。                           更に、同一の山であっても名称が異なる山も多く存在します。山は大きいので、そのエリア(町や村)によって同じ駒ヶ岳でも冠名が違う山があります。             例えば、甲斐駒ケ岳です。山梨県側(甲斐)からは甲斐駒ケ岳、長野県側(伊那谷周辺)からは東駒ヶ岳で呼ばれています。特に伊那谷周辺は、東側に南アルプスがあり、西側に中央アルプスがそびえている地域のため、木曽駒ヶ岳を西駒ヶ岳と呼んでいるようです。  一般的には甲斐駒ケ岳で通っていますが、インターネット上の登山愛好家が集う最大サイト「ヤマレコ」で見ると、意外にも東駒ヶ岳が多いのに気づきます。            よくある話で、昔から代々伝えられてきたことや生まれ育った身びいきから、公式名に反してこっちの名前が正当だという気持ちも良くわかります。               長野県人(あるいは伊那谷地方)にとっての東駒ヶ岳は尊重したいと思います。

2015東駒ケ岳  IMG_5268   へー、こういう地図もあるんですね     「山と高原地図」

でもやっぱり、「カイコマ」の方が響きがいいしカッコイイと思ったりします。同様に、「キソコマ」も”らしさ”が出て愛着が湧きます。平凡な東、西だけの山名では、せっかくの名峰がかわいそうに思えます。

ということで、日本百名山のある一部の山名について考察してみました。         深田久弥氏の文章や熟語をお借りすれば、颯爽とした鋭い形、威厳のある形、気高い岩峰群、毅然とそびえ立つ、山容秀麗、鋭い金字塔、雄大でかつ峻烈などなど、山をたたえる言葉が数多くあります。そうした素晴らしい山だからこそ、その山らしさや堂々とした名前であってほしいと思うのは私だけではないでしょう。

 

「日本百名山に思うこと」 つづく

 

 

                           

  

2 thoughts on “日本百名山に思うこと (4)

  1. なつかしい山々の名前が出てきたので思い出しました。
    私の山行日記を見てみました。
    ’96.8.1に転付峠から椹島に入り1泊、赤石小屋泊、千枚小屋泊でまた
    転付峠を越えて3泊4日です。
    2日に赤石岳、悪沢岳を登頂。
    ビール500mlを7本、一升の酒、自炊天幕泊で、余裕を持った山行で
    楽だったとありました。
    最後の日は12時間歩いたようです。
    赤石小屋では誰にも会わず、静かな山でした。
    約20年前、若かった~

    1. 家犬さん

      南アルプスでもかなり最深部の登山を経験されたんですね。
      地図で調べたら転付峠見つけました。なるほど、ここから入山して赤石岳、悪沢岳の二山を周ることができますね。
      今年、8月には南アルプス縦走(光岳~北岳)を計画しています。家犬さんが辿った赤石岳~悪沢岳の稜線も歩きます。今から楽しみです。

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