汚染水の海洋放出

事の本質はどこに?

「問題」がすり替えられている!

 

以前、東京電力の関連会社から「エコキュート」設置の勧誘電話が入りました。
話を聞くとこのエコキュートは、空気の熱を使ってお湯を沸かす家庭用給湯器のようです。現在、川越市を中心にキャンペーンを行っていて、今だったらお得な価格で設置できますという内容でした。
自然エネルギーを活用して家庭で発電する仕組みは太陽光パネルなども含め、環境に考慮したシステムとして歓迎するものです。
ただ、シニア夫婦二人世帯ではそれほどの電気を使うことはありません。初期設置費用と現在利用しているガス料金を考慮するとあまり経済的効果はありません。

東京電力は太陽光発電やこうしたエコキュートなど自然エネルギーを活用した事業を推進している点については評価するも、一方で原発の再稼働を推進しています。
この再稼働や使用済み核燃料の処理費用は莫大な経費がかかり、それらは全て電気料金と税金(国庫負担)で賄われています。
こうした状況に大きな矛盾を感じます。東京電力が原発を止めて、今後自然エネルギー分野に集中した事業展開を図るのであればこのような取り組みを支持するものですが・・・。

 

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8/25日付 毎日新聞

東京電力は8月24日、福島第一原発事故で発生した汚染水の海洋放出を開始しました。
これはすでにメディアなどでも報道されているので詳細については省きますが、9月8日衆参両院の連合審査会で議員から「東電は今回の放出は『関係者の理解を得た』と判断したのか」という質問に、東電の社長は「政府の方針に沿って放出を開始した」と答弁。
これには驚きを通り越して呆れてしまいました。
最も責任ある立場の当事者が自ら判断を示さず政府任せにしている点で、あまりにも無責任ではないでしょうか。
原発事故後、様々な賠償問題もまだ終わっていません。そうした状況にあるにも関わらず、更に水産業界へのダメージを与えることは許されるものではありません。

東京電力の計画では、汚染水の海洋放出の終了は「約30年後」とされているようです。しかし、これも溶け落ちた核燃料の取り出しに何年かかるかわかりません。
こうした海洋放出に対しての世論調査(共同通信)では「政府の説明は不十分だ」との声が82%に達していました。これも当然だと思います。

 

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8/25日付 朝日新聞

このような状況から中国政府は日本の水産物輸入を全面的に禁止しました。
又、この海洋放出に関して中国の一般国民から批判電話が至る所にかかってきました。こうした状況が連日のようにTVニュースで放送されていました。

こうした事態に政府は今月4日に水産業を守る政策パッケージを発表し、その主な項目は国内消費拡大に向けた「国民運動」の展開が掲げられていました。「国民運動?」ちょっと違和感を感じる文言ですが。
確かに今の水産業の苦境を考えれば、日本産の水産物を食べて応援したい気持ちも分かりますが、国民を駆り出すような姿勢・対応には釈然としません。

そもそもなぜこうした事態になったのか?が全く議論されていないことではないでしょうか。
元を辿れば原発稼働そのものに問題があります。
日本は地理的に地震多発の国にも関わらず、全国に約50基の原発が存在し福島第一原発事故のような災害がいつ起きてもおかしくない状況にあります。
にもかかわらず、現政府の政策で原発再稼働へまい進しているのが現実です。
今や自然エネルギーへの転換が世界中で取り組まれている中、それに逆行するような原発稼働そのものを問題視しなければならないと思います。

日本政府は今月5日、日本の水産関係者を支援する経費として本年度の予備費から207億円を支出すると閣議決定した。風評被害対策300億円、漁業継続支援500億円の基金と合わせ計1007億円の対策となる。
9/12日付け東京新聞

これら対策は私たちの大切な税金でまかなわれることになります。
これもまた元を正せば海洋放出しなければかからない経費です。日本国内でこれらの経費に加え、近隣諸国の水産物輸入禁止に伴う被害や関係悪化などは起こらないことです。

では百歩譲って海洋放出しなければこの事態を解決できないのか?
この疑問に真正面から取り組んでいる大島堅一教授(竜谷大、原子力市民委員会座長)によれば、

海洋放出以外にも方策があります。より安全な代替策としてモルタル固化と大型タンク保管です。モルタル固化は汚染水をセメントと砂でモルタルにして、永久的に固めてしまう方法です。海などへの流出リスクがなく、環境への影響が一番少ない案です。米国などで実績がある方法です。
大型タンク保管は石油備蓄などに使われてきた実績があり、堅固さにも十分な信頼性があります。
これらの代替案は、これまで公の場で提案者が参加する形で、きちんと議論されたことはありません。

こうした専門家による議論は必要なことではないでしょうか。上記の代替案は一つの例ですが、多くの専門家や学者が議論を尽くせば海洋放出以外の手立てはあると思います。

今回の海洋放出に関して、様々な面で ”問題がすり替えられている” と感じました。
本来問題にすべきは原発そのもののはずですが、危険なものにも関わらず汚染水の海洋放出を正当化したり、近隣諸国の不買行動に対して逆批判をしたり、国産水産物を食べましょうと言う「国民運動」の提唱や地元福島の水産関係者への支援金で事を済ませればいいだろう等々。
原発そのものの危険性を覆い隠すように関係諸国や国民に対して必死に火消しする態度がうかがえました。

 

このようなことは、メディアの報道においてもあるように思えます。
中国の一般人からの無作為な批判電話や不買運動を大々的に取り上げ、そこだけを中心に放送されている番組が目立ちました。確かにそれらの行為は、私もそこまでやるのか?いかがなものか?という思いにもなりましたが、問題とすべき原発のことが何も報道されていませんでした。
話題性だけを取るような放送は、事実あったことを伝えている点では疑うものはありませんが、もっと本質的な視点でなぜこうした事態になったのか?ということがしっかり伝えられていません。

このようなメディアの報道に関して、以前東京新聞のコラムに田中優子氏(法政大学名誉教授・前総長)が「事実を伝えてほしい」という見出しでコメントされていました。
ここでは主に政権に忖度した報道についてでした。今回の海洋放出についても関連するものではないかと思いました。

知りたいのは政治家のお題目ではない。実際の行動や決定が公正か、閣議決定がどう作用するか、司法は国民の側に立っているか、日本経済のかじ取りは今のままで良いのか等々、報道によって判断しなければならないことが山ほどあるのだ。

まさに今回の汚染水の海洋放出に関わる報道機関の使命と責任が問われるものではないかと思いました。

私たちはもっと冷静に考えなければならないと思います。
一時的な感情論ではなく「なぜこのようなことが起きているのか」という一点で議論しなけばばならないのではないでしょうか。
それは、前述した田中優子氏の「実際の行動や決定が公正か」「閣議決定がどう作用するか」「司法は国民の側に立っているか」「日本経済のかじ取りは今のままで良いのか」という指摘そのものだと思います。

 

先日、福島県いわき市に住む友人に連絡しました。
カミサンが、今回の台風の影響で市街地が水害になった報道を観て心配したことからです。
友人の所の被害は特にありませんでした。台風の被害も心配なことですが、それと共に今回の汚染水の海洋放出問題が話題になりました。
それだけ地元福島では深刻な問題として捉えられ怒りを発していました。
これが現実です。

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