増税でも社会保障は充実しない実態~日経新聞
内閣府が8日発表した7~9月期の国内総生産(GDP)改定値は、物価変動を除く実質で前期比0.5%減、年率で1.9%減となりマイナス成長になっています。4月の消費税増税と円安進行による物価上昇により個人消費は落ち込み、実質賃金は10月まで16ケ月連続で前年比減少が続いています。 こうした中で現政府は、消費税率の10%への引き上げを2015年10月から17年4月に先送りすると宣言しました。もともと今回の消費増税は社会保障の充実に使われるはずでした。しかし実際は、5兆円と見込まれる増収分の内5千億円しか社会保障に充てられていないのが実態です。 まだ記憶に新しい11月の政府広報TVコマーシャルでは、消費税増収分が「社会保障に着実に使われています」という宣伝でしたが現実は違うようです。又、この宣伝広告費(TV、新聞など)になんと1億6千万円もの税金が使われているのですから驚きです。
政府は、消費増税の増収分をすべて社会保障の充実・安定化に充てているとしているが、大半は社会保障の安定化に使われ、充実に充てられるのは増収分の1割にすぎない。 その際、社会保障費の大半を国の借金で賄っているかのような説明もしているが、社会保障費は他の歳出項目と同様、国債を含めた歳入全体から支出されており、所得税や法人税などの税収によっても賄われている。 そして、社会保障の安定化に消費税収を用いるということは、これまで社会保障費に充てられてきた法人税収や所得税収が浮くことを意味する。つまり消費税増収分の大半は、実質的には法人税減税による減収の穴埋めに使われていることになる。 ※日本経済新聞 12月8日「経済教室」伊藤周平(鹿児島大学教授)
※法人3税:法人税、法人事業税・法人住民税
この表で、過去の消費税収の大半は法人減税で相殺されているのがよくわかります。 私のブログ「税と暮らしを考える 法人税」でも指摘しましたが、法人減税を中止すれば10%への引き上げどころか引下げ、廃止も可能ということになります。
大企業の税負担率は表面上の税率35%よりはるかに低い。これ以上の法人減税が必要なのか疑問である。法人減税を中止すれば、消費税率10%への引き上げは不要ではないのか。成長戦略として法人減税を、又、経済対策として大型公共事業を推進する政策を継続する限り、いくら消費増税をしても、社会保障はよくならないし、国の借金も減らず、財政再建にもならない。 同記事
そもそも社会保障費(年金、介護、医療、子育て支援の社会4経費)のすべてを消費税収で賄うことなど不可能であり、そうしている国など存在しない。社会保障費は、あらゆる税収で賄われるのが当然だからだ。消費税の再増税の延期で、社会保障充実のための財源約4500億円が不足するとの報道がなされているが、待機児童の解消などの必要な施策であるなら、不要不急の公共事業費などを削り、社会保障に回せば済む話である。同記事
メディアはどういう視点に立って社会保障を考え報道するか?
日経新聞に掲載された「社会保障 別の財源模索を」をテーマにした伊藤周平氏の記事は、消費税の逆進性を鋭く指摘しています。社会保障の財源は、消費税を増税することなく、現在の不公平税制を是正し、所得税や法人税の累進性強化、つまり富裕層や大企業への課税強化・増税によって十分捻出できると訴えています。
静岡新聞の夕刊一面を使って「消費税8%→10% どうなる?暮らし」というテーマで特集記事が組まれていました。12月5日付の「子育て世代に恩恵を」というタイトル記事に目がとまりました。
日本では、年間の社会保障給付費約100兆円のうち約70%が老齢年金などの高齢者向けに充てられている。財源の約4分の1は国や地方自治体が投入する税金だ。一方で、育児支援などに対しての給付割合は約3%。社会保障改革国民会議は昨年、「世代間の公平性を確保すべき」とする報告をまとめた。政府は11月、年金給付水準を下げるなど高齢者に”痛み”を求める改革試案をまとめる予定だったが、安倍首相が衆院解散・総選挙に踏み切る意向を固めたことで急きょ公表を中止。 再増税はもちろん、先が長い自身の子育てにもプラスになる収入源開拓の試みでもある。 高齢者はもちろん大切と前置きした上で、「子供たちの未来はどうなるの」・・・。 静岡新聞記事より
新聞記事やその論評などは、それを掲載する側の見方・考え方によって大きく変わってきます。この記事の「記者の目」欄では「社会保障費は高齢世代重点に給付され、負担するのは主に現役世代・・・。子育て制度は世界に差を付けられているという。一部に、政治が票田の高齢世代に配慮を重ねたためとの声もある・・・。子育て世代への給付にも、もっと目を向けるべきでないか」とまとめていました。 社会保障費の財源の中で高齢者への給付や待遇に重点が置かれているから、その分を削って子育て世代に回せという考え方に大きな疑問を感じます。問題の本質を捉えないで、限られた財源の割り振りだけに読者(庶民)の目を向けさせている記事としか思えません。 これからの日本社会において社会保障のどの制度(年金、医療、介護、子育て支援)も欠かすことができない重要な政策課題です。まずはそうした視点に立って考え提言すべきものであると思います。 家計を圧迫する消費税率アップや延期する議論以前の問題として、まずは社会保障費の財源を歳入全体で賄う考えや不公平税制の見直しに目を向けさせる報道が必要ではないかと思います。
12月8日の特集4では、保育の現場で「待遇改善再び霧の中に」というキャッチコピーの記事が掲載されていました。これは、2015年10月に実施される予定だった消費税率10%が延期になり、増税分からの財源が子育て支援に回ってこないことからの見出しです。 保育園経営にとって国の子育て支援策は重要な関心事です。支援策によって保育士の研修の充実、保育士の増員や給与改善などの待遇改善が増税延期で先延ばしになったということです。 このこともまた消費税率アップウンヌンだけに目を向けた報道ではないかと思います。子育て支援策もたいへん重要な課題であり、充分な財源を投入しなければならない制度です。消費増税は、子どもをあずける家庭や保育士の家庭の家計を圧迫し続けるものです。保育園の待遇改善が良くなったとしても根本的な問題の解決にはなりません。
メディアの記事・報道は公共性が高く、その影響力は大きいものです。消費増税と社会保障費ひとつとってもその見方や考え方で異なる記事になります。民主主義社会における新聞の役割は重要なものがあり、庶民の立場やその生活を守るためのものであってほしいと思います。体制を批判するということでなく是正を提言することも本来のメディアの役割であるのではないでしょうか。