小説「姑の遺品整理は、迷惑です」

自分に置き換えて読むと

「収納上手」?、見方を変えれば・・・

 

私たち60代の世代になると、「やるべきこと」は徐々に少なくなってくるように思います。
子育ては終わり、家のローン返済も目途がつき、その後働き続けるとはいっても老後のための貯蓄や日々の生活費の足しにということになってきます。
もちろん、働くことで生き甲斐を感じ、健康の維持管理や社会貢献のためにということもあります。

そんな日常生活の中で、この世代の多くの人が経験することは、親の介護と親の葬儀があります。

親の介護ひとつとっても、100人いれば100通りの考え方・対応の仕方があることを60代にして経験しました。
そして、その体験から今度は自分たちに置き換えて、「我々はどうするの?」ということを考えさせられました。

又、介護のために施設入居した後の実家の整理、更に親が亡くなった後の様々な処理など・・・、これもまた自分たちに置き換えて「どうするの?、どうしたいの?」と準備しておくことも必要ではないかと思いました。

 

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先日、垣谷美雨の「姑の遺品整理は、迷惑です」という小説を読みました。
タイトルからしてその内容が想像できると思いますし、事実そのとおりのストーリーで展開していきます。
但し、ストレートに「迷惑」ですと謳っていますが、最後は姑の遺品をとおして ”人生の生き方を教えられる” といった内容でまとまっていることから、読み終わって何とも言えない温かさを感じさせてくれる小説でした。

あらすじは、
独り暮らしの姑が亡くなり、住んでいたマンションを処分することになった。業者に頼むと高くつくからと、嫁である望登子(もとこ)はなんとか自分で遺品整理をしようとするが、あまりの物の多さに立ちすくむばかり。
「安物買いの銭失い」だった姑を恨めしく思いながら、仕方なく片づけを始める。夫も手伝うようになったが、さすが親子、彼も捨てられないタイプで、望登子の負担は増えるばかりである・・・。

この本のキャッチコピー
あなたも無駄を溜め込んでいませんか?
捨てても捨ててもなくならない、とんでもない量の日用品にイライラが爆発!
誰もが直面する問題をユーモラスに描いた長編小説

 

垣谷美雨の小説の主人公は、決まって中年の独身女性か嫁という立場の人たちが多いです。
これは、昔からの ”男性優位の社会“ に対して、女性から見た様々な男女差別や理不尽なことなどを小説をとおして問題提起しています。
前回ブログアップした「四十歳、未婚出産」もジェンダー問題をテーマにしたものでした。

今回の小説では、遺品整理という問題を実の子である夫が何もしないということから、「嫁」である主人公が悪戦苦闘する物語でした。
これからの社会、家事や子育てなどいろいろな家庭内のことは、イコール女性という考え方を払拭していくことが求められていると思います。
同時にそのことは男性自身が変わらなければならないと。

 

定年退職後、私たち夫婦もお互いの父母の遺品整理や介護施設入居に際しての親の身辺整理を経験してきました。
その間、家を取り壊すに当たって厖大な家財道具などの処分もありました。こうなると数日ぐらいの日程では足りません。
この小説と同じような行動があり、「そうだったよな~」と懐かしい思いで読み進めました。
ごみの分別、集団回収、粗大ごみの収集依頼連絡、資源センターへのごみの持ち込みなど・・・。

「捨てても捨ててもなくならない、とんでもない量の日用品にイライラ!」

まさにそのとおりの有様でした。

又、コロナ禍で昨年自分たちの家の整理をした時も全く同じようなことがありました。
45lのごみ袋がなんと50袋も出た時にはさすがに驚き、自分たちも呆れたほどでした(笑)
ごみの収集日に合わせて出すことから、数日間部屋の一部がごみの山状態でした。
これもまた小説に書かれてる物語と同じでした。

 

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物語の中で主人公が亡き義母のことを思い出しながら片づけする場面がありました。

もったいないという気持ちが湧き起らないとは、なんとありがたいことだろう。
太っていてくれて、お義母さん、ありがとうございます。そして、捨てるには惜しいと思う高級ブランドの洋服を一枚も買わないでいてくれて、感謝します。
これね、決して皮肉じゃないですよ。罪悪感がなく処分できるのは嬉しいことなんです。だってお義母さん、もったいないと思う回数とストレスが比例しているように思うんですよ。

この場面の前後を省略したので、一見ひどい嫁だと思うかもしれませんが、本当にお義母さんのことを想いながら心の中で呟く様はユーモアがあります。

私も自分の背広やジャケット、ワイシャツ、コート、更には普段着や下着に至るまで処分したことを思い出しました。
この時、ブランド物のジャケットだけ一瞬手が止まったことがありました。しかし、他は全てブランド物でなかったので次から次へごみ袋に放り込んだことを覚えています(笑)

「もったいない」という言葉は、日本独特の物を大切にする思いをあらわしたものです。
それはそれで大事にしたい言葉です。モノが溢れ簡単に入手できる時代においては、「よく考えて購入したほうがいいよ」という教えがあるのではないでしょうか。

よく衣類を一枚買ったらそれに類する衣類を一枚処分するという教え?を聞くことがあります。
これによって物が増えない利点があります。分かっていてもなかなかできませんが(笑)

 

主人公と夫が一緒に片づける場面の会話では、

「昔のお袋はきれい好きだったよ。子供の頃は、物を散らかしているとよく𠮟られたもんだ」

「だから収納上手だったので。きれい好きな人にありがちだわ。押し入れもタンスも食器棚も本棚も、引き出しという引き出しは全部びっちり収められてたもの」

 

一戸建て住宅やマンションを購入する時の判断基準として、各部屋の収納設備やクローゼットの広さなど重要視されるようです。又、販売者側からのセールスポイントとして勧められると聞いています。
確かに収納スペースは大きな魅力の一つとされているようですが・・・。

子どもがまだ小さい頃とか子だくさんの家庭にとっては、こうした収納庫は必要なものですが、私たちの年代になると逆にオーバースペースという感じです。
結局、収納されている物は、必要不必要に関わらずそのままの状態になっているのが現状なんです。自分たちの家の片づけをした時にそのことがよく分かりました。

主人公の望登子が言った「収納上手」は、普段生活する範囲はきれいに片づけされスッキリしている状態を保っていますが、本当に必要な物だけが収納庫に収められているのか?と、見方を変えればそうした難点も出てくるのかもしれません。
結果、いざ片づけようとした時に膨大なごみの量ということにもなりかねません。

 

全く逆の例があります。それは娘夫婦のことです。

現在、娘夫婦は都内のデザイナーズマンションに住んでいます。子どもがいないためワンルームの居間の他キッチン・バス・トイレと就寝用のロフトスペースだけです。
ここで驚くことは、”収納設備が一つもない” ということです。作り付けの収納庫や持ち込みのタンス・家具類・テレビさえありません。
物にこだわらない夫婦と言えばまさにその通りですが、それにしても何もない?というのも逆に不思議な感じです(笑)
ですからたまに訪れた時の状態は、いつもスッキリ整然とした部屋なんです。

けっして自慢話ではありませんが、衣類の量も少ない割に外出着のほとんどはブランド物ばかりです。季節ごとにうまく着こなしている様子がうかがえます。
キッチン用品にしても自分たちの気に入った料理器具や食器だけです。
もし引っ越しする場合、多分半日で済ませることができるでしょう。本人たちもその点を意識しているようで無駄な物は一切必要なしの生活をしているようです。

私たちの世代からみれば驚きの光景ですが、時代が変わればその生活スタイルも大きく変化するということでしょうか。
もちろん人それぞれ物に対する価値観がありますから一概には言えませんが。

 

「遺品整理」
私たち自分自身の身辺整理の必要性を感じた一冊でした。

小説のタイトルは「姑の・・・」ですが、これが「舅の・・・」かもしれません。「嫁」からみた遺品整理ですから、このタイトルからしてまだまだ家庭内男女不平等の意識・習慣があることを問題提起していることも伺えます。

このタイトルが、仮に「父の・・・」「母の・・・」ということであれば、実の息子や娘ということになります。
自分の親ですから当然自分たちが主体となって整理するべきです。
更に、今度は自分たちのことと考えた時、子にとって遺品整理はたいへんなんですから、自分たちの整理は自分たちで行うことが一番なんだと思います。

よく年配のオヤジさんたちが言う言葉として、「俺はポックリ逝きたい」「ポックリ逝けば御の字だよ!」と話されることがあります。
確かに苦しんで逝くことより良いと思いますが、いつ何時ポックリ逝くか分かりません。であるなら自分の身辺整理を普段からちゃんとしておいてもらいたいと思いますよね。
その話の前後から「身勝手な!」と思われる話のようであれば、更に、それができないのであれば、そういう発言は控えた方がよいのかと。

又、こんなふうに置き換えたりしたら? 「姑(舅)の遺品整理」→「姑(舅)の介護」と。
これもまた同じようなものがあるでしょう。

 

私たちの世代ともなれば、こうした親の遺品整理に立ち会う機会は少なからずあると思います。
それが、「舅の」「姑の」ではなく、自ら「父の」「母の」整理として行い、そして同時に自分たちのことを考える準備も必要なんですね。

4 thoughts on “小説「姑の遺品整理は、迷惑です」

  1. 今晩は~。私にとってタイムリーな話題です。おもしろそうな本です。
    垣谷美雨さんの本は実に心の動きの描写が上手いですよね。思わず「その通り!」と
    心の中で叫んでしまいます。

    昨年の初めに93歳で亡くなった義母。8年前から認知症でグループホームにお世話に
    なっていました。大正15年生まれですからなんでもしまい込むのが好きな人でした。
    なんと豆腐の容器なども。
    思わず笑ってしまいましたが、27年前に亡くなった実母も同じようでしたよ。
    戦争を経験している人たちはやはり捨てられないのでしょうね。
    物を大切にするということは大切な部分でもありますが。

    私の母亡き後の片づけは姉も私もまだ40代初めでしたから元気でした。
    それに大型ごみも指定日でしたら、無料で持って行ってもらえました。
    片付け上手な姉のおかげであっという間にきれいになりました。
    やはり実母ですと思い出のものが多く、姉と泣き笑いしながら処分しました。

    夫の家はスーさんと同じ県ですがF市の田舎です。
    まだまだ戦前の時代の考えの人が多く住んでいるようなところです。
    お寺の存在も大きいように感じています。

    義母亡き後、言葉が不自由な夫が相続で自分の代理人として弁護士にお願いしました。
    大正解でした。

    夫の実家近くにこれからも住む義妹夫婦が祭祀、不動産継承をするというので
    義妹には多くの遺産をあげるようにと私は夫を説得しました。
    でも、生前の義母の預金から多額の金額を義妹が引き出していたのがわかり
    大変でした。
    よくあることですが、義理の者が出てくるとややこしくなりますね。

    今回、依頼した弁護士さんが誠実な方で頑張ってくれました。
    それでも義妹が遺産分割協議に判を押すまでなんと一年間もかかってしまいました~
    全額欲しかったようです。欲はきりがないですね。
    以前は仲の良い兄と妹と思っていましたが、義妹の連れ合いが仕切りだし、言葉の不自由な
    夫を罵倒し、恫喝してきたので大変でした。
    弁護士の存在のありがたさを痛感しました。(弁護士にもよりますが)

    昨年は民法の勉強をしたり、専門家のアドヴァイスをもらったりといろいろ勉強になりました。
    日本の民法は???な部分が多いです。

    家じまいも信頼できる解体やさんに直接頼むと良いそうです。家の中のものは
    遺品整理屋さんに頼むと中には売れるもの(新しい家電品、未使用の羽毛布団など)の
    値段を決めて引いて処分してくれるところもあるそうです。

    私もスーさんの娘さんのような暮らしが理想です。すっきり暮らしは心身に良さそうです。
    でも現実は・・・(笑)
    2年後に夫と私と2匹の猫の住むマンションの大規模修繕がありますので、
    それまでにすっきりさせる予定です。(できるかな~?)

    片付けもかなり体力が必要ですね。

    1. Roseさん

      お久しぶりですね。
      お元気そうでなによりです。

      >昨年初めに93歳で亡くなった義母。8年前から認知症でグループホームのお世話に

      私の母とほぼ同世代ですね。同じように認知症で地元のグループホームに入居しています。
      今はコロナ禍でなかなか田舎に行くことができませんが、地元に住む兄(次兄)や義姉(長兄)がいるので安心しています。(長兄は数年前にがんで亡くなったため)

      親が亡くなった時の相続については、様々なもめ事で骨肉の争い?みたいなことをよく聞いたりします。Roseさんのところもそのようなことがあったんですね。
      Roseさんのお話を聞いて、やはりこうした場合は専門家の第三者(弁護士)を入れて話し合うことがいいんですね。

      私の場合、母が施設入居する時に実家が空き家になってしまう問題がありました。
      この時、義姉が自宅を引き払って実家に入ってくれたので助かりました。
      母の施設入居のことや実家のリフォーム、預金管理など、兄と義姉、私の3人で何度も話し合ったことが良かったと思っています。

      遺品整理屋さん?そうした業者さんがいるんですね。こうした世の中ですから遺品整理屋さんみたいなお仕事も需要があるんですね。

      >2年後に・・・マンションの大規模修繕

      何かキッカケがないと家の整理はなかなかできないものですから、これを機会にぜひ整理してみてはいかがでしょうか。
      私もブログで少しづつ準備なんて言ってますが、これもなかなか腰が上がらず一向に進んでいません(笑)
      やっぱり何か大きなキッカケがあればと思います。

      コメントありがとうございました。

  2. >母の施設入居のことや実家のリフォーム、預金管理など、兄と義姉、私の3人で何度も話し合
    ったことが良かったと思っています。

    なんと言ってもコミュニケーションが一番大切だと思います。
    我が家の場合は夫の考えと義妹の考えが(価値観と言ったほうが良いでしょうか)が異なるので
    大変でした。

    しっかり現実を見て、専門家にお任せするということの重要さを痛感しています。

    夫は妹とは絶縁と言っていますが、(母親が認知症になってからすぐに半端でない金額を引き出
    していますので犯罪ですね。税理士さんももし税務調査が入った場合、どうしようもないと言っ
    ています)法的にはできませんし、時間が経ったら少し緩い考えにもなるかもしれませんので静
    観しています。感情だけの思考はいただけません。

    相続の場合、使い込みがわかると相続人全員に追徴税の請求が来ますので
    協議書には必ず税務調査官が入った場合、使い込みした本人がすべての税金を払うものとする
    という内容を弁護士さんに書いてもらいました。(これ大切です)

    義母の身の回りはなんて言っても娘が担っていところが大なので、特別受益の差し戻し請求は
    しないことにしてと夫を説得しました。
    老親の面倒を見ることは私も祖母を介護していた母の手伝いをしたので
    少しは理解できます。
    やはり身の回りの世話をした人には多くを譲るべきと思っています。

    私の考えですが原則として、実子が自分の親の面倒をできる範囲でみるということだと
    思っています。

    1. Roseさん

      >実子が自分の親の面倒をできる範囲でみるということだと思っています。

      同感です。
      私の場合、施設入居している母は静岡なのでいつでも行ける距離ではありません。
      次兄は農家に婿入りし、その土地の本家だったため当主としてそちらの対応をしなければなりませんでした。
      母がまだ一人暮らしの時は次兄が時々様子を見に行っていろいろ世話をしてくれていました。
      私が退職後、3人で話し合い施設との主な対応はすべて私が行うようにしました。
      何か緊急の時は、兄や義姉が近くにいるため助かります。
      そんなことから常に3人でコミュニケーションを図っています。
      Roseさんがおっしゃるように、私もこうした経験から「なんと言ってもコミュニケーションが一番大切」なことだと思います。

      >身の周りの世話をした人には多くを譲るべきと思っています。

      私も同感です。
      例えば、「嫁」という立場の人が、舅や姑の世話を最後までしたのであれば、血がつながっていなくても、それ相応の対応はすべきだと思います。
      介護やお世話をしてきた状況を、周りの親族の人たちは単なる義務として片づけることなくしっかり評価・尊重することが大事なことだと思います。

      コメントありがとうございました。

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