国家公務員倫理カード

その国の7年8カ月・・・

終わらせない森友疑惑

 

8月24日安倍首相の連続在任日数が2799日となり歴代最長となりました。
その4日後、持病の悪化を理由に辞任を表明しました。

このことについては、すでにテレビ・新聞などの報道でも明らかになっているのでこの場では触れませんが、歴代最長という称賛よりも ”その期間の中身” が最も問われるべきだと思います。
何をしたか、何を指示したか、その結果どのようなことが起きたのか・・・。

 

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安倍官邸ー1強の構図を報じる朝日新聞

12年末の政権奪還後、安倍首相は政治基盤と支持率の安定、そして株価上昇を原動力に・・・安全保障面での取り組みに積極的に取り組んでいく。
13年12月の特定秘密保護法の制定に続き、集団的自衛権の限定行使を認めた閣議決定、それに続く15年の安保法制(戦争法)の制定だ。

歴代内閣は「憲法を変えない限り集団的自衛権は行使できない」との政府解釈を維持してきた。
憲法改正をせずに行使できるようにするために、安倍首相が最初にとった手段が、「法の番人」と呼ばれる内閣法制局長官の交代だった
8/30日付 朝日新聞

 

まさにこの時、憲法にもとづく政治=立憲主義、が破壊された瞬間でした。
このことは、歴代自民党政治が禁じてきた集団的自衛権を容認したのはその象徴ではないかと思います。

そして、この安倍1強が朝日新聞の記事にもあるように、
府省庁=忖度、所属議員=沈黙、国会=審議の形骸化という構図が生まれてきたのでしょう。

NHKの各予算委員会の国会中継を観ても、”数の力が有無を言わせない” かたちだけの審議になっていると感じるのは私だけではないと思います。
野党議員の質問にまともに答えない、原稿を読み上げるだけ、繰り返しの同じ答弁に終始・・・、「何かがおかしい?」と今までの自民党政治にない違和感がありました。

立憲主義の破壊は、今年4月の検察庁改正案提出においても明らかになりました。
検察の人事に政治が介入することを正当化し、政権の意に沿わない検察の動き封じ込めるものでした。

 

又、この府省庁の「忖度」というのもこの7年8ケ月の中で如実にあらわれてきた現象ではないでしょうか。
政権中枢からの無茶な法解釈変更に限らず、様々な政治判断の場面において違法や不正と分かっていてもそれに従うことを善しとする風潮を生んできたと思います。

モリカケ問題がその象徴的な出来事でした。
その一つが森友学園への国有地売却問題で小学校の建設用地として、国有地が8億円も値引きされたことです。
国会で追及が始まった前後に、売却の経緯を記した公文書が改ざんされました。
更には、改ざんを強要された財務省近畿財務局職員の自殺に発展し、この疑惑への再調査と損害賠償を求めた裁判が起こされています。

 

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最近たまたま読んだ松本清張の官僚による不正・汚職事件の小説にこのようなことが書かれていました。

汚職事件には直接の被害者がない。金品を贈った方も、もらった方も利益の享受者である。
公式めく言い方をすれば、被害者は国家であり、国民大衆である。
しかし、これは茫然として個人的には被害感を与えない。
個人は被害感を実得しないかぎり、告訴はしないものだ、汚職事件は個人的には被害者が不在で、利益者のみで成立している。
利益者たちは、相互の安全を擁護するため秘密を保持している。相手の露見はおのれにつながっているから、これほど堅固な同盟はない。
松本清張著「ある小官僚の抹殺」より

汚職事件。確かに言われてみれば被害者はいませんよね。どちらにとっても利益のある取引なんですから。
あえて言えば、清張が言うように被害者は国家であり、私たち国民です。
これが民間企業だったとしたら、8億円の値引きをすることで会社に多大な被害を与え、企業の存続さえも危ぶまれるでしょう。

このことは国家公務員と民間との汚職事件ですが、時の権力による圧力から起きた事件がまさにこのモリカケ問題でした。
ここにも ”相互の利益” というものが存在しています。

政権中枢の政略は、無理筋の法解釈と知りつつその正当化をしなければならない「配下」(官僚)の者たちに過度の負担を強いる・・・。
その「配下」の者たちもまた、その代償として組織防衛なり人事上の利益なりを暗黙に期待した限りで、結果的に政権中枢との間に不純な共犯関係を築いている。
ブログ:憲法学者蟻川恒正投稿「その国の7年半」より

 

国家公務員は、国民の利益を守り国民のためによりよい社会づくりに貢献することが使命です。

「国家公務員倫理カード」にはこのようなことが書かれていました。

■国民全体の奉仕者であることを自覚し、公正な職務執行に当たること。
■職務や地位を私的利用のために用いないこと。
■国民の疑惑や不信を招くような行為をしないこと。
■公共の利益の増進を目指し、全力を挙げて職務に取り組むこと。
■・・・。

 

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又、裏面には禁止事項として、「利害関係者との間」についての注意事項が記載されています。
更に、「禁止行為をした場合、倫理規定違反として免職などの懲戒処分を受けることとなります」と明記されていました。

 

このような倫理カードというものは民間企業にもあります。
私も長年勤めていた会社でもほぼ同じような内容の倫理カードがあり、社員証と共に常時携帯が義務付けられていました。

例えば在籍中にこんなことがありました。
ある食品バイヤーが取引先の接待を享受していたことが監査室の調べで発覚しました。この調査にもとづきそのバイヤーは即刻懲戒免職処分になりました。
又、会社の中でも優秀とされていた上司が部下への不正強要やパワハラにより降格処分になることもありました。
それは、社長や取締役さえも許されるものではないというもので、民間企業のその監査調査は徹底されていました。

国家公務員も同じようにこのような倫理カードにもとづく使命を持っているはずですが、民間と異なるのは国家財政を手にしていることからそれを享受する不正が起りやすい環境にあるのかもしれません。
又、天下りということもあり、府省庁の組織防衛と共に民間企業との癒着が生じやすいこともあるでしょう。
最近のコロナ禍における持続化給付金事業においても天下り先との癒着が暴露されました。

もちろん国家公務員すべてがこのようなことをしているとは思いません。大半の公務員の皆さんはその使命にもとづき職務を全うしているでしょう。
そして問題は、組織防衛や政権中枢とつながる人事上の優遇によって不正・汚職が起き、そのために部下に強要する事態が発生することです。

今回の森友学園の訴訟裁判において、亡くなられた職員の夫人(赤木雅子さん)が「国家公務員倫理カード」を持って出廷するという報道がありました。
家族としては、今まで倫理にもとづく仕事をしてきた夫の思いをこのカードに託して裁判に臨む気持ちが良く分かります。

 

8月28日、赤木さんは代理人弁護士を通じて、
「次の首相は夫がなぜ自死に追い込まれたのかについて、第三者委員会を立ち上げ、公正中立な調査を実施していただきたい」とコメントされていました。

今の首相指名の政局を見る限り難しいと思いますが、私たち国民にとっては大きな関心の一つであり徹底した調査を望むものです。
これからも常に注視し関心を持ち続けることが大事なことではないでしょうか。

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