壮大な冒険から考えさせられたこと
関野吉晴さん。どこかで聞いたことがある名前です。
そうです、今から約20年程前の1995年から「グレートジャーニー」というTV番組が放映されました。この時の探検家が関野吉晴さんです。この冒険は、アフリカで生まれた人類が、南米最南端まで行きつく長い距離を、人力でその跡をたどっていく過酷な旅でした。
約700万年前に生まれた原生人類は、およそ6万年前にアフリカを飛び出し、果てしなく長い時間をかけ、世界のあちこちに拡散していった。その人類の壮大な拡散の過程をブライアン・M・フェイガンというイギリスの考古学者が「グレートジャーニー」と名付けた。この過程は人類の歴史の中でも最大級の冒険、と位置付けられている。その「グレートジャーニー」のなかでも、最も長い距離を旅した人々の軌跡が、ベーリング海峡を渡って南米最南端までたどり着いた人々の旅路である。 1993年関野吉晴という探検家が、その、一番長い距離を旅した人々の来た道を、逆向きにたどることをはじめた。
「人類の旅」に魅せられた人。
2014年10月30日モンベル主催の「冒険塾」の座学講座が品川で開催されました。
今回で5回目の「海のグレートジャーニー~カヌーつくりから航海まで~」をテーマに関野吉晴さんのお話を聞きました。 1949年生まれの関野さんは今年65歳。テレビで見た物静かな印象どおりの方でした。
誰もが驚くような壮大な冒険の話を坦々と語る姿は、ほんとうにあの過酷な旅をしてきた人なのかと目を疑うような想いを感じさせます。
新グレートジャーニーは、「日本人はどうやって日本列島にやって来たか?」という思いから、3つのルートをたずねる旅を2004年から始めたそうです。ひとつは「北方ルート」でシベリアから北海道稚内まで。二つ目は「南方ルート」でヒマラヤの南からインドネシア、朝鮮半島を経由して対馬まで。そして、最後は今回の冒険塾で講演された「海のルート」です。このルートは、インドネシアのスラウェシ島を出発して、2011年6月に沖縄の石垣島にゴールするものでした。太古の人々と同じ航海をすることをコンセプトにして、手づくりの舟で4700Kmの旅をしたものです。
手づくりの「縄文号」で海のルートをたどる旅
失敗から学ぶもの
関野さんは、グレートジャーニーで1993年から足掛け10年で「人類最古の足跡の化石」があるアフリカ・タンザニアのラエトリまでたどり着きました。そして今回、新グレートジャーニーでは、人類が日本にやって来た3つのルートをたどる旅に7年の歳月を費やしています。その内の最後の「海のグレートジャーニー」だけで3年間かかっています。
ひとつの目標を達成させるために膨大な時間と費用を費やし、更に過酷な条件を課しています。そして、その途中では多くの失敗や挫折を経験し、その教訓を生かしながら前に進み続けてきた話がありました。
現在関野さんは、武蔵野美術大学の教授をされています。そうした立場からか講演の中で、「一年単位で学生の評価をしなければならない」又、「メディアも半年単位でその仕事の評価がされる」と語っていました。そして、「将来何かをやれそうだという若者たちに対しては、長い目を持って育てていきたい。短期間の評価は失敗を恐れてしまう。失敗は何度してもいい、失敗から学ぶものは大きい」というメッセージがありました。
大学の教授であり、医師であり、更にこのような冒険をされてきた方の言葉には、人生の生き方や見方を考えさせられる重みがあります。
先日、テレビのニュース番組で「日本の年功制と能力・成果主義について」の討論がありました。
これは、この番組にかかわらず日本独特の雇用制度である年功制(終身雇用、年功序列賃金体系など)については多くの論議があります。そして、現在では能力・成果主義に移行する企業が増えてきています。
この両制度は、それぞれ一長一短がありどちらが良いのかということはわかりませんが、グローバル化してきた社会経済の中では、後者の方向性に至ってきていると思います。
私もそうした経験をしてきました。当初は年功制からはじまり、途中外資系になってからは急速に能力・成果主義の人事考課制度に切り替わってきました。人を育てていくという人材育成については、科学的な視点から平等に育成講座もあり、年功制に比べればはるかに高いレベルの教育がありました。そして、給与に反映する評価は一年単位です。
この能力・成果主義の最も特徴的な点は「スピードと結果」です。現代社会は高度なシステム化とハイテクノロジーにより情報や対応のスピードが求められてきています。その結果、短期間で結果を出さなければ評価につながらないため、失敗を恐れるようになっていきます。もちろんあえて失敗することはないにしても、一方で失敗から学ぶものは創造性を豊かにして、いろいろな考え方や見方を得るものであると思います。
最近、日本の「ものづくり」が見直されてきています。じっくり時間をかけて作り上げていく「もの」(製品)です。ここには高度な技が存在します。この技は短期間に身に着くものではないと思います。 仕事の内容によって年功制や成果主義の考え方は異なりますが、早急な結果だけを求めずプロセスを評価しながら意識的に人を育てていくという大切さを感じます。
リタイア後、「夢を追い続ける時間」を大切にしたい
退職後のリタイア生活は、こうした現役時代の営利目的の仕事から解放され、プライベートな目標を持って過ごすことができます。そして「スピードと結果」は求められません。自分や家族の充実した生活や満足を得られる生き方に切り替えることができます。 平均寿命まであと20年余り、又、健康寿命まであと10年余りという期間を考えた時、今やりたいこと、これからやってみたいことを追い続ける時間に費やしたいと思います。
関野さんは、講演の中で「人類がアフリカから飛び出し、あの山の向こうには何があるのだろうか、あの海の向こうにどんな世界があるのだろうか、という想いから壮大な旅が始まった。そこには好奇心と向上心があったからだ」と語っていました。 実際には、人類が誕生してから個人~家族~集団に至る中で、弱い者がはじき出され拡散していったという人類変遷の分析をしていましたが、あえて好奇心という言葉を使って「ロマン」を追い求めて行ったという解釈は、まさに冒険家ならではの情熱がそこにあるように感じました。
関野さんは今年65歳の団塊世代です。一般の会社人間であれば完全リタイアする年齢ですが、その歳になっても「ロマンを語り続ける人間」として魅力を感じます。そこには常にポジティブな考え方や好奇心があるからではないかと思います。