NHK出版本と映画
60歳のラブレター
ブログ「60歳からの現実(リアル)」シリーズも6話目を数えるようになりました。
このシリーズでは、早期退職以降これからの生き方や過ごし方について思うこと、考えることなどを綴ってきました。
今回は、夫婦のことについて考えてみました。
先日、TSUTAYAのDVDコーナーで「60歳のラブレター」が目に留まりました。
中年オヤジにとってラブレターというタイトルは、ちょっと気恥ずかしく照れくさい感じがしましたが、60歳という年齢の題名が気になり借りて観ることにしました。
この「60歳のラブレター」は、団塊世代以上の方々は多分ご存じではないかと思います。
後でいろいろ調べてみたところ、住友信託銀行主催で2000年より毎年行われている、長年連れ添った夫婦が口に出しては言えない互いへの感謝の言葉を1枚のハガキにつづる応募企画だそうです。
そしてこれらの応募作品が書籍化され、2009年に映画化されたのがこの映画(DVD)でした。
2000年といえば今から16年前ですから、私がまだ40代半ばで仕事に夢中になっている頃でした。
その後、NHKの特集で紹介されたようですが、当時は仕事一筋、がむしゃらに生活していた頃でしたから番組を観たり、作品を読んだりする機会もありませんでした。
それよりも60歳という年齢はまだ先のことで、その後の生き方・過ごし方についても考える気持ちさえ持ち合わせていなかった年代だったのでしょう。
60歳になってこの映画作品が伝える意味がよくわかる歳になりました。
ストーリーの詳細は記述しませんが、基になった作品集の一部をご紹介したいと思います。
まずはこの書籍(応募作品集)を求めるために図書館に行ってみました。
ぼう大な書籍がある図書館の中で、どんなジャンルの作品なのかわかりません。カウンターに出向き調べていただいたところすぐにわかり、2冊借りて読んでみました。
全ての作品が元々ハガキ1枚につづる文章ですから読みやすいです。
たった半ページほどの短い言葉ですが、それぞれのご夫婦が共に生きてきた縮図がリアルに描かれていました。
読んでいるとそのご夫婦の人生物語が目に浮かんできます。
この作品集は、今まで夫婦で歩んできたいろいろな人生模様が描かれていました。
定年退職を前に今まで家族のために働き続けてくれた夫への感謝の気持ち。
親の介護をしつつ家庭を支えてきてくれた妻へのねぎらい。
何度も離婚を考え、そのための準備をしてきた妻の本音・・・。
こうして君に手紙を書くなんて、十年ぶりぐらいになりますね。
忘れられないことが一つあります。私の退職記念日にと出かけた、君にとって初めての海外旅行、中国旅行の時のことです。
到着したばかりの、夕刻せまる北京空港で、スーツケースを押す私の左腕に、君はしっかりしがみついてきました。古い時代の夫婦のような二人でしたので、あの時は、内心びっくりしました。・・・・。
21世紀になったら、二人で取ったパスポートの期限の切れないうちに、また海外旅行に出かけたいです。仲良く行ってきましょうね。
相場泰吉 群馬県(64歳)
今まで海外旅行に行くこともなく苦労をかけてきた妻。初めて行く見知らぬ土地での不安と夫だけが頼りになる妻の気持ちが「しっかりしがみつく」という愛おしさが伝わってきました。
あなた
先日初めて年金が戴けて「長年、お疲れさま、一ヶ月だけ余分に長生きしてね」と言って渡したら「はい、半分ママのもの」と言って下さいましたね。
あの時思わず胸がジーンと熱くなりました。
今だから白状いたしますけれど、十年程前あなたが偶然目にした「老後の蓄えよ」と私が称したあれは、本当は私がこの家を出てゆくときの為の軍資金だったのです。
結婚しても、ただひたすら仕事に燃えていたあなたの口癖は、「文句を言うなら代わってやるから稼いでこい」でした。
あの頃ずっと長く自律神経失調症に陥っていた私は、子供達が成人したらお別れしようと、ただそればかり思いつめて・・・。
でも軍資金は子供達の結婚費用に消えました。
頂いた年金の半分をそっと仕舞う時、あなたの働いてくれたお金をせっせと貯めて出ていこうと真剣に考えていた遠い日を懐かしく思いました。
夕べ、ほろ酔いかげんであなたが「生まれてこの方、今が一番いい時だ」と言っていましたが、私も今が最高の幸せです。
早まらなくて本当によかった。
小野敏子 岡山県(61歳)
他人には伺いしれないことですね。それでも感謝の気持ちを述べる妻。夫婦ってなんでしょうか・・・。
あなた!十年間の単身赴任、お疲れさまでした。
週末には「恵子の料理が一番おいしい」と、大阪から毎週、帰って来てくれましたね。
あなたの部屋に行った時、私の写真のうしろに少し埃の被った私の手紙の束を見つけました。
その時、私の心の中に、ポッと温かい光が灯り、愛おしさでいっぱいになりました。
桜井恵子 福岡県(53歳)
先ほどまで一緒にテレビを見ていたのに、ちょっと横になったかと思うと、もう眠っている順子。
結婚して三十五年、いつの間にか眼のあたりが少しくぼんできたのか。
父がベッドから起き上がれなくなって二年。介護に尽くしてくれるその日々が、おまえを老いさせているんだね。
大山へ二人で登りたいと、買って準備していたキャラバンシューズは、くつ箱の奥に眠ったままだね。
からだと心も疲れているはずなのに、父が好む食事を今日もつくってくれたね。
まず家族へのその優しさが、私に人への愛を呼びさましてくれる。
今は二人で旅に出られないけれど、毛布をかけてあげるね。ありがとう。
斎藤一郎 岡山県(62歳)
夫婦の「情」に理屈は通用しない?
この書籍の冒頭に脚本家の内館牧子さんのコメントがありました。
「情」に理屈は通用しない。夫婦は若い時から一緒に年齢を重ねてきたのだ。
お互い水蜜桃のような肌を持っていた時代を知っている他人だ。それが少しづつ消えていく日々を共有してきた他人だ。
お互い泣かされたり、本気で別れたいと思ったことがあっても、年月を経ることに、「情」の方が深くなる・・・。
若いうちは「愛情」だが、年を経て「情愛」となった時、夫婦というものはまったくもって悪くない。
すべての夫婦がこうした関係を保って共に生きてきたわけではないと思います。
お互いの気持ちのすれ違い、妻が我慢に我慢を重ねてきた日々を経て、いざ夫が定年を迎えた時に熟年離婚というかたちで終焉を迎えるご夫婦も現実にいます。
私は、今までの「60歳からの現実(リアル)」ブログの中で、定年を迎えた旦那さんが、いつまでも「お~いお茶、お~い飯、お~い風呂」と言い続けたり、「昼飯も作れないオヤジ」な~んて批判してきました。
妻に家庭や子育て、親の介護を押し付け、自分は仕事という免罪符を振りかざして過ごしてきた見返りは、その後の人生に大きく影響するものだと思っていました。
しかし、夫婦というものはわからないものです。すべてが理屈で割り切れるものではないということのようですね。
そこに「情」というものが存在するものなんでしょうか。
結婚記念日も私の誕生日も、プレゼントどころか、覚えてすらいないあなた!・・・中略・・・。
六人兄弟の長男と一人っ子の私、両方の親を看るのは当然ですが、私が、老人三人を抱えて奮闘している時も、重い痴呆症の母を在宅介護している時も、そして他に身寄りのない叔母を引き取った時も、あなたは実際に手を貸してはくれなかったけれど、背中にあなたの理解を感じていたから、私は楽しむように乗り越えられました。
これがあなたの言う男のやさしさかな。くやしいけれど、とってもとっても感謝しています。
新井道子 埼玉県(56歳)
お~いお茶。わたしの一日はまるで、テレビコマーシャルを地で行く、お父さんの声で始まる。
心の中では何よ、一分が待てないのとつぶやく。
だってもう三十年も同じセリフを聞かされているのですよ。
ところが先日そのセリフが聞こえてこない。わたしはドキッとして寝室に駆け込むと、お父さんは、頭からすっぽり布団をかぶっていましたね。
恐る恐る手を入れると温かい。思わず「お父さん」ややおいて「何だ」と大きな目でわたしを見つめ、「風邪で声が出ん」と消え入るように言います。
わたしはなんだか嬉しくなり、今お茶を持ってきますよと立ち上がり、あらためてお父さんのあの朝の声は、健康バロメーターなんだわ。
この先十年も二十年も、朝一番で叫んで下さいな・・・。
高橋栄 埼玉県(61歳)
夫婦のことってほんとうにわからないものなんですね。
この作品集に共通していえることは、夫婦お互いが「感謝」することの大切さを教えてくれているように思いました。