非正規雇用40%の大台
不安定な社会状況の根源は?
9月11日、労働者派遣法の改正案が国会で成立し、30日から施行されています。 この改正案は、これまで2度国会に提出されながら廃案にとなっていたものでした。 はたして正社員になる道が開けてくるのでしょうか。
11月4日厚生労働省は、「就業形態の多様化に関する総合実態調査」で、正社員以外の労働者が、調査以来はじめて4割に達したことを発表しました。 調査結果をみると、正社員以外の雇用する理由のトップは「賃金の節約」38.6%となっています。やはり企業は人件費を削減する手段として非正規雇用を活用しているようです。
今まで何回かこの非正規雇用問題についてコメントをしてきました。 現在と将来に渡っての不安定な社会状況の根源がこの非正規雇用にあると思うからです。 一言でいえば、この問題のすべてが「貧困」につながっていくのではないでしょうか。 非正規雇用の場合、社会保障面(厚生年金、健康保険、雇用保険など)での擁護はほとんどはありません。更に、低賃金(正社員の6割程度)のため毎日の厳しい生活はもとより、将来に対する不安も出てきます。 このため結婚もできない、結婚したとしても子どもを産むことができない、産んだとしても育てることが厳しいことから、子育てにも大きな影響を及ぼしてきます。 又、シングルマザーにおいてもそのほとんどが非正規雇用です。独立して生活することはもちろん厳しいですが、仮にシングルマザーが実家で生活する場合、両親の生活(年金生活)や祖父母の介護問題も内包していることから、三世代に渡っての厳しい生活につながってくるのではないでしょうか。
非正規雇用の問題は、現在の生活(独身、既婚とも)はもちろんのこと、子育てや将来の年金(厚生年金)、医療(健康保険)、介護(自分と親)など社会全体の問題に関わっていると思います。
メディアの報道から
11月10日NHKのクローズアップ現代で「どう変わる?ハケンの働き方」と題しての放送がありました。 労働者のうち非正規雇用の割合が初めて4割を超えた今、非正規雇用者の働き方をどう安定させるのか、大きな課題となっている。そうした中、労働者派遣法が改正され、派遣会社は、労働者のキャリアアップが義務化されるなど、派遣社員の雇用を安定させるためにあらたに義務を負うことが定められた。 NHKクローズアップ現代 HPより
派遣法改正前は、派遣社員が3年を経た場合、派遣先は直接雇用を義務づけられていた。 派遣法改正後は、一人の雇用は3年までとし直接雇用の義務づけがなくなりました。 企業は、労働力の使い捨てができるようになったということです。
改正前においても、企業は3年を待たずして契約を解除していたため、義務を負うことなく繰り返し派遣社員を使っていたのが現状です。 (このことは私が現役時代、会社から指示され実際に行ってきた経験があります)
■派遣会社は、派遣先に対して「直接雇用」を依頼するかたちになりました。まさにかたちだけのものですから、実際に雇用することはほとんどありません。 ■派遣会社は、無期雇用しなければならないかというとそうではなく、これもかたちだけのもので、実際にはごくわずかな優秀な人材だけでしょう。また、無期雇用されたとしても派遣社員の立場はか変わりません。 ■派遣会社は、キャリア支援ということで、教育訓練や人材育成などの義務を負うことになりますが、本来キャリアアップのための育成は企業がやるべきことだと思います。 又、就職前の個人のキャリア支援ということであれば、ハローワークなどの公的機関が、国とし内容を充実させてやる必要があると思います。 まさに、こうしたことを民間に丸投げして「雇用の安定化」のポーズをとった法案でしかなく「絵に描いた餅」と思うばかりです。
報道のしかたに思うこと
NHKのこの番組は、お馴染みの国谷裕子さんが司会者です。 今回のコメンテーターは、中央大学教授(労働経済学)の阿部正浩氏でした。
一般的にこうしたメディアの放送は、伝える側の主旨や考え方によって報道の内容が異なってきます。そして、受け手(視聴者)に対して影響を与えてしまうものもあります。 今回の番組の阿部氏は、国の労働政策審議会のメンバーだそうです。 労働者派遣法改正に関わってきた方ですから、そういう立場でのコメントになります。 阿部氏は、非正規労働者がスキルアップに取り組み、能力を高めて処遇を上げていく方向(正社員になること)に役に立つことを強調されていました。 たしかに、そうした個人のキャリアアップによって正社員への道が開かれてくる場合もあると思います。しかし、現実的にみてはたしてそうでしょうか。 企業側は、非正規雇用する理由のトップに「賃金の節約」を上げています。 優秀な人材を正社員化することをせずに、人件費を抑えながら必要に応じて3年ごとに繰り返し使うことができる現実があります。
社会の現象面だけを捉えて、その改善だけを提案したとしても本質的な解決にはならないと思います。 現在、大企業をはじめとして莫大な内部留保(360兆円)を抱えています。更にこの額は増えていくでしょう。なぜなら、現内閣の政策として法人税減税が推進され、その税率を20%台まで下げていこうとしています。同時に、この派遣法改正(改悪)で生産性を高めながら人件費を抑えることができるからです。
今回の放送では、派遣法改正によって正社員が増えいく期待感があるように見えますが、見方によっては、その本質を避けた報道として捉えました。
短期的に見た場合、安い労働力を使えて企業は嬉しいのでしょうが、長期的に見たら、結局しっぺ返しをくらうのではないでしょうか。
不安定な雇用は消費を減少し、また結婚・出生率を低下させ、結局国内市場を縮小し、また優秀な人材も獲得できなくなります。かつての企業は、家族手当の支給に見られるように、日本の社会全体としての幸福の追求が、結局は長い目で見て自社の発展にも繋がると考えていたように思います。経営者の中には、今でもそのように考え、そうしたいと思っている方もいらっしゃるのだろうと思いますが、株主が煩くなって、短期的な利益の達成を追わざるを得なくなっているのかもしれません。
法人税が日本が高いと言っても、それで優秀な労働力が提供され、安全な社会が維持されるのであれば、甘んじても良いはずです。単純にグローバル右ならえしていたら、日本の競争力の源泉である優秀な労働力はなくなってしまうでしょう。しかし、今日の新興グローバル企業にとっては、別段、日本の競争力が問題ではなく、企業の競争力があれば良いだけで、日本で良い労働力がないなら、別な国の労働力を探せば良いだけと考えるかもしれません。
「グローバル企業栄えて、民困窮し、国滅ぶ」かな。
ただ、こうした動きには労働者自体が加担してきた面があるのを否定できないとも思います。正規労働者は、自分達の身分が保証される事を引き換えに非正規労働を受け入れてきました。硬直化した労働運動の敗北です。
NHKの報道は、このところ変だと、私も感じます。先の国政選挙を沖縄で基地反対派が全勝した事は、大変なニュースだと思いますが、沖縄の選挙速報を避けていたように感じます。
閣僚がナチに学ぼうと言っている政権ですから、着々とコントロールを進めているのではないかと思うと怖いです。考え過ぎなら良いのですが。
Taibunさん
Taibunさんの今の社会情勢に対する的確なご指摘に私も共感します。
今まで私たちが若い頃から過ごしてきた時代は、働けばそれなりに見返りがありました。「働かざる者食うべからず」という言葉がありますが、怠けていたら当然生きていくことはできません。言い換えれば、生きていくためにはまじめに働かなくてはならないということです。
しかし、今の世の中、まじめに働いても生きていくことが難しい時代になってきています。このことをすべて「自己責任」だと言い切ることはできないと思います。なぜなら、「社会のしくみ」がそうなってきてしまっている現実があるからだと感じます。
そうした社会のしくみの変化を「そのまま受け入れてしまう」ようなことがあれば、更に貧富の差や民主主義の崩壊が拡大し続けてしまうと思うばかりです。
私たちは、そうした変化の時代を生きてきました。そして、こうしたことがなぜ起きるのか?、どういう方向性が良いのか?ということも多分私たちの世代はわかっていると思います。
私たちは退職して会社という組織から離れ、一歩外から社会というものを見れるようになりました。
今の社会が間違った方向に向かっていることを「素直な気持ち」で捉えられるようになりました。
そうしたTaibunさんの考え方に私も同じように感じています。