「防衛」という言葉の裏

「軍事費」5年で43兆円!

東アジア圏での平和外交の道を

 

昨年末、政府は外交・防衛政策の長期指針「国家安全保障政策」など安保関連三文書の改定を閣議決定しました。
国会での審議や国民への説明抜きに勝手に閣議で決めてしまうことに怒りを通り越して呆れてしまいます。

この安保関連三文書では、「専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事国家にならず」とありますが、現実にはトマホーク・ミサイルのような長射程のミサイルを買いそろえ、相手国を破壊する危険な武器です。
又、防衛費を今後5年間で43兆円とし、GDP2%以上の大軍拡でまさに軍事大国になるんじゃないですか。
このことは、「他国に脅威を与える軍事国家」そのものではないでしょうか。この文書で言っていることと実際の行動はまったく矛盾しています。

更に、文書では「自分の国は自分で守る」と記していますが、これも大きな矛盾があります。
それは、文書に明記された集団的自衛権の行使です。日本が武力攻撃を受けていないにもかかわらず、米国の戦争に巻き込まれ、海外派兵して他国に攻撃を与えることです。このことによって、相手国の報復攻撃を招く恐れがあり、国土が焦土と化する危険性があります。

これらはまさに「軍事対軍事」の泥沼に足を踏み入れることにつながると思います。

 

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安保3文書の閣議決定に関する各新聞社報道 2022年12月17日付 朝日新聞と読売新聞

 

昨年のロシアによるウクライナ侵攻、北朝鮮の度重なるミサイルの発射、中国の台湾問題などの様々な脅威・・・、このような世界情勢から特に「自衛」「防衛」という言葉が盛んに使われるようになってきました。

先日読んだある映画パンフレットの一文にこんなことが書かれていました。

日本の軍備は「自衛」という名の隠れ蓑のもとで増強が進んでいる。「別に戦争をしたいってわけではないんです」「攻めてきたら大変でしょう、だからとにかく必要なんです」という言い分が続く。どの国もそうやって言う。
どの戦争も、それを始める為政者は、止むを得ずに始まったと言う。本当はこんなものを始めたいとは思っていなかったんです、でも、それしかなかった、と動機を自ら肯定しようとする。日本も同じ道にいないだろうか。

ただやみくもに他国からの脅威を喧伝し、そのためには何が必要?と問いかけ、「自衛・防衛」という言葉と行為を優先してしまう傾向にあるように思えます。
この「防衛」は、戦後日本の憲法九条の下、「専守防衛」として使われてきましたが、今や他国に脅威を与える軍事国家としての防衛にすり替わっています。残念ながら「軍事」という中身になってしまったようです。
そんな予算は「防衛費」ではなく「軍事費」という言葉が当てはまるのではないでしょうか。

 

新聞報道の見方・捉え方

 

政治経済に関わる直接的な報道は、TVや新聞、ネット、ラジオなどがあります。
こうした報道や記事は、その中身を読んだり聞いたりすれば、どのような立場で言っているのか、書いているのかがよくわかります。ただ、何気なく読み聞きすると、その内容をストレートに肯定してしまう恐れがあるのではないでしょうか。
そういう意味で、少し考えるだけでその論評や記事が、「これはおかしいんじゃないの?」と、疑問を抱きます。

昨年末、日本経済新聞の一面に2023年度の予算案について、こう書かれていました。

日本の2023年度予算案は一般会計で114兆円と過去最大となった。内実は社会保障費や国債費などの膨張が大きく、他の政策的経費は3割にとどまる・・・。成長につながる支出が乏しいために税収が伸び悩み、財政が硬直化して成長の余力を失う負の連鎖が浮かんで見える・・・。
負担と給付のバランスの見直しが遅れる社会保障費、借金返済の国債費、自治体に配る地方交付税。この3項目だけで80兆円に迫る・・・。企業にたとえるなら利益を生まない経費ばかり増え、成長投資の余力が細っているような状態だ。
2022年12月25日 日本経済新聞一面

何気なく読んでしまうと、「ふ~ん、そうなんだ。もっと成長投資が必要なのかな?」と思ってしまいますが・・・。

しかし、たったこれだけの論評の中には、いくつか気になる言い方・書き方があります。

成長につながる支出が乏しいために税収が伸び悩み
成長につながる大企業優遇税制と法人税減税は安倍政権以降行われ続けてきました。特に大企業は実質10%程度の法人税で済んでいます。「税収が伸び悩み」は全く的を得ていません。
又、それらの法人税減税は内部留保として貯め込まれているのが現実です。

社会保障費や国債費などの膨張が大きく
防衛費(軍事費)のことが全く触れていません。更に「膨張」という表現を使い、自治体に「配る」地方交付税という言い方にも違和感があります。国家財政はすべて国民の税金から成り立っているものです。少子高齢化で社会保障費は当然増え、そのためにその財源が使われるものですが、「膨張」という言葉を使い社会保障を敵視しているように思われます。
又、「配る」という言い方も不適切です。交付税は各自治体で暮らす国民の生活向上のために使われるもので、国民が収めた税金を適切に還元していくものです。

利益を生まない経費ばかり増え
日本のGDP(国民総生産)の6割が個人消費です。国民所得が増えることでその国の生産性が高まります。国民の暮らしを少しでも豊かにする社会保障、一方で大企業が利益を溜め込まないで賃上げ(所得増)することで個人消費が活発化します。
単純に目先だけの成長投資という税の使い方に固執すれば、更なる内部留保が増え経済循環が損なわれます。

日本を代表する経済新聞が、このような考え方で論評することに呆れてしまいます。
「木を見て森を見ず」ということわざがありますが、経済というのはもっと大きな見方で捉えていかないと、いつまで経っても成長しません。富が一極集中することなく国民生活全体が豊かになることで経済の好循環が生まれてくるものです。

たった数行の新聞記事の中にも、こうした的外れな論評があることに気づきます。

 

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日本経済新聞と読売新聞 各一面の論評

 

冒頭の防衛費に関する新聞報道でも各新聞社において様々な論評があります。
「自衛・防衛」を軍事大国に導くような言葉が点在しています。

中国と北朝鮮の軍事増強には空恐ろしさを感じる。指導者の胸三寸で、日本に危害が及ばない保証はあるだろうか・・・。
今、日本に求められているのは他国から攻め込まれないよう隙を見せず、戦争を回避する備えだ。米国や同志国と連携して可能な限り自力で守る態勢を築いて、「日本を攻撃したら痛い目に遭う」とちゅうちょさせることが必要となる。反撃能力はそのための「伝家の宝刀」といえよう。
反対派は、「周辺国との緊張をあおって軍拡競争を招く」と反撃能力などを批判する。だが、一方的に軍拡を進めて緊張をあおっているのは中朝露のほうではないか・・・。
2022年12月17日付 読売新聞朝刊一面

この記事は、前述した「日本の軍備は自衛という名の隠れ蓑のもとで増強が進んでいる・・・、動機を自ら肯定しようとする」論評のように思えます。
こうした考え方は、たいへん危険な方向に向かっているように思います。結果として「際限のない軍事対軍事」を推進するものではないでしょうか。

このような政府のやり方や一部の新聞論評に気づくことは、平和的解決に向けての「外交」という言葉や方向性がまったく語られていないことです。
どうしたら戦争の心配をなくせるか・・・、軍事ではなく対話で解決していくための努力が必要ではないかと強く思います。
憲法九条を持つ日本こそが、東南アジア諸国連合と協力し、現にある東アジアサミットという地域すべての国を包括する平和の枠組みを発展させることが大切だと思います。

読売新聞の「米国や同志国と連携して」では軍事強化への方向性は免れないと思います。
そうではなくて、東アジアで敵をつくらない「共通の安全保障」が最も有効的な平和外交の道ではないでしょうか。

 

昨年12月28日放送の「徹子の部屋」で、黒柳徹子さんからタレントのタモリさんに「来年はどんな年になりますかね」と問いかけられ、「来年は新しい戦前になるんじゃないでしょうか」と応えていました。
このタモリさんの発言が、大きな反響、共感を呼んでいるようです。

”新しい戦前にならない” 年でありますように願いたいものです。

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