国の借金(長期債務)

「このままでは国家財政は破綻する」

財務次官の ”モノ申す” に疑問

 

昨年からのコロナ感染拡大に伴い、日本をはじめ世界中の国々の国民生活に大きな影響が続いています。
それは特に感染治療にたずさわる医療機関とそこで働く人たち、又、外出自粛により飲食・サービス業、文化芸術関連に至るまで様々な業種に大打撃を与えています。

こうした中、昨年から持続化給付金や雇用調整助成金のコロナ特例など国や地方財政による支援が行われてきました。
これは「要請と一体の補償」とまではいかないものの少なからず役立っているものと思います。
未曾有の緊急事態時の国民生活を守る上で当然国や地方行政として対応すべきものでしょう。

今月末、衆議院選挙が行われます。
各政党様々な政策を打ち出し国民に訴える選挙活動が活発化してきました。
こうした選挙戦では各党コロナ対策を重点政策として掲げています。その中で定額給付金支給の話題も上がっています。

 

先日、文芸春秋11月号に財務事務次官の矢野康治氏による「このままでは国家財政が破綻する」という内容の寄稿が掲載されました。
現職のトップ官僚が一般雑誌で政策に関する意見を表明するのは異例のことです。全国版の各新聞にも記事として取り扱われました。

ここで私が注目したのは、矢野康治氏だったことからです。
4年前「文庫カフェ」というセミナーで日本の財政についての講師としてお話を聞く機会がありました。
当時は財務省主税局審議官という立場でしたが、今や事務方トップの事務次官になられました。
この時のセミナーでは、「消費税増税による財政の確保」が中心でした。私は消費税増税に反対する立場で矢野氏に質問し議論をしたことで、その後の動向も注目していました。

ブログ:「日本の財政を考える」セミナー

 

早速、文芸春秋の矢野氏の寄稿を読んでみました。
内容は、国の借金(長期債務)が膨れ上がっているにも関わらず、総裁選や衆院選に絡む政策論争を「バラマキ合戦のよう」と批判し、このままでは国家財政が破綻すると訴えるものでした。
国家財政を預かりコントロールするという財務官僚の立場からの提言で、「勇気をもって意見具申」するとハッキリ明言していました。

私はこの寄稿を読んで矢野氏の立場としての考えには一部理解するものがありましたが、全体としては多くの疑問を持つ内容のものでした。
それは、”なぜこれだけの借金を抱えてきてしまったのか?” という要因に触れていないことです。その原因と対策が明記されていなければ解決の方法はないと思います。
コロナ対策という緊急な課題に対しての財政出動と通常の財政運営を分けて考えなければいけないのではないかと。

このブログでは、今回の寄稿の一部を引用して皆さんと考えていきたいと思います。

 

20211009_150543   20211009_151105

財務次官の異例寄稿を報じる東京新聞(11/9)と寄稿された文芸春秋11月号

 

※以下赤字は寄稿文より抜粋

誰が総理になっても1166兆円の ”借金” からは逃げられない。コロナ対策は大事だが人気取りのバラマキが続けばこの国は沈む。

数十兆円もの大規模な経済対策が謳われ、一方では、財政収支黒字化の凍結が訴えられ、さらには消費税率の引き下げまでが提案されている。まるで、国庫には、無尽蔵にお金があるかのような話ばかりが聞こえてきます。

という内容のもので、今の政治のあり方への警鐘とも言えるものですが・・・。

確かに現在の国の借金は膨大な長期債務があります。

すでに国の長期債務は973兆円、地方の債務を併せると1166兆円に上ります。GDPの2.2倍であり、先進国でずば抜けて大きな借金を抱えている。それなのに、さらに財政赤字を膨らませる話ばかりが飛び交っているのです

バラマキ合戦は、これまで往々にして選挙のたびに繰り広げられてきました。でも、国民は本当にバラマキを求めているのでしょうか・・・。日本人みんなが「カネを寄こせ」と言っているかというとそうではない・・・。
国民は、そんなことよりも、永田町や霞が関に対して、「やるべきこと(真に必要なこと)だけをちゃんとやってくれよ」と思っている方が多いのではないだろうか。

単に「バラマキ」と揶揄するのはどうか?と思います。
コロナ禍で各種事業の経営不振や倒産、従業員の解雇・失業など多くの国民が苦境に立たされています。
こうした状況の中で国として定額給付金の支給や「自粛要請と一体の補償」は必要なものです。これは本当に国民が求めているものでもあります。官僚の方にとってはそういった支援が必要であることがわからないのでしょうか?

永田町や霞が関、これは誰を指してますか?
それはコロナ対策が全て後手に回った自公政権に対してだと思いますが・・・。国の緊急事態に国会を開かない、説明責任を問われても何ら対応しない・・・。「やるべきことをやってくれよ」というのは確かにその通りですよ。

 

昨春の10万円の定額給付金のような形でお金をばらないても、日本経済全体としては、死蔵されるだけで、有権者に歓迎されることはあっても、意味のある経済対策にはほとんどなりません。

矢野氏はこうした定額給付金が貯蓄にまわり市場の活性化にはつながらないと指摘していました。
こうした内容の文言はよく経済評論家などの人たちが説明・解説したりします。
ここで私たちが見抜かなければならないことは、これは ”現象指摘” だけなんです。

なぜ貯蓄にまわってしまうのか?、なぜ消費に使わないのか?、しっかり考えてください!と言いたいです。
安倍・菅政権の9年間において新自由主義による ”格差と貧困” が大きく進みました。アベノミクスで経済が活性化?、トリクルダウン?、何を夢物語のことを言っているのでしょうか。
勤労者の多くは所得減、非正規雇用が雇用者全体の4割近くに拡大、年収200万円以下のワーキングプアの増大、更にはマクロ経済スライドで年金減、各種保険料の増額、そして消費税10%の増税など国民生活は厳しい状況になりました。
逆に大企業の内部留保は460兆円を超え、富裕層の所得は大幅に増えました。これが実態なんです。

いつ失業するかわからない、給与や年金は上がらないで下がる一方という状況の中で将来に対する不安があります。
だから給付金を使いたくても使えないという状況にあるのです。
そうした社会を作ってしまった自公政権の政治責任を指摘しないで、単なる現象を指摘しているだけです。
まさにこうした指摘は机上のものであり、”本質を見抜いていない” と思いします。

国家公務員は「心あるモノ言う犬」、「勇気をもって意見具申」せねばならない。それを怠り、ためらうのは保身であり、己が傷つくのが嫌だからであり、私心が公を思う心に優ってしまっているからだと思います。

矢野さん、そう言うのであれば、今の自公政権の失敗をハッキリ言うべきではないですか?

 

20211009_151131   20211009_151144

寄稿に掲載された折れ線グラフ「ワニのくち」
歳出と歳入の差を借金で穴埋めする構図がワニのくちに似ていることから、「開いた口が塞がらない」と表現。

 

消費税引き下げは問題だらけで甚だ疑問

コロナ対策の窮余の一環として一時的に消費税を引き下げてはどうか、という政策の提案もあります。
しかし、消費税は、すでに社会保障制度を持続させるための極めて重要な「切り札」として位置づけられています・・・。
少子高齢化の進展を見据え、減りゆく勤労世帯からの保険料や所得税などだけでは高齢世代を支えていけないという結論に達したのです。
そして今後は老若関係なく経済的な担い手が国民全体の社会保障を支えていくことになり、消費税は経済力のある高齢者も担い手に回れる有力な財源として重要視されてきたのです。

消費税は、社会保障制度を持続させるための極めて重要な「切り札」???
一体何を言っているんですか!
消費税増税分の税収入は、その1割程度しか使われていないのが事実ではないですか?
法人税や大企業優遇税制、高額所得者の減税の穴埋めとして他の歳出に利用されていますよね。このことは私たち国民以上に国家財政にたずさわる財務省の方々が一番よく知っていることではないでしょうか。
そのことを知っていて「社会保障制度を持続させるための切り札?」ですか!、全く呆れます。
これについては前回のセミナーでも指摘しましたよね。

社会保障を今後も持続させていくためには、消費税の役割はますます重要になっているのであって、引き下げは向こう半世紀近く進む少子高齢化という日本の構造問題の解決に逆行するものなのです。

社会保障を持続させていくためには、消費税ではなく法人税の見直し(税率アップ)、大企業優遇税制の廃止、所得税の見直し(適正な累進課税と分離課税の見直し)ではないですか?
このこともセミナーで指摘しました。

政権や財界、富裕層への忖度、自己保身しないのであれば、「勇気をもって意見具申」すべきではないでしょうか。

 

冒頭で指摘しました国の借金(長期債務)はなぜ増大したのでしょうか。
このことについては、この寄稿に一切触れていません。一番肝心なことなのに。
政府自民党や財界、経済評論家の方々が「社会保障にお金を使ったため」とよく言いますが、これは全く違うことです。
なぜなら今までの自分たちの政策の誤りを隠すための方便だと思うからです。

先進諸国の社会保障支出をGDP比で国際比較した場合、
フランスは32.1%、ドイツは27.7%、アメリカは24.9%、そして日本は22.9%です。
日本だけがけっして社会保障費が突出しているわけではありません。もちろん今後少子高齢化で高まることはあっても、今までの借金が社会保障費の増大で生まれたものではないことがわかります。

ではなぜ1000兆円をも超える借金が増えたのでしょうか?
それには2点の理由があると思います。

■無駄な公共事業に巨額のお金を使い続けきたこと

特に90年年代には、年間50兆円も公共事業に使って、社会保障が20兆円だった時期もあります。このような公共事業への使い方で、30年間で借金が300兆円も増えました。
大手ゼネコンを中心に税金のバラマキが行われ続けてきたことです。もちろんこうした事業によって雇用の創出や雇用者の所得増につながる面もありますが、その多くは企業の利益として貯め込まれたと思います。

■大企業(法人税)と富裕層の減税

消費税が導入されてから今までの33年間でその増税分は447兆円にのぼります。
逆に、法人税(3税)は累計で同じ時期に326兆円も減っています。更に所得税・住民税は累計で287兆円減りました。主に高額所得者の減税が続き、所得1億円を超えれば税率が減る現象(投資利益など分離課税のため)になりました。
こうした減税により合わせて600兆円の税収に穴が開いてしまいました。

この穴埋めに利用されたのがまさに消費税増税分だったのです。
このようなことが行われてきた期間、確かに少子高齢化が進みました。このため社会保障費は増えることになりますが、消費税は社会保障制度を継続するための方便として使われ、その実態は法人税や富裕層の減税の穴埋めに使われてきました。
消費税増税には国民の反対意識が多いです。その口を塞ぐために「社会保障制度の継続のために」という言い方になりました。

このように借金が増えた理由は主に以上2点ありますが、その他「無駄な税金の使い方」もあるでしょう。
2021年度予算の防衛費は、5兆3400億円に達し7年連続過去最高です。1機100億円を超える戦闘機や5千億円超えのイージス艦が必要なのでしょうか。原発再稼働と核ゴミ処理費用、領収書のいらない機密費、国家事業の民間大企業への丸投げなど・・・、数々の無駄な税金が湯水のように使われています。
本当に国民が望む必要な歳出が行われているのでしょうか?

矢野氏は寄稿の中で、

あえて今の日本の状況を喩えれば、タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなものです。
氷山(債務)はすでに巨大なのに、この山をさらに大きくしながら航海を続けているのです・・・。
衝突するまでの距離はわからないけれど、日本が氷山に向かっていることだけは確かです。この壊滅的な衝突を避けるには「不都合な真実」もきちんと直視し、先送りすることなく、最も賢明なやり方で対処していかなければなりません。

現在の日本の借金(1166兆円)は確かに膨れ上がっています。
矢野氏の言うタイタニック号が氷山に向かっているという警鐘は確かに理解できるものがあります。
しかし、コロナ対策のバラマキ?と借金対策は分けて考えるべきだと思います。

まずは緊急を要するコロナ対策には、それなりの財源を使ってしっかり対応する必要があると思います。なぜならコロナ対策は一時的なもので、一時的なものに終わらせなければなりません。当然消費税減税の対策も入れる必要があります。
コロナ対策をしっかり行うことは今後の経済再生にもつながると思います。

そして借金対策については、すでにお話したように「税制の見直し」を早急に行い、歳入を増やすことで借金返済に充てることが可能になるでしょう。

総選挙が今月末に行われます。
国民の皆さんがどのような選択をするかわかりませんが、私たちの生活にとって本当に必要で具体的な政策なのかを見極め一票を投じていきたいと思います。

2 thoughts on “国の借金(長期債務)

  1. 62才男性です。楽しみに読ませて
    いただいております。私もそうで
    すがtozan3190さんのご意見に賛
    同される方は多数いらっしゃると
    思います。ブログ応援していま
    す。

    1. てつさん

      はじめまして
      ブログ管理人のすーさんです。
      コメントありがとうございます。

      こうしてコメントをいただけるととても嬉しく励みになります。
      ブログでは訪問数やPV(プレビュー)など、どのくらいの人が見ているか日々わかります。
      普段は登山、スポーツ、グルメ、生活の中での出来事などの話題を取り上げていますが、時々政治に関するお話もアップしたりしています。

      私たちの生活はやはり政治とのつながりが大いにありますよね。この年代になれば年金、医療、介護などの社会保障制度、毎日の買物に関わる消費税も気になります。更にコロナ対策にも関心があります。
      そういうことから、読者の皆さんも同じような思いや関心を持っていると思います。
      こうした政治の話題を取り上げると意外にも訪問数がアップしたります。又、過去の投稿なども見られることから閲覧ページ数(PV)もアップします。

      今回てつさんからコメントをいただきましたが、てつさんがおっしゃるように「賛同される方は多数いらっしゃる」と私も思っています。
      やっぱり安心して生活できることを願い、私たちが納める税金が正しく納得のいくかたちで使われるようにしてほしいものですね。

      コメントありがとうございました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。