書籍「官僚の本分」

今後も官邸による官僚支配が続く!

「身内か使用人か敵か」を分ける?

 

安倍政権から菅政権に代わりました。
各報道機関の世論調査では、内閣支持率65%という高水準を記録したようです。

私はこの数字を見て驚きました。
安倍政権時代にその政策実行の中枢にいた人が首相になったわけですから、何ら変わることがない政治が引き継がれていくことになります。

安倍政権の7年8ケ月、その先導役として ”何をしたか” という具体的な施策が問われず、ただ代わっただけでこの高い数字になったことに大きな疑問を感じます。
中身よりも ”表面的、感覚的?” な気持ちだけで判断してしまう日本人独特の思考があるのでしょうか。

この数字の背景には、携帯電話料金の値下げ、デジタル庁設置などの政策が、主に若者を中心に支持されているようでもあります。
もちろんこうした政策も大事なことですが、本来の政治のあり方や国民生活のもっと根幹的な問題が問われなければならないと思います。

 

今回のブログでは、今までの安倍政権の施策について細かく述べることは省きます。

ここでは、”官邸が人事で官僚支配してきた” ことについて考えていきたいと思います。

官僚といえば、国家公務員のいわゆるキャリア組と言われる人たちを指します。
3年前、都内で開かられた財政セミナーに参加した時、財務官僚(主計局)の方の講演を聞く機会がありました。
普段私たちのような一般庶民が、国家財政にたずさわる人から直接お話を聞くことは滅多にありません。
それ以降毎年行われたセミナーで計4回直接お話を聞き、ディスカッションすることができました。

ブログ:「財政セミナー」

この4回の講演すべてで私はたいへんな違和感を抱きました。
講演された官僚の皆さんは、けっして上から目線という姿勢ではありませんでした。常に紳士的に質問に対しても丁寧に応えてくれましたが・・・。

ではその違和感は何か?と言うと、”国民の生活やその立場に立った財政政策というものが全く感じられない話” に一環していることでした。

国家運営の基盤となる財源をいかに確実に確保し、増やしていくかという手段だけに終始している考えでした。
歳入の主な税収確保策は所得税でもなく、法人税でもなく、消費税一辺倒の増税による政策を当たり前のように推挙する理論だけでした。

例えば、こんな会話の場面を想像してみました。

A:「お金がないよ~、何かいい考えある?」
B:「法人税を上げれば、これから自分たちが天下りする企業から文句が出るだろうな~。所得税の累進課税を元に戻せば財界や富裕層から横やりがはいるだろうな~」
A:「じゃどうすればいいの?」
B:「消費税増税だったら国民から文句が出ると言ったって、皆共通して負担するから強い文句の塊にはならないだろう。それと確実な財源確保によって自分たちの評価も上がるし、これからお世話になる大企業や財界にも顔向けできるしな・・・」

お金がなければ消費税を上げる?、小学生でも考えつくような単純な発想と自己保身の考えが見えてきます。
本来の財政政策とは、国民生活を第一に考え、その税収バランスを考慮し、歳出の中身(ムダを省く)を精査して予算化することが政治・行政の仕事ではないでしょうか。

こうしたセミナーをとおして感じたことは、様々な法案や政策を立案し国家運営にたずさわっている官僚の皆さんが、このような考えを持って仕事をされているとは思いませんが、何らかの圧力や忖度というものが見え隠れしているように感じました。

 

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前置きが少し長くなりました。

先日、「官僚の本分」(かもがわ出版)という本を読みました。
この書籍は、元防衛省の内閣官房副長官補の柳沢協二氏と元文部科学省事務次官だった前川喜平氏お二人の対談集です。

この対談集では、7年8ケ月続いた安倍政権の ”官僚支配” について克明にその実態が明らかにされていました。
そして、その先導役となった当時の菅官房長官(現首相)の人事介入と圧力も詳細に記されていました。

柳沢氏、前川氏、お二人とも国家運営の中枢にいた高級官僚です。
そうした方のお話は、実際に現場で仕事をしてきた事実というものがハッキリ伝わってきます。

 

8年近く続く第二次安倍政権は、人事権を利用し尽くして官僚を支配し、「政」」と「官」の緊張関係を徹底的に破壊しました。
内閣人事局と人事検討会議という仕組みを通じて、事務次官、局長などの幹部職には、官邸の気に入った人物しか就くことができなくなりました。

安倍政権の特異なところは、官邸による官僚に対する締め付けがものすごく強いことです。それこそ身内か使用人か敵かみたいなことで、味方と敵をはっきり分けるし、官僚が全部、官邸の使用人になってしまっている。
おそらくどこの役所でもそうでしょうけれど、ちょっとでも官邸と距離を保とう、距離を置こうとする人間は外されていって、次官や局長という幹部ポストは、官邸の言うことを何でも聞く人間しかいなくなっているのが現状です。
同著:前川氏

このような実態というのは政治に限らず民間の会社や組織などでも大なり小なり存在します。
問題は、民間の場合はその組織内部の利害関係だけにとどまりますが、公務員の場合は国民生活に直接影響を及ぼし、国民の財産である税金(国家財政)が利用されることになります。

このような状態は一言でいえば、”行政の私物化” ではないでしょうか。
こうした状態が続けば、仕事にたずさわっている公務員の感覚はどのように変化していくか?

安倍政権にひたすら服従する各省の次官や局長といった幹部を、私は「なんでも官邸団」と呼んでいますが、自分で判断することをあきらめてしまっている。というか、とにかく官邸から言われたことをやればそれでいいんだ、そうすれば自分たちの保身もはかれるし、出世もできるし、退官後のポストも保証される。
そういう出世や保身を考えれば官邸の言うことを聞いていれば一番いい方向だと考えている人たちが登用されています。
同著:前川氏

直近の話で言えば、コロナ禍に伴う持続化給付金事業の「電通」丸投げ疑惑がありました。
国民の税金が特定の大企業に偏って使われている実態が明らかになりました。この電通への天下りが14人もいるということですから驚きです。

又、政府と一体となって原発再稼働を推進する東京電力への天下りは70人超(2015年時点)だそうです。
東電だけでこの数ですから、他の電力会社を合わせればとてつもない天下りが行われています。

一般的によく言われる、自分の周りを ”イエスマン” で固め、その見返りとして出世?、退官後のポスト?・・・。
こうした人事で「アメとムチ」をふるうことで起きてきた保身は、まさに「忖度」でした。

朝日新聞にも「府省庁=忖度」という構図が描かれていました。

 

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先月ブログで「国家公務員倫理」について記しました。
この「倫理カード」に書かれてある国家公務員の使命は、

■国民全体の奉仕者であることを自覚し、公正な職務執行に当たること。
■職務や地位を私的利用のために用いないこと。
■国民の疑惑や不信を招くような行為をしないこと。

更に、禁止事項として、「利害関係者との間」について注意事項が記されています。

この倫理に違反する行為の象徴的な出来事がまさに「モリカケ問題」でした。
官邸の締め付けと官僚による忖度だったのではないでしょうか。
公正な職務執行?、私的利用のために用いないこと?、疑惑や不信を招くような行為?・・・。
どれをとってもこの倫理に違反しています。

国有地の8億円値引き、そしてその公文書の改ざん。
改ざんを強要された財務省近畿財務局の職員(赤木俊夫さん)の自殺まで発展しました。

私が思うのは、赤木さんという方は本当に真面目な人で、組織の使命と自分の使命とが一体化していた人だったのだろうということです。
組織のために仕事をすることは、とりもなおさず国民のために仕事をすることで、私の雇い主は国民ですということをおっしゃっていたそうです。
憲法15条に「すべての公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」とありますが、そういう奉仕者としての自覚を強く持っていた。それは、自分に与えられた仕事をしっかりやることがイコール国民のためになることだと、そういう個人の使命感が、組織の目的と一体化していたと思うのです。

ところが組織のほうがおかしくなって、国民のためではないことをやれと言いはじめた。決済文書をあとから改ざんする、しかも改ざんしたものを国会に出すというわけですから、誰が考えてもやってはいけないことです。
それをやらされたことによって、軸が崩れたというか、組織の使命と自分の使命が一致していたはずなのに、それが正反対の方向に分裂してしまった。
同著:前川氏

 

菅政権の実像

 

このように官邸が人事で官僚支配してきた実態は、この「官僚の本分」の中で明らかにされていました。
そして冒頭で触れた政権交代で菅首相によって更にその支配が強まることが懸念されます。

ふるさと納税の問題点を菅氏に指摘した総務官僚(当時)の平嶋彰英さんが左遷されたことも霞が関では有名です。
菅氏に盾突くと飛ばされる、お眼鏡にかなわないと出世できない、というのは霞が関の常識になりました。

菅氏の場合はすでに子飼いの次官、局長が各省庁にいる。官房長時代に各省庁の幹部を「私兵」として使える状態をつくっています。官邸官僚が政策立案しなくても、すでに菅氏の言うことをきく官僚ばかりになっています。
前川氏

 

菅氏は首相就任のあいさつで、めざす社会像について「自助、共助、公助」といっていました。
菅氏は以前よりこの「自助」という言葉が好きなようで、競争社会を歓迎しているようにも見受けられます。

「自助」というのは、個々人が意識して対応する行為です。
政治家の立場に立っている人が言う言葉ではないと思います。自助を押し付けるような感じを受けます。
これはまさに、”自己責任論” に通じものがあるのではないでしょうか。
コロナ禍で「公助」が求められているのに、「自助」を強調するのはいかがなものでしょうか。

最近TVのワイドショーなどで、菅氏を「たたきあげ」とか「苦労人」などと評価?するコメントが聞かれます。
こうしたコメントをウンヌンするつもりはありません。
問題は、そうした印象だけで評価したり、その印象を植え付けられたりすることです。

私たちはもっと冷静にその中身について注視することが大事なことではないかと思います。

 

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日本学術会議が新会員として推薦した105人のうち6人の任命を菅首相が拒否した報道。
拒否された6人は安倍政権が強行した安保法制や共謀罪に異を唱えた方々です。

 

新聞・TVなどのマスコミが一同に報じた学術会議会員の拒否問題は、学問の自由を保障した憲法を踏みにじるものではないでしょうか。

過去の自民党政権(当時中曽根首相)においても、「政府が行うのは形式的任命にすぎない。学問の自由独立というものはあくまで保障される」と強調されていました。
又、当時の担当大臣も「推薦された者をそのまま会員として任命する。政府が干渉したり中傷したり、そういうものではない」と明言していました。

今回は社会科学の分野で政治的に政府を批判する立場の方々が狙い撃ちされたように見えます。
内閣や総理大臣が任命する、と形式的に法令に書いてあるものはたくさんあります。裁判官の任命などもそうです。
それを実質的権限だとして、「これは好き」「これは嫌い」とやりはじめたら学問の自由や司法の独立に抵触していきます。
小野次郎氏(元首相秘書官)

かつて官邸に近い側近であった首相秘書官でさえもこのような暴挙を批判しています。

前述した官僚支配と同じように、”気に入らない者は排除するという考えと私物化” ではないでしょうか

 

安倍政権の先導役として推進してきた新自由主義の考え方が根底にあることは明らかです。
それは「自助」に強調されるように自己責任論に終始し、格差と貧困を生む土壌が引き継がれていると思います。

 

今の国家公務員の人たちのほとんどは、赤木さんのように「国民全体の奉仕者としての自覚」をもってお仕事をされていると思います。
官邸に近い一部の高級官僚は、政策決定権をはじめ人事や評価権を持つことからその組織(省庁)・部下への影響力は強大です。
そうした官僚も非難されるべきものですが、最も大きな問題は権力者(官邸)による強権政治で行政を私物化する土壌を作っていることです。

単に「たたきあげ」「苦労人」という表面的な感覚的評価ではなく、具体的に今まで何をしてきたか、そして何をしようとしているのか、私たちはその本質を注意深くみていく必要があると思います。

4 thoughts on “書籍「官僚の本分」

  1. 新首相の支持率には驚きますね。
    でも冷静に考えれば、立候補した3人に支持したい人がいますか?
    まぁ他よりましだ程度ではないでしょうか。

    ただ党利党略・私利私欲には長けた策士でしょうが、忠恕には疎い
    人ですね。

    また初閣議で「国民のために働く内閣」を基本方針に決めたそうですが、
    公務員であれば当然のことで、あえて表明するということは内閣にその
    自覚がないと認めるようなものじゃないですかねぇ。

    特別職の閣僚と一般職の赤木さんはともに公務員であり、常に国民のために
    働いていると信じて納税しているんですが・・・・。

    さらに10万円の給付金やGoToキャンペーンで支持率を上げようとしています
    が、その財源は彼らが出すのではなく税金で回収されるので、彼らは痛くも
    痒くもないのに気付いていない国民が多いのではないでしょうか。

    1. 凡夫さん

      お久しぶりです。
      お元気そうでなによりです。

      >「国民のために働く内閣」・・・自覚がないと認めるようなもの。

      確かにおっしゃるとおりですね。
      具体的にどのように働くのか、どのような政策を掲げているのか、そのためにはどのようにしていくのか・・・。表面的な感覚論ではやはり説得性もなく納得いきません。

      10万円給付(野党が最初から提言していた政策)、GoToキャンペーン、更には携帯電話の値下げなど政策といえるものではないと思います。
      もっと国民生活の救済と安定に基づく根幹的な政策が必要ではないでしょうか。
      即効性のある支持率アップ策だけが独り歩きしているようです。

      今まで私たちの大事な税金が、一部企業や団体・組織、さらには個人に使われてきました。
      そういう土壌を作ってきた政権ですからこれからも変わりようがないと思います。
      私たち国民もそうですが、権力を監視するメディアもしっかり見据えて判断していくことが大事だと思います。

      コメントありがとうございました。

      1. 追伸
        「国民のために働く内閣」を基本方針に決めたと言っても、草案は官僚が
        書いていると思うので、敢えて表明させて閣僚の自覚を促したのであれば、
        あっぱれな官僚がいると嬉しく思います。

        歴史を見れば分かりますが、諫言できる側近を持たないリーダーに未来は
        任せたくないですね。

        また日本学術会議の推薦名簿は詳しく見ずに決済したそうだが、疑問ですね。
        全員を任命するなら分りますが、任命拒否者があるなら官僚は説明するなり、
        付箋を付けるなどして決裁権者に分かるようにするのが基本ですよ。
        まして決裁権者が実は見ていなかったなんて、恥ずかしくて言えません。
        それでも口癖の「全く問題ない」で押し切るんでしょうね・・・。

        1. 凡夫さん

          日本学術会議の任命拒否問題、確かに疑問ですよね。
          報道によると政府の事務方トップの杉田副官房長官が首相の決済前に推薦するリストから外す6人を選別したようです。報告を受けた首相も名前を確認したそうです。
          こうしたいきさつについてはハッキリわかりませんが、安保法制や共謀罪に反対した6人を特定して拒否すること自体大きな問題であり、学問の自由を踏みにじるものだと思います。

          >それでも口癖の「全く問題ない」で押し切る

          菅首相の官房長時代の口癖でしたよね。
          今までと全く変わらない。こうした政治がこれからも起こることに危惧します。

          コメントありがとうございました。

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