企業の「受取配当金」って何?
政府と財界がすすめる「成長戦略」の目的は、「株価の引き上げ」です。ここにも大企業に有利な税制が大きく関係しています。一般に企業は、商品の製造、販売、開発、金融サービスなどの経営活動によって成り立っています。 その他、経済活動のひとつに投資や出資があります。これは例えば、グループ内の小会社・関連会社や他社の株式を取得して配当という形で利益を得るものです。よく持株会社という言葉を聞きますが、グループ傘下の企業に出資し株式を取得して、経営方針に大きな影響を与える中心的な基幹会社です。現在、前述した本来の企業活動よりも出資企業の側面が大きくなり株式の「受取配当金」としての利益が集約されていきます。
この受取配当金という利益に対しての税制度について本書では、 「受取配当金益金不算入制度」といって、企業が他社の株式を取得した場合、その受取配当金は課税益金に算入しないでもいいという「法人間配当無視」が認められている。小会社や関係会社の株式等にかかわる配当については、課税ベースに100%不算入が認められている。 つまり、小会社や関連会社に出資して配当金を得ることがあっても、その金額は課税対象にしなくてもいいということです。納税ゼロということです。
また、小会社や関係会社以外の企業の株式についても、50%が益金不算入なのですから、株式投資しても、利益の半額は目をつぶっていても非課税となるわけです・・・。 経営上の収益が赤字であっても、また、受取配当金で補填して企業決算が黒字になった場合でも、受け取る配当金が小会社や関係会社からのものであれば、申告税額はゼロにできる可能性があります・・・。 さらに、一定の要件を満たす海外の小会社についても、「外国小会社配当金不算入制度」によって、受取配当金の一律95%を益金に算入しなくてもいいと定められています。
では受取配当金ってどのくらいなの? 驚くべき金額でした! 2003年度から9年間の企業の受取配当金の合計は65兆5495億円に達し、このうち巨大企業だけで約9割に相当する57兆7418億円を占め、そして、この制度を利用した課税除外分は48兆979億円あり、このうち巨大企業が約9割の43兆4538億円を占めました。 この配当金を課税対象にすれば、国税の法人税だけで12兆4830億円もの財源がまかなえたはずでした・・・。 巨大企業の受取配当金を課税所得にすれば、消費税増税(5%から8%)にする必要などなかったのです。
巨大企業の受取配当金(2003~2011年) 受取配当金の多い会社
今年4月の消費税増税は4兆円を超える税収増のようです。そして、社会保障費に使われる金額はたったの5000億円です。12兆円を超える税収があれば、増税しなくても社会保障費に充分使うことができます。今、求められている医療・介護・年金その他福祉関連への支援をすることができるはずです。仮にこの法人税を納税した場合でも企業は多額の収益があります。 法人税が高いなどと言われますが、この実態を見る限り異常なほどの優遇税制によって巨大企業への冨の集中が起きています。 さらに本書では、租税特別措置法による優遇税制(公共政策として取り入れた減税)、内部留保の増加策、多国籍企業に対する税制の不備と対応の遅れなどを指摘し、いかに大企業に有利な制度となっているか解き明かしています。
企業の社会的責任を考える
私は早期退職後トヨタの車(ハイエース)を購入しました。今ではハイブリッドカーのプリウスなど好調にその販売台数を伸ばしています。その性能は良く運転もしやすいです。売上規模では日本はもとより世界を代表する自動車メーカーです。 そのトヨタは、さまざまな大企業の恩恵を受けて、2008年度から2012年度までの5年間国内で法人税を支払っていませんでした。そして、その後収益が回復した時、今年5月の決算発表会で豊田章夫社長は、「企業は税金を払って社会貢献するのが一番の使命だ」(日経新聞)とコメントされました。たしかに本業が赤字であれば法人税は払わなくてもいいのですが、一方で多額の受取配当金を得ている点には大きな疑問を感じます。
本書で富岡氏は、 産経新聞(2013年1/9)に掲載された豊田社長のコメントは、自動車産業が置かれた現状を「六重苦」と表現しました。六重苦とは、円高、電力不足、重い法人税負担、自由貿易協定の遅れ、労働規制、環境規制です・・・。その後、円安が進み、2014年3月期の連結業績は、本業のもうけを示す営業利益が過去最高の2兆2921億円となり、純利益も1兆8231億円とこちらも過去最高でした・・・。リーマンショック後、いまだに立ち直れない中小企業が大多数の中で、トヨタ自動車は、2008年3月期からの6期通算の税引前純利益が2兆5183億7100万円、また同時期の受取配当金はほぼ同額の2兆3246億円7900万円ありました。
少し前の話になりますが、今年4月消費税増税が実施された時、トヨタ自動車は日経新聞に「節約は実は生活を豊かにするものだと気づけば、増税もまた楽しからずやだ」という広告を掲載しました。この広告はご存じのとおり大ヒンシュクをかいました。私たち庶民がこれだけ増税によってたいへんな思いをしているにもかかわらず、「やり方」を変えれば節約も楽しいなんてとんでもないことです。しかも、税金も払っていない企業が、優遇税制によって膨大な利益を生み出しているのですから驚きです。
また、本業で利益を生み出す方法のひとつとして徹底的な原価低減があります。この製造原価を下げる方法は、下請けに要請するものです(年率約1%ずつ)。下請けの中小零細企業は利益を削られかなり厳しい状況になります。こうした原価低減は約1000億円にもなるようです(数値は週刊ダイヤモンドから)
日本を代表する一流自動車メーカーは、多くの雇用を生み出し、そこで働く人たちの生活を支え、更に、安全性や性能の高い車を供給することで社会的にも貢献していると思います。しかし、一方でこのような実態を知る限り、果たして「企業の社会的責任」という視点で考えてみると果たしてどうでしょうか? 大きな疑問をもたざるを得ません。 見方を変えれば考え方も変わってきます。
本書では、日本航空の事例も掲載されていました。日本航空というと山崎豊子さんの著書「沈まぬ太陽」を思い浮かべます。日航で実在した方をモデルに描かれた小説です。この小説については、その当時の考え方や立場によっていろいろな見方がありますので、コメントは控えたいと思いますが、国策による経営(赤字路線など)で厳しい運営になっていた航空会社というイメージは皆さんと多分同じ認識ではないでしょうか。
ご存じのとおり2010年1月に会社更生法の適用を申請した航空会社で、この再建に当たったのが京セラを創業した稲盛和夫氏です。無給で会長をつとめ、高い経営手腕により同社を再生させたという功績は誰もが認めるところで記憶に新しいです。
この日本航空について富岡氏は、 2011年度の法改正により、欠損金の繰越しができる期間は9年に延長されました。つまり日本航空は2018年度まで、法人税を払わなくても済むのです。同社の収益見通しに基づけば、2012年度以降は、年間400億円以上、7期合計で約3110億円分の法人税負担が軽減されることになります。 法的に一般の赤字会社と同じ処遇ということですから、こうした軽減はしかたがないことかと思いますが、実際には利益が出て来ている段階の中で、ここまで軽減する必要があるかという疑問はあります。当時16000人の人員削減などのリストラによるコスト削減や165人のパイロットと客室乗務員の解雇がありました。更に、退職者の企業年金削減問題もいまだ解決されていなようです。 これら一企業の破綻とその再建に向けた対応問題かもしれませんが、ここにも税制度が深く関係(利益が出ていても法人税負担軽減)していることと、そこで働いていた従業員の生活をも脅かしていることを考えれば、やはり「企業の社会的責任」という視点から見てどうなのか?と疑問を感じます。
法人税の見方と考え方
ブログの法人税(1)でも申し上げましたが、政府や財界、一部の企業や個人の批判をするものではありません。税金と私たちの暮らしを考えた時、現在の税制度において大きな問題点があるのではないかと思います。 今回、富岡幸雄氏の著書「税金を払わない巨大企業」を読む限り、私たち庶民の知らないところで大企業への冨の集中が起きている状況がよくわかります。
本書の「あとがき」には、 政府は大企業を優遇するような税制を推し進めています。その結果が消費税の増税です。もし、大企業に、法が定めた税率に基づいて適正に納税させていれば、消費税を増税しなくてよかったばかりか、これほど財政赤字に苦しむ必要もなかったのです。 安部首相が決断した法人税の引き下げで、財務省は代替財源について頭を悩ませていますが、結局は、消費税のさらなる増税に加えて、国民に負担を強いるような増税策しかありません。このままでは、国と国民を幸せにするはずの冨は、大企業と大富豪に吸い上げられて、海外のタックス・ヘイブンに流出する一方です。そんな理不尽な道理が許されていいのでしょうか。
更に本書では、企業や個人の実名をあげている点について、欠陥税制や間違った優遇税制に気づいてもらうためにと記しています。
企業や責任ある立場の方にとっては、いろいろな考え方や方法論があるかと思いますが、税金は、「国民がよりよく生活できるように、国や自治体が暮らしに必要な公共サービスを行うため」に集め使われるものですから、そうした見方からすれば、やはり企業は税金をしっかり払って社会貢献することが使命だと思います。そしてこのことが「企業の社会的責任」につながっていくものと考えます。
資料:富岡幸雄著「税金を払わない巨大企業」(2014年9月20日 文春新書 700円)