北アルプス山旅の編集後記

多くの登山者との出会いと語らいの山旅

 

登山の行動スタイルにはいくつかあります。
単独(ソロ)、仲間と組んでのパーティ、ガイド付きツアー、夫婦二人など・・・。
私の場合、夫婦二人や単独がほとんで、年に数回会社時代の仲間たちとのパーティ登山があります。それぞれのスタイルには長所・短所があります。
単独や夫婦二人の場合は、なんといっても自由気ままさがあります、疲れたら適当に休んだり、景色の良い場所ではゆっくり眺望を楽しんだり、好きなだけ時間を使って高山植物の写真を撮ったりなど気軽です。
パーティや山岳ツアーの場合、こうした自由な気軽さがあまりない代わりに「安全性やその対応」においての保障は大きいものがあります。又、景色や花の美しさや素晴らしさを多くの仲間と「共有」することで、その時の感動を倍増させる長所もあります。
いずれにしても、どのようなスタイルがいいのか?、というよりも、自分がどうしたいか、ということがはっきりしていれば自ずとその行動は決まってくると思います。

余談ですが、私(私たち)の場合、登山や国内旅行は、単独か夫婦二人旅の行動ですが、海外旅行となれば多分ツアーを選びます。言葉や海外事情に疎いのでやはり安全性を優先します。     

単独(又は夫婦二人)の場合、もうひとつ大きな長所があります。それは、山小屋や登山途中での他の登山者との語らいです。パーティやツアーの場合、どうしても仲間内だけの行動や話にかたよりがちになります。山でのいろいろな出来事やその情報などにおいて多くの話やコミュニケーションを得る機会があります。パーティやツアーでも意識的にそうした行動を取ればできますが、現実的には少ないものです。
「登山」というたったひとつの共通点において、全く知らない初対面の人と何時間でも夢中になって話ができること。こんな素晴らしい楽しみも登山の大きな魅力です。
今回の山旅においても、そうした出会いと語らい、又、即席パーティを組んでの出来事など思い出深い山岳トレイルを体験できました。

 

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薬師沢小屋の夕食風景           西穂山荘の夕食風景

太郎平小屋の食事では、青森から来られた3人パーティの熟年婦人(60歳代)の方々と隣り合わせになり、青森の観光地、山、穴場的な見どころなどの情報を得ることができました。皆さん毎年北アルプスに来ていると話していました。
水晶小屋では、プロの山岳ガイドの方と寝床が隣り合わせになり、数時間も山談義に夢中になりすぎ、他の登山者から「静かにしてくれ!」と苦情があったほどでした。
西穂山荘の夕食時、隣の席にいた登山者が今年81歳になるということで、テーブルに同席した全員の注目を浴びて大きな話題になりました。(当初60代後半と思っていた)
 

 

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薬師沢小屋で一緒になった同郷(静岡県)の4人パーティのオヤジさん達と意気投合して、翌日即席パーティを組んで一緒に雲ノ平へ向かいました。美しい景色を一人で楽しむこともいいですが、気の合う人達と「感動を共有」することもまた楽しさが倍増します。

 

レインウェアと低体温症

 

登山の基本装備に「三種の神器」があります。
ザック、登山靴、レインウェア(雨具)です。実は、この中で最も重要とされているのが「レインウェア」です。雨に濡れて身体を冷やしてしまうと、たとえ標高の低い山でも大きな事故につながる可能性があります。また、登山中の雨だけではなく、風や寒さを防ぐ目的でもレインウェアを着ることがあります。

 

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雨の登山はレインウェア、ザックカバーなどで完全装備。ゴアテックス製のレインウェア

今回の山旅で黒部五郎小舎から鏡平までの7時間、名古屋の3人パーティ(平均年齢70歳)の方々と行動を共にする機会がありました。
前日の午後から雨が降り出し、天気予報では翌日一日雨の予報でした。朝から雨と霧、そして風もあり黒部五郎岳登頂は諦め下山する決断をしました。同じような考えで3人パーティの方も下山するということで、即席パーティを組んで同行しました。
年齢が高い3人でしたが、登山経験が豊かで皆さん健脚の方々ばかりでした。その内の2人(リーダーを除く)は、「登りは自信があるんですが、下りと岩場はめっきり弱いんですよ」とおっしゃっていましたが、まさにそのとおりでした。
3人パーティのリーダーのTさんが先頭で、私は最後尾につきました。たしかに1時間も続く急登でも休みなくどんどん登っていく健脚ぶりには驚き、後をついていく私は追いつくのがやっとというくらいでした。しかし、下りや岩場になると今までのあの健脚はどこにいってしまったのか?という程ペースダウンしてしまいます。
特に岩場の下山では、初心者の下り方といっていいほど危なっかしく思い、後ろから声をかけ本人が持っているストックを預かり三点確保で行くように!とアドバイスしたほどでした。
もうひとつ気になったことは、その内の一人Sさんのレインウェアでした。ウェアは雨でびっしょり濡れて体に張り付いています。登山専用のレインウェアであれば「濡れて体に張り付く」ようなことはほとんどありません。雨が、レインウェアと下の衣服を透して完全に身体まで染みている状態だと気づきました。Sさんのレインウェアを見るとメーカーはアシックス製で、よくゴルフなどに使用されているものでした。
※ある程度本格的に登山をされる方は、登山専用のレインウェア(ゴアテックス製など)を着用しています。

これはヤバイ!と思いながら後ろからSさんの様子を窺いながら進み、双六岳の分岐に来ました。当初の予定で私は、双六岳には登らず、双六山荘に向かう巻き道(ゆるやかな岩場のない下り)を行く計画を提案して3人とも了解していました。稜線に出ると風雨が激しく、下りの岩場もあることから安全を優先してリーダーに進言していました。
しかし、分岐に来た時、リーダーのTさんは「せっかく来たのだから双六岳頂上を通過して行こう」と提案され二人とも従う様子でした。この時リーダーのTさんは、Sさんの身体状況にさほど気にしていないようでした。私は以前、双六岳には登ったことがあったので、この時点でパーティを解消して一人で巻き道を使い下山しようと思いましたが、Sさんの様子が心配だったことから同行することにしました。 

登山の場合、いろいろな自然や気象の変化によって判断しなければならないことが多々あります。このまま行くか、戻るか。尾根や稜線に出るか、谷側に下りるか。雪渓や沢を通り超えて進むか、巻き道を行くか、などなど。その場の自然、気象状況や身体状況を総合して判断しなければならないことがあります。

双六岳頂上を通過して、いよいよ厳しい岩場の下り坂です。慎重に下るSさんでしたが、足がもつれて転倒してしまいました。足の運び方や転倒のしかたがどうもおかしいと思いすぐに駆け寄り、身体の状態を確認したところまさに「低体温症」の一歩手前であると気づきました。Sさんは「寒くてしょうがない、身体がまったく動かない」と言っていました。Sさんの身体を確認すると足と腕は完全に硬直した状態でした。この時点でリーダーのTさんは事の重大性に気づき、3人でSさんを抱えながら下山しました。この後2回ほど転倒しましたが、双六山荘まで近かったこともあり大事に至りませんでした。

最大の原因はレインウェアでした。山荘に着いた私たちは、それぞれのレインウェアを確認しましたが、Sさんを除く3人は全員ゴアテックス製でした。下に着た衣服の濡れは多少あるものの冷え切る状態ではありませんでした。
こうしたことは、今回の山旅ではじめて経験しましたが、改めてレインウェアの重要性について考えさせられる出来事でした。

 

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雨が降ると登山道は川になります。普段簡単に渡れる沢も激流になり、渡ることもできなくなります。

今回の旅では、いろいろな思い出に残る出会いがありました。
単に山に登るということだけではなく、そこで知り合った登山者との語らいも大きな魅力のひとつです。先を急ぐだけの登山、ピークハントするだけの登山ではなく、出会いも含めた山全体を楽しむスタイルで続けていこうと思いました。

最後に、シニアの方々の元気さに改めて脱帽する山旅でもありました。
9日間という長い山岳トレイルの中で、すれ違ってお話した登山者や山小屋で知り合った方々の年齢層、又、山小屋で宿泊名簿に記入する際、登山者が書き込んだ年齢を覗き見たこと、その他パーティや山岳ツアーの方々の年齢層からみると、多分7割くらいが60代後半の登山者でした。まさに団塊世代の方々がほとんどといっていいくらいでした。
私は今年で59歳になりますが、この登山者の中にいれば若造・若輩者といった感さえあるほど皆さん元気でバイタリティーに溢れていました。
そんな先輩たちから元気をいただいた旅でもあり、健康寿命を考え直す山旅でもあったと思いました。

  

「北アルプスの山旅」 完         

2 thoughts on “北アルプス山旅の編集後記

  1. 確かに、お元気なシニアの方は多いです。
    でも表に出ない事故も多いはずです。
    私の知人で50代から登山をはじめた男性がいますが、やはり倒れて頭部を打ってしまいました。
    そのときは平気だったそうですが、下山して血管が切れており、内部出血していました。
    何度も手術をして、ようやく危険な状態は脱しました。
    遭難しないまでも、多くの危険は伴います。
    登山中の死亡率も高いのです。
    シニアになったら、どんな人でも、好きなことをしているときに
    死ぬのは本望だと覚悟のうえで登山するべきだと思っています。

    1. 家犬さん

      コメントありがとうございます。
      家犬さんも先日ご主人と南米旅行をされた時、予想もしないいろいろなアクシデントがあったと思います。個人で見知らぬ土地によく行ったと驚くばかりでした。山の場合もたしかに同じです。通常の旅行などと違って助けを呼ぶことがうまくできないこと、単独であれば遭難という事態も充分考えられます。そうした危険を承知で山に行くということは、それなりの準備や覚悟が必要ということになりますね。

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