日本百名山に思うこと (1)

最も環境が整備された百の頂

「日本百名山」はもはや固有名詞

「日本の登山人口860万人=60代以上が4割占める」 (2014年6月日経新聞)
この基になる数値は、日本生産性本部の「2013年レジャー白書」のようです。
一言で登山人口といっても、低山や軽装でのハイキングから高山を目指す重装備の本格的登山や雪山までを網羅しての人口ですから、なんとなくピンとこない数値です。
しかし、これだけの人が山に関わって楽しむというレジャーとしたら、やはり多いのではないでしょうか。                                      更に、60代以上が4割を占めるといえば、う~んなるほどと頷ける数値でもあります。   そしてなぜこの世代が多いかといえば「健康維持・増進」が最も大きな理由だと思います。又、登山の場合、準備も含めそれなりに時間が必要とされることから、時間的に余裕のある世代に集中してくると思います。                                          ちなみに「その年代では10人に一人が、年1回は山に登った計算だ。30~50代では、登山する人の割合は男女とも10%に満たない」 (日経新聞)

退職後2年間で70近い山に登ってきましたが、山で見た登山者の60代以上は、感覚で6割を超えるのではないかと思うほどの割合です。そして、山で出会ったハイカーには、必ずといっていいほど百名山登頂を目指す登山者がいました。その時出会った山が百名山でなくても、山頂などで山談義になれば共通の話題として百が出てくるといった具合です。
はじめから百名山登頂を目指して登山を始めた方は少ないと思います。いや、ほとんどいないと言い切ってもいいのではないでしょうか。山の魅力に取りつかれる中で、次第に目指そうと志をもった方がほとんどだろうと思います。
では、この860万人という登山人口の中で百名山を目指している方はどのくらいの数にのぼっているか? そんなことはわかりません。でも完登した登山者も含めどの位の数?と知りたいと思っているのは私だけではないでしょう。

 

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2008年 東鎌尾根からの槍ヶ岳       2013年 仙水峠からの甲斐駒ケ岳

 

頭に「日本」を付けなくても「百名山」で通ってしまうし、ましてや「長野百名山のこと?」、「山梨百名山のこと?」って返答する方は皆無なくらい「日本百名山」は「深田百名山」のこととして固有名詞になっています。                    逆に言えば「山梨百名山」の話をする時には、必ず頭に「山梨」と言わなければ通じないということになります。

登山者レベルでは、百名山踏破そのものが一種のステータスであり、ヒマと体力さえあれば誰もがエントリーできるシステムとなっている。世には百名山関連のガイド本やグッズが溢れ、百名山のお膝元は経済的に潤う。百名山専門の週刊誌が発行されたり、テレビで全山を紹介するシリーズが組まれるなど、もはや個人の著作の範疇を越え、社会的現象になった。 登山家:樋口一郎氏

2011年8月笠ケ岳縦走登山の時、私たち夫婦は双六小屋に泊まりました。その晩8時頃、60代の男女二人がずぶ濡れで小屋に駆け込んできました。夕方から天候が崩れ外は雨模様でした。二人の具体的なタイムスケジュールはわかりませんが、鷲羽岳、黒部五郎岳の二山を踏破して来たと言ってました。雨と霧で視界が悪い中、しかも日が暮れてからの山歩きですから危険極まりない登山です。話を聞くとかなりタイトなスケジュールで日本百名山を目指しているようでした。単に登頂しただけの話ばかりで、その過程での感動した絶景や高山植物の魅力、人との出会いなどの話題は全くありませんでした。

富士登山の場合、登山関係者や地元登山団体、さらにマスコミなどから弾丸登山の危険性の話をよく耳にします。これは富士山に限ったことではありません。日本百名山のどの山にも共通したことで、そのような登り方で単にピークハントする登山者がいます。
私は今までそうしたスタイルの登山者を何人も目にしてきました。夜間真っ暗なうちに登山を開始して頂きを目指し、下山後は次の山(百名山)に向け移動するといったスケジュールです。それも仕事や家庭などで時間的余裕のない若者ならいざ知らず、中高年のそれもリタイアされた方が多いということがたいへん残念でなりません。         一言で「個人の価値観の違い」といってしまえばそれまでですが、この歳になって目指すのであれば、もっと楽しい百名山にこだわりを持ってほしいものです。

 

登山道と専用駐車場が整備された山~日本百名山

 

鳳凰三山では北海道の方、槍ヶ岳では静岡の方、剱岳では広島の方、鹿島槍ヶ岳では福岡の方、白馬岳では岡山の方、越後駒ヶ岳では九州大分の方、燧ケ岳では大阪の方、鳥海山では宮城仙台の方、磐梯山では長野の方などなど、百名山を目指す全国の登山者との出会いがありました。一期一会ですが、こうした同じ志を持った方との出会いは思い出深いものがあります。今でも年賀状のやりとりをしているご夫妻もいます。

私たちは登山口まで車で行くことがほとんどです。ここで注目したい点は、駐車場が広く整備されていることです。観光地と一緒になっている百名山(上高地、木曽駒ヶ岳、美ヶ原、霧ヶ峰、乗鞍岳など)を除いても、今まで登ったほとんどの百名山の駐車場は上記のように共通しています。                               登山家樋口一郎氏がコメントしているように「百名山のお膝元は経済的に潤う」というように全国から登山者が訪れ、宿泊、食事、おみやげ、温泉、交通利用など多額のお金が落とされていきます。又、多くの車が押し掛け周辺の環境にも影響を及ぼすこともあり、地元行政で駐車場を整備して、登山者が来やすい環境を整える意味もあると思います。
そして、その見返りは充分にあるでしょう。

 

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写真左:甲武信岳 登山口の毛木平無料駐車場 一面レタス畑の中を車を走らせ、更に狭い雑木林の林道を抜けると忽然と立派な駐車場が現れます。

写真右:瑞牆山  瑞牆山の全容が見える絶好のロケーションにみずがき山自然公園の無料駐車場があります。北杜市が開発した綺麗な公園でした。

 

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越後駒ヶ岳の整備された登山道       鹿島槍ヶ岳に至る標識と登山道

 

私が日頃トレーニングや山歩きで出かける奥多摩、奥武蔵の山は、季節になれば多くのハイカーで賑わいます。そんなハイキング気分で出かける低山でも毎年のように遭難事故が起こります。低山といって侮っている気持ちもあるかと思いますが、一つの山でも複数の登山道があり、不案内な標識や荒れた登山道などにより道迷いによる遭難が起きます。
こうした例は奥多摩や奥武蔵に限ったことではないと思います。各地方の山々でも同様のことがあるのではないでしょうか。
日本百名山の選定基準の中で、山の高さが基本的に1500m以上という高山ですから、当然低山と比べて登山技術や経験、健脚度合いや心構えなど要求されます。
しかし、そうした低山と比較して果たしてそれだけ難しい山なのだろうか?と問われればそうでないと言う答えもありかな?と思ったりします。
2000m~3000m級の山であれば、気象の変化による体温調整の対応と装備の必要性はあるものの、登攀する標高差や斜度、ルートタイムなどは低山の方が上回る場合が多々あります。実際、奥多摩や奥武蔵でもそうした山はいくらでもあります。
そして、百名山と一般の山を比較した時、最も特徴的な差異は登山道の整備さにあると思っています。

多くの登山者で賑わい、それも全国からハイカー達がやって来る山ですから、登山道が踏み固められ、石や草木・倒木が除去され、道幅も広く、待機場所も設けられ、更に標識の多さを見れば一目瞭然です。又、水場、橋(吊り橋)、山小屋、避難小屋などの登山道を取り巻く環境も圧倒的に整備されています。                      もちろん岩稜帯を登ったり、ハシゴ・鎖場のような危険な登山道もありますが、できるだけ浮石が除去されたり、しっかりと固定された補助器具により他の類似する山に比べればその度合いは低いと思います。

天候を無視した登攀、弾丸登山、ハードなスケジュールなど無謀な登山さえしなければ、これほど環境が整備された山はないのではないかと思います。
多くの登山者が殺到する山だからこそ安全第一のために環境整備されていることはもちろんのことだと思います。又、同時にレジャーという視点からみれば地元経済の活性化につながり、自ずと環境整備が進むことになります。

 

「日本百名山に思うこと」 つづく

4 thoughts on “日本百名山に思うこと (1)

  1. くっきり、すっきりの写真で気持ちいいですね~
    私など写真になれると、またいい加減なシャッターが増えてしまいます。
    たけのこもおいしそう…
    いろいろなことを、ひとつひとつ丁寧にまじめにこなしている、すーさんは
    ホントにステキだと思います。
    見習います…

    1. 家犬さん

      コメントありがとうございます。
      私の写真は全くド素人ですよ。登山の時は、いつも首にぶらさげているので岩や木にぶつけたりしてカメラがボコボコ状態です。シャッターまでの時間はほとんどかけません。いいな~って思ったらパシャリ、すぐに歩きだします。前にもお話しましたが、晴れ日は必ず青空を入れると綺麗に撮れちゃうんですね。家犬さんの南米旅行の写真も以前に比べたらとても素敵に撮れてますね。本人が撮りたいと思った被写体が、見る側にとってはっきりわかる写真ですね。
      一枚の写真でも「百聞は一見にしかず」で本人の訴えがよくわかります。

  2. わたし的には老後の準備かな?
    毎年、何度か山に登ります。
    事前準備せずとも何とかなるのは、すーさん達みたいな登山日記があるからですね。
    昨年伊吹山に登りましたが、体調が悪く貧血でフラフラでした。
    「頑張れ!」って一杯声掛けられました。
    知らない人とフレンドリーに会話出来るのが登山のいい事だと実感してます。

    1. ヒロさん

      伊吹山に登ったんですか!百名山ですよね。私はまだ登っていません。
      地図でみると賤ヶ岳の近くなんですね。賤ヶ岳と言えば、秀吉と柴田勝家が戦った場所であまりにも有名ですが、伊吹山は百名山なんですがイマイチよくわかりません。生まれも住まいも中部以北(静岡、関東)ですので、そちら方面はほとんど知りません。数年後に伊吹山に登る予定ですので、今から楽しみにしています。

      登山では一期一会ですが、山という共通した話題があるので知らない方でもすぐに打ち解けます。そのこともまた登山の楽しみのひとつですね。

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