最低賃金の水準

最低賃金一律28円引き上げ

全国平均930円!?

 

昨年、コロナ禍を口実に当時の安倍政権の意向によって、地域最低賃金引上げの目安額提示が見送られました。

そして今年7月、中央最低賃金審議会で2021年度の改定が話し合われ、都道府県の時給を一律28円引き上げ、全国平均で930円とする目安が提示されたようです。

最低賃金?
会社で働く正社員や公務員の人たちにはあまりピンとこない言葉(用語)かもしれません。
毎月の給与は月給として支払われるため、「時間給」という概念があまりないことからかもしれません。

私は長年小売りの流通業で働いていたことから、非正規のパート社員の雇用にたずさわる機会が多かったです。
管理者としてパート社員の採用に際し時給、勤務時間などの労働条件や人件費に関わる仕事がありました。

当時の最低賃金は750円(2010年度埼玉県)くらいだったと記憶しています。ただ、この金額では思うような採用ができないため820円前後が募集の時間給でした。
※現在の最低賃金は928円(2019年度埼玉県)のようです。
この時給金額は地域同業他社との相場といったものでした。
もっと金額を上げてもいいと思ってはいましたが、トータルの人件費予算が決まっていたためギリギリの予算内で調整していました。

現在、最低賃金の全国平均は902円で、そして今回930円に・・・。
現役だった頃、パート社員の時給が低すぎると思っていましたが、まだこのレベルなのかと驚きます。
なぜなら、この水準で働いたとしたら月額いったいいくらになるのか? 計算すれば見えてくるものがあります。

月労働時間を150時間(年1800時間)とすると、月額13万5000円の給与です。

はたしてこの収入で生活できるの?
食費、日用品費、教育費、医療費、交通費、通信費、家賃、社会保険料など・・・、これでは貯金すらもできない実態が浮かび上がってきます。
ちなみに現在の年金生活者(夫婦二人)の平均が月額約22~25万円位だと思います。この年金額でさえもギリギリの状態ですから、非正規雇用者にとってはかなり厳しい金額ではないでしょうか。

現在、非正規雇用は2090万人(2020年)で全雇用者数の37.2%に達しています。
一昨年は2165万人だったことから75万人ほど減少していますが、これはコロナ禍で失業したことがうかがえます。
経営状況が厳しくなれば真っ先に解雇・雇止めになるのが非正規雇用者なんです。

 

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最低賃金(最賃)を引き上げる流れが戻ったことは、コロナ禍で困窮する非正規労働者の生活向上につながる可能性を秘める。
半面、企業が賃金負担を減らすために勤務時間や雇用を減らす事態も招きかねない。

コロナ禍では、小売業や非正規のエッセンシャルワーカーが最賃に近い低賃金で働いている現実が浮き彫りになり、最賃引き上げの機運が高まった。
これに対し、企業側は審議で「引き上げは人件費を増やし、雇用調整を招く懸念がある」と反発した。
7/15付 東京新聞

 

エッセンシャルワーカー?、最近よく聞く言葉です。

人々が日常生活を送るために欠かせない仕事を担っている人のこと。
主に医療・福祉、農業、小売・販売、通信、公共交通機関など、社会生活を支える仕事をしている人々のことをいいます。私たちの身近なところで生活を支えています。
JOBNETサイトより

私たちの身の周りの生活を支えている人たちが主に非正規のエッセンシャルワーカーであることを認識する必要があると思います。

非正規雇用の給与は、主に時間給で契約されています。
どんなに頑張って働いても良くて年に数円単位の昇給、悪ければ据え置き状態が続きます。もちろん一時金や賞与などの臨時ボーナスは望めません。
週の時間契約によっては社会保険(健康保険や厚生年金、労災など)対象になりますが、ほとんどが自己負担を強いられているのが現実です。

最低賃金の引き上げは、企業側にとって「賃金負担を減らすために勤務時間や雇用調整する懸念がある」と言っています。利益をあげるために人件費削減(時短、契約解除)が行われる?
これは脅しともとれる言い分ではないでしょうか。

特に大企業においての内部留保(利益余剰金)は470兆円を超え過去最大になっています。
なぜこれだけの内部留保が蓄積されたか? それは主に法人税減税と大企業優遇税制が行われてきたからです。
結果、中小企業の法人税負担率が18%に対して大企業は10%と低く、長年不公平税制が続いてました。

最低賃金アップによって厳しい経営状況の一部中小企業にとっては確かに「懸念」があるかもしれません。であるなら、最低賃金とセットに国による中小企業優遇税制と融資などの対策を行えば良いのではないでしょうか。
同時に大企業の法人税負担を高め、その財源を中小企業支援に回すことも可能でしょう。

最低賃金全国平均930円?
この金額でさえも現実には厳しい生活を強いられると思います。
ではどのくらいの水準であれば良いのか? 市民生活団体や全労連などからは最低1500円という金額が提示されています。
この額は実際に生活する上で必要とする金額として計算されているそうです。
正社員の給与は月額や年収として明らかになっていますが、これを時間給に換算すれば一般平均で2500~3000円前後という金額です。
こうしてみれば、1500円という最低賃金はけっして高いとはいえません。

月労働時間150時間×1500円=225000円

この金額から各種税金や社会保険料を控除した可処分所得はいったいいくらになるの?
多分お分かりかと思いますが、時給1500円でもまだまだ厳しいのではないでしょうか。

このように私たちの実際の生活からリアルに試算すれば、今回の最低賃金930円がいかに低いのか理解できます。
今のシニア世代は、高度経済成長、オイルショック、バブル経済とその崩壊から低成長期を経験してきました。
そうした中でもある程度雇用は保障され正規雇用として働いてきました。退職後はけっして多い年金ではありませんが、一生涯保障されるものです。

こうした私たちの世代に比べ現在の若者世代の多くは非正規雇用ということですから、ここ十数年の社会事情の変化というものを感じざるを得ません。
果たして彼らがシニア世代になった時、どのような社会になっているのか? 想像するだけでも厳しい世の中になっていると思います。

「最低賃金の水準」ひとつとっても今の社会の実情(格差と貧困)を端的に表わしていると痛切に思います。

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