標高3000mからの雄大な眺望は圧巻!
私たち夫婦が登山をはじめたきっかけは、立山黒部アルペンルートを乗り継ぎ室堂から見た立山連峰の雄姿でした。こんな素晴らしい世界があったのかと息をのむ瞬間でした。 それから再び立山に訪れたのが10年後でした。その時はもちろん立山の稜線を歩き、雄山から眺望した北アルプスの絶景に感動しました。そして、今回の映画の舞台になった大汝山から見下ろした室堂平の緑と残雪のコントラストの美しさは今でも忘れません。
山を舞台にした映画が少ない中、2009年木村氏の初監督作品「剱岳点の記」はまだ記憶に新しく残っています。原作の物語は奥秩父だそうですが、雪と雄大な山岳風景をバックにした映画は、観る側にとってもわくわくする期待感が高まります。 物語は、「人は、皆何かを背負って生きていくしかない」というテーマを中心にしています。主人公の長嶺亨(松山ケンイチ)が、父の後を継ぎ山小屋経営に携わっていく経緯の中で、山での生活に悪戦苦闘しながら自分の人生と向き合っていく物語です。 主人公の亨が、都会の忙しい金融の世界から、全く異なる自然の中での生活に切り替えていく時の気持ちの変化をもっとリアルに描いてほしいと思いました。 現実にはその判断がもっと難しいんじゃないかと感じましたが、まだ家族を持っていない独身ということと生まれ育った故郷への想いが決断を早めたかもしれません。 又、都会の多忙なサラリーマン生活に追われ、そして家庭を持ちごく一般的な人生を歩んでいく道とは別に、こういう生き方もあるんだというメッセージを含んでいると思います。 この物語の重要な配役は、ゴロさん(豊川悦司)の存在だと思います。若い主人公との対照的な存在として、人生の苦労や素晴らしさを教えていく役割であり、このテーマの「人は、何かを背負って生きていく」ことを伝えていく人物だと思います。しかし、欲を言えば、人生うんぬんの教えをストレートに良い言葉で伝えていくセリフを言うことよりも、ぼそっと一言でわかる言葉や態度、表情で表現した方が、野性的なゴロさんに合っているんじゃないかと思いました。ちょっと欲深い感想かな? 最後の亨と愛(蒼井優)とのシーンは、少しマンガチックになっていて残念でした。これも、北アルプスの素晴らしい眺望を二人で眺めているシーンだけで観る側にはちゃんと伝わります。
ちょっと辛口な感想になってしまいましたが、自分の人生としっかり向き合い、主人公に限らず周りの人達も同じように何かを背負って生きている姿が、はっきりわかる映画でした。そして何よりも山という大自然をバックした難しい作品を作られた監督とスタッフに敬意を表したいと思います。ぜひこれからも山岳作品を作っていただきたいと願います。
立山に登ろう!
立山には過去3度訪れました。すでに登られた方も多くいらっしゃると思いますが、はじめてチャレンジしたいと思っている方にぜひおすすめしたい名山です。 立山は、一般に雄山、大汝山、富士ノ折立の総称で、「立山に登る」というのは、雄山に登ることを指します。 おすすめの理由は、アクセスが良いということです。長野県側から行く時は、扇沢から立山黒部アルペンルートを使っていっきに室堂(2433m)まで行くことができます。登山に限らず観光としても素晴らしい山岳風景や高山植物を楽しめます。又、ミクリガ池や地獄谷などのスポットも半日あれば散策できます。 登山をされる方には、途中の一ノ越経由で雄山~大汝山~富士ノ折立~別山~雷鳥平のコースをおすすめします。早朝から開始すれば午後には下山できる日帰りコースです。 なんといっても立山の稜線歩きができることです。稜線からは北アルプスの山並みと眼下に室堂平が一望できます。そして、別山からは名峰「剱岳」が目の前に見ることができます。森林限界をはるかに超えいるので遮るものは一切ありません。 又、大汝山頂上直下には、今回映画の舞台になった「大汝山休憩所」の小屋があります。ここは普段無人で避難小屋になっています。昨年、山仲間と行った時、この小屋で休憩して着替えをしました。4年前カミサンと行った時には、夏のシーズンだったこともありお菓子や飲み物などが販売されていました。特に夏は登山者が多いので、はじめての方でも安心して登れます。又、危険な箇所はほとんどありません。
ミクリガ池から望む立山(写真左)室堂ターミナルからも同様にこの立山の雄姿が目の前に見えます。 大汝山頂上(3015m)から雄山(3003m)を望む(写真右)
大汝山から眼下に室堂平が一望(写真左)その向こうに奥大日岳(2606m) 富士ノ折立付近から眺望できる名峰「剱岳」(写真右)室堂からは剣岳は見えません。この稜線まで登るか、又は、雷鳥平から別山乗越まで登れば目の前に剱岳が見えます。
立山でも天候悪化による大量遭難!
映画の中で雪庇から滑落する遭難事故や天候急変による遭難シーンがありました。 立山の登山道はしっかりしていて足場の悪い危険個所はほとんどありませんが、気象変化や冬季登山においては遭難事故があります。そうした遭難に対応して富山山岳警備隊の本部が剣沢にあります。この映画の中でも警備隊隊長役で俳優吉田栄作が登場するシーンが何度も出ました。多分そこの警備隊を想定してのものだと思います。4年前にカミサンと立山縦走と剱岳登山をした帰り、雷鳥平にある「ロッジ立山連峰」に宿泊しました。その時、富山山岳警備隊の隊員から登山者に向けてのセミナーがありました。宿泊者対象に参加は自由でした。夕食後の開催でしたのでほとんどの宿泊者が出席しました。特に剱岳に登る時の「滑落遭難」がメインで、登山時の注意点と心得のお話でした。立山の山岳形態からみて「道迷い遭難」はほとんどありません。多くは滑落と気象変化による低体温症の事故だそうです。
剣岳の岩登りは別として、立山登山は道迷いはないし、冬の雪山はやらないから大丈夫といっても過信できません。なぜなら「気象遭難」があるからです。映画の中で女性一人の遭難シーンがありました。朝は天気が良く雲ひとつない晴天だったが、昼ごろから天気が急変して動けなくなったという話はよくあります。 1989年10月8日立山を縦走していた10人の中高年パーティが、天候急変によって10人中8人が死亡する大量遭難事故がありました。出発する朝は天気が良かったそうですが、途中から天気が崩れ、戻れば(下山すれば)よかったもののそのまま進んでしまったことが遭難につながりました。今回の舞台となった小屋「大汝山休憩所」に一時避難することも充分考えられたことでしょうが、なぜ風雪の強まる中進んでしまったのか・・・ カミサンと登山した時、この遭難した場所を通過しましたが、なぜこんな所で遭難したのか不思議でした。近くには内蔵助山荘もありました。遭難記録によれば、風雪による疲労と寒さで動けなくなったようです。そして、その場所はよくみると稜線の真ん中で遮る物(岩など)が全くない所でした。雷鳥沢に下る大走りや内蔵助山荘に行くルートも雪に覆われていたということだったそうです。
写真は、4年前カミサンと行った時の立山稜線です。富士ノ折立から下り、振り返って立山を見た風景です。右奥が雄山、中央が大汝山(映画の舞台になった小屋がある)、左手前が富士ノ折立です。夏でも残雪が残っていますが登山道には雪はなくしっかりしています。右側に下れば大走りで雷鳥沢につながります。左側に下れば10分程度で内蔵助山荘に行けます。遭難した場所は右下の広い所だそうです。まったく遮るものはありません。視界がなくなり雪に覆われ、まともに風雪を受け、疲労こんぱいであれば動けなくなるんだという実感がありました。天気が良ければ最高の稜線闊歩ができますが、いざ天候が悪化した時には最悪の状態になるんですね。天気が悪くなれば眺望が望めませんから、登る意味がほとんどなくなります。そうした時は、引き返してまた来ればいいんです。なにがなんでも登頂だけを目指す登山はしたくありません。 山はいつでも待っていてくれます。