「成長戦略」に思うこと

今も昔も・・・その本質は?

10月4日封切のあった映画「蜩ノ記」を先日カミサンと観に行ってきました。2年前、直木賞を受賞した作品が映画化されたものです。(著者:葉室麟)                            物語は、江戸時代の藩(羽根藩)の世継ぎに関わるお家騒動にからんでの藩士とその家族の話です。その中で、武士の矜持を貫いていく主人公の姿や一方で、農民に対して重税を課す藩と商人との癒着など見応えのある作品でした。観終わった後、お家騒動や武士道以外にその裏には、支配する側、支配される側、又、強い者、弱い者の社会構図が見え隠れして複雑な想いを抱きました。                            その後、この作品の直木賞・選評の概要をネットで調べて見てみました。         各審査委員の中の、宮部みゆきの評言は、                       「私は、武士という〈統べる者〉と農民という〈耕す者〉との対比:対立は、そのまま現代社会の〈情報・サービス業〉と〈製造業〉との対比、または〈政治〉と〈生活〉の対比に読み替えることができるとも思いました。踏み込んで読み過ぎているかもしれませんが、そういう読みを誘われるほど重層的な作品だったということです。」 

はたして「成長戦略」の主眼は?

成長戦略という表現は、日本経済の持続的な活性化を想像します。各企業の成長と共にそこで働く人たちの生活水準も上がり、日本経済が潤っていく様子が浮かび上がります。  この言葉は、新聞・TV・雑誌・インターネットでも盛んに報道され見聞きしています。  いい言葉ですね。何か国民全体が浮かれる表現のように思われます。はたしてその本質はどうなんでしょうか?

一言でいえば、「株価引き上げ」だと思います。株高で好景気を演出していると感じます。私は、株投資はしていません。現役時代、自社株購入制度を利用して少しやったことはあります。私の父は、若いころ大手証券会社に勤めていました。バリバリの証券マンでした。退職後、他の会社(証券以外)に70歳まで嘱託社員として勤めましたが、73歳の時ガンで他界しました。年金もほとんどもらえずじまいです。(遺族年金はある)         退職後、複数銘柄の株投資をしていましたが、ほとんど儲けはなかったようです。

個人の株投資についてウンヌンするつもりは毛頭ありません。こづかいや退職後の貯蓄を投資に回して一喜一憂しながら、少しでも家計の足しになればという考えはあるかなと思います。株が上がれば儲けも増え「財テク」に進んで行くことになるでしょう。しかし、リスクは付きものです。その逆の場合もあることを忘れてはならないと思います。    個人の投資はさておき、ここで問題なのは、政府と財界、大企業が株価の引き上げに躍起になっていることです。この10年で、資本金10億円以上の大企業が保有する株式・有価証券の総額は100兆円以上にも増えています。有価証券の売却益や有価証券利息、投資先企業からの受取配当金など営業外収益は6兆円から13兆円に増えました。しかも、子会社・関係会社からの受取配当金には課税されないなど、税制面で優遇されています。   ※参考資料:「税金を払わない巨大企業」「労働総研」

株が上がればいいじゃないか。企業の利益が上がればサラリーマンの給料も上がっていいじゃないか。景気が良くなっていいじゃないか。なんて思ったりもしますが、はたしてどうなんでしょうか?                                サラリーマンの年収はここ数年で60万円減少、年収200万円以下の貧困層(ワーキングプア)の拡大、更に中小企業の赤字、本社員から契約社員、非正規労働者の拡大、などいわゆる人件費を抑えたまま一部企業の利益が増加している現実だけがあるということです。 私も大手小売業の管理職として勤めていましたが、支出を抑える最大ポイントは、ほぼ固定費とされる人件費です。本社員一人の給与は、低賃金のパート・アルバイトの数人分に相当します。単純労働であれば本社員を雇うより経費効率は格段に上がります。更に、パート・アルバイトの場合、厚生面の会社負担は大きく軽減されます(厚生年金、健康保険料負担など)まさに本社員化せずに非正規労働者を増やす図式がここにあります。

「デフレ」の原因は、家計消費支出の減少にあると思います。ここ数年、消費者物価指数は減少傾向にあります。一方、家計消費支出も連続してマイナス傾向にあります。これはまさに賃金が上がらないため消費を控えざるをえないという現実があるからです。    例えば、小売業の場合、売上を上げるために商品価格を下げてお客様を呼ぼうとします。当然ながら価格を下げた商品は利益率が落ちます。落ちた利益をどこで取り戻すかといえば、お分かりのとおり人件費の削減です。                      こうした構図が更に「デフレ」を加速させ、賃金は抑えられるという悪循環が発生します。

「成長戦略」といわれる政策は、いろいろな見方と立場でその捉え方は変わってきます。この政策によって企業(中小も含む)の景気が良くなった。又、賃金が上がって生活が楽になった、契約社員から本社員に採用された、持ち株が上がって儲かったなど、効果がみられた方もいると思います。新聞やTVなどでの高値の株式情報、一面トップに今期最高益!などという記事が飾られ何か浮かれた気分にもなったりするかもしれませんが、経済という一つの箱の裏側を覗いてみたら、な~んだ自分には全く恩恵がないよということになったりします。                                 大局的にみて一部の大企業と一部の投資家だけの利益であって、けっして日本経済の活性化と私たちの生活向上につながっているとは到底思えないと感じます。

映画「蜩ノ記」を観て、時代は変わっても今も昔も大差がないと思うのは私だけでしょうか。