「続・下流老人」 (2)

国民の税負担に対する「受益感」の乏しさ

税金の使われ方と私たちの暮らし

 

現政府の推進するアベノミクスは、今どうなっているんでしょうか。
もともとこの政策は、異次元の金融政策と財政出動、規制緩和などの成長政策で2%を目標に消費者物価を上昇させ、円安と株高を実現すれば、雇用や消費も増え、経済再生が実現するというものでした。
しかし、政権発足以来、記録的に増えたのは大企業の利益と内部留保だけで、雇用は不安定で賃金も上がらず、消費は低迷しているのが現状です。
数字で見れば、3年間で4兆円もの企業減税、内部留保は360兆円を超えているようです。
又、働く人たちの実質賃金は3年のうちで年間17.5万円減り、家計消費は実質13ケ月連続マイナスというのが実態です。
特に日本経済の6割を占める家計消費の落ち込みは危機的な状況と言わざるをえません。
こうした中で日本の貧困率は16.1%になり、OECD(経済協力開発機構)34ケ国の中でワースト6位という状況のようです。

 

2017貧困率1  2017貧困率2

 

こうした状況の中で、政府は更に社会保障費の自然増(年1兆円)を抑えようとしています。
「カネ(財源)がない」「国の借金返済もある」という理由です。

2年前に行われた消費増税を例に考えてみよう。
平成26年度に5%から8%に引き上げられた際、増収分は全額社会保障の財源に充てることが公約として掲げられていた。
しかし、実際の振り分けをみてみると、社会保障の充実に使用されたのはわずかであり、残りのほとんどは国の借金の返済に使われている。
具体的には、消費税の引き上げにより約5兆円の増収があったうち、社会保障の拡充に使われたのは5000億円、つまりたったの1割に過ぎないわけだ。
「続・下流老人」

藤田氏は消費増税をひとつの例として取り上げ、国民の税負担に対する「受益感」の乏しさ指摘しています。
たしかに私たちが納める税金が、私たちの暮らしに役にたち、生活の安定につながるものであれば、そうした税負担(増税)を受け入れる気持ちにもなりますが・・・。

まずは税の使い途(みち)をいま以上に透明化、適正化させ、国民全体が税負担に対する受益感を得られるようにするのが最優先だ。
「税を納めた分だけ、公的サービスとして自分に利益が還元されている」という実感が募るのは当たり前である。
受益感がなければ、国民の租税抵抗(税金を払いたくないという抵抗)はますます強くなるだろう。
「続・下流老人」

こうした考え方は私も同感です。
税の使い途の「適正化」、これはいろいろ難しい面があると思います。
間接的に組織や団体の利益につながるもの、又、公共事業による雇用の創出や安定など、結果的として国民の生活を支えるために税が使われる部分も大きいものがあります。

では、どういう視点で使い途を考えたらいいのでしょうか。
私は、人間が人間らしく生活するために最低限必要な保障(基本的人権の尊重)を整えるために使われることが大事なのでは
ないかと思います
「国民全体が税負担に対する受益感を得る」ことにつながるのではないでしょうか。

一般的に社会保障と言えば、高齢者を中心とした保障(年金、医療、介護など)が頭に浮かびますが、若い世代の子育て(支援金、保育所の充実など)や住宅支援、医療費や教育費(大学まで)の無償化など、生活に必要とするあらゆる負担を軽減するために私たちの税金が使われるべきものだと考えます。
例えば、年金においては、生活を維持していくための最低限必要な金額の保障、教育費では、誰でもが均等(貧富の差なく)に学べるための保障、どの世代でも無償で受けられる医療、低家賃で入居できる公営住宅の充実、どんな時間帯でも子どもを安心して預けられる保育所の拡充・無償化など・・・。

「そんなことは理想論だよ」「そんなことやってたらいくら財源があっても足りないだろう」と言われちゃいそうです。
私もそうしたことは難しい、できないだろうと思っていますが、あえて理想を言っています。
なぜなら、あるべき姿を描かなければ、やるべきことが見えてこないからと思うからです。
少しでもそれに近づくための方策はあると思います。

私は、政治家個人や一政党を批判するつもりはありません。
あくまでも現在の経済政策がこのままでいいのか、という疑問と将来への不安があるからです。

 

社会保障の財源~合意による増税?

 

藤田氏は著書の中で、
「そろそろ飽くなき成長を求め続ける社会を、いったん見直してみてはいかがだろうか」
と問いかけています。
これは今まで日本が経済成長を続けてきた中で生活水準の向上や社会保障の進展があったわけですが、低成長と少子化(人口減少)に向かう中では、これらの水準と向上は望めなくなるものだと思います。
こうした状況の中、今の経済政策(アベノミクス)を推し進めるのであれば、冒頭で述べたように結果として「格差と貧困」だけが拡大する社会になってしまうことは目に見えています。
であるなら、立ち止まって見直ししてもいいんじゃないかと私も思います。

 

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更に藤田氏は、
「社会保障に回すカネがないなら、成長に頼らず、合意による増税で財源をつくる」
と述べています。
「増税?」、何か今までの話と逆行するような対応策が出てきましたね。
詳しくは著書の中で井出氏(慶應義塾大学教授)の ”必要原理” 論を引用しながら説明されています。

この原理について、著書でわかりやすく要約されている文章を引用すれば、
「税金が増えても、それが社会保障の財源にしっかり充てられれば、私たちの生活の必要のために使われるお金が増えるわけです。つまり私たちの負担が ”増える” のではなく、公的な負担に 置き換わる” だけです」

「自己責任によって幸福を追求するのが ”市場原理” であるとすれば、”必要原理” とは、低所得者から高所得者まで全員で負担を分かち合うことで、すべての人間が生きるために必要なサービスを財政が満たすという考え方です。成長による ”救済型” から、必要に応じた ”共存型” へと、再配分の方法をパラダイムシフトさせることで、結果として格差是正を達成することができます」

少し難しい話になってしまいましたが、こうしたかたちで再分配されるのであれば、国民の税負担に対する「受益感」は解消され、私たちが生活していく上で必要なものすべてが税金で賄われる(社会保障)ということです。
要約したこれだけの話ですと、いろいろな疑問や意見があると思います。
詳しくは、著書の中で具体的な考え方ややり方、又、実際の欧州諸国(フランスや北欧など)の事例などを挙げて説明されています。関心のある方はぜひ読まれてはと思います。

私は何度かこの本を読み返しして、「合意による増税」に対しては、まだストレートに納得するまでには至っていません。
方向性については共感・同意するものはありますが、そのやり方(増税)においては不安と疑問があります。

必要原理に基づく再配分では、所得の多寡によって負担の割合やサービスの供給量を選別しない。低所得者であれ高所得者であれ、全員が一定割合の税を負担することで、全員が教育や医療、介護、福祉といった公的サービスを享受できる。

現在、日本の税制は「累進課税」です。
所得が高ければ高いほど税率が引き上げられる税制度です。
私は今までどおり「能力に応じた負担」(累進課税)はすべきだと考えます。
又、法人税においても実質負担率が、中小企業においては平均20%、大企業は平均12%と、不平等になっています。
これは、大企業に優遇税制が適用されているからです。更には、タクスヘイブンなどで個人や企業が税金の支払いを回避していることも問題として取り上げなければなりません。

税制や納税の割合については、いろいろな議論があると思います。
どうしたら良いのかと言っても素人の私にはわかりません。
ただ言えることは、個人や企業においても能力に応じた負担は必要なことで、財源確保の改善の余地はまだまだあると思います。

 

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2015年10月「反貧困全国集会2015」で講演された時の藤田氏。

 

藤田氏が提言する納税と財源確保のあり方については、まだ多くの疑問はあります。
しかし、社会保障を中心とした税金の使われ方については納得・理解できるものがあります
今の政治経済の方向性が、ほんとうにこれでいいのか?
多分少なからず不安と疑問を抱えている方はいると思います。

私はブログ「60歳からの現実(リアル)」の中で、60代の方々に対してこれからの生き方、過ごし方について、いろいろと投げかけてきました。
60代は、退職あるいは継続雇用や転職などで社会の第一線から退いた世代ですが、今まで子どもを育て、家族を養いつつ住宅ローンに苦労し、そして、会社内(役所・組織内)では中心的な存在として活躍してきた経験を持っています。
更に、今度は「親の介護」に直面し、これからの介護や医療のあり方などに対して一番問題意識を持っている世代ではないかと思います。
同時に公的年金を受け取る年代として、「ああ~これしかないのか、これでは生活できない」とため息をつく体験を持つ世代でもあります。
更に言えば、自立できない子どもを養い、シングルマザーと共に二度目の子育て(孫)に奮闘している方もいらっしゃると思います。

つまり、私たち60代はこれらのことを経験し、社会のメカニズムがどうなっているかハッキリわかっている世代なんだと思います。
現代社会のこうしたメカニズムがはたしてこれでいいのか?と・・・、疑問と問題意識を持っていると思います。
すでに自助努力、自己防衛では何ら解決されない社会になってきています。
このままサイレント・マジョリテーであり続けるのであれば、今の政治経済の方向性に対し ”YES” ということにつながりかねません。

藤田氏は最後の章で、
こんなことを語ると、決まって「理想主義者だ」と批判される。
社会保障を拡充する余裕などないし、不可能であるともいわれる・・・。
当たり前のように享受しているすべてのものは、 ”当たり前ではない現実” を乗り越えてつくられてきた。
誰かが不便だと思ったり、おかしいと気づいて行動を始めたからこそ受けられている利益や権利なのだ。

たしかにそうですね。多くの歴史が物語っています。
私たちの身近なものでは、日本国憲法を挙げることができると思います。戦前では考えられない国民主権、基本的人権、平和主義が制定されました。
又、男女雇用機会均等法もあります。制定されてからまだ30年ほどです。まだいろいろな課題はありますが、今では当たり前の時代になってきました。

 

今回の「続・下流老人」をとおして、税のあり方、税の使い方と私たちの暮らしについて考えてきました。
60代になった今、ようやく今起きている社会のメカニズムと現実が見えてきたような気がします。
この著書や私が今まで述べてきたことに対して、いろいろなご意見や反論もあるかと思います。
多くの方が今の社会について考え、問題意識を持っていただければと思います。

 

「続・下流老人」 おわり

 

2 thoughts on “「続・下流老人」 (2)

  1. 今回の記事は「労作」ですね! かなり時間をかけられたのではないでしょうか?

     内容についてはいろいろ思うところがありますが、今回は割愛します(笑)

    それよりも、こういった読書やその他の知的刺激を受けた際に、自分なりにその時の感想や考え
    たことをまとめる、ということは本当にいいことだと思います。

    私も2005年に日本の会社を退職してから始めたブログ、最初の一年は365日、一日も欠か
    せず合計400本以上の記事を載せました。 今それらを読み返してみると、その当時の必死
    さ、何を考え、何を選択し、何を選択しなかったのか、などなど、自分でも時々新たな発見があ
    るくらいです。

    また、特に我々ぐらいの歳になると、「考えること」自体が老化防止にとても重要なファクター
    にもなってきている気がします。その意味でも、この記事のような「労作」を書くこと自体に価
    値があるのでは、と感じます。

    1. リンロン88さん

      ワッハッハー、こうなコメントもあるんですね(笑)
      リンロン88さんらしいですね。

      アップした時、下書きのリビジョン(改訂、修正)がなんと20回ありました。
      う~ん、こんなに修正や追加してたんだ~、な~んて驚きました。
      でも、実際にアップした内容を読み返してみると、ほんとうに思っていたことや感じたことなどの何分の一なんですね。
      リンロンさんのブログもすごいですよね~、いろいろと参考にさせてもらってます。

      ”「考えること」自体が老化防止の重要なファクター”
      リンロンさんから言われるまでこのようなことを思ったことはありませんでしたが、言われてみればそうなのかもしれませんね。
      老化防止に役立ってくれればと思ってます(笑)

      リンロン88さんらしいコメントありがとうございました!

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