60歳からの現実(リアル) (12)

小説「終わった人」

成仏した人、しない人

 

先日、この小説を紹介していただいたnorthsnow20さんから追伸がありました。
内容は、NHK「明日への言葉」のラジオ深夜便で内館牧子さんにインタビューした録音番組の紹介でした。
放送は「今やりたいことを最優先に」と題したものでした。

このラジオ放送の中で内館牧子さんは、小説「終わった人」のあとがきで語られている内容に更にもう一歩突っ込んで「成仏した人、しない人」について語っていました。
この成仏ウンヌンについては、何度か物語の中で主人公の心境を表した言葉として使われています。

子会社の専務取締役で定年となった主人公は
「まだ俺は成仏していない。どんな仕事でもいいから働きたい」と・・・。

内館さんは、この成仏について二通りのことを語っていました。
■一つは、60代退職を期に、「自分は今までやるだけのことはやってきた。だから次の人生に切り替えよう」という気持ちを持つ人。

■もう一つは、小説の主人公のように、「これからも働き続けたい。もっと偉くなりたい」という気持ちを持つ人。

この二つが成仏する、まだしないという表現で使われました。
どちらにしても人それぞれだと思います。
内館さんはこの放送の中で、これからも働き続け自分の能力を高めたい、活かしたい、更に上を目指したいという気持ちを持つことは大事なことでしょうが、「若い者には負けない」というようなアンチエイジング、ネバーギブアップ至上という気持ちは、はたしてどうなのか?と示唆していました。

この示唆している言葉として、小説の物語の中で何度か出てきた「散り際千金」「思い出と戦っても勝てない」「散る桜、残る桜も散る桜」という表現があるのでしょう。

こうした小説を読むと、どうしても自分と比較したり、置き換えてみたりするものです。
けっして主人公のような人生と同じ道を歩んできたわけではありませんが、サラリーマン生活を生き抜き、さてこれからどうするか、という気持ちは60代であれば少なからず想うものがあると思います。
例えば、私自身のことで言えば、前者であったと思います。
「やるだけのことはやった。きれいさっぱり仕事から離れ次の人生に向かおう」と・・・。

 

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60代は空腹なのだ!?

 

こうして考えてみると60代というのは、仕事から離れ完全リタイアする人、働き続ける人など人それぞれ今までとかたちを変えて次のステージに向かう世代です。
リタイアしてもそのエネルギーは全く衰えていないと思います。むしろ今まで以上に「やりたいことをやろう」「チャレンジしてみよう」という気持ちにもなります。
今までやりたかった趣味を更に深め・高めていく方、非営利事業などに参加して自分の能力を活かそうという方、ボランティア活動に参加し社会貢献しようという方などさまざまなエネルギーを持っていると思います。

小説の物語の一文に
60代は空腹なのだ。失ったものを取り戻し、腹に入れたい。まさに俺がそうではないか。
これが「後期高齢者」とされる年代になれば、空腹は感じなくなるのかもしれない。
失ったものの方が多く、喪失感と諦めの度合は大きく、そうなった自分と折り合いをつけて生きようと、腹もくくれるだろう。
だが、60代は空腹が許せない。まだまだなのだ、まだまだ終わってはいないのだ・・・。

このセリフは、主人公が次のステージの場として社長業に就いた時の心境を語っています。
物語の中では、結果として会社は倒産して負債を抱えることになります。
このことは、主人公が「まだ成仏していない」「思い出と戦っても勝てない」ということを著者の内館牧子さんが示唆したものでした。
しかし、一方でこのこと(60代は空腹なのだということ)は、「成仏した人」にも当てはまるものだと思います。
60代はまだまだエネルギーがある世代なんだということだと思います。
どう捉えるかは、読者それぞれの受け止め方があると思いますが・・・。

 

物語の最終章で妻の千草が語るシーンがありました。
「世の多くの人は、平均寿命は生きるだろうと考えて、できる我慢はして、将来のために今を犠牲にして頑張る。でも五十代でポックリ、六十代でポックリもあるのよね。人は『今やりたいことをやる』が正しいと身にしみた」

たしかにそうなのかもしれません。私もそう思います。
前回のブログ「男の家計簿」の中で、”今やりたいことをやる=今そのためにお金を使う”、という考え方もあるのではないかと述べました。
後期高齢者になった時の自分を想像してみました。
いつまで健康で自分の足で歩き、自分の手で食事ができ、他人の手を借りずに自立できる生活ができるだろうか?と・・・。
その時期は?、遅かれ早かれ確実に来ることは、自分の親をみて分かりました。
であるなら、元気なうちに、まだ気力・体力・好奇心があるうちにやりたいことをやり、そのことに投資する生き方の方がよっぽどいいのではないかと。

 

主人公のお母さん(89歳)が息子に語る言葉に
「壮介(主人公)、年齢(とし)なんぼになった?」
「六十六」
お袋は感嘆したように言った。
「六十六か。良塩梅(いやんべ)な年頃だな。これからなってもできるべよ」(秋田の方言)
八十九歳から見れば、六十六歳はいい塩梅の年頃で、これから何でもできる年代なのだ。
「終わった人」どころか、「明日がある人」なのだ。

この小説を読み終え、内館牧子さんが言わんとしていることは、まさにこの言葉のように「明日がある人」なんだと思いました。
60代定年を迎え、人生のひとつの区切りとして「終わった人」になっとた同時に「これからがある人」なのだという強いメッセージではないでしょうか。
内館さんが示唆している「思い出と戦っても勝てない」という意味は、堺屋太一氏が小説「団塊の世代」シリーズで語っていた「退職時に人生の棚卸しをすること」と同じことではないかと思います。
そして、その次のステージには「明日がある」ということなんだと・・・。

「もう俺は年金暮らしだよ・・・」「もう俺は年齢(とし)だから・・・」と言ってその後に続く言葉が、「もうできないよ」「もう無理だよ」「そんなことしたって老い先短いんだから」というネガティブな一言はあまりにも寂しいと思います。
なぜなら、60代ってまだまだ、まだまだ終わってはいないということなんだと。

 

この小説「終わった人」を読み終えた後にカミサンも読みました。
そのカミサンが、「主人公の気持ち、妻の気持ちも主婦としてよく分かるよ」と言っていました。
40年以上もフルタイムとして働き続けてきて今年60代で退職したカミサンは、同時にその間、妻として母親として家庭を切り盛りしてきた実績があります。
そんなカミサンの「よく分かるよ」という一言には、何か深い重みを感じさせるものがありました。

 

ある個人ブログのサイトにこんなコメントがありました。
この小説を読んでいる途中、夫にあらすじや感想を熱く語っていたところ、夫はすぐにこう言った。
「ドラマ化されるかもね」
そうだ!夫よ、ナイスコメント!。これ絶対ドラマ化してほしい!
というわけで、勝手に配役まで考えてしまった。
壮介(主人公)は寺尾聡で、千草(妻)は黒木瞳、トシは佐藤浩市、道子は安藤サクラ、久里は永作博美・・・。
こんな風にさまざまと映像化して考えられるのは、やはり著者が脚本家だからだろうか。

へ~、そうなんだよね。こうした小説って登場人物の面影など個人で勝手に想像しながら読み進めていったりします。
もちろん私たち夫婦も勝手に配役を決める話題で話が弾んだりします。
壮介は寺尾聡もいいけどやっぱり役所広司かな~、千草は黒木瞳か原田美枝子か?、トシはリリー・フランキーで決まりだね!、道子は永作博美、久里は石田ゆり子かな~、なんていう具合に。
私たち夫婦もぜひドラマ化してほしい作品だと思っています。

 

というわけで、一冊の小説がこれからの生き方、過ごし方について、夫婦共々考えさせられるものでした。
そんな想いを伝えたいと思い、先日、親しくしている同世代の友人ご夫妻にこの書籍を持っていきました。
この物語を肴に楽しいお酒が飲めそうです。

「終わった人」は、次に「明日がある人」なんですね

 

3 thoughts on “60歳からの現実(リアル) (12)

  1.  明けましておめでとうございます。 本年もよろしくお願い申し上げます。

     すーさんのこれまでの記事に触発された、というわけでもないのですが、最近考えていること
    をブログにアップしました。 今年(2017年)は私にとっても人生で2番目か3番目の大き
    な転換点となりそうです。

     ⇒ http://ameblo.jp/warekokoima/?frm_id=v.mypage-ameblo–myblog–blog

    1. リンロン88さん

      明けましておめでとうございます。
      新年早々のごあいさつありがとうございます。

      リンロンさんのブログ読ませていただきました。
      ピアノがご趣味のようで、音楽とのお付き合いをされていてすごいですね。
      音楽と言えば、私なんか昔のフォークソングやニューミュージックなどを聞く程度ですが、たま
      に聞くと心が癒されます(笑)

      今年いよいよ日本に帰られるようでなによりですね。(ブログ拝見しました)
      そういう意味では、リンロンさんにとっては大きな転換期になるんでしょうね。
      以前の連絡では埼玉エリア辺りだと聞きましたが、日本に来られてからもいろいろと連絡取り合いたいです
      いたいです。

      今年もよろしくお願いします。

  2. リンロン88さん
    先ほどの返信コメントが「匿名」になっていました。
    設定変更により名前を記入し忘れました。すみません。
    すーさんです。

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