60歳からの現実(リアル) (8)

小説「団塊の世代」

 

境屋太一氏の未来小説「団塊の世代」の題名は、社会の移り変わりの度ごとにいろいろな場面で使われてきました。
私も今までブログを通して、この「団塊世代」という言葉を使ってきました。
その意味については分かっていましたが、実はこの小説自体を読んでいませんでした。
先日、図書館に行った時に「団塊の世代 新版」の文庫本が目に留まりました。
この小説は1976年に総合月刊誌「現代」に連載され、同年単行本として刊行されたようです。
その後、改版、加筆した新版が2005年に出版されました。
改変、加筆といっても、著者のまえがきでは「この新版の刊行に当たっても、ひと言も変えなかった」とありました。

この未来型小説は、団塊世代の方々の2000年頃までの仕事や社会状況を予想する小説です。
団塊世代が学生から社会人になって、それ以降50歳前半頃までの物語です。
仕事や生活をしていく中で政治経済の変動やいろいろな社会環境の変化がありましたが、そうした状況を全て予測しながら組み立てている小説として驚くばかりでした。
 この驚きは今だからこそ振り返ってみれば分かることですが、1976年当時の刊行として将来のことをこれだけリアルに予測し、それがほとんどその通りに推移した物語だったという点です。
ご本人もこの新版の中で、「そこに描かれているのが30年後の現実に合っており、古さを感じさせないのが嬉しかった」と語っていました。

 

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この小説は4つの物語から構成されています。
それぞれ異なる仕事、環境の中での団塊世代の生きざまが描かれています。
あらすじや内容については触れませんが、この物語を端的に表すキーワードとしていくつかの言葉や出来事、現象などを挙げてみました。

新規事業・新業態、ホワイトカラー、ニューファミリー、株主総会、ミドル、バブル、終身雇用と年功序列の崩壊、リストラ、出向、社会保障制度の危機など・・・。

これらの言葉や出来事は、全て団塊世代が体験してきたものです。
そして、私の世代(現在60歳)は、この団塊世代の背中を見続けてきた最後の世代でした。
会社内では上司としての存在だったことから、これらの社会現象を共に体験してきたとも言えます。
今では死語となっている言葉もありますが。

インターネット上のビックサイトのひとつに「海外ロングステイ、定年後の生き方・過ごし方」といブログがあります。
このサイトは、早期退職した団塊世代の方が、海外個人旅行、海外ロングステイなどを実際の体験に基づきリアルに綴った情報が掲載されています。
又、退職後の生き方・過ごし方などについての体験談や情報も豊富にあり、多くの読者が訪れています。
同じような団塊世代の数ある他のサイトと比較して、その内容や情報量においては多分トップレベルのサイトだと思います。

そんなサイトの管理人さんが、最近このようなことをブログで語っていました。
2003年にリタイヤして、海外ロングステイや団塊世代定年後・老後に関する優良なサイトがないので、自分なりにWebページを立ち上げて、今日に至っています。
「海外ロングステイ」「団塊世代」はもうキーワードとして世間一般では使われない時代に来ているのです。

現在、団塊世代の年齢は67~69歳になっています。
今から約10年前、この団塊世代の方々が定年退職する時期、一つの社会現象と言われるくらいマスコミや商業界などでもてはやされた記憶があります。
それは、定年退職に伴う退職金などの金融資産が175兆円に達するという試算を当て込んでの商業ビジネスです。
まさに海外旅行、世界一周、海外移住、ロングステイや金融投資、資産運用などの話題で盛り上がった時期でした。
その後も社会全体の経済状況が低迷する中、消費活動を牽引しているのはこの団塊世代だったと思います。
このことは、以前私のブログ「アクティブシニア」の中でも述べましたが、今でも日常生活で見られる光景は、この世代の方々が活発に活動されている姿です。
平日のショッピングセンター、都会の百貨店、ミュージカル・コンサート・演劇などの劇場、フィットネスクラブ、スポーツジム、市民プールはじめ、国内ツアー観光地、登山など、至る所でその姿を目にします。
最近、観光地に行けば海外旅行者の外人さんが目立ちますが、よく観察するとこの世代の方々が圧倒していることに気づきます。

しかし、後5年したらどうでしょうか?
この世代の方々は後期高齢者になり、消費活動の一線から退いていくでしょう。
私は登山を趣味にしています。最近では登山ブームもあって若い世代(20~30代)の人が今まで以上に多くなってきていますが、後5年したら一時的に山小屋は閑古鳥が鳴く状態になると推測します。今までの盛況を取り戻すまでには、更に十数年の年月がかかると思っています。
登山ひとつとってみても、それだけ団塊世代の方々の活動は社会に大きな影響を与えてきたと思います。

私も管理人さんがおっしゃる団塊世代の象徴であった「海外ロングステイ」というキーワードは、世間一般では使われない時代になっていくと思います。
又、「団塊世代」というキーワードも世間からは消えていくと思いますが・・・?。

 

小説「団塊の秋」

 

小説「団塊の秋」は、境屋太一氏が2013年に発行した「団塊の世代」の続編未来小説です。
春夏秋冬を人生のイメージに例えると、春から夏にかけては盛んに活動する若中年時代、秋は枯れゆくシルバー世代に思われます。はたしてそういう意味で付けられた題名かどうかはわかりませんが。

境屋太一氏のコメントによれば、
「団塊の秋」では、60代半ばにさしかかった団塊世代の今後を、超高齢化社会へと進む日本の近未来の予想と絡めながら書き上げました。
最初に発表した「団塊の世代」では、2000年までの彼らの現役時代を取り上げましたが、この作品では現役が終わった後の彼らを描きました。
職場でつながる「職縁社会」から外れた人たちが、これからどのように生きていくのか、日本の社会にとっても重大な問題だからです・・・。
物語は、2015年、職場の縁でつながる社会でずっと生きてきた主人公たちの、職場の縁が途絶えるところから始まります。
そして2028年、時代の波に翻弄されながら想定外の人生に直面しつつ80歳の「傘寿」を迎えるまでを描いています。

 

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物語の設定は、団塊世代のそれぞれ異なる職業に就いた7人の男女が主人公です。
キャリア官僚、大手銀行員、大手電機メーカー、全国紙の新聞記者、教員、建設業者、弁護士から転じた政治家などです。
そして、主人公たちの生まれ育ってきた家庭は、中流以上の裕福な環境が背景にあります。
著者の境屋太一氏は、東大経済学部卒で通産省入省のエリート官僚です。又、経済企画庁長官を務めた方でもありました。

こうした物語の主人公設定やご本人(境屋氏)の周囲の環境から、現実の団塊世代の方々と少しかい離があるのではないかと思いながら読み進めました。
このことは800万人とも言われるこの世代の中で、物語の「目線」が、一部エスタブリッシュメントに近い層の人たちを主人公にしているため、ちょっと現実味から離れた印象を持つものでした。
境屋氏は、経済面に精通していることから、団塊世代が歩んできた社会経済の背景を鋭く正確に描かれリアル性に富んでいますが、「目線」が高い所にあるため実際の庶民の生活実態とかい離している点が気になりました。
そして、このことは将来の日本を予測する上でちょっと違うんじゃないかな?と思ったりしました。
それは一言でいえば、「格差と貧困」が更に進んでくるという視点が少し弱いかな?と思ったことからでした。
物語の中では、登場する主人公の一人に「退職金6千万、年金月額50万円受給」というとんでもない数字が現れたりします。これもほんの限られた一部の層の人のお話しでしょう。
小説を読む側からの感想は、その人の立場や考え方によって異なるものですから、こうしたことは一概にはいえませんが。

しかし、団塊の世代をひとつのくくりとして捉えるには少し無理があるようです。
この世代の中でも「格差と貧困」は確実に広まってきていると思うからです。

あくまでも未来小説なんだから、そこまで批評することはないだろうと思いますが(笑)
いずれにしても団塊世代の方々が80歳(2028年)になるまでの姿とその時の社会状況も予測されています。
この小説に登場する7人の主人公たちの行く末が、全てハッピーエンドで終わるということはありません。
それは社会という大きな流れの中に巻き込まれながら、「こんなはずではなかった」という気持ち、又、境屋氏のコメントを借りれば「想定外の人生に直面」する場面がありました。
このことは、小説だけの話に留まらず、「私たちの将来における現実の一面」という点では当たっているかもしれません

 

再び「団塊の世代」の波が・・・

 

私が思うには、この「団塊の世代」のキーワードは、たしかに世間一般では使われなくなりつつありますが、この世代が75歳になる2023年前後に再び登場すると思います。
それは後期高齢者となる年齢になるということです。
特に医療、介護問題などでの財政負担が拡大することから、保険料値上げ、自己負担増、介護保険サービスの低下・削減などが更に出てくると思うからです。このことはすでに国政上で始まっていますが・・・。

 

話は前の書籍「団塊の世代」に戻りますが、この小説の第4編「民族の秋」で登場する主人公の総理府参事官とその部下との会話に注目しました。

参事官:「老人を社会として扶養するのは国民の義務だからね。今の老人、いやこれから十年十五年の間に老人になる人たち も含めてだが、その人たちこそ、あの高度経済成長時代を演出し、今日の豊かな日本を築いた功労者なんだからね」

部下:「そうですかね、今の老人たちが功労者ですか・・・。僕らにはむしろ責任者だと思いますよ。あの高度成長時代、いやそれに続く70年代、80年代の、まだまだ日本に力があった頃を無為無策に過ごして来たことの・・・」

参事官:「無為無策だったかね・・・」

部下:「そうですよ。だから僕たちはエネルギー問題や財政問題で苦労しているんじゃないですか。先のことを考えないで、福祉だとかレジャーだとか民族のバイタリティーをことごとくその日の消費に使ってしまった責任世代なんですよ」

 

見方を変えればこうした考えもあると思います。
私も団塊世代の後を追って共に過ごしてきた世代ですから、言われてみれば分かるような気がします。
続編「団塊の秋」の中でも、こうした問題を「先送り」してきたことを指摘する場面がありました。

たしかに年金、医療、介護などの社会保障に関わる財政問題を「先送り」してきたことが、現在と将来にわたっての大きな課題として圧し掛かってきていると思います。
しかし、そのことが団塊世代やその前後の世代の責任?と問われると、果たしてどうなのだろうか・・・。

 

境屋氏は、著書「団塊の秋」の中で「職縁社会」から「夢縁社会」へという意味の言葉を使っています。
これは、今まで職場の縁でつながり生きてきた生活が途絶え、これからは組織に縛られず自由に生きていく時代という意味のことのようです。
団塊の世代の人たちが歩んできた軌跡は、次の世代(私たちの世代)に対しても大きな影響を与えていると思います。

 

次回は、責任世代と夢縁社会について考えてみたいと思います。

 

つづく

 

2 thoughts on “60歳からの現実(リアル) (8)

  1.  続けてのコメント、失礼します。

    この「60歳からの現実(リアル)」シリーズ、いつも楽しく読ませてもらっています。

    ググレば、いろいろなサイトがこういった「定年後」や「退職後」の生活についての記事がヒ
    ットしますし、例の「鎌倉・・」もその中の一つですが、最近は管理人さんも多少ガタがきて
    いる(失礼!)ようで、BBSでもっているような感じですね。 そんな中、このすーさんのHP
    は年齢的にも内容的にも私の状況や考え方に近いものがあり、かつ、書かれている内容がある
    意味偏らないというか、冷静な目で見られているという感じで好感が持てます。

     まだ「つづく」ようですが、期待しています。

    1. リンロン88さん

      コメントありがとうございます。
      大げさな言い方になりますが、60代は人生の節目に当たる世代だな、と最近つくづく思うようになってきました。
      今まで会社という組織の中だけで過ごしてきましたが、57歳で早期退職して3年間、登山やくるま旅、その他各種セミナーなどに参加する中で、世の中にはいろいろな生き方や考え方があるんだな~と思うようになりました。
      特に60代は仕事から離れる方も大勢いて、例えば「仕事というひとつの道」を歩んできた共通の道から放射線状のようにその道が分かれていくように思えました。
      そこには迷いや悩み不安などが混在し、そこから次の道を探す姿が60代なんじゃないかな~と思ったりしました。
      そうした思いをできれば「本音」で語りたいなと思っています。

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