老後破産という社会システム

NHKスペシャル 老人漂流社会

「団塊世代・忍び寄る老後破産」

 

2014年にNHKスペシャルで「老後破産」というタイトルの番組が放送された。
番組では、生活に困窮する高齢者の一部が明らかにされ反響も大きかったようだが、そこに至るまでの社会背景や雇用、福祉の問題などについてまでは踏み込まれなかった。
視聴者は問題の所在の一部は理解できたが、全体像を把握することはできなかっただろう。

以上の文章は、2015年6月に発行された藤田孝典氏著書「下流老人」の冒頭の引用です。

このNHKスペシャル番組が放映されたことで、私たち身の回りに起きている貧困という社会問題がリアルに浮き彫りにされたのではないでしょうか。
この番組が回を重ねるごとに大きな関心が高まり、自分の家庭のことや社会の問題を考えるキッカケにもなったように思います。                        一方で、なぜこのような状況になってきたのか、という本質的な原因が明らかにされないことから、余計に老後に対する不安ばかりが広がってくる番組のようにみえました。

同番組シリーズとして、今回「団塊世代・忍び寄る老後破産」が放送されました。
私たちの身近な問題として多くの方がこの番組を見られたと思います。

 

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私は、今回の番組内容から主に2つのことを感じました。
一つは、団塊世代に限らず「忍び寄る老後破産」は、一部の富裕層を除くほとんどの国民に当てはまる深刻な問題として受け止めたことでした。

藤田氏の言葉を借りれば(著書「下流老人」)
現在のような「経済優先・弱者切り捨て」の原則に基づいた社会システムである以上、下流老人の問題に特効薬はない。仮に経済成長を挙げても、下流老人の問題は一向になくならないだろう。                                  経済以外にも、広範な部分にメスを入れる必要がある。 

「老後破産」というタイトルから高齢者や団塊世代だけに目を奪われがちになりますが、老後破産に至るまでの経緯として、子どもから若い世代、そして中高年世代も含めた問題として捉えないとその全体像が見えなくなってしまうのではないかと思います。

例えば、今の社会システムや社会状況の問題を挙げるとすれば、
■労働環境の悪化(非正規雇用40%、ブラック企業の増加、厚生年金未加入など)
■給与所得の低下(ここ3年間で実質賃金5%減少、同一労働同一賃金の遅れなど)
■年金制度の悪化(マクロ経済スライド、受給年齢の繰り上げ、年金の株投資など)
■医療費の負担増(70~74歳の1割→2割負担、入院食の値上げ、診療報酬1%超引下げ)
■介護保険の不備(在宅介護の実費負担、特養老人ホーム増設の遅れ、介護離職問題)
■公営住宅の不足(大都市圏の応募倍率90倍、建て替え後の家賃が2~3倍の実態など)
■子育てと就学問題(待機児童と保育園、保育士不足、授業料値上げ、奨学金問題など)
ちょっと挙げただけでも、これだけの社会状況の悪化と不備な点が、高齢者を含めた私たち国民を取り巻く状況になっています。

これらのことから、藤田氏が警鐘するように「経済以外にも、広範な部分にメスを入れる必要がある」と私も強く感じます。

ある団塊世代ジュニアのブログにこの番組を見た感想が述べられていました。
自分がまさに団塊ジュニアの一人なので、非常に関心を持って観た今回のNHKスペシャル。
親の介護の負担と自立できない子どもの板挟みになっているという厳しい実態が浮き彫りになりました。それぞれの世代が「自らの意識」と「社会システム」の両面から歪みが出てしまっているのではないかと思います。                       まず「自らの意識」ですが・・・「自己責任論」だと思われがちですが、個人の責任だけでは済まないのは論をまたない話です。                        無年金者、低年金者を救済する最低年金保障制度や、介護が必要な人に十分に受けられるだけの介護保険の仕組みを整備することが急務でしょう。
さらにジュニア世代から若年世代にかけての不安定雇用の解消、非正規雇用などという雇用者に都合のいいような制度はきっぱり縛りを掛けて正規雇用を増やすこと、最低賃金引き上げや、同一労働同一賃金など雇用の不安定化を解消することなどを進めることが必要です。

若い世代(団塊ジュニアなど)においてもやはり深刻に受け止めています。
今進行している諸問題は、現在の「社会システム」によって起きていると思います。
                                       こうした状況の中で
老後破産は起こるべくして起きた現実であり、そこまでに至る経緯に目を向けなければならないのではないでしょうか。

 

「放送のあり方とその狙い」に感じること

              

二つ目に感じたことは、NHKの報道のしかたに疑問を感じたことでした。
テーマが「忍び寄る老後破産」ということですから、高齢者の生活にスポットを当て現実に起きているリアルな問題が提起され、視聴者にとってはこれからの自分たちの生活のあり方を考えるキッカケになると思います。                       一方、なぜこうした問題が起きてきたのか、どのような対策をしていけば良いのか、どのようにしたら問題解決の方向性が見出されるのかという点について、はっきりその原因と対策が指摘されていませんでした。

 

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出演された専門家の見解

放送大学 宮本みち子教授のコメント
団塊の世代は世界でもトップクラスに長寿化した親の世代を支えている。
もう一方では不安定な時代の波を被っている子どもたち(団塊ジュニア)の世代を支えざるを得ないということで、頑張っている世代・・・。
そういう点で苦労を背負っている団塊の世代の実情にきちんと焦点を当てて適切な支援というものが必要だと思う。

三世代が生計もままならない。介護のために押しつぶされて後は死ぬことまで考えなければならないという、そんな状況に置かれれば、その負の連鎖は次の世代までいく・・・。
社会の整合性がとれていないと思う・・・。社会的に救済処置がもっとないだろうかと思う・・・。社会のしくみそのものが余儀なくしているところがあると思う。

専門家といわれる方が、その現状認識だけに留まっていることにたいへん残念な思いでした。                                                  社会の整合性や社会のしくみそのものを問題提起しているにもかかわらず、その具体的な原因となる指摘が全くありません。                              又、その対策として「適切な支援」「社会的に救済処置」とだけしか挙げていません

 

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みずほ情報総研 主席研究員藤森氏のコメント
今回調査をして思ったことは団塊世代=豊かな世代と思われていたが、所得額・貯蓄額を見ると格差が大きい。そうはいっても日本の高度経済成長期から新しいライフスタイルを築いてきた世代であり、中流家庭を築いてきたと思う。おそらくバブル崩壊後の強い影響を受けている。だから団塊世代が豊かな世代だと一律な見方をするのは間違っていると思う。

一つは社会保障の機能強化をしていくべきではないかと思っている。介護保険をきちんとすることによって現役世代の方々が介護離職しないで済む。サービスを受ける高齢者のみならず親を持つ世代にも恩恵を被る。

こうした状況が起きてきた要因として、確かに藤森氏の言うように「バブル崩壊後の影響を受けている」ことがキッカケになったと思いますが、はたしてそれだけでしょうか。
私たちが暮らしている社会は資本主義社会ですから、貧富の差が生まれやすい社会構造になっていると思います。                                                     バブル崩壊、リーマンショックがあったとしても、又、逆に経済成長、最近の株価上昇、大企業の史上最高益などの経済状態にあったとしても著しい格差が生まれる社会システムです。                                                    ここのところをしっかり把握していないと、すべての原因が「その時の経済状態」だけにとらわれてしまう恐れがあるのではないでしょうか。

又、その対策として「社会保障の機能強化」「介護保険をきちんとする」ことは改善にもつながると思いますが、一時的な対応だけで根本的な解決策にはならないと思います。

私は冒頭で藤田氏の「下流老人」の一部を引用しました。
そこに至るまでの社会背景や雇用、福祉問題などについてまで踏み込まれなかった。
視聴者は問題の所在の一部は理解できたが、全体像を把握することはできなかった。

NHKのこの番組シリーズは2014年から放送されています。
今もって藤田氏が指摘する社会背景や雇用、福祉問題、そしてその全体像は明らかにされませんでした。                                 今回の番組に出演された専門家の宮本氏、藤森氏のコメントに意見するつもりはありません。短い時間の中でのコメントですから全てを解説することは難しいと思います。
問題は、NHKの報道のしかたとその狙いにあるように思われます。
こうしたことが起きてきた原因と対策に対して、現政権の政策については何ら触れることがありませんでした。                              

老後破産しないための解決策として「社会保障の充実」だけに目を向けさせる意図が見え隠れする報道のように思われました。                         声高らかに「社会保障の充実」と言えば聞こえがいいですが、実際に施行されている政策は「社会保障の切り捨て」「受益者負担」になっているのが現実です。
消費税増税分は社会保障に充てるということでしたが、実際は1割程度でした。
そうした事実を指摘しないで、それでもなお「社会保障の充実」という印籠を出すことで今までの失政から目を逸らせる狙いがあるように感じます。

老後破産しないための解決策として「経済成長」に目を向けさせる意図もあるように思いました。                                                       藤田氏は「仮に経済成長を挙げても、下流老人の問題は一向になくならないだろう」と指摘しています。(著書「下流老人」)                          すでにトリクルダウンは崩壊しています。大企業は空前の利益を確保し、今や内部留保は300兆円を超えています。                             法人税減税をはじめとした優遇税制推進によって、実態経済に何ら反映されない経済成長を遂げたとしても格差が広がるだけで問題の解決には至りません

こうしたことから、NHKの「老人漂流社会」シリーズ番組は、今起きている社会問題をクローズアップして警鐘することは、わたしたちの生活を考える機会にもなりますが、一方でその本質的な問題に触れず、視聴者の目を逸らすようにしているようにも思えました。                                                                                 

資本主義という格差が生まれやすい社会システムであっても、そのことをコントロールするのが本来の政治の役割だと思います

 

「自己責任」の議論はもう終わりにしたい

 

この番組を見て人それぞれいろいろな思いが頭をよぎったと思います。
自分の家庭は大丈夫だろうか、親の介護や病気を抱えているから他人事とは思えない、 多少蓄えがあるからなんとか生活できるか、今の年金や貯金だけでは難しいか・・・。

こうした状況の中で「自己責任」ということが頭をかすめたりします。
今まで節約した生活を送ってこなかったから今の状態に陥っているのか、将来のことを見据えて貯蓄をしてこなかったからしょうがないのか、持病を抱えていたため満足に仕事ができなかったから自業自得か、給料が上がらなかったからしかたがないのか・・・。                                       確かにそうした自己責任論もあると思いますが、一方で人それぞれの家庭の事情や社会のしくみにより努力してもそうならざるをえなかったことも考慮しなければならないと思います。

好きで老後破産を迎えようとしている方は一人もいないと思います。
一部自分の努力や体調のこともあると思いますが、現在のような社会システムの中ではたいへん難しいのではないでしょうか。
※冒頭で挙げた社会問題の例など
そこに、親の介護、自分や家族の病気、子どもも合わせた三世代同居生活などの問題も圧し掛かってくるわけですから、一言に自己責任でかたずけられないと思います。 

仮に自己責任であったとしてもその人が「困った」と言っている時に手を差し伸べない社会でいいのかと思います。                              「それは自己責任だ!」と言った時点ですべての改善の道が閉ざされてしまうことにつながる恐れがあるのではないでしょうか。

こうした先の見えない現代社会の中での「自己責任」の議論は終わりにしたいです。 

 

いずれにしても老後破産やそれに近い生活が現実として忍び寄ってきています。
60歳定年制度は形としてはあるものの、今や継続して働かなくては生活できない状況にあります。65歳雇止め以降も働き続ける方も増えてきています。
このことは今の中高年世代に限らず、これからの若い世代にとっては更に深刻化してくる問題ではないでしょうか。

藤田孝典氏は著書「下流老人」の最後にこう述べられていました。
わたしが本書で執拗に強調したのは、「下流老人を生んでいるのは社会である」ということだ。下流老人になるのは、その高齢者本人や家族だけが悪いわけではない。
そろそろ貧困に苦しむ当事者やわたしたちは、この自虐的な貧困観から脱却し、社会的解決策を模索すべき時代に入っているのではないか。
  

私たちの生活は常に政治と密接に関わっています。
だからこそ、そういう方向にしっかりと目を向けていきたいと思います。                                                                     

9 thoughts on “老後破産という社会システム

  1.  ある団塊世代ジュニアのブログ
    ・・・「自己責任論」だと思われがちですが、個人の責任だけでは済まないのは論をまたない話です。
     と引用がありましたが、まことにそのとおりです。

     この社会に生まれてそれなりに生きてきた方たちが押しなべて幸せに生きられるようにするのが社会の仕組みではないでしょうか。
     一般的な病気やけが、会社の倒産などばかりでなく労働基準法などの改悪や無過失の交通事故、不慮の事故なども「自己責任」だという声が政府ばかりが一般国民の間にも広まっているような気がします。
     幸運にもそれらに遭遇しなかったのは自分たちが努力し頑張ったから自己責任を果たして、今があると本当に言えるのでしょうか。その人たちはそうでなかったら自己責任だとそのことを本当に受け入れることができるのでしょうか。
      
     先ほどの団塊世代ジュニアのブログの続きですが、
    「無年金者、低年金者を救済する最低年金保障制度や、介護が必要な人に十分に受けられるだけの介護保険の仕組みを整備することが急務でしょう。          さらにジュニア世代から若年世代にかけての不安定雇用の解消、非正規雇用などという雇用者に都合のいいような制度はきっぱり縛りを掛けて正規雇用を増やすこと、最低賃金引き上げや、同一労働同一賃金など雇用の不安定化を解消することなどを進めることが必要です。」
     誰でもが安心して生活するためには以上のことが本当に必要だと思います。

    1. 槌ケ崎さん

      コメントありがとうございます。
      槌ケ崎さんがおっしゃるように
      「幸運にもそれらに遭遇しなかったのは自分たちが努力し頑張ったから自己責任を果たして、今があると本当に言えるのでしょうか。・・・」
      私も全く同感です。
      著しく格差が広がる現代社会においては、同じように努力しても難しい面があると思います。
      この自己責任論は、90年代頃によく言われた「勝者と敗者」「勝ち組と負け組」という風潮のように、勝者は差別することで優位性を保ち、一方で働き続けることへの強要と不満を抑え込む手法として成り立ってきました。
      こうした考えは全てではありませんが、権力と資本家(雇用者)の常とう手段として用いられてきました。
      そして、同じ勤労者同士にその考えを助長させ、槌ケ崎さんの言うように一般国民の間にも広がってきています。
      その典型的な例として、公務員や生活保護者へのバッシングがあります。

      政府は、この「自己責任」を繰り返すことで国民の政治に対する不満を封じ込める手段として使ってきました。
      と同時に国民の間での自己責任のなすり合いにより、自分たちの失政への不満を分散化する方法にも利用していると思います。

      もう私たちはそんな「自己責任論」に追随する考えはありませし、騙されません、ということをきっぱり言いたいです。

      貴重なご意見ありがとうございました。

  2. アホなコメントですね~。
    自己責任って他者を殺す言葉です。
    自己責任って自分が頑張るのはいいことですが、他者にいうのは違うと思います。

    これからAIが進んで、まともに仕事したい大半の人が非正規のような雇用条件でしか働けない時代がきます。
    一部の富裕層だけ生き残るサバイバルゲームが始まってるのに、一般の中流(だと思ってる人達)が自己責任うんぬん言ってるのを聞くと密かに驚いてます。

    わたしが、密かに考えてるのはBI(ベーシックインカム)の導入です。
    BIがあったら、自分がすり減るような労働せずに済みます。
    好きな事が働く事に繋がればいいですし、言い難いですが働く事に向いてないならそれでもいいと。
    AIの為に職業の間口が狭くなるからしょうがないです。
    それでも労働者がいなくはならないと思いますが・・・??????
    どうなんでしょうね?????

    関係ないですが、社会を変える為には選挙に行く事です。
    特定政党を支持するよりも、まずは選挙に行ってほしいですね。

    1. ヒトミさん

      コメントありがとうございます。
      ヒトミさんが言うように、これからの社会は非正規雇用が更に増えてくると思います。
      この非正規雇用の増加は、将来の老後破産に確実につながるものだと思います。そういう意味からいっても高齢者に限らず社会全体の問題として考えなければいけないと思います。

      BIについては、あまり深く考えたことはありませんが、現状の社会福祉制度を包括して、国民の最低限度の生活を保障することではいいと思います。

      自分の意志を政治に反映させるのは、やはり選挙での一票ですね。
      どんなことを言っても現実的に社会を変える手段は選挙ですから、ヒトミさんが言うように皆さん選挙に行ってもらいたいですね。

      貴重なコメントありがとうございました。

  3. 自己責任…確かに、自分で言うべき言葉ですね。
    どんどん拡大解釈して、貧困家庭の子供までに言うなんて、まっとうではない。

    団塊世代は、想像力のない人が多すぎる。
    自分たちは、逃げ切れればいいと思っているんでしょうね。

    子供、孫の世代がどうなっているか、想像できてない。
    家や少しの貯金で何とかなるなんて、思っているのかな。

    思いやりの持てない人間=想像力のない人間は、生き延びれないと思う。

  4. 家犬さん

    コメントありがとうございます。
    どんなことでもそうですが、一面的な見方は危険だと思います。         今まで自分はそういう風に生きてきたんだから、などという考えに固執して相手に対しそれを強要することは狭い考え方、判断に陥りやすいと思います。
    そういう考えの狭い人が、「自己責任」という言葉をよく発したりします。
                                          いろいろな角度から見て判断し、相手の意見や考え方に耳を傾け、尊重し合うことが思いやりにつながると思います。

    話は変わりますが、家犬さんのブログで紹介された本読んでみたいと思います。
    以前、家犬さんが紹介した、日本はなぜ「基地」と「原発」を止められないのか、
    という書籍は、ちょっと大げさな言い方ですが、私のバイブル本になっています。
    いつも手元において、何かわからないことや疑問に思った時、この本を参考にしています。
    いつも勉強になる本を紹介していただきありがとうございます。

  5. 3人の子どもたちが大学を出たので親の務めはまず果たしたと56歳で教員を退職し、それから10年間教職員仲間を中心に退職金などを持ち寄り出資し合い立ち上げた高齢者と障害者の介護・福祉サービスを事業としている生協で働いています。
    介護の現場から見ても、現在の介護保険制度はだんだんに崩壊の方向へ向かっているように思われます。私の住む地域の役所も「介護は家庭が基本」とはっきり言うようになりました。つまり利用者(家族)の「自己責任」を言い出したのです。
    また、介護保険制度が発足し、「市民である自分たちが望む介護を自分たちで作ろう」と明るい展望を持って開始した事業でしたが、ここ4年は赤字決算の連続です。
    どこの介護事業者も介護報酬の削減と制度の変更により、収入減・人手不足・行政の規制と締め付け強化がすすみ、この3年間で事業が継続できるかどうかという状況にあると思います。
    90歳まで生きるようになり、社会保障が後退していく中で、自分の問題、地域の問題、国の問題として「高齢期の生き方を考える」ということが大切になってきました。
    以下の文章は、私が、生協の組合員向けの機関誌に連載しているものの最近の一部です。
    長くて申し訳ありませんが、載せてください。

    1、個人の努力だけでは解決できない問題

    (1) 住宅問題
     わが国においては、家計への住宅費の占める割合が大きく、このことが貧困への要因となっています。現在の60歳以上の持ち家率は70%を超えていますが、少子高齢化の影響で空き家の増大、新築の減少という現象が顕著になってきています。
     わが国においては、ほとんどの所帯が持ち家を志向し、持ち家を手に入れるために長期にわたる住宅ローンの支払いを余儀なくさせられています。65歳以上の持ち家率が8割近いのはその結果であって、住宅ビジネスにより過剰に可処分所得が奪われ、それが高齢期の貧困にもつながっているという視点から考えると、住宅をビジネスの対象として市場に置いている政策の再考が必要ではないでしょうか。そのヒントが、デンマークの例です。
     ―「 住宅政策は社会保障の基盤である。住宅政策は、社会的弱者に対する支えであり、社会福祉制度の中の基盤である。(デンマーク社会は)住宅に対する社会的弱者、障がい者、お年寄りのニーズに応えている。基本概念のなかに、ホームレスを出してはいけない、あるいは、子どもの数など家族構成に見合った住宅を提供しなければならない、といったことがある。住宅政策が社会福祉の最も基礎にあり、それは自然権だとする。年金が福祉のナンバーワンというならば住宅はナンバーゼロだー(それぐらい基礎的だ)―(香川大学岡田徹太郎先生の調査インタビュー)
     今後さらに人口減少に向かい、土地価格の下落、一人当たり土地面積の拡大、空き家の増大等、建設条件が好転していきます。住宅供給を公共事業の第一とし、質の良い、生活に大きな負担にならない賃貸公共住宅の提供により「住まい」の心配がいらない国にしていくチャンスだと捉える政策転換が必要です。 
     
    ◆「自己責任社会」賃金依存度が高い日本の生活構造 
     なによりも経済が優先する今日の市場万能主義の日本社会では、個人の生活形成は「自己責任」であるという考え方にますます支配されていっています。    
    日本は、生活の社会保障依存度が低く、反対に「生活の賃金依存度が高い」社会になっています。
    ともかく働いて給料を得、社会保険料を払い、所得税・住民税を差し引かれ、消費税までとられて7割に減った可処分所得で、持ち家を手に入れ、子どもを大学に入れ、と国民は頑張るのです。「住宅」については前号で述べましたが、今回の「子育て・教育の問題」と合わせて、賃金依存度が高いこの二つの問題は、国民の大多数である「労働者・勤労者」にとって、大きな負担となり、豊かな生活を築く上での阻害要因となっています。
    (2)子育て・教育の問題
     2015年3月の高卒就職希望生は、全卒業生の18%で、他は専門学校、大学などへ進学しています。高卒後大多数が進学する社会というのは、親にとって子育ての最大の関門となっています。進学者が多い状況の中で、わが子に高卒で就職してくれとはとても言いにくいことです。反対に、子供の将来を考えれば大学に行かせてやりたいというのが親心です。
    しかし、日本の大学進学率は先進国の中では決して高くはなく、OECDの平均60%に対し51%です。授業料が払えず大学進学をあきらめる高校生が多いのではないでしょうか。OECDから国の教育費負担をGDPの1%にするよう勧告されていますが、現在わずか0.5%しか負担していません。OECD中、下から2、3番目の低さです。また、大学進学率の伸びも低く、諸外国が将来の世代教育に力を入れているのとは大違いです。
    教育も「自己責任」でとにかくお金がかかる国です。
    大学を出すまでに1000万円必要という商業主義の宣伝がありますが、私の子どもの場合も、大学だけでも授業料と仕送りとで1000万円は必要でした。3人の子どもの大学費用だけで3千万円かかったということになります。
    夫婦で一生懸命働いて家を手に入れ、子どもたちを大学までやると、高齢期のための資産形成などのゆとりはありません。また、賃貸住宅であっても一生家賃を払い続けることを考えると、同様です。これら二つの費用の半分でも、社会保障で賄えば、一人子ども所帯で2000万円のゆとりが生まれることになります。
    社会保障費は、年に自然増(受益者増による年金・医療・介護の費用が増えること)の伸びだけでも1兆円と予想されるにもかかわらず、政府は5000億円に抑えることを決定しています。そうすると、社会保障サービス全体の削減の中で、年金・医療・介護を削って子ども対策に向けるしかありません。日本の社会保障は「格差」と「貧困」に対処しないばかりか、ますますそれを広げる方向になっていっています。
    現在、子どもの貧困は6人に1人となっているといいます。給食代を払えない子どもが各クラスに6、7人いるということですね。また、大学を卒業する時点で数百万円の奨学金返済を抱えている学生の卒業後の困窮の問題も浮かび上がっています。
    奨学金は、親が連帯保証人になりますから子どもが返還できないと親が払わなければなりません。過労で自殺した息子の奨学金を親が支払ったという不条理な現実があります。奨学金は自己破産ができない制度で、税の控除もありませんから住宅ローンよりも過酷です。子育て・教育保障に関しては特に貧弱な政府なのです。
    ○教育支援は政府の基幹的な義務
    外国の場合を調べてみました。
    フィンランドでは大学生であれば政府から月550ユーロ(7万円位)支給され返済は不要。スエーデンでは希望する大学生には所得に関係なく月14万円を支給。進学率はそれぞれ68%、76%。イギリスでは、大学の授業は年20万円足らずと安価なうえ学生の74%が奨学金で生活費までカバー可能。フランスでは国立大学は学費無料なうえ奨学金を最低でも月14万円位支給。学生結婚子育てしながら学業継続が可能。オーストラリアは、政府の奨学金を80%の学生が利用。親の家計からの支出が不要な仕組みで、職業についてから税方式で給与の支給額に応じた額を天引き返済。進学率はOECDトップの96%。世界には、こういう政治を実現している政府があるのですね。日本は世界第三位の経済大国でありながら受けたい教育も受けられない国になっています。
    子育て・教育は「自己責任」ではなく政府の責任であり義務であり私たちの権利であるとはっきり発言していく必要があります。国民の要求と運動が強くならないと政府は動きません。私たちは、とても民主国家の主権者とは思えない「自己責任感」で思考停止になっているのではないでしょうか。

  6. mittyさん

    貴重なコメントありがとうございます。
    介護の現場で働いているmittyさんの生の声は、たいへん重みのある言葉として受け止めました。
    介護保険を利用する側の立場(母、義父母)から介護問題を考えてきましたが、実際に介護に携わる側の運営上の厳しさも同時に考えさせられました。
    そういう意味では介護全体をトータルとして考え、改善していかなければならないことを改めて感じました。

    住宅問題も確かにそのとおりだと思います。
    藤田孝典氏も「下流老人」の中で指摘されていました。
    「年金のほとんどが家賃に消える、という声はあまりにも多く・・・、家賃負担が下がれば、低年金であっても暮らせる高齢者は多くいる。生活保護受給世帯のうち多くを占める低年金層も、一気に生活保護から脱却することが可能・・・」
    mittyさんのコメントにもあるように
    「年金が福祉のナンバーワンというならば、住宅はナンバーゼロだ」ということに、なるほどなと思いました。

    又、子育て・教育は、政府の責任であり義務であるということ、私も同感です。
    このことすらも自己責任、自己負担などということであれば、国家社会そのものの存在意義、国民が納める税金の存在意義すら危ぶまれることなると思います。
    税の再分配において、適正な配分とコントロールが政府の役割だと思います。   無駄なところに使わず、国民の生活が安定するところにしっかり使われるべきだと思います。

    mittyさんがおっしゃるように「自己責任感で思考停止」になることが最も危険なことで、そうならないように声を上げていくことが大切なことだと思います。

    これからもぜひお立ち寄りになってコメントをいただきたいと思います。
    ありがとうございました。

  7. mittyさん
    教育を北欧と比べるのは間違えです。
    北欧は、全部タダで受けられる大学教育ですが、実学に限られてます。
    文系はほぼ自己負担ですよ。
    高卒で働いて有能なら大学にリターンしなければ上に行けません。
    それも企業が負担するので国は困りませんね。

    反対に理系で研究職は、日本の貧乏なのに愛想つかして北欧に流出してます。
    将来お金になると分かってると結構緩く研究費出るみたい。
    OGや北欧は統計のマジックですね。

    しかし、介護職は何ともなりませんね。
    わたしも、実際無職になっても介護職はやりたくないです。
    人に使われるの大嫌いなので職業選びますが(笑)
    こういった意見もあるって事で、返信はなくても構いません。

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