母の認知症 (6)

グループホームに入居して~

 

母がグループホームに入居してから1ケ月半経ちました。
先日、義姉と妻の3人で母の様子を見に行ってきました。
母はどんな思いで暮らしているだろうか、会ったとたんに帰りたいなんて言わないだろうか、同じように入居している方々とうまくやっているだろうか・・・。
どうしても不安な気持ちが先行してしまいます。そんないろいろな思いを抱きながら訪れてみました。

 

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施設の玄関で対面した時、母は満面の笑顔で私たち3人を出迎えてくれました。
この瞬間、母はこの施設で楽しく過ごしてるんだな~と直感しました。
一人暮らしをしていた時、又、母と短期間同居していた時の様子とは全く異なるものでした。                                        それは、母の笑顔はもちろんですが、顔の色つや、清潔感のある髪型、着ている衣服などを見ただけで、ここでの暮らしぶりが一目でわかるほどでした。
入居した時の不安な顔色はどこにもありません。
この瞬間、3人とも「良かったね」と言葉に出さなくても目を合わせながら頷きました。

母は服の仕立てができたことで、若い頃からオシャレでした。又、人付き合いも良くおしゃべりだったことから、入居している方々とうまくやっているようです。
こんなことだったらもっと早く入った(施設に)ほうが良かったのかなと思ったりしましたが、ここが難しい点ではないかと思います。
施設入居を口にするだけで拒否反応があらわれ、その言葉(施設入居)さえ出せないくらいでした。介護保険で利用できる通所のデイサービスさえも拒んでいたくらいでした。

私たちは今まで複数のグループホームを訪問してその実態を見聞きしてきました。
その中で一番不安に思っていたことは入居後の様子でした。帰りたい、施設から出たいと言われてしまうのが家族として一番辛いことでしたから
施設の責任者や担当者の方に必ず聞くのがこの点でした。
入居後、何度も何度も施設の玄関まで行って帰りたいという意思表示をしたり、家族が迎えにきてくれるのではないかと玄関に足を運ぶようです。
こんな話を聞かされてしまうとやはり入居させることに躊躇してしまいます。

これらのことは人それぞれだと思います。
しかし、ひとつだけ共通していることは認知症という病気(グループホームは認知症専門施設)を持っていることで、今思えばこの認知症だったことがこの思いを救ったのかなという気持ちでした。                                 母が入居する当日(母には施設に入居することを話していません)、健康診断のため検査入院するからこれから病院に行こうね、と短期入院の話をしました。(入院は口実)
当初、母もわかってくれていましたが、いざ出かける時になって「今日は行く気になれない。行かないでいいにしとくよ」と断固拒否されました。
すでに施設へは家具や衣類、身の回りの物すべてを持ち込んで準備は終わっています。 後は本人が行って入居するだけになっていました。
そこで、入院(入居)の話はいったん打ち切り、しばらく(20分位)雑談してから義姉がやんわりと「病院の予約時間だから行こうね」と声かけをすると、母はすんなり行く気になりました。もうすでに先ほど拒否したことを忘れていたのです。(認知症独特の症状)

話は戻りますが、母は私たち3人を自分の部屋に招いてくれました。
「この部屋から見る景色はほんとうに気持ちがいいよ。南向きだから暖かいしね」
「ここからお茶畑やお寺の境内も見えるよ。緑が多いから眺めているだけで落ち着くよ」
「この前、あそこのお寺まで自転車で行ってきたよ。自転車は置いてきたけどね」
エ!自転車で行ってきたの?自転車なんかないのに。あの急坂歩いても登れないのに・・と一瞬思いましたが、母の頭の中では行ってきたようです。
「ここから車が走る道路が良く見えるよ。あの道路は○○通りにつながっているね」
エ!あの道路は○○通りにつながっていないのに(○○通りは母が住んでいた家の通り)同じ市内であっても全く違う道路ですが、母の頭の中ではつながっているようです。

以前、NHKの「認知症キャンペーン番組」の中で家族の対応は「否定しないこと」の話がありました。本人がそう思っているのだから否定しないほうがいいと思いました。
「そうなんだ~、お寺まで自転車で行ってきたんだ。置いてきた自転車とりにいこうね」
「あの道路を車で走っていけば○○通りにつながるんだね」                                              そんな会話をしながら満足そうにしている母の顔をみるたび目頭が熱くなってきました。

その他、美味しく食べやすい食事のこと、一緒に暮らしている人たちがやさしいことなど何度も同じ話題を繰り返し聞かせてくれました。
母は帰り際にそっと耳打ちするように
「あんた達が来てくれたことを、皆に自慢するような話し方はしないよ」
「皆から聞かれたら、来てくれて良かったよと言うだけにしておくよ」
と言っていました。
家族が面会にほとんど来ない入居者もいるようです。周りの人たちを気遣っているようでした。                                                  認知症という病気である一方、こうした相手を気遣う気持ちを持つ母に驚きました。

母は玄関先まで私たち3人を送ってきてくれました。
一人暮らししていた時の雰囲気とは全く違いました。
いつもだったら、「寂しいよ」「もう帰ってしまうの」と言っていましたが、そんな言葉はありませんでした。                                                       満面の笑顔で「また来てね」という言葉と母に寄り添っている介護担当者の姿がとても印象的でした。

 

介護施設の現場

 

今、老人介護施設の現場では、いろいろな問題が取り沙汰されています。
この中で最も社会問題化しているのが「高齢者虐待」です。
つい先日も入居者をベランダから突き落とす悲惨な出来事がありました。
この高齢者虐待の中には、身体的虐待、性的虐待、心理的虐待、ネグレスト(介護や世話の放棄)、経済的虐待(横領、不正使用)などいろいろあります。
こうした状況は、親族の目が届かない所で、且つ、介護を必要とする弱者(高齢者)に対して起きやすい土壌、環境があることも一因だと思います。

こうしたことから、施設への入居に二の足を踏む方やご家族がいることも多いのではないかと思います。テレビや新聞などの報道でこうした事件、事故が起きるたびに大丈夫なのかという思いにかられます。                                   このような行為は絶対にあってはならないことで、本人や家族としても安心して暮らせることを願うばかりです。

こうした老人介護施設を営利目的だけの事業(会社組織)としてとらえている経営者もいるのではないかと思います。もちろんごく一部の施設(組織)だけだと思いますが。
一般の営利事業と異なり、こうした介護施設運営事業は社会保障の観点から目的が大きく違います。経営者の姿勢や考え方によりそこで働く人たちにも影響を及ぼすと思います。

今まで母の入居に関わった施設をはじめ、義父母のデイサービスや介護施設など大規模・中小規模の施設を見学訪問してきました。                                 ほとんどの施設が、入居者を献身的に介護する現場をこの目で見てきました
見ただけではその実態を把握することは難しく分からないかもしれませんが、実際に会って責任者や担当者とお話ししたり、入居者の様子を見たり語りかけたりするだけでもおおよそのことは分かります。                            マスコミなどで報道されるような一部の施設による「高齢者虐待」があることは事実ですが、大半の施設においては、そのようなことが行われていないことも事実です。
ひとつの現象面だけとらえて、それが全て(または大半)であると判断してしまうことは大きな誤りだと思います。

施設の介護担当者が、家族でもなかなか出来ないことまで献身的に世話をしてくれる実態を目のあたりにするだけで感謝の気持ちになります。
例えば、自分の子どもが、他人からやさしく扱われている様子や子どもの笑顔を見て安心する親の気持ちと全く同じです。                           介護することは、物(商品)を扱うことと全く異なります。相手は人間です。肉体的にも精神的にもいろいろな配慮や気持ちがなければできないことだと思います。
そういう意味では、家族として施設の介護担当者の負担に理解を示すことは大事なことではないかと思います。

一部のセンセーショナルな「高齢者虐待」という言葉に目を奪われがちですが、一方で介護の現場では、精神的肉体的な負担のある労働環境、低賃金、人手不足という実態を理解しなければいけないと思います。                           老人介護施設は予約待ちでなかなか入居することができない、費用が高額で入居は難しいもっと安く入れる施設はないかなどの入居希望者の願いと同時に施設の質も高め(設備、労働環境、賃金、教育など)社会保障全体に目を向けていかなければならないことを、この間の母や義父母の介護を通して感じました。

今回のブログでは、施設入居についてお話ししましたが、各ご家庭によってその考え方はさまざまだと思います。                               最期まで在宅介護でお世話をするご家庭もあると思います。本人や家族、親族の考え、家庭の事情、経済的な問題などいろいろな条件から介護のしかたがあると思います。
こうした中で施設への入居をご希望される方にとって少しでも参考になればと思います。

母のグループホーム入居の契約は、2時間にも及ぶ説明がありました。
最後に面会時間とその方法について責任者の方に聞いてみました。
「いつでも面会に来てください。時間帯の制限はありません。事前連絡なしで結構です」
この言葉を聞いて、大丈夫だろうと確信しました。

 

                   

2 thoughts on “母の認知症 (6)

  1. よかったですね。
    新しい生活になじんでいる様子がわかりました。
    身内としては、何よりも安心できますね。
    子供のいない私もこういうふうに老後を送れたらいいなと思いました。

    1. 家犬さん

      コメントありがとうございます。
      もっと早く施設に入居していれば良かったのかなと思いましたが、現実には難しいものがありました。
      それは息子である私自身の気持ちの整理でした。兄、義姉、妻と何度も話し合う中で、最後は私の決断ひとつでした。
      (兄は婿に出たため、実質的に母のことは全て私の判断に任されました)
      しかし、私はなかなか決断できず一年が過ぎてしまいました。

      入居する当日、兄と義姉が母を車で施設に連れていきました。私たち夫婦は先に行って出迎えの準備をしていました。
      あれほど施設入居を勧めていた兄でしたが、いざ母を車に乗せて連れていく間(景色のいい所を寄り道しながら)は、辛かったようです。
      後日、兄から連絡がありました。いつもでしたら電話してくるのですが、その時はメールでした。
      「あの時はほんとうに辛かった。姥捨て山に連れていくような心境だった。でも入居して良かったと思う。ありがとう」              直接私と話すより、活字としてメールの方が気持ちの上で幾分やわらぐのかなと思いました。兄の立場だったら多分私もそうしていたと思います。
      いつかは決断しなければならないとわかっていても、やはり辛く難しいものがありました。

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