風に立つライオン

物語の情景が浮かび上がる詩

CDアルバム「さだまさし ベスト」(デビュー30周年記念リマスター盤)が、2003年に発売されました。その中には、名作ドラマ「北の国から」のテーマ曲”遥かなる大地より~蛍のテーマ”が収録されています。その他のも関白宣言、秋桜、精霊流し、無縁坂などグレープ時代のヒット曲もあります。全12曲収録されているアルバムですが、個人的には北の国から始まって10曲まで車を運転しながら聞くことが常でした。            残りの11曲目は「防人の詩」そして最後の12曲目「風に立つライオン」は、ほとんど聞くことはありませんでした。アルバムを購入してからしばらくして、ある時いつものようにドライブしながらカミサンから「防人の詩」と「風に立つライオン」が聞く度に素晴らしい曲であり詩であることを伝えられ、聴き始めたことを思い出します。          以来、くるま旅をする時は、最初の10曲を飛ばしてこの2曲を繰り返し聴くようになりました。

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好きな曲を聴きながら歌詞を口ずさみ運転したりしますが、この「風に立つライオン」だけは、詩の物語を想像してその情景を想い浮かべながら静かに聴きます。情景を浮かべると言うよりも想い浮かべざるを得ない詩であり、ある人間ドラマを観ているような詩でした。                                                                                                                                                                                                                    一般的に曲の旋律だけを気持ち良く聴き、詩は口ずさむだけでその意味さえあまり意識しないものですが、想い浮かべたり考えさせられる歌は数少ないものです。

「今更千鳥ヶ淵で昔君と見た夜桜が恋しくて 故郷ではなく 東京の桜が恋しいということが 自分でもおかしい位です おかしい位です」                  二人して千鳥ヶ淵のどの辺りで桜を見て将来のことや今の気持ちを語り合ったのか、または何も語らずぼんやりと見ていたのか、恋しいという気持ちは彼女への恋しさであったことが痛いように伝わってきます。千鳥ヶ淵の場面、そしてアフリカからこの手紙を書く情景も想い浮かびます。

あなたや日本を捨てた訳ではなく 僕は「現在」(いま)を生きることに思い上がりたくないのです」                                  医師としてアフリカの人々を救うという自負ではなく、自分の素直な気持ちとして、この地で従事し生活したいという思いがあることをわかってほしい、といことを彼女に伝えたかった。この表現が映画ではわかりやすく伝えられたのではないかと思います。

「やはり僕たちの国は残念だけど何か大切な処で道を間違えたようですね」       この意図とする捉え方は、聴く側にとってはいろいろなことを想像したり考えたりする詩です。この歌(映画)の主人公は実在の人だそうです。モデルとなった長崎医大の医師柴田紘一郎氏は、「風に立つライオン」に寄せて(CD冊子)の中で、この歌は現在人の心の不摂生の為、過剰にしみついた魂の脂肪に対する警告でもあるように聴こえる。と残しています。捉え方は人それぞれあると思いますが、メッセージが込められた歌だと思います。

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実際の映画は、この歌の物語と異なる箇所や場面があり、観始めてからちょっと違うなと思いましたが、その本質は変わるものではありませんでした。             恋人役の真木よう子(貴子役)は、あまり知りませんでした。何度も聴いた歌のストーリーの中で自分なりに築きあげたイメージとは違うものでした。例えば、小説(本)を読んでから映画を観た時、イメージしていた人物(配役)と異なるといったようなものです。こうしたことは個人によって違うものですが・・・。                          しかし、映画がすすんでいく中で真木よう子の演技が次第にイメージしていた恋人とダブってきました。実際のこうした物語の恋人同士の関係は、表面上情熱的なものではなく、深く心の中に浸透しながら葛藤していくものであるのではないかと思いました。そういう意味では、「期待するドラマ」ではなく「現実的なリアル感のある映画」であったと感じます。真木よう子の心に秘める想いの演技がヒシヒシと伝わってくる映画であったと思います。                                       又、石橋蓮司(ケニア熱帯医学研究所長:村上役)も物語の中ではあまり目立たない役でしたが、主人公を支え見守る人物としての存在感があり、脇がしっかり抑えられた映画だったと思います。

歌の舞台は東京とアフリカです。映画の舞台は長崎とアフリカでした。私にとっての「風に立つライオン」の舞台は今でも東京です。                     そろそろ桜の時期ですね。千鳥ヶ淵の桜を見に行ってみたいなと思います。