環境問題と原発 (3)

東日本大震災から4年目を迎えて思うこと

福島第一原発事故と企業責任を考える

 

この時期になりますと4年前の東日本大震災を思い出します。
テレビ、雑誌、新聞などのメディアでも多くの特集が組まれ報道されています。その中でも特に福島の原発事故による被害とその後の状況の報道ついて目にすると、まだまだ終わっていないという思いです。

事故の影響による企業倒産は1726件でその負債金額は1兆5619億円にのぼるといわれています(2015年1月共同通信)
又、最近の報道でも高濃度の汚染水が直接海に流されていたという実態があったようです。更に、昨年12月に国と東京電力は、主に避難区域内の商工業者に支払ってきた「営業損害賠償」を2月で打ち切るという素案を示しました。これは当然のごとく地元商工団体や世論の猛反発を受け、当面見送るというかたちになりました。

ここで企業の社会的な責任について考えてみたいと思います。
最近の報道の中では、アメリカで起きたタカタ製エアバックの大量リコール問題、又、国内ではマクドナルドの異物混入事故とその対応など記憶に新しいものがあります。特にこれらの事故は「安全性」という点で大きな話題となりました。             建物や施設などの被害であれば建て替えや設備投資で形として復興できるものもありますが、「人身に関わる事故」はそう簡単に解決できるものではありません。

今回の原発事故においては、風評被害により生活の困窮が続いている問題も数多くあります。更に仮設住宅で生活を強いられている方も多くいます。又、この事故で精神的な病となり入院生活されている被災者や自殺された方もいます。つまり、人身に関わる事故は甚大な被害におよび解決の糸口さえない状態にきていることを再認識させられます。

企業は経済活動において、市場に製品やサービスを提供しその利益で成り立っています。
その利益は、そこで働く従業員とその家族を養うための雇用となり、更に市場(顧客)の支持を得るために安全性を向上(製品、サービス)させる投資に向けられるものだと思います。この雇用と安全性に投資・還元しないで利益として貯め込む企業は、ブラック企業や巨額内部留保企業として社会の批判を浴びることになります。

東京電力は、2015年3月期の連結業績見通しを発表しました。

経常利益は前期比2.2倍の2270億円を見込む。2年連続で経常黒字を確保する。工事の繰り延べや人件費を圧縮するなどしてコストを下げる。売上高は6兆8500億円と3%増。販売電力量は3%減るが、電気料金の調整制度がプラスに働き、純利益は19%増の5210億円と2年連続で過去最高となりそう。
日本経済新聞

 

2015東京電力経常利益  2015東京電力当期利益

東京電力 2015年1月30日(業績ハイライト資料)

 

最近国会では閣僚の政治献金問題が追及されています。政治献金といえば、企業が自分の会社・団体に有利な政策や何らかのみかえりを期待してのひとつの賄賂です。
総務省公表の政治資金収支報告書では、原発再稼働をすすめる電力会社や原子力関連企業でつくる原子力産業協会の主な会員企業と電力会社が、2012年に3億円以上を自民党の政治資金団体に献金していることが明らかになりました。                原発事故以降もこうした政治献金はじめ、東京電力を含む電力会社の高級料亭接待やパーティー券購入問題も枚挙にいとまがありません。

 

東京電力の企業体質

 

CSR (Corporate Social Responsibility)とは「企業の社会的な責任」を意味します。
これは、企業が利益を追求するだけでなく、組織活動が社会に与える影響に責任を持ち、あらゆるステークホルダー(利害関係者:消費者、投資家等、および社会全体)からの要求に対して適切な意志決定をすることを指す
(ウィキペディアより)


企業の経済活動には利害関係者に対して説明責任があり、説明できなければ社会的容認が得られず、信頼のない企業は持続できないということになります。
例えば会社の財務状況や経営の透明性、適切な企業統治と法令順守、環境や労働問題に対して企業が自主的に取り組むことなどで社会的な信頼を得るということです。
東洋経済新報社では毎年CSR企業ランキングを発表しています。このランキングについては疑問な点もありますが、一応優良企業として社会的に認められているようです。
上場企業の上位500社の内、「信頼される会社」項目で、東京電力は総合ポイント451.8点を獲得し152位でした。また、「2011年版CSR企業総覧」のCSRの評価では、東京電力は人材活用がAA、環境がAAA、企業統治がA、社会性がAAという外部評価を受けています。
(東洋経済新報社)

CSRでは経営の透明性、適切な企業統治、法令順守など重要な視点での評価があります。
この視点に立って東京電力の経営実態は、はたしてどうだったのか?

2002年8月9日、原子力安全・保安院は東京電力が原子力発電所に関する29件ものトラブルを報告せずに隠し、またデータの改ざんしていたことを公表した。
原子力安全・保安院は、当初、重大事故を招きかねない東京電力の自主点検の記録の改ざんや隠蔽などの「トラブル隠し」(義務違反)は原子炉の安全性に直接重大な影響を及ぼすものでなく、運転中の原子炉に問題ないとして刑事告発や行政処分もせずに幕引きを図ろうとしたが、世論の批判を受けて再調査した結果、組織的で恒常的な不正が行われている実態が明らかにされたのである。なかでも福島第一原発3号機の制御棒駆動系の配管282本の内、242本(85%)で損傷が見つかっていたのもかかわらず、東京電力はこれを隠したまま運転を続けていた。
足立辰雄「原発・環境問題と企業責任」

 

東京電力は2007年の電力会社の事故隠しの発覚の際にも12の電力会社の中でも最も多くの不正を重ねていたことが電気事業連合会の報告調査で判明している。報告すべきであった事故件数の総計は1万469件(原子力458、火力1027、水力8984)、その内報告された件数は309件であった。東京電力の事故は3852件あったが報告されたのは47件に過ぎなかった。東京電力の原子力の事故は233件、報告された件数は20件である。
同社の隠蔽体質は組織風土になっている。
同書 

永年にわたるこれだけのトラブル隠しや記録改ざんが現場の人間や中間管理職だけで行われていたとは信じがたい。経営トップによるトラブル隠しの本当の目的や指導責任の所在、責任者の自己批判は行われていない。しかも原発の安全性には問題がないと結論づけていることからこの引責辞任は本当の反省と謝罪ではなく風当たりの強い世間に対する面従腹背と言える。
同書 

   

4年前の大震災による原発事故が起きた時、関東地方に「計画停電」が行われたことを思い出します。東京電力の清水社長は、この計画停電の会見を開いた3月13日以降1ケ月近く公式の場に姿を見せませんでした。最高責任者が職場を放棄したのではないか、経営者が雲隠れしたなどと揶揄されたこともありました。
最近では、マクドナルドの異物混入事故の会見においても当初同社の社長が姿を見せず、その後の会見でも謝罪や対応のしかたにおいて問題があり、社会的な批判があったことは記憶に新しいです。ハンバーガーは他社でも食べられるということで、結果、客離れによる営業不振に陥ってしまうことになりました。
一度付いた汚名はなかなか取り戻すことは難しいものです。今までの2倍、3倍の経営努力をして社会的な信頼を得なければなりません。


では、東京電力の場合どうでしょうか。電力という公営的な事業のため競争相手がいない独占的な企業です。自然エネルギーによる一般企業の電力販売の参入もありますが、まだまだ規制も多くあり、大きな利権や設備を持つ東京電力の現状は変わりません。     ここに東京電力の体質改善が行われない元凶があるのではないかと思います。

■記録の改ざんや隠蔽などの「トラブル隠し」
■事故後も高濃度の汚染水を海に流してきた実態
■事故前も事故後も続けている政治献金やパーティー券購入問題
■今年2月で打ち切ろうとした「営業損害賠償」
■原発稼働ゼロでも電気料金値上げなどで2年連続経営黒字を確保している
■工事の繰り延べや人件費削減(安全性に関わる費用)による利益確保体質
■放射能廃棄物処理問題も解決できないまま原発稼働をすすめる企業政策

 

もし仮に自由に電力を買えるようになった時、どういう購買行動をとりますか?
例えば、各地域にはガス会社や都市ガスなどガスを販売する企業が多くあり、購買者はそれぞれ選択して契約を結び利用しています。生活に必要な食料品や日用品、衣料品などは自分が利用しやすいスーパーやドラックなどに行って買い物をします。その時の基準は安さ、鮮度、品揃え、安全性、サービス、接客、清潔感、近場などいろいろな要素を総合して決めると思います。                               同じように電力が気軽に購入できたら、自然エネルギーを活用した電力を供給する企業を選んだり、価格や安全性、サービスも考慮しながら選択していくと思います。
これと同条件で東京電力が販売していても、二度と東京電力から購入・利用することはないでしょう。なぜなら、企業としての社会的な責任を果たせないような体質の会社は信頼できないということです。

東日本大震災から4年経ちました。それぞれの方の想いはいろいろあると思います。
私は、今でも続く原発事故の被害と企業の社会的責任について上記のように考え続けています。

「環境問題と原発」 つづく      

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