税と格差を考える

所得格差は経済成長を押し下げる

年が明け寒さも一段と厳しくなる2月は確定申告の時期になります。先日カミサンの申告用紙を作成して、源泉徴収や年金・保険関連の通知書を持って税務署に行ってきました。昨年のこの時期もそうでしたが駐車場にも入れないくらいの市民が大勢来ています。  最近ではパソコン作成で送信できるようになり試してやってみましたが、途中まで入力してその先が進みません。結局、断念して税務署まで足を運ぶことになりました。

ご存じのとおり確定申告は、昨年1年間の納付すべき所得税額を確定するものです。    現役のサラリーマン時代は会社ですべて対応できましたが、一昨年早期退職したので昨年はじめて自分で確定申告しました。                         税といえば、毎日の生活の中で消費税を身近に感じます。退職後所得がないといっても、こうした確定申告の時期には家族の所得をとおして税について考えたりもします。

昨年OECD(経済協力開発機構)の報告書によると、加盟諸国の大半において富裕層と貧困層の所得格差がこの30年で最大になったということです。              所得格差の長期的な拡大                              現在、OECD諸国では人口の上位10%の富裕層の所得が下位10%の貧困層の所得の9.5倍に達している。所得分布の上位層の平均所得が特に増加している。しかし、大幅な所得変動は最下位層でも見られる。 (OECD:雇用労働社会政策局)             格差は成長とどのように連動するか                         格差が成長に及ぼす影響にとって最大の要因は低所得世帯とそれ以外の所得層間の格差でさる。悪影響は、最下位10%の所得階層ばかりでなく、所得分布の下位40%までの全ての所得層まで及ぶ。これらの結論は、政策は貧困の問題に取り組むだけでなく、低所得の問題に取り組む必要がある。                                 再分配は成長を阻害しない                             格差是正への最も直接的な政策ツールは、税と給付による再分配である。分析によれば、再分配そのものは経済成長を押し下げるものではない。最も効果的なツールを重視していない再配分政策は、資金の浪費と非効率の温床になりかねない。            いかなる政策で対応できるか                            成長の恩恵は自動的に社会全体に波及するわけではない。政策決定者はより全体的に、どうすれば下位40%の所得層がうまくやっていけるようになるかに関心を持つ必要がある。 貧困防止対策のみでは十分ではない。現金移転ばかりでなく、質の高い教育や訓練、保険医療などの公共サービスへの拡大も、長い目でみれば、機会均等化を進めるための長期的な社会投資なのである。

現在、非正規雇用労働者の割合は、雇用者全体の36.7%1906万人(平成25年厚生労働省)です。又、ワーキングプアといわれる年収200万円以下は1ooo万人に達しようとしています。この数値だけでも所得格差は拡大してきています。

2015非正規雇用労働者  厚生労働省HP

そして、OECD報告にもあるようにこの所得格差は経済成長を妨げる要因になっていると指摘しています。先日16日に内閣府が発表したGDP速報値(2014年10~12月期)は、前期比0.6%増、年率換算で2.2%増の予想を下回る低い伸びになっています。同時に発表された14年(1~12月期)実質GDP成長率は、0.0%という結果です。又、民間最終消費支出が1.2%マイナスという落ち込みでした。政府は賃上げをするというようなことを言っていますが、名目では2.2%増で物価上昇分を考慮すれば実質0.5%減少というのが現実です。

税制度においては、大企業や富裕層に対しての優遇税制を推し進めてきた結果、更なる冨の集中がおきています。OECD報告指摘にもあるように「成長の恩恵は自動的に社会全体に波及するわけではない」ということがまさに今の日本の現実を現しています。    政府の成長戦略における「トリクルダウン」は絵空事です。冨はさらに冨を集中させるという自由主義社会の原理を抑制して、コントロールする政策が今求められているのではないでしょうか。

世界一安い日本の富裕層の税金

現在政府の意図的な政策で株価は上昇してきています。そうした中で一般投資家も家計に影響を与えない程度の小金や多少の預金を回してその恩恵を受けている方も少なからずいると思います。先行のわからない老後のために、ほとんど利息のない定期預金をしているより、リスクを負っても時流に乗って儲けたいと思う気持ちはわからないわけではありません。                                      はっきり言って株高で大儲けしているのは、世界を股にかけたファンドマネーや大企業・金融機関、一握りの特権的な富裕層です。一般投資家が株に手を出すのはほとんど高止まりした頃で、その時にはハゲタカファンドや富裕層は、売り抜けて利益を確保しています。                                       以前このブログで法人税減税による大企業や巨大金融機関の優遇税制について指摘しましたが、一部の富裕層についてどのくらいの税金を国に納めているかという疑問がありますした。

日本の所得税制は、所得金額が大きくなるに従って、税率が高くなる累進課税を採用しています。

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本来ではあれば、この折れ線グラフは所得金額の増加に比例して右肩上がりにならなくてなりません。しかし、合計所得金額が1億円を超えると、所得税の負担率は「逆進的」なものに変わります。年間の所得金額が1億円?数億、数十億円?な~んて思いますが、現実にはそうした高額所得者がいるんですね。                     その多くは、株式の売却による譲渡所得や株式の配当所得。このような超富裕の人たちの所得に対してだけは、現在の日本税制は特別に税金を安くしているのです。       ※富岡幸雄著「税金を払わない巨大企業」より

証券税制では、これまで低迷する株式市場を活性化するためとして、上場株式の譲渡所得(キャピタル・ゲイン)に対しては申告分離課税とし、しかも本則は20%であるものの、その半分の10%の軽減税率とする優遇措置を2013年12月まで適用してきました。       所得税は個人の担税力(税の支払い能力)を指標として課税する税制なのですから総合課税が建前であり、分離課税は例外措置です。

ではなぜ、このような低い税率が生じるのでしょうか。                所得金額が1億円までは、総合課税における給与所得の割合が高いので、それほど税率は安くなりません。ところが、5億円、10億円の所得となると、勤労による所得の割合は低くなり、上場株式の譲渡益や配当などによる所得で構成されるケースが多くなります。

では、合計所得金額のうち株式譲渡の占める割合はどのくらいでしょうか。       上記図の折れ線グラフの縦軸でもわかるるように、合計所得金額が1億円あたりから順次上昇し、5億円になると20%、10億円になると35%、50億円になると70%、100億円になると実に90%を占めていることが明らかです。

2014年からは譲渡所得の税率は、本則の20%に戻りましたが、申告分離課税方式は採用されているので、株式の譲渡所得に対する不公平税制の構図は、依然として残されています。

現在、政府が進めている大企業の減税などの優遇税制やこうした株式の譲渡所得に対する不公平税制により、本来国の歳入として賄われるべき税収入が減少しています。     こうした政策を断行していながら、一方で財政難と言って消費増税や社会保障費の削減(年金、医療、介護、子ども手当)を推し進めているのが現状です。              OECD報告にもあるように、「格差是正への最も直接的なツールは、税と給付による再分配である」としています。法制どおりに取るべきところから税収入を確保し、消費税の軽減を図り、社会保障を充実していくことが経済成長の最善の道だと思います。     現在、高齢化社会に進む中、医療・介護のマーケットは大きく成長してきています。そうした市場において民間の投資、雇用が積極的に拡大しています。政策としてこの分野への社会的な投資は、税と給付の再分配の適切な方法であるともいえます。

かつて高度経済成長の頃、中所得層が分厚く存在して社会を安定させ、日本経済の強さの根源になっていました。その頃とは経済状況は変わったものの、所得分布においてこれだけ格差が広がってきた現在、経済活性化は難しくなってきています。長引く不況と低賃金に抑えられ、家計消費支出は15ケ月連続マイナスとなり、賃金は実質減少する中、中所得・低所得層は疲弊してきています。                         このような状況の中、OECDは「政策決定者はより全体的に、どうすれば下位40%の所得層がうまくやっていけるようになるかに関心を持つ必要がある」と指摘しています。   今、国内の企業の内部保留金額は280兆円に達しています。冨は冨を集中する構図の象徴がこの莫大な金額にあらわれています。実質的な購買市場に流通しない資金は実体経済に何ら反映されません。所得格差を解消するために適正な労働に対しての適切な所得確保(賃上げ)につなげることで内需の拡大を図っていくことが必要ではないかと思います。

所得格差や税制上の問題は経済成長に大きく影響してきます。自由主義社会において、大企業や富裕層への冨の集中が起きる原理はわかりますが、政府がそれを後押しするのではなく、政治によるコントロールが今こそ必要ではないでしょうか。           トリクルダウンという妄想的な現象は起きるはずがありません。