国債を考える

国民一人当たり1000万円の借金?

私たちは生活していく中でいろいろな債務を抱えながら生きてきています。例えば、住宅ローンなどがそうです。家を建て数十年に渡り利息を支払いながらコツコツと借金を返し続けます。ようやく返し終わったのが定年前だったり、定年後も支払い続けなければならないという話はよく聞きます。これが私たち庶民の現実です。

国債は、一言でいえば「国の借金」です。現在、国債発行残高は、GDPのほぼ2倍の1000兆円にまで累積しています。つまり私たち国民は、一人当たり1000万円もの公的な債務をかかえているということになります。日本はこんなにも借金をしながら国の運営をしてきたのかと思うと驚きです。                           平成26年の一般会計予算(別表:財務省HP)は約95.9兆円です。歳入のうち税収でまかなわれているのは5割程度で4割強は将来世代の負担となる借金に依存しています。又、歳出面では国債の元利払いに充てられる費用(国債費)が、なんと23兆2700億円でその割合は24,3%にもなります。この財務省の円グラフでも歳入の公債金として「将来世代の負担」と明確に表示されています。

26年歳出

国の財政と家庭の家計を比較することはできませんが、一般的に考えれば収入が減れば増やす努力や対策を打ち、できるだけ借金をしないようにします。又、支出は収入に見合った生活をするためにできるだけ無駄な経費は排除し節約したりします。働いても賃金が上がらない、年金が減額されればそれなりの生活に切り替え、少しでも支出を抑える努力をします。                                    各省庁が次年度の予算組みでこれだけ必要だから、それに見合う財源がほしいなどと言っていれば際限なく膨れ上がっていきます。一般的に過去の支出実績は既成事実化され、与えられた予算を使い切ることで次の予算を獲得する方便にもなります。そこには全く無駄な経費の削減努力がなく、予算を勝ち取ることに専念する風潮があるのではないでしょうか。これが一般企業であったらどうでしょうか。たちまちその企業は倒産するのが目に見えています。自分たちが汗水流して得た収入(利益)ではなく、税収として当たり前のように納められる収入のため、節約や無駄な経費という感覚がなくなってきているのでしょう。そうした感覚だから収入(歳入)が足りなければ借金(国債発行)すればいいという考えになってくるのです。                            毎日の生活費のやりくりの中で住宅ローンの返済はかなり厳しいものです。二世代住宅などでは、親の代で返済できなければ子の代までローンを組んでいる話をよく聞きます。     国債の場合どうでしょうか。二世代どころか孫やその先まで今までの借金を背負わせることになります。国債を発行して財源を調達し、その年度内に予算を消化することは、将来の税金(税収)を先取りして、今使ってしまおうということを意味します。

 

国債で膨大な利益を獲得する金融機関

私たち国民が納める税金は、暮らしを豊かにするものに使われるべきものだと思います。 社会保障はもちろん公共施設や道路・上下水道のインフラなど多岐にわたります。    しかし、こうした国民の大切な税金が、国債の増大による金融商品化・投資物件としての性格を持つようになり、その膨大な利息までも税金で支払われるようになります。

国債は、国が発行し、利子及び元本(償還)の支払いを行う債券です。利子は半年に1回支払われ、元本は満期時に償還されます。 財務省HP                 つまり、国債は政府がその利子及び元本の支払いを保証する安全で格付けの高い金融商品になります。国が倒産するようなことはまず考えられませんし、民間企業の社債のように倒産すれば紙クズなるようなリスクはほとんどありません。

こうして増発された国債は、国民の税負担に支えられながら、新しい大口の金融市場(国債市場)を誕生させ、そこでは空前の売買取引が行われている。ここに見えてくるのは、国債の発行が新たなビジネス・チャンスを提供し、実体経済が低迷しているにもかかわらず、国債ビジネスを通じて金融機関・投資家は、莫大な利益を獲得してきたことである。 山田博文著「国債がわかる本」

国債投資は、保有することで利子を受け取るパターンと価格変動を利用して売買差益を得るパターンの二つに大別されます。                         日本国債の場合、海外投資家の保有比率は9.1%にすぎず、ほとんどが国内の貯金によって保有されている。最大の保有者は、ゆうちょ銀行、民間銀行などの預金取扱金融機関(42.4%)である・・・。日本が大きな懸念もなく公的債務の資金調達ができるのは、日本人が貯め込んだ資産、日本人世帯の高い貯蓄率、そして日本のゼロ金利のおかげである。だが、国内貯蓄で政府債務のほとんどを保有することは、債務危機のリスクが家計部門に転嫁されることを意味する。・・・。窮地に陥った場合は、債務償還のための必要な資金を中央銀行が政府に融資すること(ゼロ金利、量的金融緩和政策)や、貸し手の側からすると、国内債務を税金に変えてしまうことも可能だからだ。同書

なぜ国内の銀行の国債保有割合が増えてきたのでしょうか?              第一は、銀行が不良債権化するリスクを回避して、企業への貸し渋り、預貸金利ザヤが縮小するなかで、政府から安定して利子所得を受け取れる国債への運用を活発化させたからである。国内銀行の中小企業向け融資はほぼ半減している。              第二は、株式や貸し出しはリスク資産にカウントされるが、国債の場合はリスクフリーであるため、自己資本比率の低下を抑制しながら利益を確保できるために、国債への運用を活発化させたからである。

平成26年度の国債の所有者別内訳を見てみると、銀行・保険会社、年金基金の国債発行残高の65.9%を保有し、毎年、政府から国債の利子所得と償還金などを受け取っています。金融ビジネスの場合、国債を保有することで得られる政府からの利子所得だけでなく、国債売買差益が利益の有力な源泉になっています。                国内最大の銀行・三菱UFJでは、2012年3月期決算の業務純益は1兆1710億円に達したが、そのうち2651億円が国債売買差益であった。MUFJの永易社長は、決算発表の記者会見の場で、「国債に頼った決算だったことは間違いない」と述べ、国債市場に依存し利益を実現した決算であったことを告白している。同書

 

問題は国債の増大化による際限のない増税

国債は単に「国の借金」だけに留まらず、金融ビジネス化に発展してきているところに着目しなければなりません。

■実体経済が低迷しているにもかかわらず、政府が意図的に国債発行することで金融市場 の活性化をすすめ、成長戦略の演出をしていること。                                  ■金融関連会社は、本来の企業活動である中小企業への貸付を縮小して膨大な利益を生み出し、その余剰金は実体経済に関わらない多くの投資にまわっていること

増発される国債は、政府の徴収する税金に裏付けされた格付の高い金融商品です。利益を求めグローバルに活動する巨大な金融機関・大口投資家たちは、国債市場を舞台に旺盛な金融ビジネスを展開するようになり、国債市場から利子や売買差益などの巨額な利益を受け取るようになりました。

平成26年の歳入は、所得税15.4%、法人税10.4%、消費税16%、その他10.3%で租税収入は52.1%です。税収で賄われているのは約5割強でしかありません。その他4割強は借金です。膨れ上がる国債費を調達するために、新たに国債が発行されたり、新たな財源を求めて消費税が増税されたりして国民負担が増大していきます。                           こうした厳しい財政運営の中で政府は更に法人税減税を打ち出し進めようとしています。(2015年2.51%引下げ)                              所得税・住民税などは国民が納める税金です。消費税も国民が納める税金です。法人税減税分は消費税増税などで国民が負担します。国債の借金も将来に渡り国民が負担します。 国債の発行は巨大金融機関・大口投資家たちの利益を潤し、その利子分は国民が負担します。法人税減税により特に巨大企業の利益を潤し、その利潤は内部留保や投資に回り実体経済に何ら繁栄されません。                            国の財政運営は、歳出面でも国債費の増大により社会保障費の削減を続けています。公的年金の削減や支給年齢の繰り上げ、介護保険・サービスに関わる公的費用の削減、後期高齢者医療の特例廃止など国民に負担を強いるものになってきています。

銀行に行くと「国債」という文字が目につきます。今や投資物件の対象として捉えられています。私たち庶民がささやかな貯蓄をリスクのない安定した金融商品として投資する時代になってきています。それ自体何ら批判するものではありませんし、国の財政を少しでも助け役に立っているということにつながると思います。               問題は、政府の意図的な国債増発により巨大金融機関・大口投資家の金融ビジネスを手助けして(儲けさせてあげる)経済活性化の演出をしていることです。そして、その尻拭いは全て国民に負担を強いる増税を続け、社会保障費を削減していることです。

「国債」は私たちの生活に大きく関わっています。ちょっと見方を変えただけで考え方も変わってきます。