小説「四十歳、未婚出産」

シングルマザー・ジェンダー問題

社会的マタハラへの問いかけ

 

「#わきまえない女」
東京五輪組織委員会の森喜朗前会長の女性蔑視発言への抗議のツイッターでこの言葉が1位になったようです。
コロナ禍でも、政治や社会に対し声をあげたいとの思いが広がっています。

4年前の「#保育園落ちた」のツイッターに溢れた切実な声を思い出します。
そしてこうした数々の問題は、依然として何も変わっていない日本の政治・社会をあらわしているのではないでしょうか。

更に、政界での自民党議員や高級官僚たちの数々の国会答弁においても、「記憶にございません」「長男とは別人格」「仮定のことについてはお答えできません」「捜査がまだ進行中なので」・・・。
と、安倍政権以降やばくなったら言い訳が通じる世界になってしまっています。

先日、自民党の西村経済再生大臣が、企業のテレワーク勤務の実施が伸び悩んでいることをあげて、

「機材が整っていないとか、そんな言い訳は通じない世界であります。これができないようでは成長が見込めない。今できなくてどうするか」
と述べていました。

自分たちの政治に対して不利な事が起きれば、”言い訳が通じる世界” をつくっておいて、国民に対しては言い訳するな?、国民が悪いと思っているんですか?
まったく呆れた発言です。

このような言動というものは、常に自分たちの尺度で相手を計り、自分たちの都合の良いことだけを考えて行動する心理があります。
政治の世界に関わらず、社会の中でも地位・権力によるパワハラやあらゆる差別などで自分たちを優位に保とうとする風潮があるのではないでしょうか。

 

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先日、垣谷美雨の新刊「四十歳、未婚出産」を読みました。

彼女の著書は、現代社会の中で女性が直面する数々の悩みや問題をテーマにしていることが特徴です。
作風も軽快なタッチの口語体の文章から、「そうだよな~」と思わず相槌を打ってしまいます。
そうした日常会話の中に潜む社会問題を的確に表現して、読者にストレートに投げかけているところが実に面白いです。
うちのカミサンも長年共働きで生活してきたこともあってか、こうした女性の立場に立った鋭い感性を持ち垣谷ファンの一人です。

この小説のあらすじや詳細については省きます。
垣谷美雨の今までの著書やタイトルで想像していただければ、ある程度の概要がお分かりだと思います。

一応、物語の主人公がシングルマザーとして未婚出産する過程を引用すると、

世の中の人々は出自に関してはまだ寛容ではないらしい。そういえば、若い人の間でさえも、おめでた婚をよしとしない風潮があると、つい最近聞いたことがある。
・・・ただでさえ妊婦や子持ちの女性が働きにくい世の中だ。そのうえ未婚となれば、どんな目に遭うかわからない。会社で働き続けるためには、籍を入れることは必要かもしれない。それに、生まれてくる子供が世間の偏見の目に晒されることもなくなる。婚姻届けという、一枚の紙切れが大きな役割を果たす。
生まれてすぐ離婚すればいい。世間は未婚より離婚のほうが納得する。バツイチという軽い言い方があるくらいだ。そうだ、その方法しかないのでは?

 

現在、シングルマザーは100万人を超えているそうです。更に、一度も結婚せずに「未婚のシングルマザー」として子育てと家事や仕事を両立させている母親の数は調べてみると17万7千人(2015年資料)のようです。
私の親しくしているご家族にもいるので、特別なことではなく身近で起きています。

 

部長はこれ見よがしに大きな溜め息をついた。
「出産後もそんなに頑張って働く理由が俺にはわかんない。自己実現ってヤツ? 古い言葉で言うとウーマンリブってことか?」

主人公が働く職場の上司のこの言葉は、妊婦や子持ちの女性が働きにくい社会を端的に表しています。
今ではここまで面と向かって話をする人(上司)は少ないと思いますが、その風潮はまだまだあるのではないでしょうか。

私だったらこんな部長は失格だと思います。
会社にとって良かれと思った言動というより、個人的な差別意識が根強く存在すること自体が問題です。
仮に、会社にとって良かれと思ったとしても、逆に会社にとってマイナスになっていることに気づかない管理職はその資格がないのではないでしょうか。

又、女性蔑視のこうした風潮や雰囲気がある会社は、まさに ”会社の常識は、社会の非常識” という言葉が当たっていると思います。それがわからない、わかろうと努力しない会社は淘汰されていくでしょう。

 

このブログでは、小説の結末については伏せます。
ただ、シングルマザーの生き方に関連して夫婦別性や戸籍制度、子どもの教育(外国人も含めて)、いじめ問題まで言及していることから奥深く考えさせられる物語でした。

主人公の同級生にお寺の住職になった人がいます。その住職が語った話が印象的でした。

「何十億年ちゅう地球の歴史の中で、人間の命なんかたかだか百年しかない。地球の命に比べたら一瞬の煌めきじゃ。
ほんじゃから、戸籍やら体裁やら噂やら、そんなつまらんもんに左右されとる暇がもったいない。一瞬の命なんじゃから、思ったように自由に生きんといけん」

「聞くところによると、戸籍制度があるんは、世界でも日本と中国だけらしいぞ。中国は一人っ子政策の時代に二人目以降は役所に届けんかったら無国籍の子がようけおるらしい。ほんやから、とっくに戸籍は形骸化しとる。韓国でも戸籍制度は差別に繋がるっちゅうて十年以上も前に廃止になったそうじゃ。今はどこの国でも住民票みたいなもんがあるだけなんじゃと。日本もそのうち戸籍なんてなくなるんやないかな」

戸籍制度についてはまだよくわかりません。
ただ、戸籍ウンヌンによって個人を差別するされるというのはやはり私も違和感を感じます。

今の時代、個人の尊重や多様性(ダイバーシティ)が重んじられるようになってきました。本人の意思・考え方や性格、キャリアなどによって社会的に認められる、評価される時代でもあります。
つまり、個人・その本人そのものが最も大事なことではないでしょうか。カタチだけのモノにとらわれること自体無意味なことのように思います。

 

私には都内で暮らす甥っ子がいます。
所帯を持ち今では二人の子どもがいて夫婦共働きで暮らしています。
コロナ禍の中、奥さんは田舎(実家)に帰省して出産と子育てのために4年間休職したと聞きました。
そして今春から職場に復帰するようです。

聞くところによると、その勤め先は結婚や出産のために女性が退職することはほとんどないそうです
逆に「なぜ辞めるの?」といった風潮が職場内にあると話していました。
そして復帰後は、元の部署で働くことができるそうです。

会社の風土が男女平等はもちろん女性の能力を高く評価していることを物語っています。働きやすい社内風土があることは、男性にとっても育児休暇が取りやすい環境が整っているでしょう。
この会社は誰もが聞けばわかる大手の優良企業です。まさに女性の力が会社を支えているのではないかと思います。

小説「四十歳、未婚出産」、もし興味があるようでしたらぜひ一読することをお勧めします。
今社会で起きている様々なジェンダー平等を私たちの自身の問題として考えるキッカケになると思います。
できれば男性に読んでもらいたいと思ってます。

2 thoughts on “小説「四十歳、未婚出産」

  1. すーさん、今晩は~。タイムリーな話題です。
    甥っ子さんのパートナーさんの勤務なさっている会社と同じようなところが
    増えてくれると良いですね。

    ジェンダー不平等も世代、教育(教養も)、地域によっても差があると思います。
    固定観念は困ったものです。

    >垣谷美雨さんの本
    本の紹介ありがとうございます。
    垣谷さんも60代だったと思います。この年代は戦前の教育を受けた
    人の影響を受けていて、やるせないものを感じることも多々あると思います。
    今婦人公論に連載されている垣谷さんのものも決して作り話でないです。
    つい、主人公を応援している自分がいます。

    今まで、性差別の理不尽さに声を上げるのは圧倒的に女性が多かったと思いますが、
    今、男性も声を上げるようになってきました。
    男女ともに少しずつ変わることを願わずにはいられません。

    昨日「1945年のクリスマス」という本を手にしました。
    日本国憲法に「男女平等」を書いた22歳のユダヤ系アメリカ人
    「ベアテ・シロタ・ゴードン」さんの自伝です。

  2. Roseさん

    お久しぶりですね。
    コロナ禍の中、いかがお過ごしでしょうか。

    今、柿谷美雨さんの本を数冊ほどカミサンと読んでいます。
    それぞれとても面白く、どれも「そうだよな~」とうなずきながらページが進みます。
    特徴的なところはジェンダー問題が底辺に流れているように思います。

    私も60代ですから周りの友人・知人たちのほとんどは同世代です。
    おっしゃるように「この年代は戦前の教育を受けた人の影響を受けて」いました。
    今の若い人たちに比べれば、ジェンダー平等に関しての意識は低いと思います。

    男ばかりの友人たちとの飲み会などでは、女性を軽くみるような不平等発言が出たりします。
    自分たちはそういうつもりがないと思っていても、他者から見れば危険な話だったりします。
    又、ジェンダー平等を口にすることもありますが、やはり口先だけなのでしょうか。

    ”意識と行動” は大事なことだと思います。
    言葉に出すこと、思っていることが、やはり行動に出て本物だと思います。
    日頃の家庭内においても自然と行動にあらわれることが大切なんでしょうね。

    柿谷美雨の本は図書館でもたいへん人気があるようで、予約しても手元に届くことが遅いです。
    となると、書店で購入することになり出費が痛いです(笑)
    昨日、書店で「代理母、はじめました」を購入しました。単行本なので1600円でした。
    文庫本に比べ高い買い物でしたが楽しみです。

    ご紹介された「1945年のクリスマス」ぜひ読んでみようと思います。

    コメントありがとうございました。

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