同人雑誌

地域活動からの出会い

深みのあるエッセイの面白さ

 

リタイア生活をする中で地域とのつながりが増えてきました。

退職後は、今まで犠牲にしてきたモノを取り戻そうと趣味の登山や全国くるま旅、親の介護、更には持久系スポーツへのチャレンジなど、自分と家族のことを中心に過ごしてきました。

一方でご近所や地域のことにも関わりを持つ機会があり、ちょっとしたお手伝いや町内会の係り担当への声もかかるようになりました。
退職して社会とのつながりがほぼなくなったといっても、地域で生活していると様々な関わり合いが出来てきます。

そんな町内会(自治会)では、やはり退職されたシニアの方々が多くいます。そして、そうした集まりの中で皆さん様々な過ごし方をしている様子がわかってきます。

その中のお一人から「同人雑誌」をいただきました。

「同人誌」?
聞いたことはありましたが、実際に手に取って読むのははじめてでした。

同人誌とは、同人(同好の士)が、資金を出し作成する同人雑誌の略語。非営利色の強い小部数の商業誌を含めて、「リトルマガジン」と呼ぶこともあり、同人誌に用いる場合は文学・評論系に限られる
ウィキペディア

この方は「同人誌」の事務局を担当されている人で、全国にいる会員からの原稿を編集・出版しているそうです。
リタイア後は、この同人誌をとおして交流を深めていると話していました。

 

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実際に読んでみるととても面白かったです。
同人誌というと、何かちょっとお堅い文学評論的なイメージがありましたが、その中身は意外に日常的な話題を取り上げたり、柔らかな感じの随想やエッセイなどいろいろなジャンルにわたって綴られていました。

雑誌のタイトルは「読書と自由時間」
〈もくじ〉
■文芸の散歩道~エッセイ・自分史・戦後史・文芸
■読書の周辺 ~随想・評論・読書
■交流の広場 ~趣味・散文・旅行・生活

一般的な書籍に比べてとてもリアル感が溢れていました。
というのも、非営利の雑誌ということもあってか、直接的な生の声であり、他者を意識することなくストレートな考えや意見というのも新鮮な感じを受けました。
又、自分史では、こういう生き方をしてきた人なんだと感嘆するものがありました。単なる自慢話ではなく、事実をありのままにその生き様を綴っていることに何か教えられるものがありました。

 

この同人雑誌の中でひとつ面白かったエッセイ(戦後史探訪)をご紹介します。

タイトルは、『今また下級官吏の死~松本清張「点と線」を訪ねて』

小説や映画の舞台を訪ねる旅というのは、いろいろなことを想像しながらの期待感を持ちます。
私も今までのくるま旅で何度かそうした舞台を訪ねたことがありました。

■森沢明夫著「あなたへ」の小説と映画~北九州関門海峡と長崎平戸
■藤沢周平作品の時代劇小説(海坂藩)と映画「おくりびと」~山形酒田・鶴岡
■吉村昭著小説「破獄」と映画~北海道網走
■遠藤周作著「沈黙」~長崎の教会群
・・・

 

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この「今また下級官吏の死~」は、まだ記憶に新しい森友学園問題で近畿財務局の職員が自殺した経緯と小説「点と線」で描かれた某省課長補佐の毒殺に重ね合わせたものでした。

エッセイの筆者は冒頭でこのように記していました。

財務省近畿財務局の管理官A氏は、次のようなメモを残していたそうです。
〈決済文書の調書の部分が詳しすぎると言われ上司に書き直させられた〉〈勝手にやったのではなく財務省からの指示があった〉〈このままでは自分一人の責任にされてしまう〉
この一連の出来事を見ていて思い浮かんで来たのが、松本清張の初の長編小説「点と線」でした。

そんな筆者は、東京駅のプラットホームにカメラを持って行ったそうです。

小説では、消されることとなる某省課長補佐、佐山憲一が博多行き「特急あさかぜ」に乗り込む(15番線)。それを13番線から複数で目撃させる。13番線から見渡せるのは一日4分間だけ・・・。
私がカメラを持って、東京駅に行ってみたのは、2018年の5月のことでした。プラットホームを歩いてみると、小説発表当時、存在しなかった新幹線のホームが新たにあり、寝台特急の「あさかぜ」は消えていました。

更に、筆者は福岡空港から博多を経て、小説での殺害(毒殺)現場、JR鹿児島本線「香椎駅」(かしいえき)とその海岸を目指したそうです。

海岸について「エッ」と思わず声を上げてしまいました。海の中に高層ビルが林立しているのです。小説では「博多湾を見わたす海岸」で「志賀島の山が海に浮かぶ、眺望の奇麗なところ」どころではありません。余りにもかけ離れた現実です。

もう半世紀以上も前の小説ですから、今の情景とはかなり違っているのでしょうが、こうしたことも実際に行ってみてわかることですから、そういう意味では小説の舞台を訪ねる旅としては面白いものがあるかもしれません。

このエッセイの結びにこのようなことが書かれていました。

「点と線」が書かれて半世紀余。東京駅の4分間のアリバイは、今日ではもう成り立ちません。
しかし、上からのしわ寄せが下へ下へ寄せられていく構図は、半世紀余の今も、何も変わっていません・・・。

 

エッセイを読み終わって、ああ~こうした小説(映画)と旅のしかたがあるんだな~と思いました。
更に、政治・社会問題と組み合わせた考えとその訴えかけには、このエッセイの深みというものを感じます。

今ではこのような同人雑誌は全国に数多くあると思います。
一般に販売されている雑誌に比べれば多くの人の目に留まることはないでしょう。でも、読んだ人の心を打ち、何かを残しているということでは貴重なものだと思いました。

今度また九州くるま旅に出かけた時には、ぜひ「香椎駅」と「香椎海岸」にいってみようと思います。
推理小説「点と線」、ちょっと古いかな(笑)

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