「全世代型社会保障制度」の狙い

社会保障はもともと全世代型なのに?

雇用改革との一体化

 

皆さんもすでにご承知だと思いますが、昨年12月に政府による「全世代型社会保障改革」の中間報告がまとめられました。
この改革の主旨は、

少子高齢化と同時にライフスタイルが多様となる中で、人生100年時代の到来を見据えながら、お年寄りだけではなく、子供たち、子育て世代、さらには現役世代まで広く安心を支えていくため、年金、労働、医療、介護など、社会保障全般にわたる持続可能な改革を検討するもの。
全世代型社会保障検討会議 中間報告より

この改革案が出されてきた背景には、少子高齢化による社会保障費の増大から財政悪化が懸念され、すでに借金である公債発行が90年対比で約6倍に増加してきたことがあります。

この問題に対しては、前々回のブログ「社会保障の財源」の中で、”消費税増税に頼らない別の道” として指摘してきました。

 

そして、この検討会議の中では、「2025年問題」が大きく取り上げられています。

社会保障給付費は、高齢化に伴って急激な増加が見込まれます。
団塊の世代全員が75歳以上となる2025年、20~64歳の現役世代が大幅に減少する2040年に向けて、特に医療・介護分野の給付は、財源調達のベースとなるGDPの伸びを大きく上回って増加していきます。

 

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資料:内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」から

 

こうした状況になることは、何も今に始まったものではありません。
数十年前からこの課題は指摘され続けてきました。
社会保障給付増加による財源の確保が必要となる状況下においても、法人税を下げ続け、更には研究開発減税を含む租税特別措置による減税を続けてきました。
又、所得税・住民税と相続税の最高税率も引き下げ続け、分離課税も放置したままで今に至っています。

全世代型社会保障改革では、こうした問題が何ら検討されず、逆進性の特徴をもつ消費税だけが増税され国民に負担を強いる政策になっています。

”全世代型” という新しい政策のような言葉ですが、社会保障はもともと全世代対象とした制度です。
少子高齢化によって高齢者増が財政を圧迫している悪者のような感じさえ受けます。
又、限られた財源の中で高齢者層が優遇され、子育て世代への保障が削られているような ”世代間格差を煽る” ふうにも感じられます。

こうした危機感をつのり、消費税増税を ”税と社会保障の一体化” というかたちで正当化しているところに、この制度の狙いがあるのではないでしょうか。

 

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「全世代型」社会保障制度に転換?
当たり前のことでしょう。
社会保障制度は、全世代を対象にした制度なんです。

 

もう一つの大きな狙い?

 

一昨年の「60歳からの現実(リアル)(19)」で、”働き続ける世代~70歳まで雇用延長” と題してブログをアップしたことがあります。
又、同時期に「年金繰り下げ受給」についてもアップしました。

この2つのブログの共通点は「年金問題」です。
現在、社会保障給付に占める年金の割合は56.7%、2025年には59.9%に達する見込みです。(上記の表)
こうした状況の中、財政を圧迫させる年金をいかに抑えるかという課題が、今回の「全世代型社会保障制度」に盛り込まれていることがうかがえます。

高齢者雇用促進法で現在65歳まで雇用延長が義務づけられていますが、更に70歳まで雇用延長できる制度が検討されていることを記したブログです。
平均寿命や健康寿命が延びてきている中、働き続ける人の生き方や考え方は様々に変化してきています。
又、雇用する側の考えもまたいろいろな思惑もあります。
こうした中、少子高齢化に対応するため、労働力不足を補う施策として「雇用改革」を推進する狙いがあると思います。
これは同時に年金給付の先送りにより、少しでも財政支出を抑える考えです。

■現状、厚生年金や共済年金(公務員)の支給開始年齢を段階的に引き上げて給付を遅らせている。
更にこの開始年齢を遅らせることが検討されている。(現状は昭和36年生まれ以降65歳受給)

■現状、在職中で一定以上の収入があるシニア世代の厚生年金を減らす「在職老齢年金制度」が運用されている。(いわゆる28万円の支給停止調整)

■現状、年金月額割増しと引き換えに年金の受け取り開始を遅らせる制度を推進している。
今回の制度では、これを更に75歳まで拡大するとしている。

こうした一連の施策により、いかに年金給付を遅らせ、「生涯現役社会」と称して、高齢になっても可能な限り働き続けることを求める狙いがあるように思えます。

 

65歳以降も働き続けることは、人それぞれ様々な考えや生き方があります。
これについては、前述したブログ「働き続ける世代~70歳までの雇用延長」に記しているので省略しますが、大半は働かなければ生きていけない現実が根底にあります。
これは、昨年話題になった「2千万円問題」でも明らかなことです。

「全世代型社会保障制度」では、年金受け取り開始を遅らせれば年金月額割増しができることを盛んに奨励しています。
しかし、現制度(70歳まで)をみても明らかなように、実際にその制度を利用している人はごくわずかです。

 

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繰り下げ受給者は、老齢基礎年金でわずか1.4%、老齢厚生年金では1.1~1.2%。
逆に繰り上げ受給者は低下してきているものの、30%台で推移している。

 

この数値をみる限り明らかなことは、生きていくためや生活費補てんのために受給年齢がきた時点で年金を受け取る人がほとんどです。
平均寿命が延びてきているといっても、いつ死ぬか分からないのが現実です。
又、受取開始を遅らせ(5~10年)月額割増額が増えたとしても、それまで本来受け取る年金総額を取り戻すためには、数年の月日がかかります。
その間に死んでしまったら受取開始を遅らせた意味もありませんし、元を取ることさえできません。

なぜ繰り下げ受給率が低いのか? ちょっと考えただけでも分かることです。
現状の生活に全く困らない裕福な人は、繰り下げを希望するかもしれませんが・・・。

 

このような「全世代型社会保障改革」は、それなりの専門家や知識人・学者の方々が考え提案されていると思いますが、その中身についてはどうなんでしょうか?
現実を直視しない机上の空論のような気がします。

 

私の先輩や周囲の知人からよく耳にする話があります。
「65歳を過ぎると一気に体力が落ちるんだよね~」
「体力維持のためにトレーニングをしてもなかなか戻らないよ」
「思うように体が動かないし、意欲が持続できないよ」・・・。

20代から40年以上も働くことを中心に過ごしてきたわけですから当然のことかもしれません。
収入を得るための労働だけが人生ではないと思います。
老後は、自分のやりたいこと、今まで犠牲にしてきたことを取り戻すこと、又、生きがいを感じられる活動をしたり、社会に貢献するのもいいと思います。
そういうことができる社会になるための「社会保障制度」が必要ではないでしょうか。

そのための財源が足りない? 本当でしょうか!
税収のあり方と分配、そして無駄な支出(歳出)を見直せば出来ることなんではないでしょうか。

4 thoughts on “「全世代型社会保障制度」の狙い

  1. なんか複雑です。「人生100年時代」と言う言葉は(わたくしには)良い響きで
    は無いし同じく「生涯現役」もなんか追い詰められている様な感じです。身の丈
    丈の暮らしで心穏やかに過ごせればなぁ~と願っています。現役世代の方々に
    は申し訳ない気持ちも確かにありますが・・・。

    1. ムクさん

      コメントありがとうございます。

      >「生涯現役」もなんか追い詰められている様な感じです。

      そうですよね~。
      老後は「心穏やかに過ごせれば」と思いますが、現実は「生涯現役」でなければ生きていけない時代がくるような思いです。
      今まで私たちも先輩と言われる人たちを支えてきたこともありますが、今の若い世代の人たちが60歳を過ぎてからは更に深刻な状況になるでしょう。
      そう考えると社会保障制度をもっと真剣に考えなくてはいけない問題だと思いますね。

  2. 親の88歳を超えた姿をみていると、本当に人生100年時代かなと実感します。
    一方で、遺族年金で暮らせるはずもなく、子の世代が足らない分を負担するのが
    現実ですね。
    親孝行は良いけれど、年金世代が親の足らない分も面倒をみるとなると年金で
    生活するのは、夢のようなものですかね。
    会社に入ったころ、個人年金が生まれ、将来のためというより、家や車の資金を
    作ることをPRされて、なんとなく入っていました。
    30年以上過ぎて、厚生年金+企業年金+個人年金がないと生活できない現実を
    みると、すーさんの言うように、わかっているなら、早く言えと言いたいですね。
    確かに、納めた年金基金より受け取る分が多い状態が、続くこと自体が無理なの
    かもしれませんね。
    社会保障については、まだまだ変更がありそうですね。

  3. あらちゃんさん

    一昨日、母の様子を見に島田(静岡県)の介護施設(グループホーム)に行ってきました。
    母は健康状態も良く穏やかに過ごしていて安心しました。
    現在、母は遺族年金でこの施設を利用しています。
    ちょうど年金分で利用できるので本当に助かっています。これが足りなければ、子の世代が負担することになりますから、こうした公的給付は必要なことだと改めて実感しました。

    私たちがまだ若かった頃、生命保険会社から個人年金を盛んにすすめられましたね。
    当時はあまり考えることなく「給与天引きだから」という軽い気持ちで入りました。
    今思えば「あの時入っていて良かった」と思います。
    結婚した娘夫婦にも「入っておきなさい」と話して契約させました。
    将来のことを考えるとやはり不安ですから、少しでも自己防衛しておく必要はありますね。

    現在、非正規雇用は4割近く増えてきているようです。
    厚生年金はありません。又、国民年金も自分で納めることになるので納付率も低下してくるのではないかと思います。
    65歳を過ぎても公的年金が一切ない状態になる可能性があるので深刻な問題です。
    社会保障制度と同時にこうした「雇用問題」も対策の必要があると思います。

    コメントありがとうございました。

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