平ケ岳  前編

利根川源流域の最高峰

日帰り登山12時間の最長記録!?

 

ちょうど5年前の夏、新潟県の越後駒ケ岳に登った時のことです。
登山中に知り合った日本百名山を目指している60代ご夫妻が、この駒ケ岳が99番目ということを聞きビックリしました。

最後の100番目はどこでしょうか?と聞いたところ、
「目の前に見える平ケ岳ですよ」と。
そのご夫妻の話しによると平ケ岳は、百名山の中で日帰り登山としては長い時間を要するとのことで、一番最後に残してしまったと話していました。

登山専門誌の情報や百名山に関する書籍によれば、

■鷹ノ巣ルートは標準タイムで往復11時間以上。なにかトラブルがあれば、日帰り困難となるので、ヘッドライト、ツェルト等の装備は必須。
(ヤマレコ)

■昭和40年に鷹ノ巣登山口から大倉尾根の登山道が伐開して、ようやく登山界に知られるようになった・・・、一般の登山者には幻の存在であった。
(ヤマケイ)

■平ケ岳は、登頂が困難な山の一つといえよう。行程が長いうえに、山中には避難小屋すらなく・・・、日帰りするには、前日のうちに登山口付近に泊まって早立ちする必要がある。
(朝日新聞:日本百名山ガイド)

深田久弥氏も当時5日間を要したとその著書「日本百名山」に記していました。
今では鷹ノ巣ルートが開かれたとはいえ、山小屋や避難小屋がない中では困難なルートではないでしょうか。

日本百名山を目指す登山者は多くいます。
今までそうした登山者とお会いした中で話題になるのが、やはり困難な山の話です。
それは一般的に上級者向けの槍ヶ岳、穂高岳、剣岳ではなく、長時間の行程やアクセスが困難な山なんです。
その中には北海道の幌尻岳やトムラウシ、利尻岳、そしてこの平ケ岳を挙げる登山者が多いことでした。

私は一昨年、昨年と2年続けて北海道の百名山9座を登頂してきました。
その中で幌尻岳とトムラウシは、渡渉や行程時間、そして登山口までのアクセスが長いということにネックを感じていました。
そしてこの平ケ岳については、”長時間” がどうしてもしこりのように頭の片隅にありました。
私だけでなく百名山を目指す多くの登山者がそう感じているのではないでしょうか。

 

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新潟県の奥只見湖

関東から平ケ岳登山口を目指すには二つのルートがあります。
一つは関越自動車道を利用して新潟小出インターから奥只見を経て檜枝岐村に入るルート。
もう一つは、東北自動車道を利用して那須塩原から檜枝岐村を目指すルートです。
私は往路を関越道、復路は東北道を利用しました。

又、今回の山旅では、百名山でもう一つ残していた会津駒ケ岳に翌日登ってきました。

 

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平ケ岳登山口と登山者専用駐車場

登山前日の夕方早めに駐車場に着きました。
夏山シーズンのこの時期、限られた駐車スペースを確保するためには夕方頃が一番いい時間帯です。
とは言っても、長時間行程を強いられる平ケ岳では、まだ下山してきていない登山者の車が多数ありました。
車のナンバーを見ると和歌山と岡山から来られた人がいるようです。
こうした登山者は、ほぼ間違いなく百名山を目指す人だと思います。

案の定、暗くなってから下山してきたお二人に聞いたところ、二人とも燧ケ岳、会津駒ケ岳、そしてこの平ケ岳の三山を目指して来たと話していました。
全く別の行動をしているお二人ですが、西日本から百名山を目指してわざわざ来ているので、まとめて登頂しようとする気持ちは同じなんですね。
こうした登山者は、どのエリアに行っても同じ行動をとるものなんです(笑)

 

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登山計画では、早朝5時に出発し下山は夕方5時20分の予定で12時間20分の行程でした。
しかし、少しでも早く出発しようと思い、まだ薄暗い中、早朝4時30分スタート。

この時間の出発が早いと思われる方がいると思いますが、行程時間を考えるとほぼ妥当な時間帯といえます。
皆さん下山時間を設定して逆算でスタート時間を決めています。
早い人で深夜2時過ぎの登山者がいました。又、ほとんどの人が3~4時頃出発していました。
私は真っ暗な登山道の中を登る自信がなく、夜道が怖かったので日の出とともに出発した次第です(笑)

 

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登山口からしばらく雑木林の中を進んでいくと二本松尾根に取り付きます。
後で分かったことですが、このとんでもない急登の尾根にしょっぱなから苦しめられました。

 

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やせ尾根でしかもローピングの場所が十数か所。
登りはまだ体力がありホールドが分かりますが、疲労困憊した下山の時は大変な思いでした。

 

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この急登尾根が2時間以上も続きました!

 

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ようやく登り終え一息。花を見る余裕ができました。

 

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振り返ると燧ケ岳が!

 

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ようやく平ケ岳を形成する鷹ノ巣尾根が見えてきて登山道も確認できます。
この時点ではまだ平ケ岳が見えません。

 

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更に1時間ほど登ると、ようやく平ケ岳のゆったりとした山並みが見えてきました。
まだまだ遠いようですね。まだ道半ばといったところです。

 

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途中の台倉山から一旦下りますが、木道が倒木によって何か所かさえぎられていました。
この登山道沿いは、オオシラビソの原生林が広がっていました。

 

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標高1800mあたりから森林限界を超え、一気に視界が広がりました。
隣の青木山までの稜線が一望。

 

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最後の急なヤセ尾根を登れば、いよいよ姫ノ原(湿原)です!

 

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振り返ると、今まで登ってきた尾根道が延々と続いていました。

 

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そして、ようやく平ケ岳の全容が!

ここまで費やした時間はすでに5時間30分。まだ頂上に立つことはできませんが、もう一息。

 

平ケ岳は、日本百名山を志した最初から私の念頭にあった。あまり人に知られていないが、十分にその資格がある。
第一、利根源流地域の最高峰である・・・。
第二、その独特な山容。長く平らな頂上ははなはだ個性的である。遠くから望んでも一と眼でわかる。
第三は、と私が言いかけると、もう四十年前に平ケ岳登頂の記録を持った不二さんが横から、
「どこの山へもワンサと人が押しかける時代に、まだろくな登山道もないことだね」
すると、この地域の山に委しい越後小出の伊久君が、
「汽車を降りてから、これほどアプローチの長い山は、ほかにないでしょうね」と言いそえた。
たしかに、私たちはバスの終点から頂上まで三日かかり、頂上からバスの始発点まで二日かかった。
深田久弥著「日本百名山:平ケ岳」より

この第三のことについて、登山家樋口一郎氏の解釈は、

深田久弥は「奥深い秘峰」として紹介したかったのであって・・・。
深田久弥という人は、本来は人の少ない渋山好みであったと思う。著作の中で「人は有名な山のみ群がる・・・私の求めるのは非流行の山である」とする一節がある。
平ケ岳はそんな深田には「取っておきの山」であったにちがいない。
樋口一郎「新釈日本百名山」より

 

「平ケ岳 後編」につづく

 

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