歪んだ経済成長と政治 (1)

政治と私たちの暮らし

何のための経済成長なのか?

 

参議院選挙が4日公示され選挙戦が始まりました。
NHKの党首討論や民間放送・ネットでの討論会も行われています。

安倍首相はこうした党首討論会や街頭演説などでこのようなことを訴えています。

「経済を強くすれば税収だって増えるんです。税収は今年、過去最高になった」
「経済を強くすれば国民所得も増え、年金をはじめとする社会保障財源の下支えもできてくる」
「内需は堅調。雇用や所得環境が改善し、好調な企業収益が下支えをしている」
「GDPベースで家計消費は16年度以降回復している」

 

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ここで注目した点は、いくつかの言葉や表現のしかたです。又、その裏付けとなる数値の捉え方と見方です。
言葉というのは説得性を持つ場合がありますが、一方でたいへん曖昧な部分もあるように思えます。
例えば、上記のような発言の中で、
「経済を強くすれば」「過去最高益」「雇用や所得環境の改善」「下支え、回復」
このような言葉を耳にすれば、経済は成長しているんだ、雇用も増え所得も増えつつあるんだ、そして国の財政も豊かになっているんだ・・・。
私はこうした言葉にこそ ”ポスト真実” があるように思えます。
詳細な政策や客観的事実より感情へのアピールを重視することで支持を高め、世論が形成される政治文化です。

そして、その裏付けとなる数値はどうなんでしょうか。

今年3月、ある政治経済セミナーに参加しました。
ここでは、今年度の税制改正の概要について、財務省主計局審議官の方が講師として講演されました。

 

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財務省資料 「主な経済指標の推移」

この資料では、GDP、個人消費、雇用情勢、企業利益・・・株価などの状況を掲載。
安倍政権発足前との数値比較がされています。
要はアベノミクスによって経済成長が高まり、その効果がみられたという資料に基づき審議官がお話されました。
これらの数字は正しいものだと思います。但し、数値の捉え方によっては見方は大きく変わってきます。

国の経済規模を示す国内総生産(GDP)のうち、半分強を占めるのが家計消費支出(個人消費)です。
この家計消費支出の伸びは、景気状況を最も端的に表す指標のひとつです。

個人消費:資料では2011年を100とした場合、2018年では104.6%という数値を示しています。
しかし、第2次安倍政権発足直後の2013年から17年までの5年間では、14年の消費税8%増税の影響もあり実際には5.9ポイント減少し、年25万円減っているのが現実です。

雇用情勢:資料では失業率は減少し有効求人倍率は増えて、全都道府県で1倍超えをしている資料です。
しかし、2012年~18年では確かに435万人増えましたが、中身は ”非正規雇用が304万人増” の実態です。更にその非正規の内訳は、65歳以上179万人、学生56万人なんです。
その結果、非正規雇用率40%近くまで上昇しています。

企業収益:資料では20.8兆円、過去最高益と表現されています。
企業収益が拡大すれば働く人たちの所得が増えるか?と言えば、実際はそうではないんですね。
2013年~18年の実質賃上げ率は1.1%に留まり、税金や社会保険料の負担増により実質賃金は10万円減っています。
そして、過去最高益と謳われた収益はどこにいったのでしょうか。現実は内部留保として貯め込まれ400兆円超に至っています。

株価:資料では大幅な株価上昇がみられますが、この数字ははたしてどうなのでしょうか。
日銀による株式投資(ETF)の購入額が昨年までの累計で23.9兆円にのぼっています。これは日銀による株価下支えが異常な額に達しています。ETFを買うことによって日銀は間接的に日本の大企業の株を買い、株価をつり上げてきました。
又、今大きな問題となっている年金積立金の株式運用(GPIF)もそれに当たります。
つまり、公的マネー投入という意図的な手段で株価上昇を狙い、本来の企業業績とは裏腹な株価になっています。

「経済を強くすれば・・・」「内需は堅調、好調な企業収益・・・」、それらの恩恵は、はたして国民にリターンされているのでしょうか?

曖昧な言葉より数字がすべてを物語っています。
国民生活の立場に立って ”見方を変えれば” これほどまでの違いが浮き彫りにされてきます。

 

増収の中心は消費税収!?

 

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財務省資料 「一般会計税収の推移」

党首討論会で安倍首相が発言した訴えに、

「経済を強くすれば税収だって増えるんです。税収は今年、過去最高になった」

こうした訴えを聞けばそれはすごいことだと思います。税収が増えることは経済が成長し、国家財政が潤い豊かになりつつあることを示します。
と思って中身を見てみると、国民生活にとってはたしてどうなんでしょうか。

図表を見ると、確かに税収は62.5兆円(棒グラフ)で過去最高になっています。
第2次安倍政権が発足した2013年から13兆円以上(折れ線グラフ)増えています。しかし増収の中心は消費税なんですね。
所得税、法人税、消費税の税目ごとに2013年度~18年度への伸び率を見ると、所得税が28%増、法人税が17%増、そして消費税はなんと63%増に達しています
これは2014年度に消費税が8%増税されたからです。

「税収は過去最高になった」
確かに最高になりましたが、その中身の伸びは国民の血税である消費税負担が中心なんですね。
本来の健全な経済成長によって国民の所得が増え所得税収が拡大する、企業収益が増え法人税が拡大するといった構図にはなっていませんよね。

雇用情勢が改善したといっても、中身は非正規雇用の拡大や高齢者雇用増、賃金は横ばいか減少といった状況では所得税収は望めません。
又、高額所得者(1億円以上)の税収は分離課税等の税制度のため、本来の累進課税になっていないことから税収入は望めない状況にあります。
法人税においても繰り返される減税のため税収入は増えず、企業の内部留保として貯め込まれるばかりです。

これでは何のための経済成長なのか?
そして今年10月に10%消費税増税がなされようとしています。
このことで来年度以降の税収は、所得税収総額を超えて消費税収が中心の税収体制になるでしょう。

「何のための経済成長なんですか?」
国民の生活が安定し、少しでも豊かな生活を営むための経済成長ではないんですか。

”歪んだ経済成長” を ”正しい経済成長” に修正していく方法は間違いなくあると思いますが。

 

「歪んだ経済成長と政治」 つづく

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