60歳からの現実(リアル) (24)

小説「定年オヤジ改造計画」(2/2)

家事育児は女の仕事?

 

前回のブログから続く。

「あのさ、夫婦って何なの。年に一回の同窓会のときでさえ子供の面倒を見てくれない夫って」
「男には仕事があるだろう」
「同窓会は日曜日だったんだよ」
「そうはいっても、サラリーマンは休日には身体を休めないとな」
「子持ちの彼女らも働いているのよ」
「えっ、そうなのか?」

定年退職した主人公庄司恒夫とその娘百合絵(33歳独身同居、大手商社の総合職社員)との会話シーンです。

 

自分は長年、大企業に勤めてきた。男性社員のほとんが高学歴で、入社当時、女性社員は高卒か短大卒で・・・、男女雇用機会均等法ができてからは、大卒の女性総合職が入社してきたとはいうものの、みんな三年もしないうちに辞めていった。
やっと根づき始めたと思った頃には、一般職の女性社員が派遣社員に切り替わり、男性社員の年功序列も少しづつ崩れていった。
女性社員の全員がお茶汲みやコピー取りをし、男性社員の補佐役に徹していて、決して出しゃばることはなかった・・・。
あの古き良き時代が今でも懐かしく思い出される。

主人公の回想の場面

私も主人公の庄司恒夫と同じような時代を生き、サラリーマン生活を送ってきました。
会社という組織の中では確かにこうした状況だったことは否めませんし、そうした場面も経験してきました。
又、会社の先輩や同僚たちの奥さんは、結婚と同時に仕事を辞めて専業主婦になっていった時代でした。

1985年に男女機会均等法が成立してから34年経ちます。
この間、育児休業法、パートタイム労働法、女性活躍推進法などの法律が制定されてきましたが、実際の職場環境や人間関係、働く条件などはまだまだ改善の余地があるのではないでしょうか。
男女の賃金格差、同一労働同一賃金、昇進昇級、育児休業と職場復帰・・・。
そして何よりも ”男女差別という意識” も多分にあるのではないかと思います。
かたちとしての制度が出来ても、それを実行・運用するための意識と考え、そして行動が伴わなければ ”絵に描いた餅” になってしまいます。

こうした意識が、主人公庄司恒夫の考えの底辺にあることから、「男性社員の補佐役、決して出しゃばることはない」という固定概念が植え付けられているのではないかと思います。

 

「父さんて、神話の世界に生きているよね」
「シンワって? 神の話と書く、あの神話か?」
「そうだよ。人は結婚して一人前だとか、女には母性本能があって当然だとか」
「なるほど。俺が古い人間だと言いたいんだな。・・・」
「私ね、父さんのこと古いとは思ってないよ」
「そうなのか?だって今・・・」
「父さんはね、古いんじゃなくて間違ってるんだよ。神話の中に生きているんだってば」

この小説の中では、「三歳児神話」「三歳育児」という言葉が何度か出てきました。
ここで娘が言っている「神話」とは、”昔から言い伝えられてきたこと” を総称して指しています。
古いことを否定・非難するものではなく、それらを尊重しつつ時代の変化や流れに沿って、”考え方を変えていく” ことも必要なことだろうというのが娘の主張でした。

 

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「夫源病」

 

「どうして母さんは何度もドルチェに行きたがるんだろう」
※ドルチェ=資産運用のために近所に購入したワンルームマンション(現在借り手が見つからず空き家状態の保有マンション)
「父さんと一緒にいたくないんじゃないの?」
「そんなこと・・・あるはずないだろう。・・・」
「母さんがお前に言ったのか? 父さんと一緒にいたくないって」
「ああいうタイプの女の人は何でもかんでも溜め込んじゃうんだろうね。自分さえ我慢すれば丸く収まると思っているから、結局ああなっちゃう」
「ああなるって、どうなったんだんだ」
「明らかに夫源病だよね」
「フゲン病?」

夫源病
夫の言動への不平や不満がストレスとなって自律神経やホルモンのバランスが崩れ、妻の心身に不調が生じる状態。
コトバンクより

夫源病という言葉は最近よく見聞きします。
こうした夫婦間の精神的な状況というのは、ハッキリ表に現れず水面下で起きている現象なのかもしれませんが・・・。だから夫としては分からない、分かりづらいものかもしれません。
こうした状況に至る原因は、何も今に始まったことではなく、今までの生活の中で積もりに積もってできたものなのでしょう。

その夜も十志子は風呂から上がると、さっさと二階へ行こうとした。
「一階の和室で寝ればいいんじゃないか」
「前にも言いましたでしょ? あなたの鼾がひどくて眠れないんです」
「だけど、夜中に急に具合が悪くなるかもしれないじゃないか」
「具合が悪くなる? 誰がですか?」
「俺だよ、俺」
「どうしてあなたの具合が悪くなるんです?」
「だって俺ももういい歳だからさ、脳梗塞だとか心筋梗塞だとか、色々あるだろう。お前が寝ていてくれると安心なんだよ」
「どうして安心なんですか?」
「すぐに気づいて救急車を呼んでもらえるからに決まってるじゃないか・・・」
・・・・・・
「あなたが羨ましいですわ」
「俺の何が羨ましいんだ」
「あなたには専属の家政婦がいるけど、私にはいないんですもの」
「いったい何のことを言ってるんだ?」

定年退職された人のブログやコメント欄、又、会社時代の同僚たちとの会話の中でよく出てくる話があります。
「俺が寝たきりになったら家内にめんどうみてもらうよ」
「最期まで自宅介護で過ごしたい・・・」
ごく一般的な老後の話の中で出てくる男たちの会話ですが、ここで注目したいのは “妻が寝たきりになったら” という話が一切出てこないことです。
全て自分を中心に物事を考え、それが当たり前のように話すことです。
”妻が寝たきりになったら” あなたはどうしますか? どのような対応をしますか? 考えたことはありますか?
と問いたいですね。

主人公庄司恒夫の「いったい何のことを言ってるんだ」という一言は、家族や夫婦間のことについて ”本当にこの人は何も分かっていないんだな” という思いになります。

 

保活(ホカツ)

 

主人公庄司恒夫の息子和弘(30歳)は結婚し二児のパパ。
奥さんの麻衣は、結婚後勤めていた会社を辞めて出産、育児に専念するも家計を助けるためにパートの仕事に就き、子どもを保育園に預けるストーリー。
夫婦共働きになることから孫二人の保育園のお迎えを頼まれた庄司恒夫は・・・。

 

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庄司恒夫と息子和弘との会話シーン

「ところで麻衣さんは何の仕事をするんだ」
「通販会社の返品受付の電話係らしい」
「確か以前は、家電メーカーで事務か何かやってたんだよな」
「麻衣は企画部で消費者動向調査をやってたんだ」
「ああ、そう言われりゃそんな感じのヤツだったか。で、そっち方面はもうやらないのか?」
「オヤジって、意外と世間知らずだな」
「世間知らずって・・・俺がか?」
「いったん仕事を辞めた女が調査みたいなインテリ仕事に就けるわけないだろ」
「やっぱり女はパートくらいがせいぜいなのかな」
「ちょっとオヤジ、そういうことを麻衣の前で絶対に言うなよ」
「どうしてだよ、そんなにマズイか?・・・事実だろ」
「実は俺もそう言ってしまったんだ。そうしたら麻衣のヤツ、ブチ切れたよ。そういう社会を作ってきたのは男たちでしょって。男は会社、女は家事育児と閉じ込めておいて、いざ女が働こうと思ったら時給の安いパートしか与えないって。同一労働同一賃金にすべきでしょうってさ」

女性が出産・育児のために会社を辞めたら復帰することは困難なことです。
男性においても何らかの理由で退社した後、他の会社に正社員として転職するのは難しい時代になっています。
育児休業という法制度があっても個々の職場環境などによりなかなか取りづらいことも実態としてあります。
ましてや、育児休業の後に会社復帰しても異動・職場変更により、今までの職場に勤務することは難しいのが現実だと思います。

現在、主人公庄司恒夫が働いてきた時代とは大きく変貌してきています。
経済成長と共に賃金がアップしてきた頃とは違い、ほとんど昇給もない時代に入ってきています。
例えば、直近の2013年~2018年の実質賃金アップ率は1.1%という実態です。
又、働きたくても職場環境の変化や労働条件の悪化などにより一旦辞めたとしたら、ほぼ確実に非正規雇用の職しかないことも現実です。
非正規雇用は、医療・年金・雇用などの社会保険は全額自己負担で、賃金においても低く抑えられています。
こうした状況の中、結婚後子どもができれば夫婦共働きしていかなければ生活できない現実が生じてきます。
このようなことから、働き続けるためには「保育活動」(ホカツ)も必要なことになってきます。

庄司恒夫と息子和弘の奥さん麻衣との会話シーン。
麻衣は、保育園に子どもを預け、お迎えを義父の庄司恒夫に頼んでいる。

「昨日ね、私、和弘さんに殺意を覚えちゃったんです」
「そうか、それはそれは、殺意とはね」
「だって和弘さんは、結婚しようが子供ができようが、独身時代のままの生活を送ってるんですもん」
「それは、えっと、どういう意味なの?」
「家のことは何にもしないんですもん。まるで私のことを母親か家政婦と勘違いしているんじゃないかって本気で疑いたくなりますよ・・・」

「いったいどういう育て方をしたらああなるんですか? 私の兄も男ですが、和弘さんみたいな男には育っていないですよ。兄は料理も得意だし、子育てもちゃんとやってますよ。育児休業も取りましたしね」

「うちは両親とも教師ですから、男だから女だからと言われることなく育ってきたのに、結婚したら家事も子育ても押し付けられて、ほんとしんどいです。だけどお義母さんはそれが当たり前で仕方がないという風潮の中で育ってこられたんでしょう?」
「それは、そうかもしれないな」
「私たちの時代は家庭科も男女共修でしたからね。男性は仕事をして女性は家事育児に専念するなんていう風潮で育ってきてませんからね」
「以前は女子が家庭科をやっているときに、男子は技術か体育をやっていたな」
「今ではそんな時代があったことが信じられないんです。男性も家事ができないと将来苦しむことになるのに」
「独身の男はそうかもな」
「独身だけじゃないでしょう。お義父さんだって困るでしょう。もしお義母さんに先立たれたら」
「えっ?」
自分より十志子(妻)が先に死ぬなんて、考えたこともなかった。

この会話シーンは、まさに今までの時代と現代の考え方の違いを端的に示しているものがあります。
あえて説明することはないでしょう。

昨年末、私たち夫婦と30年来の友人家族の娘さんが出産しました。
私たちも長年夫婦共働きをしてきて、子どもの保育園が同じだったことから親しくなり今でも親交が続いています。
その娘さんは正規社員として働き続け、出産後は育児休業を取って子育てしています。
先日、出産のお祝いと赤ちゃんを見に自宅にお伺いしたところ、
「まったく○○(ご主人)は、何を考えているかわからない! 子育てをぜ~んぶ私に押し付けて何~にもしない!」
この小説と全く同じような状況を目の当たりにしました。

その後、夫婦で話し合って、ご主人が2ケ月の育児休業を取って子育てに専念しているという話を聞きました。
又、今後も夫婦共働きを続けていくということから、近くの保育園7ケ所に応募したそうです。
その内、第4希望までの保育園は全て落ち、ようやく第5希望の保育園に入園が決まったそうです。
決まったとはいっても、お迎えに行く時間を考慮すれば、お互い時間休や早退も必要になってくるということです。
これから夫婦二人で協力しながら子育てにがんばってもらいと思います。

私たち夫婦の場合は、お互い通勤時間が長かったことから二重保育でした。
保育園のお迎えは近所の奥さんに頼んで、私たちが帰るまでそのご家庭で預かってもらいました。
もちろん保育料は二重にかかったことから、ほぼ一人分の給料は保育と子育てに費やしました。
毎夜、お互い職場帰りに寝ているわが子を背におぶって帰ってきたことを思い出します。
お互い早く帰宅した方が、食事・洗濯などの家事をするようにしていましたが、やはりカミサンに大きな負担がかかったことは否めません。
今思えば、若かったから出来たことで、がむしゃらに生きてきたように思います。

 

熟年離婚

 

主人公庄司恒夫は、家族との様々な出来事を通して今までの自分を見つめ直し、少しづつ考え方に変化が現れてきました。
そんな中、会社で同期だった荒木から妻(君江)との離婚危機にあることを打ち明けられ相談にのる場面がありました。

「なあ庄司、俺はどうすればいいんだろう」
「どうって訊かれてもなあ」
お前は救いようがないよ、そう言いそうになった。
荒木は自ら懲りない男だと言いながらも、実は今もまだ懲りていないのではないか。君江さんを今もナメきっているのではないか。

君江さんの本心は、離婚に向かっていたのではなく、何としてでも夫婦関係を改善したかったのではないだろうか。
だから果敢に話し合いを持とうとしたのだ。しかし、荒木から見たら、長年の恨みつらみを訴えてくる君江さんは鬱陶しいだけだった。
だが、まだそのときは修復の可能性はあったはずだ。それに、女は往々にして現実的だ。老後の資金や棲み処の確保を、男の荒木の何倍も真剣に考えていたことだろう。
だからこそ、離婚するより腹を割って話し合って折り合いをつけた方が得策だと踏んでいたのではないか。

 

こうした夫婦間の問題も今に始まったことではないと思います。
長年積もりに積もった様々な出来事が、定年退職という人生の一つの節目の時期に表面化してきたものなのでしょうか。

 

今回の小説「定年オヤジ改造計画」は、今の時代を反映した物語でした。
著者の垣谷美雨さんは、普段一般家庭で起きている出来事のシーンを本当によく観察しているな~と感心させられるほどでした。
それは自分自身が体験したことや日常生活の中でもよく見聞きする場面が、まさにその通りの言葉や会話としてそのまま書き出されていることからリアル感があります。

この小説の結末は、ここでは記載しません。
ぜひ読んでいただきたい一冊だと思います。

その他の著書「老後の資金が足りません」「夫の墓には入りません」なども引き続き読んでみたいと思います。

 

「定年オヤジ改造計画」 おわり

2 thoughts on “60歳からの現実(リアル) (24)

  1. おはようございます。
    別居している息子夫婦の嫁が 職場復帰するため
    私も4月より 保活に入ります。
    いきさつは 色々ありましたが
    今まで 孫とふれあう時間があまりありませんでした。
    これからは 孫と過ごしせる時間が増えるたことを 楽しみにしています。

    1. 山鯨笹蟹さん

      お孫さんが保育園に入園されるんですね。
      保活をとおしてお孫さんと過ごせる時間が増えて楽しみですね。
      我が娘夫婦は子どもをつくらないようです。ちょっと残念です。
      山鯨笹蟹さんが羨ましいです。

      四国くるま旅があと一ケ月後に迫りました。
      どんな旅ができるか、今から楽しみにしています。
      旅の様子については随時ブログでアップしていきますので、時々ブログを見てください。
      お近くになりましたら連絡させていただきます。

      コメントありがとうございました。

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