60歳からの現実(リアル) (23)

小説「定年オヤジ改造計画」(1/2)

夢にまで見た定年後生活のはずが・・・

 

定年後の人生や生き方についての書籍は数多くあります。
しかし、随筆やエッセイ本以外の「小説」となるとどうなんでしょうか。

私が退職してから最初に読んだ定年小説本は、堺屋太一氏の「団塊の世代」でした。
出版からすでに40年以上経っていますが、今でも色あせることのない現代小説なのではないでしょうか。
この「団塊の世代」はシリーズ化されていて、その続編として出版されたのが小説「エキスペリエンツ7」と「団塊の秋」でした。
この団塊の世代と私とでは一回りほどの歳の差がありますが、その背中を追い続けてきた私たち世代にとっては、まだまだその気概と想いは相通ずるものがあると思っています。

そして最近の定年小説本では、内館牧子さんの「終わった人」、岸本裕紀子さんの「定年女子」があります。
両著とも ”現代社会の定年後の生き方とその変化” を題材に取り上げていることから、より身近なものとして話題になり、映画化・TVドラマ化されました。

 

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小説「団塊の世代」

 

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小説「終わった人」

小説「定年女子」

 

昭和から平成にかけて社会経済が大きく変化する中、そこでの働き方や家族関係とその構成なども変わってきています。
それら時々の時代のキーワードを挙げるとすれば、
低成長、年功序列の終焉、能力主義、非正規雇用拡大、同一労働同一賃金、少子高齢化、下流老人、独居老人・孤独死、介護、保活・・・。

こうした様々な社会変化に伴い、私たちの生活自体も大きく変わり、その考え方や生き方も多岐にわたってきているように思います。
例えば、「60歳定年退職」という現実をみても、それは「定年延長」「継続雇用」「70歳雇用継続」「年金受給繰り上げ」などの制度として変化してきています。
「人生100年時代」と言われる中、生涯現役として働き続ける人もいると思います。
しかし、大多数の人は個人によって退職時期は様々だとしても、いつかは完全リタイアする時がきます。

その時にどういう生き方・過ごし方をしていくか? 誰でも共通したものではないでしょうか。

小説「団塊の世代」「終わった人」「定年女子」には共通したものがあります。
それは、時代は変われど日本はまだまだ ”男性社会” が深く根付いているということを謳ったものでした。
そこから派生する考えや行動が、まさに定年後の生き方・過ごし方に大きく影響してくることなんだと・・・。
この点については、すでに上記3冊の小説本のブログでアップしているのでその詳細は省きますが、一言で言えば「こんななずではなかった・・・」「自分の居場所を探して・・・」という現実に直面することだと思います。
そのことは大なり小なり世の男性が経験するものなのでしょうか。

 

先日、図書館で垣谷美雨(かきたにみう)の「定年オヤジ改造計画」を借りて読んでみました。

この作品を読むキッカケになったのは、実は私が懇意にしているビックサイト
「定年後の過ごし方・鎌倉ライフ」の管理人さんのブログを読んだことからでした。

このブログで初めて垣谷美雨という小説家の存在を知りました。
同ブログでは「老後の資金が足りません」という小説本の紹介がありました。
垣谷美雨ってどんな人なんだろう?と、同著者の本を調べたところ「定年オヤジ改造計画」「夫の墓には入りません」など実に面白そうな小説を書かれていることが分かりました。

図書館で当初「老後の資金が足りません」という本を借りようとしたところ、なんと17人待ちということでした。
え~、17人も! 係の人に「いつ頃借りられますか?」と尋ねたところ「3ケ月ほど待っていただければ」と(涙)
じゃ、同著者の「定年オヤジ・・」と「夫の墓・・」を調べてもらったところ、こちらも貸し出し中とのことでした。
ということで3冊予約を入れました。
数日後、図書館から「定年オヤジ・・」の貸し出し連絡がきました。

実は図書館の棚には、この垣谷美雨のインデックスの名札はあれど肝心の書籍が一冊もありません。
どうして? 係りの人に聞いてみたところ、「最近結構人気があるんですよ~」
どれもタイトルからして面白そうな本のような気がします。今の時代を反映した小説なのかもしれませんね。

 

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「定年オヤジ改造計画」のあらすじ
大手石油会社を退職した庄司恒夫(主人公)。夢にまで見た定年後生活のはずが、良妻賢母だった妻は「夫源病」を患い、娘からは「アンタ」呼ばわり。気が付けば暇と孤独だけが友達に。
そんなある日、息子夫婦から孫二人の保育園のお迎えを頼まれて・・・。
崖っぷち定年オヤジ、人生初の子守りを通じて離婚回避&家族再生に挑む!
書籍のあらすじより

 

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小説の冒頭
自分の稼ぎで妻子を養い、無事にここまでこれたのも、忍耐と努力の賜物だ。
長かったサラリーマン生活から解放されたと思うと、一抹の寂しさもあるが、やはり嬉しさの方が勝る。天下晴れて自由の身になったのだ。

今後も規則正しい毎日を送ろうと心に固く決めた。先に退職していった先輩たちの、自堕落な生活ゆえの不健康さを耳にすることがあった・・・。
けっしてああはなりたくない・・・、残りの人生を健やかに有意義に過ごしたいものだ。

「おい、お茶をくれないか」
「お~い、十志子、いるんだろ?」 ※十志子(としこ)=妻
「十志子、どこにいるんだ?」

冒頭から主人公(庄司恒夫)の退職後の晴れ晴れとした気持ちが語られていますが、これが退職した世の男性陣の想いなのでしょうか?

”自分の稼ぎで妻子を養う?” ”無事にここまでこれたのも” 自分の力なの?
その稼ぎを生み出してきた源はいったい何なの? 無事にここまでこれたのはあなただけの力?と、いきなり続けざまに疑問符の連打です(笑)

更には、「おい、お茶をくれないか」?
「おい」っていったい誰のこと?、「お茶ぐらい自分で入れたら?」と、いったいあなたは何様なの?と。

定年退職した人には、職場や家族から「長い間たいへんご苦労様でした」とねぎらいの言葉をかけられます。
それはそれとして人生の大事な節目としてのお祝いの一コマだと思います。
しかし、「長い間たいへんご苦労様でした」という言葉は、同時に妻へのねぎらいの言葉として大事な意味を持っていると思います。
家族を支え、夫を支えてきた妻にこそかける言葉ではないでしょうか。

飲みたければお茶ぐらい自分で入れる行動、自分だけでなく妻にもお茶を入れる気持ちがあってもいいんじゃないかと。

こうした家庭の一場面を切り取っただけでも、退職者の考えや行動はまったく今までと同じなんですね。

 

この小説の家族構成と主な登場人物は、主人公の庄司恒夫、妻の十志子、長女の百合絵(33歳未婚同居)、長男の和弘(30歳既婚別居)と妻の麻衣・子どもが二人(孫)の設定です。
ごく一般的な家庭に起こる物語です。
そして、この物語のキーワードは、「神話」「夫源病」「保活(ホカツ)」といったところでしょうか。

又、この小説の特徴的なところは、ほぼ全編にわたって家族間の会話シーンが主流です。
現在の家族をリアルに描き出し、日常会話のキャッチボールは、まさに頷いてみたくなる場面があります。
スピーディーなタッチで物語が展開していくことから、読む側にとっては、次は何?、その次は?という感じで飽きさせません。

読者が定年退職したオヤジさんでも、気になる言葉や場面があり耳が痛い思いがあるかもしれませんが、「う~ん、そうだったのか」と今までの人生を振り返る気持ちにもなるかと思います。

 

「お前はどうして結婚しないんだ。この先、どうするつもりなんだ」
・・・・・・

「百合絵はこの先ずっと一人で生きていくつもりなのか」
「だったら何? 悪い?」
「悪いに決まってるだろう。ちゃんと結婚して子供を産んでこそ一人前だ」
「それ、マジで言ってる?」
馬鹿にしたようにニヤリと笑う。・・・・・

「学生時代の友だちはみんな結婚したんじゃないのか?」
「みんなのわけないでしょ。半分くらいだよ」
「だって、もう33歳だろ」
「今はそういう時代なんだってば」

こんな父娘の会話から、今の現代社会の変化と様々な社会問題も内在していることが見え隠れしていました。

小説ではそうした社会の変化と政治にも触れながらコミカルなタッチで物語が進んでいきます。

そんな定年オヤジが、家族との様々な出来事を通して徐々に変わっていく姿が描かれていました。

 

小説「定年オヤジ改造計画」(2/2)へつづく

6 thoughts on “60歳からの現実(リアル) (23)

  1. 今晩は。垣谷美雨さんの著書気になっていました。

    >今の現代社会の変化と様々な社会問題も内在していることが見え隠れしていました。

    本当にそうですね。戦後いろいろ法律が変わりましたが、矛盾だらけですからね。
    でも、長く培われたものはそう簡単に変わりません。地域、年齢差もあるかもしれません。
    また、育った環境もありますしね。

    今から15,6年前でしょうか。「熟年離婚」というテレビ番組がありました。
    主演は渡てつやさんと松坂慶子さんだったかな。定年をもって離婚する夫婦のことだったと思い
    ます。
    少しずつ準備をしていた妻と、「停年おやじ・・・」同様まったく何も感じなかった夫のちぐは
    ぐさで確か夫は病気になったと思います。
    私の仕事仲間の男性たちは恐れおののいていました~(笑)

    シニア世代でも「男」と「女」の役割をきちんと理解している夫婦は大丈夫だと思いますが、
    本当にいろいろです。
    スーさんのおっしゃるように夫が退職した時、ねぎらいは夫、妻の双方にあるべきだと思いま
    す。

    日本男性の多くは口下手ですが、やはり言葉にして言わないとわかりませんから、普段からのコ
    ミュニケーションは大切ですね。

    1. Roseさん

      コメントありがとうございます。

      >やはり言葉にして言わないとわかりませんから、普段からのコミュニケーションは大切
      全く同感です。

      日々の生活の中でも何気ない出来事や会話でも、そうしたことが一つ一つ積み重なっていった結果が今に結び付いているんですよね。
      夫婦間の「信頼」というものは、そうしたところから生まれてくるものなのでしょうか。

      次回のブログでは、「保活(ホカツ)」のことに触れてみました。
      ”保育園落ちた~”という言葉は、最近大きな社会問題として注目されています。
      私たち夫婦も保育園を通して、今までいろいろな人たちと関わりをもってきました。
      そして現在、今度は保育園さえ入園できない、入園出来なければ働くことができない、働くことが出来ないと生活が厳しくなるというような連鎖が生じてきます。
      こうした社会問題と男社会の考え方を同時に題材として取り上げていることに注目しました。
      又、熟年離婚のことについても描かれていました。
      この点についても次回のブログで紹介していこうと思います。

      今、垣谷美雨の他の小説本を読みはじめました。
      面白いのでまたブログでその感想と紹介をしていきたいと思っています。

  2. すーさん様

    今晩は、スーさんの故郷は春を迎えようとしています。
    今年は川堤の桜を見に行こうかな…
    家山はまだ蕾も堅いそうです。

    さて私も垣谷美雨さんの本が気になって読みました。
    (老後の資金がたりません)と(夫の墓には入りません)です。
    実は(ソロモンの偽証)6冊もあるのですが…その3冊目を読んでおりました。
    まあ少し他の本も読んでみようと思い、柿谷美雨の本を買ってまいりました。
    本当に面白くて、夜半目が覚めた時など一気に読んでおりました。
    やはり妻(嫁)には色々な事が降りかかるのですね。
    定年オヤジ改造計画も是非読みたいです。
    その前に宮部みゆきのソロモンを読み終えなくてはなりませんが…

    定年女子と終わった人も読みましたよ。
    終わった人は映画も観ました。
    子供達が是非親父も連れて行ってくれと申しますもので、無理やり連れて行きました
    終わって感想を聞いたら…俺はこんなでないからな~とボソッとつぶやきました。
    ダメだこりゃ…でもここで何か言うと意地を張るので辞めておきました。
    本人に自覚がないとダメなんですね。(笑い)

    今日では料理と食糧買い出しをして、ジムにも通っておりますので私が居なくなって
    も生きていけると思います。
    ただ友人と出かけることがありませんので、私が居なくなったら誰とも話さない日が
    続くと思います。
    まあ、死んだあとまで心配しても仕方ありませんね。

    BSで(あなた)を放送したみたいで、見たかったのに見逃しました。残念!

    1. 匿名さん

      お久しぶりですね。
      いよいよ川堤の桜も家山の桜も楽しみな季節になりましたね。
      昨日、中川根に住む高校時代の同級生に電話したばかりです。高校は地元では「ドテ校」を言われている学校ですから、地元の人に聞いてもらえばすぐに分かると思います(笑)
      同級生は進学のため一度東京に出て暮らしていましたが、家業のお茶屋を継ぐため川根に戻りました。
      皆どうしているか数人の名前を出して聞いたところ、ほぼ全員故郷に戻っているようです。
      気候も温暖で自然がたくさんあり、人も親切で食べ物も美味しいこともあってか住むには良い所なんですね。

      私も「老後の資金が足りません」は昨夜読み終えました。夢中になって読み、途中で明日また残りを読もうかなと思っていましたが、止められなくて読んでしまったほどでした(笑)
      「夫の墓には入りません」は、今カミサンが読んでいます(笑)
      「ソロモンの偽証」はまだ読んだことはありません。垣谷美雨の一連の小説を読み終えたら、図書館で借りようと思います。

      金曜日にBSプレミアムで放送された「あなたへ」ですよね。
      本は何度か読み返しし、映画も2回ほど観ました(映画館とDVD)。今回もカミサンが録画しておいたのでまた観ようと思っています。
      素晴らしい作品ですので、DVDを借りてでもぜひ観てください。お勧めします。
      昨年ロケ地となった九州の各地を観て周りました。「九州くるま旅」ブログにアップしているので、ご興味があれば覗いてみてください。

      コメントありがとうございました。

  3. すーさん様

    お返事有難うございます。
    (あなたへ)でしたね。私のブログ友が観て良かったと言っておりました。
    本やDVDも出ているんですね。
    私はNHkあたりでまず探してみます。

    (ソロモンの偽証)は先日BSでやっており録画しました。
    宮部みゆき渾身の作品だと思います。
    是非読んでみてください。

    来週は(坂道のアポロン)をwowowで録画しようと思ってます。
    私は軍港横須賀育ちなので長崎は親しみがあります。
    これは長崎を舞台にした青春ドラマです。
    私の青春に重なる時代設定で楽しみです。

    また何かお薦めの本などありましたら教えてくださいね。

    (どて高)って聞いたらすぐわかりましたよ。
    主人は長谷部選手と一緒の高校です。
    すぐサッカー部応援の寄付金のお手紙が来ますよ。(笑い)

    季節の変わり目の折、どうぞご自愛を。

    1. 匿名さん

      「どて高」すぐ分かりましたか(笑)
      高校時代陸上部だったので、大井川を土手をよく走ってました。

      ご主人は長谷部選手と一緒の高校でしたか! あの辺りではレベルの高い進学校です。
      サッカー部に入っていない高校生でも、どの子もサッカーはうまかったです。
      まさにサッカーの町でした。
      私のところにも高校駅伝の寄付金がきます。
      私が陸上部に在籍していた頃は、長距離選手はいませんでした(笑)
      それが今では全国レベルですから驚きです。

      宮部みゆきの「ソロモンの偽証」ぜひ読んでみますよ。楽しみです。
      昨日読み終えた本ですが、内館牧子さんの「すぐ死ぬんだから」がお勧めです。
      この本は「終活」をテーマにした小説で、内館牧子節のセリフが飛び交う実にユーモアのあるストーリーです。
      昨年8月に出版された本なのでまだ単行本で高いです(1500円)
      図書館に借りに行ったら176人待ちでした(涙) 諦めて近くの書店で買いました。

      明日、母の様子を見に帰省します。又、父と兄のお墓参りも兼ねています。
      結婚して東京に住む娘に話したところ、カゴメソース(中濃)と中山コーヒー、川根茶買ってきて~と頼まれました(笑)
      埼玉生まれの娘ですが、小さい頃何度も訪れた私の故郷のDNAがあるようです(笑)
      ちなみに私もカゴメソースを今でも利用しています。関東圏はブルドックソースが主流なので、スーパーにはカゴメソースの品揃えがありません。
      あってもウスターソースだけなんです。

      もうすぐ新茶の時期ですね。
      牧之原や川根茶は日本一美味しいです!
      郷土愛、郷土自慢ですが(笑)

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