2018北海道ロングステイ (19)

幌尻岳登山~その1

膝まで浸かる20回の渡渉!

 

北海道にある日本百名山9座の内、残すところ幌尻岳1座になりました。
昨年4座、今年の北海道旅で4座登り、幌尻岳登山口の日高山麓の平取町(びらとりまち)に来ました。

以前、ブログで「登山の準備」と題して、この幌尻岳のことを記述しました。
この山の特徴と登山のしかたについての詳細はブログに記していますので省きますが、日本百名山の中で、”登る条件面で最も困難な山” ではないかと思います。

今回登るコースは、「額平川コース」です。(ぬかびらがわ)
このコースは、特にシーズン中において、登山口までのシャトルバスと幌尻山荘の予約が必要なこと、十数回を超える渡渉(膝まで浸かる)、登山基地の「とよぬか山荘」かその周辺で前泊が必要なこと、公共交通機関がないことなどが挙げられます。
つまり、登山するには各種予約やアクセス面などの条件があることだと思います。
そして、天候不順などで川の水量が増えれば渡渉できなくなり、登山下山ともできない状態になる可能性があることです。

もう一つコースがあります。
それは、「新冠陽希コース」です。
このコースは、平成26年にプロアドベンチャーレーサーの田中陽希が幌尻岳を登頂したルートを記念して、昨年新冠ポロシリ山岳会が命名したコースです。
このコースは、天候によるリスクが少ない(1回の渡渉だけ)ことから登頂確率が高いとされています。
そうしたことから昨年からこのコースで登る登山者が増えているようです。
しかし、このコースも登山口までのアクセスが困難な点が共通しています。
新冠市街地から林道入口まで25Km、林道から駐車場までダート(未舗装)40Km約2時間の運転、登山口から新冠ポロシリ山荘までの林道徒歩き18.5Km、そこから頂上ピストンして山荘泊など、こちらも山中2泊3日コースになります。

いずれにしても、こうしたアクセス面で厳しい登山ということになると思います。

「日本百名山」の著者深田久弥も著書の中でこのように述べています。

地下足袋にワラジという恰好で宿を出た。歩きだしてから、いきなり川の中をジャブジャブ渡った。川筋がすなわち道だから、渡渉はそれから限りなく続いた。
初めはなるべく濡れまいと心がけていたが、ヒザが濡れ、モモが濡れ、ついに冷やりと一物が水に犯されるに及んで、もう観念して濡れることには平気になる。
それから先は、河原など無くなって、みごとな瀬と岩の連続である。大岩を乗り越えたり、川っぷちの岩の縁を伝ったり、それもかなわなくなると嫌でも水の中だ。
深田久弥著「日本百名山 幌尻岳」より

 

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振内(ふりない)の山の駅「ほろしり館」と隣接するセイコーマート(コンビニ)

富川市街地から車で40分(バス1時間)の振内にある山の駅までは定期バスが運行しています。
ここから登山基地の「とよぬか山荘」までは自家用車かタクシー(予約)で向かうことになります。

私たちは、この山の駅に車を駐車(3日間)してタクシーで「とよぬか山荘」まで行きました。

 

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宿泊する幌尻山荘は素泊まりのみのため、シュラフ・マットと食料、湯沸かし(ガス)などの荷物があり、ザックの重さが約12Kgになりました。

 

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登山基地の「ぬかびら山荘」とシャトルバス。
ここからは一般乗用車の乗り入れができないため、登山者は全員シャトルバスで登山口(第二ゲート)まで向かいます。(往復4000円)
夏季登山シーズンは全て予約制。

 

 

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幌尻岳登山は、百名山の中で最難関と言われています。
最近の事故の大部分が渡渉中のもので、天候回復や川の水位の低下を待たなかった判断ミス等となっており、死亡事故も発生しております。
登山者はご自身の体力や経験、体調にあわせ、無理をせず、引き返す勇気を持つことも重要となります。
平取町

バスの座席には、このような訴えかけの用紙が設置されていました。
こうした注意事項の内容文は、百名山の中でもこの幌尻岳だと思います。それだけ危険度の高い特徴を持った山ではないでしょうか。

 

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登山口から緩やかな林道歩き(7.5Km、2時間30分)
途中、下山してきたパーティーの一団に会いました。多くの登山者が登っているようです。

 

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以前ブログで紹介したモンベルの「シャワークライミング用フットウェア」
沢歩き専用の靴です。登山者はほぼ全員このような専用シューズを履いていました。

このシューズはかなり優れものでした。
足にしっかりフィットしているので沢の中でもまったくずれません。又、水はけがいいので陸に上がってからも歩きやすく水濡れしている感覚がほとんどありませんでした。
険しい岩や石だらけの河原でも歩きやすいので、沢から出たり入ったりするにはとても便利ですね。

 

 

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渡渉開始。ここ数日雨が降っていなかったため水位が低いので助かりました。

 

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だいたい膝ぐらいの深さで、場所によっては膝上まで水位がありました。

 

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所々急流もあり慎重に渡っていきます。
登山者のほとんどが10Kg前後のザックを背負っているので、少しでもバランスを崩すと簡単に転倒してしまいます。

この時感じたのは、太ももから上、腰あたりまで水に浸かるようだったら、渡渉はまず無理ではないかと思いました。
沢の中は、見た目よりも水の勢いがあるので、足に力を入れても前に進めなくなる状態になるということです。

 

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向こう岸に渡って、岩と岩の間をよじ登っていきます。

 

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沢の中州で休憩。日差しは強いですが、日陰に入れば涼しく心地よいです。

 

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渡渉以外にも川の縁の岩をつたって進む場所もあります。
こうした所には鎖が設置されているので助かります。足を滑らしたらドボン!ですね(笑)

 

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水位が低ければ沢の中をジャブジャブ、水が冷たく気持ちよい沢歩きもできました。

 

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幌尻山荘

登山口から5時間、昼過ぎに山荘に着きました。
平取町の町営の山荘なので1泊素泊まり1500円(定員50人)
食事は出ないので食料は持参して山荘前で各自調理します。
この日はパーテーも複数組いたので満員でした。

 

緊急ヘリ出動!

 

お昼頃山荘に着いて、管理人さんから寝る場所の指定を受けました。
幅80Cm位の毛布が敷かれたスペースが今夜の寝床です。満員といっても寝返りができる幅なのでまずまずでしょう。山小屋ってこんなもんです(笑)
この山荘は狭いのでザックなどの荷物持ち込みは禁止でした。寝具のみ持ち込み可。

シュラフやマットを持ち込んで準備していると、休んでいた登山者が一人起き上がって足を引きずっています。
「どうしたんですか?」と尋ねたところ、「来る時に沢の中で足を滑らせて転倒したんだ」と言っていました。
見ると膝から下が擦り傷だらけで打撲・捻挫したような感じでした。
なんとか山荘まで来たんだが、だんだん足が痛くなってきて歩くのも大変だと言ってました。
「それでは下山もできませんね、管理人さんに事情を話して緊急ヘリを呼んでもらったどうですか?」と話してみました。
本人からはっきり言い出せなかったようで躊躇していた感じでした。
二人で管理人さんのところにいって話したところ、すぐにヘリ出動の連絡を取ってもらいました。

山中でのケガによる事故の場合、自力では下山できなくなります。
たとえガイド付きのパーティーで周りに複数人数いても一人の登山者を背負って下山するのは困難なことです。ましてや渡渉20回もある沢下りですからまず無理です。
今回の場合、無線連絡ができる山荘にいるわけで、対応が可能だったことはある意味良かったのではないかと思います。

 

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怪我をした方を囲んでヘリを待つ登山者たち。
ヘリが山荘上空に到着。

 

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山荘にはヘリポートはありません。近くの開けた草地にレスキュー隊員2人がロープで降りてきました。

 

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怪我をした方をレスキュー隊員が抱えてヘリに吊り上げられる。

今回怪我をされた方は無事救出されましたが、レスキュー隊員も命がけで救出する場面を見て、他の人に迷惑をかけない ”安全な登山” を心掛けることを改めて感じました。

管理人さんの話では、3日連続で緊急ヘリ出動をお願いしたと言っていました。
前日は、やはり渡渉時の転倒と疲労で動けなくなった登山者がいて、それを発見した他の登山者が山荘に連絡してきたそうです。
こうしたヘリの出動(北海道警)は無料だそうですが、登山者はそれなりのリスクを持って登山をするわけですから、有料であってもいいんじゃないかと思いました。

管理人さん曰く、「登山者の中にはヘリをタクシー代わりに使う人がいる。準備や装備も含めもっと真剣に登山と向き合ってほしい」とおっしゃっていました。
まさにそのとおりだと思います。

今回、怪我をされた方は69歳の単独登山者でした。そして、幌尻岳が最後の百座目だったそうです。
渡渉の時に履いていた靴は普段町中で履くシューズで、誰もが渡らない沢の急流を無理やり渡ろうとしていたことで起きた転倒だったそうです。(渡渉を目撃した他の登山者の話から)
こうしたことから分かるように、今まで99座踏破してきた過信と沢での転倒は、起こるべくして起きた事故だったように思いました。

ヘリが去った後、登山者同士で食事をしながら、どんな山でも過信しないで謙虚に向き合っていこうと話をしました。

ところで、今回の渡渉で濡れた靴下を外にぶら下げて干していたのですが、ヘリの風圧で片方がどこかに吹き飛ばされてしまいました。せっかくモンベルで新調した専用靴下だったのに・・・(涙)

 

「2018北海道ロングステイ」 幌尻岳登山~その2に続く

 

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