官僚とその組織

官僚の行動原理とは?

 

「森友問題」決裁文書の改ざんに関して財務省佐川前理財局長の国会証人喚問が行われました。
この証人喚問の模様は、3月27日NHKの国会中継で放映され多くの国民が視聴されたと思います。
この放送を直接観られた方、又、その後のニュースなどのメディアの報道で見聞きした方々にとっては様々な印象を持ったと思います。

一言で言って ”更に疑惑が深まった” と思った人は私だけではなく、多くの国民の方々が感じたのではないでしょうか。
核心に迫る全ての質問に対して、「刑事訴追の恐れがあるので答弁は差し控えたい」という返答は、逆に ”大きく関わった” という疑惑につながるものだったと思いました。

 

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誰が指示し行ったか、なぜ書き換えが行われたのか?
これらのことは一切分かりませんでした。

 

こうした森友学園への財務省の公文書改ざんをはじめ、イラク派兵や南スーダンPKOに関わる自衛隊の「日報」隠ぺい、厚生労働省の裁量労働制のデータねつ造、更には加計学園をめぐる首相官邸の関与・隠ぺい疑惑、現財務省事務次官のセクハラ問題など、官僚とその組織及び現政権の関与・責任について大きく問われる問題へと発展してきています。

40年以上公務員として働き続けてきた妻は、その間誇りを持って国民のために務めてきました。
こうした中で官僚による文書改ざんや隠ぺい・ねつ造と職務に対する責任に対し、同じ公務員として強い憤りをぶつけていました。
公務員の失墜に怒りを感じた一般国民以上に公務にたずさわっている方や今までたずさわってきた方々に大きな失望を感じさせた出来事だったのではないでしょうか。

今回のブログでは、こうした一連の疑惑問題についてメディアを通して詳細に報道されているので省きます。
ここでは「官僚とその組織」について感じたことをアップしていきたいと思います。

 

今回の改ざん問題が明らかになった時期、私は図書館で借りた今野敏著の小説「隠蔽捜査」シリーズ(全5巻)を読んでいました。
この小説は、一般的な警察小説、推理小説とは異なり、警察庁及び警視庁内部の官僚体制とそこで働くキャリア官僚の人間模様を中心に描いたストーリーでした。

物語は、警察庁(警視庁)のキャリアを主人公にして、刑事事件を絡めながら官僚体制という大きく力のある組織の内実を語るものでした。
このことは、現在起きている各省庁の官僚(国家公務員)とその組織体制に重ね合わせるものがあり、形式主義や官僚主義が色濃く反映されている現実が浮き彫りにされていました。

 

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主人公の竜崎伸也は、東大法学部卒のキャリア官僚です。
第1巻の初登場時の役職は、40代で警察庁長官官房総務課長、階級は警視長という設定でした。
その後(第2巻以降)は、個人的(家族問題)な失態により大森署署長という役職に就きました。
性格は仕事に一切の私情を交えず、国家のために減私奉公の姿勢を貫き、理不尽な命令には異を唱え、決して原理原則を譲ろうとしない「変人」と呼ばれていました。

こうした性格を表した文中の一節では、
不正や隠し事をせず、現状を理想に合わせようとするには国家を担うエリートとして当然であり、むしろ他の官僚がそうしないことこそ彼には理解し難いのだ。
今野敏著「転迷:隠蔽捜査4」より

同じキャリア官僚であっても、内部の不正や隠蔽、理不尽な指示・命令に対して断固拒否する姿勢は、読み手側にとってたいへん痛快で胸のすくうストーリーとして楽しませてくれます。

この今野敏の小説の愛読者として、解説の中で村木厚子さんのことが述べられていました。
村木厚子さんは、厚生労働事務次官を歴任した方だそうです。

自らがばりばりのキャリア官僚である彼女は、今野敏が描く主人公を、組織の倫理と闘い、人間関係に悩みながら、その中で「守るべきもの」「曲げてはいけないもの」をしっかりと守っている人間と評して、手放しで褒めていたのであった。
今野敏著「確証」解説より

同じ国家公務員で、それもこれ以上は大臣しかないという事務次官にまで上り詰めた方が、このように主人公を評していることから、先の財務省官僚の件と比較して、まだこうした方がいるんだと思うと何か救われる気持ちにもなります。

 

物語の中で大森署署長になった主人公竜崎伸也は、署長の業務として膨大な決済書類の判押しに苦労する場面が頻繁に出てきます。

判押しを続けているが、書類の内容はほとんど頭に入っていない。形式だけで署長印を押すことがまったく無意味に思えたが、警視庁は、「形式庁」と呼ばれるくらい形式を重んずる。
逆にいえば、形式さえ整っていれば、書類が問題にされることはない・・・。

うまい具合に、責任の所在をわからなくする。それが長年役所で培われてきた工夫だ。改革を進めて、役所の手続きを効率的にしたり、回覧する書類を減らしたりすると、誰かが責任をかぶらなければならなくなる。

役人は、責任という言葉を嫌う。そして、過去の事例という言葉が大好きだ。
過去に誰かがやったことなら、自分が責任を問われることはない。それが役人の基本的な考え方だ。

それでは国が動脈硬化を起こすのも無理はない。経費の削減も進まない。
役人は他人の批判を受けても動じない。なぜなら、自分たちが間違ったことをしていないと信じているからだ。
以上、「転迷:隠蔽捜査4」より

あくまでも小説の世界ですから、これらすべてが警視庁をはじめとして役所の体質や考え方を述べているというわけではありません。
しかし、国政に影響力を持つ上級公務員いわゆる「官僚」の体質は、当たらずといえども遠からずといったものではないでしょうか。

 

天下りシステム

 

元・財務官僚の高橋洋一氏が「官僚の真実」という著書の中で、官僚の体質と仕事のやり方などについて詳細に記述されていました。

例えば、法律をつくるということに関して、ほとんどの法律は官僚がつくっているいう事実をふまえ、
「官僚は自分たちの仕事がしやすいように、さらに、利益が誘導できるように法令をつくっていることが多々ある」
と述べています。
法律の作成は政治家(国会議員)がつくっていると思っていましたが、実際には法案の8割以上を官僚がつくっているという事実があるようです。
つまり、”法律を書ける人間は官僚しかいない” という自負があり、いろいろな解釈にも精通している点で自身の責任回避に長けていることもあるのかと思います。

 

高橋洋一氏は、著書の中で官僚やその組織の自己防衛、閉鎖的な体質に関連して天下りシステムについて指摘していました。

天下りシステムこそが、官僚に省庁への忠誠心を誓わせる原動力になっていることは、ある程度官僚を経験している者であれば、誰でもが知っていることだ。

天下りがなぜ問題なのかというと、天下り先と斡旋をする省庁が予算か許認可でなんともいえないような密接な関係になるからだ。
退官した官僚OBを受け入れてくれた見返りに、省庁からは事業が回される。財務省であれば、何らかの予算措置が講じられることも少なくない。
こうなると、税金が官僚OBの給与に使われることに等しいといえよう。

現在、省庁による再就職先の斡旋は法律によって明確に禁止されています。(国家公務員法)
昨年、文科省OBの天下り問題が発覚しましたが、これは再就職するまでの期間の短さを不自然に感じた監視委員会が調査に乗り出したことで発覚した事例のようです。
高橋氏は、現実には今でも天下りはなくなっておらず、恒常的に行われていることが窺われると指摘しています。
こうした法律も官僚が主体になってつくっているわけですから、前述したように様々な解釈や回避する手段も持ち合わせているのでしょう。

 

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省益第一主義?

 

昨年4月、ある一般社団法人が主催する「日本の財政を考える」セミナーに参加しました。
この時の講師は、現役の財務省主税局審議官の矢野康治氏でした。
セミナーの内容については、ブログ「日本の財政を考えるセミナー(1)、(2)」にアップしていますので詳細については省略しますが、結論的な主題になったのは、”消費税増税による財政確保策” でした。

このセミナーに参加した時の感想は、日本の財政問題を考える上で最終的な結論として消費税に頼る政策ではたしていいのだろうか、という疑問がありました。
この時のブログでも述べましたが、国家公務員という仕事ですから当然国民の立場に立った考えと施策で対応を図っていくことが求められるはずですが、消費税増税を推進することがベストと言わんばかりの内容だったことがたいへん印象的でした。

 

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セミナーで配布された時の資料「消費税の特徴」
消費税の有効性について詳しく説明されていました。

 

こうした財務官僚の考え方について、高橋氏の著書でこのようなことが述べられていました。

財務省に限らず、官僚の行動原理は「省益第一主義」という言葉に集約できると思う。
いかに多くの予算を獲得し、OBも含めた自分たちの利益を確保するか・・・。
この省益の確保と追及という行動原理が官僚を支えているのだ。

財務官僚には、これに加えて、「財政至上主義」という原理が加わる。現状では、「財政再建至上主義」と言い換えてもよい。
なるべく歳出を減らし、歳入を増やす。これを実現する最も有力な手段が消費税増税という財務省のロジックである。

財務官僚も消費税を増税すれば、経済が悪化することくらいは理解している。
だが、彼らは、それでも “善し” と考えている。経済が悪くなっても、既得権のある自分たちは相対的に有利になることがわかっているからだ。

更に官僚の体質を鋭く指摘する文章として、

例えば、官僚は雇用に関する心配はない。不況になっても給与のカットは民間ほどではないだろう。
官僚の中の官僚である財務官僚は、経済全体が悪くなっても相対的に官僚の地位が向上することを知っている。

 

このようなことが事実であるとすればたいへんな驚きです。
全ての官僚と省庁を指していないにしても、この間の一連の問題や疑惑と照らし合わせてみるとそうした体質が根強くあるのではないかと強く感じるものがあります。

憲法では、すべての公務員は全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない、と定められています。
このことは、自分の利益、省庁の利益だけで仕事をするものではないです。
あくまでも国民全体の利益を守り、安心して暮らせる国家にしていくことが役割ではないでしょうか。

今回の一連の問題解決と疑惑追及を徹底的に進めることを望みます。
同時に官僚とその組織の体質も改善すべきだと強く求められているのではないでしょうか。

 

余談ですが、今回の「森友学園」決済文書改ざん問題において、現財務省の太田理財局長と関連する部署の官僚の方が国会答弁していました。
この中に財務省官房長が野党の質問に応えていた場面が放映されました。
アレッ?どこかで見た人だな~と思ったら、なんと前述した矢野康治さんじゃないの!

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今年3月下旬に昨年と同じ社団法人による「日本の財政を考えるセミナー」の案内がありました。
講師は昨年と同様矢野康治さんの予定でしたが、開催一週間前にセミナー中止の連絡メールが入りました。
ちょうどこの頃、森友問題における佐川氏の国会証人喚問が行われるかどうかという時期で、財務省内もたいへん混乱していた時だったのでしょう。

昨年4月のセミナーの講師の時、主税局審議官の肩書でしたが官房長になられたんですか。
この時の国会答弁で「総理大臣も財務大臣も全く指示していない」とおっしゃっていました。
へ~ほんとうにそうなんですか?
官僚の省益主義の行動原理が見え隠れするように感じましたが。

2 thoughts on “官僚とその組織

  1. こういったことは官僚だけの問題ではなく、民間企業にとっても、人事権を持つものに媚を売る
    のは同様であり、ゴマすりやイエスマンはどこにも居る。
    選挙や不祥事のたびに、トップである大臣が代わる官僚にとっては、常にフレキシビリティーな
    対応をしつつも、日本国憲法に基づく行政をしていかなければならない使命を誓って採用されて
    いるはずである。

    残念なのはこうした初心を忘れた官僚が目立つことだ。

    小説の主人公はあくまでフィクションであるが、実際に信念を通した官僚がいる。のちに内閣官
    房長官を務めた後藤田正治は公務員としての戒めとして「五つの心得」という格言を実践してい

    1. 省益を忘れ、国益を思え。
    2. いやな事実、悪い情報は速やかに報告せよ。
    3. 勇気をもって意見具申せよ。
    4. 自分の仕事にあらずと言うなかれ、自分の仕事であるといって争え。
    5. 決定が下ったら従え、命令は直ちに実行せよ。

    こういう方が総理大臣になってほしいものだが、彼は押されても固辞した。

    今の政権は、イエスマンでなければ登用しないので、こうした逸材が出る状況ではない。
    だからこそ、有権者である国民が「私益を排除し公益に重きを置く」立候補者を選択しなければ
    ならない。ただ残念なことに、これにあたる候補者が見当たらないのが現実でもある。

    1. 凡夫さん

      コメントありがとうございます。

      >残念なのはこうした初心を忘れた官僚が目立つことだ。

      全く同感です。
      民間、公務員問わず入社・入省した時には、誰もが新鮮で謙虚な気持ちの志を持っていたと思います。時が経ち物事に慣れてくると慢心してしまう気持ちや行動が多少あるにしても、人として、社会人として守るべき道があると思います。
      特に公務にたずさわる人には、そうした倫理観が必要ではないかと思います。
      そういう意味では、「五つの心得」という格言、まさにそのとおりですね。

      >今の政権は、イエスマンでなければ登用しない

      私もそう思います。
      国家公務員(キャリア)の人全てが、省益第一主義の行動原理に基づいて働いているとは思えません。各省内にそうした体質があったとしても、コメントにあった「五つの心得」に基づく考えを持った人は必ずいると思います。
      そこにこそ改革への道があると思います。

      有権者である私たちが、そうしたところをしっかり見定め国会議員や政党を選択しなければなりませんよね。
      貴重なご意見ありがとうございます。

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