道迷いの心理

奥多摩トレッキング~榧ノ木尾根(かやのきおね)

落ち葉で登山道見失う道迷い!?

 

奥多摩の山歩きは、主に春と秋から冬にかけて出かけます。
首都圏から電車や車を使って日帰りで山歩きが楽しめる登山エリアとしては、丹沢や高尾山に匹敵する場所です。
私の住む町川越からでも車で1時間半ほどで来れますから、最も近い奥武蔵と併せてホームグラウンドになっています。
今年も2月~5月にかけて蕎麦粒山、日の出山、雲取山に登り奥多摩トレッキングを楽しんできました。

今回は奥多摩湖から六ツ石山を直登。その後石尾根を縦走して水根分岐で榧ノ木尾根(かやのきおね)を下り、倉戸山から下山するコースです。所要時間は7時間でした。

奥多摩の登山道は、関東ふれあいの道や奥多摩むかし道などがあり整備されています。
又、至る所に標識や案内板があることから比較的安心して山歩きができます。
しかし、季節によっては大きな落とし穴があることを今回のトレッキングで認識しました。

 

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石尾根からの富士山眺望。

 

 

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早朝7時、奥多摩湖の六ツ石山登山口からスタート。
少し登れば眼下に奥多摩湖が望めます。

 

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急登が続く樹林帯の中を登って行きます。
六ツ石山までの標高差は約1000m。地図上のコースタイムは2時間40分ですから休憩含め約3時間の登りでした。

 

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所々紅葉がきれいでした。

 

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スタートして2時間後、視界が開け広い尾根道が頂上まで続いていました。
眺望も広がりようやく富士山も見える高さになりました。

 

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六ツ石山頂上1478m。
頂上は広く見晴らしが良かったです。

 

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頂上から鷹ノ巣山を望む。
今回のトレッキングでは、この鷹ノ巣山までを目指していましたが、途中、時間的に余裕がなくなり、その手前の水根分岐から榧ノ木尾根を下りました。

 

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石尾根の途中にある城山1523m。
石尾根は西に向かって延々と雲取山まで続いています。かなたに見えるのが雲取山(日本百名山)。
この広い尾根は、山火事の際の延焼を防ぐために木々が伐採されて幅の広い登山道になっていると聞いています。

 

道迷いの心理

 

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石尾根から榧ノ木山、倉戸山方面への水根分岐点。ここから左に榧ノ木尾根を下山です。
登山道は落ち葉に隠れてしまい全くわかりませんでした(焦り)

 

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赤いテープのマーキングだけが頼りでした。
目指す倉戸山の標識を見つけ一安心。しかし、偶然見つけた標識でしたから良かったものの、見落としていたら・・・(汗)

 

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途中の榧ノ木山(かやのきやま)付近
尾根道は全て落ち葉で埋め尽くされていました。この辺りは特に広い尾根道だったので隠れた登山道がどの方向に向かっているのか全くわかりませんでした。

「道迷いの心理」
登山道が不鮮明になったり、藪の道になったり、無くなったりすることがある。「あれっ!おかしい」と思う瞬間である。特に下り道に多い出来事である。
なぜならば、登りは「収束(ピークは一つ)」し、下りは「発散(分岐が多い)」するからである
※愛知県豊川山岳会HPより

 

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下山後帰宅してからネット検索したところ、豊川山岳会の道迷いに関するレポートがありました。
この中に2009年12月に実際に起きた「榧ノ木山道迷い」の解説がありました。

「奥多摩湖から六ツ石山に登って石尾根の水根分岐から榧ノ木尾根に入った。途中で尾根の右側に迷い込み、沢を一つ越えて別の尾根に登り上げたがどの辺りにいるのか分からず、身動きが取れない」と救助要請。
榧ノ木山を確認し、「尾根分岐を東側の尾根へ」と予測をすれば、道に迷うことは少ないのだが、日没が近づく、単独行、焦り等、様々な要因で、道迷い発生の確立は上がってしまう。
豊川山岳会HPより

今回のトレッキングでは、偶然にもこの遭難事故のルートと時期が同じでした。
遭難者は、落ち葉によって登山道が隠れてしまっていたため方向を誤ったと思います。
今思い出せば十分あり得ることだと思いました。

 

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落ち葉で登山靴はスッポリ隠れてしまいました。20cm以上の落ち葉が積もっている状態。
こんな写真を撮っている私は、不安ながらも気持ちの上でまだ余裕があったかもしれません。
しかし、この後の行程で・・・!?

 

「焦り」は道迷いの発生を上げる?

 

地図上の「迷マーク」を意識しながら榧ノ木山を通過し、そろそろ倉戸山に着く時間が気になりはじめました。
榧ノ木尾根を下ること1時間10分経過。(地図上のルートタイムは倉戸山まで1時間15分)
更に10分ほど歩いた時に倉戸山の標識を発見。

 

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ようやく倉戸山に着いたと一安心。
正常な心理であれば、この標識板の左側がカットされているので ”この先” を示す標識であることが判断できます。(写真の標識版)
しかし、今まで続いてきた落ち葉によって登山道を見失う不安と時間的な焦りが ”ここが倉戸山” と認識してしまう誤りを犯してしまいました。

 

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榧ノ木尾根で落ち葉に隠れた登山道を探しながらの下山だったため時間的なロスタイムが発生していました。
そんなことにも気づかず ”時間的にもこの場所が倉戸山だ” と思ったことが誤りでした。
私はすぐに東に向かう登山道を探しました。(地図上で右に下る道=倉戸山登山口方面)
しかし、一面落ち葉で埋まっている尾根上では登山道を探すのは難しく全く分かりませんでした。
この時、分からない道を谷側に降りることに不安を感じたこともあり思いとどまりました。

今思えば当然のことですよね。本来の倉戸山の手前の小ピークを倉戸山と勘違いしていたわけですから地図上で右に下る登山道なんてありません。

道迷いの心理というものは恐ろしいものです。
落ち葉で登山道が隠されているという不安な気持ちと焦りが、更には ”標識さえも見誤う” 心理状態になっていたんですから。

そんな心理状態の中で倉戸山と勘違いした周辺を20分ほど登山道を探し回っていた時、前方に赤テープのマーキングを発見。下ってきた尾根道からほぼ真っすぐにそのマーキングがありました。
当初予定していた地図上で右に下る道は諦め、破線の登山道を下る(地図上で左)ことに決めマーキングを頼りに進みました。

しばらく歩いていくと標識がありました。

 

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なんと、この場所が本来の倉戸山でした!

この時になってはじめて自分の誤りに気が付きました。
その時、仮に先ほど倉戸山と勘違いした場所で、
”落ち葉で登山道が隠れてしまっているからしょうがない。でも無理をしてでも地図上で右方向に下って行けばなんとかたどり着けるだろう” という判断で下山していたら? と思うとぞっとしました。

まさに典型的な道迷い遭難になっていたところでした。
今回の登山での道迷いの心理は、
■落ち葉で隠れた登山道の不安→焦り
■焦りが引き出す標識の見誤り→判断能力の低下
■判断能力の低下による間違った方向へ下山→遭難

こんな構図が頭をよぎりました。

 

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今まであまり気に留めなかったこんな標識を見るとほっとします。
相変わらず落ち葉に隠れた登山道は続いていましたが、道迷いの不安から解放されて下山の足取りは軽くなりました。

 

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ようやく見え始めた奥多摩湖に一安心でした!

 

積雪のある時期以外で低山といえども季節が変わればとんでもない様相に一変します。
こんな近場の奥多摩でも多くの遭難事故が発生しているようです。

以前、道迷い遭難事故と防止に関わる本を読んだ時、こんな言葉がありました。

■登山で疲れてくるとどうしても下を見て歩くようになってしまう。こうした歩き方は標識やマーキングを見落とす原因になる。

■道に迷った、登山道を見失った時、絶対に谷側(沢)に降りるな。

これらのことは、登山の基本としてよく言われているものです。
そんなことは分かっていても、いざ登山道を見失った登山者はすでに不安と焦りがあります。そんな心理状態ですから判断力が低下し、下山=谷側に足を運ぶ結果になるのでしょう。

日本百名山の著者である深田久弥氏も一度だけ道迷いになったことがあるそうです。
それは、会津駒ケ岳の下山の時に登山道を見失い、谷側に下ったことから遭難しかけたそうです。

 

今回の奥多摩トレッキングは、ある意味いい経験をしました。
低山といっても侮ることなく、しっかり準備して行きたいと思います。

6 thoughts on “道迷いの心理

  1. 驚きました。いつも素晴らしい景色の山々のブログ見て楽しんでいますが、百名山目指している登
    山のベテランでもまさかの落ち葉で、日が短くなっているので、暗くなる前に下山出来て良かった
    です。

    1. のぶこりんさん

      コメントありがとうございます。

      山好きなだけで特にベテランではありませんが(笑)
      今回の山歩きでは、まさに ”油断大敵” という言葉が合っていると思いました。
      普段登り慣れている山道でも、季節を変えればその様相は一変することが分かりました。
      最近中高年の登山が盛んに行われている中、こんな近場の低山でも道迷い、遭難が起きるのか?と他人事のように思っていましたが、その心理が分かる今回の山歩きでした。
      こうした教訓は、低山と言って侮らずしっかり準備していきたいものです。

  2. 超怖いです。
    お独り山歩きしたいけれど、これが一番怖くて楽な場所しか行けません。

    友人の息子が山好きで冬山に登りますが、
    中高年が予備の食糧も持たず軽装で動けなくなってる人に遭遇して困るって言ってました。
    途中で中止して保護するしかない、みたい。

    すーさんは、そんな事は無いと思いますよ。

    取引先の顧問も、信じられないような低い山にピクニック感覚で行って
    行方不明になり、数日後に見つかってOUTでした。

    と言いつつ、犬と大日岳に日帰りで登ってきます!

    1. ヒロさん

      コメントありがとうございます。

      「まさかあの山で遭難!?」っていう話や記事を時々見聞きしますよね。
      先日TVニュースで高尾山で下山する時に道迷いになり、一晩山の中で過ごしたという報道がありました。ほんとうに「まさか」の話でした。
      でもこれが山なんですね。
      低山といっても侮ってはいけない教訓だと思います。

      大日岳は、確か郡上市にある昔から信仰の山として親しまれている山ですよね。
      ちゃんと準備をして、ぜひ楽しんできてくださいね。

  3. 家犬です。
    地図を持たないで登る人が増えているらしい。
    GPSで登れるのですが、電池が切れたら終りです。
    高山でも夏山で何度も登っていて自信がついて、いきなり冬に登る人もいるらしい。
    難易度がまったくちがうので、冬山は低山からに経験をつんでほしいです。
    私は山で死ぬ人は不幸だと思いませんが、迷惑な登山はやめてほしいです。
    どんな山でも入山料金をとって、遭難保険をかけるべき時代だと感じます。

    1. 家犬さん

      お久しぶりです。
      福井の旅ブログ楽しく読んでいます。越前海岸、丸岡城、永平寺、恐竜博物館など一昨年私たち夫婦もくるま旅したコースなんですよ。
      だからブログを拝見しながら「ああ~懐かしいな~」と何度も繰り返し見ています!

      先日、友人からLINEでGPSアプリ利用についてのメールがありました。
      最近山歩きしているとGPSを見ながら登山している人をよく見かけます。
      便利になった時代だと思います。しかし、あまり頼りすぎると車のナビと同じように方向感覚が衰えてしまうのではないかと思っています。
      いざという時は便利だと思いますが、やはり地図を持って行きたいですね。

      今年はスノーシュー教室に入って雪山を楽しもうかと思っています。
      いきなり雪山は無理なので、林の中のスノーシュートレッキングからかな?と(笑)
      やっぱり初めてのことですから基本を大事にしていきたいです。

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