定年延長

公務員65歳定年制

定年延長の意図とその裏には?

 

政府は、国と地方あわせて約330万人に上る公務員の定年について、現在の60歳から65歳に段階的に延長する方向で検討に入った。
少子高齢化で労働力人口が減る中、働ける人材を確保するとともに、年金支給年齢の引き上げに対応する狙いがある。
9月2日付 朝日新聞

最終的に65歳までの定年延長を視野に入れるのは、公務員の年金受給開始が2025年度までに65歳に引き上げられるためだ。定年と受給開始年齢を合わせることで、収入の「空白期間」が生じるのを防ぐ。
ただ、定年延長は総人件費の拡大につながる可能性がある。
政府は60歳以降に役職定年制を導入するなど、給与水準を抑制する方策を探る・・・。
公務員の定年延長検討には、民間の対応を促す狙いもある。
9月2日付 読売新聞

 

2017定年1       2017定年2

9/2付 朝日新聞                   9/2付 読売新聞

 

いよいよ65歳定年制が具体化する方向にきました。
このことは、2006年施行の「高年齢者雇用安定法」(高年法)ですでに65歳定年制に向けた道筋が立てられていたものでした。
この高年法は、60歳未満の定年を禁止するとともに、65歳までの高年齢者の雇用を確保するために民間では継続雇用制度、公務員では再任用制度としてスタートしました。

この時、民間の高年法への対応として、
■65歳までの定年延長 14.6%
■継続雇用制度の導入  82.6%
■定年制の廃止       2.2%

数字でみると継続雇用制度が圧倒的に多く、現在に至っているようです。
継続雇用制が多かったかの理由には、やはり人件費の抑制があると思います。

そして今回の公務員65歳定年制の導入は、まさに民間の定年延長を促進するための狙いがあるのでしょう。

ではなぜこうした施策(定年延長)が出てきたか?
もとはと言えば、年金受給年齢の引き上げにあります。
年々拡大する社会保障費の財源が難しくなったことから、年金満額支給が65歳からになりました。
このままでいけば更に67、68歳、そして70歳支給になることは目に見えてきます。

国の財源がないから「しかたがない」「しょうがない」
国の財源がないから「消費税増税は受け入れるしかない」(8%➡10%)
国の財源がないから「年金満額受給は65歳から67、68、70歳になってもしかたがない」
国の財源がないから「医療費、保険料、受益者負担が増えてもしょうがない」
国の財源がないから「介護保険料は上がって、サービス低下は我慢せざるをえない」
・・・等々。

こうした財源問題は、主に少子高齢化にその要因を指摘することが多いようです。
国の歳入・歳出において、確かにそうした少子高齢化問題(税収減と社会保障費拡大)は無視できません。だからといってそこだけに原因があるのではないと思います。

こうした例は、以前「日本の財政を考えるセミナー」に参加した時の講演にもありました。
日本の財政が厳しい状況の中、消費税増税に向けた資料の中に、
消費税の特徴は、少子高齢化が進む中で、減りゆく勤労世代で増え行く高齢者を支える所得税や法人税や保険料には限界があるのに対し、国民全体で社会を支える構造になり、世代間の公平にも寄与できる。
※財務省主税局審議官

消費税増税の理由として何かもっともらしく、説得性のあるような文章ですが果たしてそうでしょうか。
所得税収入は、非正規雇用が約4割に達していること、又、勤労者の所得が減少していること。法人税は、現政府の政策で大幅な減税をしたことで税収減につながりました。
この点を問題として捉えず、又、改善しないで安易な増税(消費税)で国民に負担を強いることになるのではないでしょうか。

 

私たち庶民は、日常生活の中で直接政治に触れることはほとんどありませんが、日常生活のほとんどは政治と深く関わっていると思います。
そしてこうした政治の動向は、テレビや新聞、ネットなどで日々入手する手段を持っています。
そしてこれらの情報やメディアが流す報道はほとんどが「単発情報」「単発記事」です。
例えば、消費税増税、医療費負担割合増、年金受給年齢引き上げ、医療・介護保険料アップ、保育園問題、奨学金問題・・・、更には非正規雇用拡大と低賃金の税収減、法人税減税、企業の内部留保・・・、福島原発補償、原発再稼働・・・等々。
これら全てが国の歳入と歳出につながり、私たちの生活と深く関わっていると思います。
その単発情報、単発記事だけを捉えれば、そこだけの問題として済ませてしまう、なぜそうしたことが起きるのか、どこに問題があるのか、ということが何ら問われないのが現状ではないでしょうか。
その結果、年金・医療・介護などの社会保障費の増大が、若い世代の子育て・保育・奨学金・住宅支援などの財源にまわってこない、減らされるという世代間格差を助長するような発言や考えが増えてくることにもつながります。
まさに問題のすり替えであり、その本質を覆い隠すものになりかねないのではないでしょうか。

 

大企業の内部留保「400兆円」!

 

時を同じくして、9月1日財務省が2016年度の法人企業統計を発表しました。
財務省が1日発表した法人企業統計調査によると、企業が利益を蓄積した「内部留保」は過去最高の406兆2348億円となり、はじめて400兆円を超えた。
景気回復を背景に企業が資金を貯め込んでいる実態が浮き彫りになり、投資や賃上げを求める圧力が一段と強まりそうだ。
第2次安倍政権発足後の12年度末から増加が続き、5年連続で過去最高を更新した。
内部留保が増加している背景には、好業績に見合った賃上げや投資(設備投資)が控えられている側面がある。
9/2 時事ドットコムニュース

又、時を同じくして、9月3日付日本経済新聞の一面で、各国企業の税率が下がってきている記事が掲載されていました。
企業の法人税の負担が下がっている。世界の上場企業が世界中で支払った税金が・・・10年前の27・8%から24.6%に低下した。
節税を狙いグローバル企業が税率の低い国に拠点を移す動きが加速し、税負担率が全体として下がった。
企業をつなぎ留めようと各国が税率の引き下げを競う中、日本企業の負担率が相対的に高くなっている。
9/3 日本経済新聞

 

2017法人税1  2017法人税2

9/3付 日本経済新聞

 

国の政策によって法人税を引き下げて企業の内部留保を増加させる構図が浮かび上がってきています。
企業は、これだけの利益を貯め込んでいても勤労者の賃金を抑え、非正規雇用を拡大することで更に利益を増やす循環を作り出そうとしています。
又、こうした状況を助長するようなメディアの姿勢も問わなければならないと思います。
日経新聞の記事は、世界的な流れとして法人税が下がっていることの現状を報じ、さも日本企業がまだ高いというような論評です。
日経新聞という特性上、企業側の立場に立った報道はしかたがないかもしれませんが、その裏に隠された問題を指摘せずに現状報道だけに目を向けさせる記事はいかがなものか?と疑問を持ちます。
こうしたグローバル化した大企業の出現によって世界的な格差と貧困を招き、日本においても税収入の低下により、安易な消費税増税や社会保障の質の低下につながってきています。
”法人税の引き下げがどのような影響を及ぼすか” ということをしっかり報道することもメディアの社会的責任ではないかと思います。

 

話を「公務員65歳定年」に戻します。
「定年延長」という単発記事の裏には、少子高齢化~年金受給年齢の引き上げという流れがあります。
高齢者世代には、健康寿命の延びに伴い働く意欲の増加というものもありますが、現実は年金を受給するまでは生活が厳しい、年金だけでは生活できないという経済的な状況があります。
現役世代には、賃金上昇の頭打ち(可分所得減)、非正規雇用の拡大(年金、医療、雇用保険など全て自己負担)、継続雇用の所得減など、ここにも経済的な問題が膨れ上がっています。

冒頭で述べたように公務員の65歳定年は、民間の定年延長を促進させる狙いもあります。
仮に民間の定年が法的に65歳になったとしても現状は変わらないと思います。
あくまでも年金受給引き上げに伴う「受給までの空白期間」を埋めるだけの処置で、60歳以降の賃金は大幅にカットされることは目に見えています。
更に65歳以降70歳まで継続雇用制度を導入(公務員は再任用)したとしても、一段と賃金低下があるのではないでしょうか。
現在、男性の健康寿命は71歳です。ほぼその年齢まで働き続けなくては生活できない。いやそれ以上かもしれません。

「定年延長」ということ一つとっても、国の政策(政治)が大きく関与しています。
一言でいえば「税収入とその使い方」にあるのではないでしょうか。
企業の法人税、内部留保、タクスヘイブン、一部富裕層の税率も大きな税収入に関係しています。
先ほど何度か書きました「国の財源がないから」という前にやるべきことはいくらでもあるのではないでしょうか。

 

以前、このブログの読者からこんなコメントがあったことを思い出しました。
「長年働いてきて厚生年金をもらえるようになった。会社が半分負担してくれたから助かった」と友人が言っていた。
私は(その読者)、その言葉を聞いて違和感を覚えた。それは「もらえる」「半分負担してくれた」ということに対してである。
汗水流して一生懸命働いて積み立ててきたのだから当然のことであり、会社が半分負担といっても、それ自体はその会社で働いてきた方々(労働者)が得た利益なのである。だから全ての厚生年金は、自分たちが働いてきた当然の報酬として受け取るべきである。

なるほど確かにそのとおりだと思います。
会社が得た利益は、そこで働く人たちが得た利益です。積み立ててきた利益だってもとはといえばそこで働く人たちが得た利益です。
賃金というかたちで給与を得たもの以上に利益が出ているのであれば、それはそこで働いている人たちの労働の価値がそれだけあったことだと思います。
であるなら、その価値を分配(賃上げ)することも当然のことだと思います。
極端な言い方かもしれませんが、内部留保400兆円=働く人たちに本来支払われるべきものではないでしょうか。

 

見方を変えれば考え方も変わってきます。
単に定年延長ということも、その言葉の裏にはいろいろな経緯と意図があるのではないかと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。