パーティー登山

安心な反面、危険性はらむパーテー登山

複数だからこそ危険度も潜んでいる?

 

8月29日午前11時頃、北海道幌尻岳で3人が沢に流される遭難が起きました。
自宅で夕方のTVニュースの報道で知りました。
ニュースに映った最初の山の映像は深い森林地帯、そして、アナウンスは「日本百名山と沢」という二つの言葉でした。
その時点で多分「幌尻岳」だろうと推測しました。

 

2017遭難記事  2017遭難本

8月30日朝日新聞記事

 

今年北海道ロングステイで百名山4座登りましたが、幌尻岳にはまだ登っていません。
当初、登山プランを立てたものの、登山口までのアクセスや装備が不十分だったため来年登ることにしました。
今回4座の内のひとつトムラウシに登った時、新潟から来られた登山者(65歳単独)と知り合いになり、お互い単独行ではあるもののほとんど同じペースで上り下りした方がいました。
その方は、二日前に幌尻岳に登ってきたと話していました。
その話によると「渡渉が17回ほどあった」(その方の記憶)とおっしゃっていました。
「俺は長靴で渡ったけど・・・」と笑って話していました。
本来であれば専用の沢靴を準備して渡るようですが、その方が言った「渡渉17回」は ”心して登らなければ” ということが強烈な印象として残りました。
又、その方は北海道の百名山踏破を目指す山旅をしている人で、天気や山の状況をみながら次は大雪山か?、それとも阿寒岳か?、いずれにしても「天候」を大きなポイントにしていることが伺えました。
※「北海道ロングステイ トムラウシ登山」

 

一般的な登山の場合、パーティー登山と単独行の二つがあります。
前者は、友人や山岳会(同好会)などの知り合い同士、又、山岳ツアーなどガイドが引率するパーティーがあります。
登山中、何らかの事故や緊急時に複数のメンバーがいることでその対応がスピーディに行われる利点があります。
反面、個人のペースよりもパーティー全体のペースに合わせることが多いため、自分のペースが乱れ体力消耗につながる登山になりがちです。
どちらにしてもパーティーと単独行には一長一短がありますが、安全性や楽しさ、緊急時の対応など登山全体でみればパーティーの方が良いのかもしれません。

では山の遭難事故という点からみた場合、パーティー登山の方が低いか?というとそうでもないようです。
同じ北海道で起きた直近の山岳遭難では、
遭難者が出たのは「グループ登山」が72件、と、「単独登山」の41件を大きく上回る。
2016年8月北海道朝日新聞

ではなぜパーティー登山の遭難事故が多いのかということを考えてみました。

■メンバーそれぞれの力量(経験、体力など)が異なること
日程が決まっていること
■いろいろな場面での判断力

私も仲間たちとパーティーを組んでの登山経験から、主に上記のようなことが伴うことからではないかと思います。
これら三つの要因を単独行に当てはめた場合、自分の体力・経験は自分自身が一番よく知っている。天気が悪ければ日程を変更する。登山中悪天候になった、体調が思わしくないなどの状況になったら下山もしくは山小屋に戻る判断が即座にできる。
しかし、これがパーティーの場合、状況によってたいへん難しくなり判断を誤る場合があるということです。

 

ヤマレコのある投稿手記にこんなことが書かれていました。
統率のとれたパーティーなら確かに安全度は高いが・・・複数だからこそ危険度も潜んでいる気がします。
第一の危険が、天候と日程。第二が体調・装備・技術の管理。第三に意見・行動の統一。
トムラウシは天候不良の中、メンバーの体力を考慮せず日程を強行したことによる遭難事故。宝剣岳は統率者もいないに等しいパーティーがこれも悪天候で無理に日程を消化しようとして起きたといわれる。

パーティー登山の大きな課題は、まさに天候と日程」、「意見・行動の統一」にあると思います。
三点の内、残りの一点の「個人の体力差・体調・装備・技術」は、比較的行動中に改善、修正できる部分がありますが、他の二点は難しいと思います。

かつて、パーティー登山の遭難が起きた例では、ほとんどの場合、熟練者、ベテラン、経験豊富などの記事が掲載されていました。
今回の幌尻岳遭難事故の記事(北海道新聞)でも、
亡くなった3人が所属していた日本山岳会広島支部の支部長は、「みな相応の登山歴があり、まさか事故に遭うとは」
というコメントがありました。
更に、「登山歴数年から20年前後というベテランに過信はなかったのか」という論評も記されていました。
ここで言う「相応の登山歴」や「20年前後のベテラン」というのは、あくまでも技術的な面が大きいと推測します。

一般的にパーティー登山の場合は、数か月、数週間前から日程を決めて行動します。
例えば、今回遭難のあった北海道登山では、航空チケット(又は電車)、宿泊施設の予約などがあることから直近の天候状況(今回の場合天候不順が続いていた)や当日の天気は考慮されない、しかたがないという場合があります。
「今更キャンセルはできない、せっかく来たんだから行ってみよう」という判断は、ごく一般的なものだと思います。
ヤマレコの手記にもあるように、「日程を強行、悪天候で無理に日程を消化」ということになりかねないと思います。
更に、渡渉する段階で「腰まで水が浸かっていると、流される可能性が高い。少しでも危険と感じたら、渡らない勇気も必要だった」(北海道山岳協会会長の談)という談話も掲載されていました。

パーティー登山の場合、技術的にベテラン、経験豊富なリーダーがいても日程を変更する、渡渉は止めて山小屋に引き返すという判断は、かなり難しいものがあると思います。
こうしたところに「複数だからこそ危険度も潜んでいる」ということなんでしょうか。

 

私自身が今回のような幌尻岳登山に同行していたら、どういう判断をしたかと問てみました。
実際にこうした場面に立ち会っていないので分かりませんが、やはり難しい判断だったと思います。
今回のパーティーは8名だったそうです。出立する早朝、山小屋で ”下山することは全員一致で決めた” そうです。
予定通り下山することはともかく、途中途中の状況に応じて判断しなければならない場面があったと思います。
下山が目的化することで、イコール渡渉する、しなければという気持ちになったんではないかと思います。
山小屋を出立する前、下山はするけれど状況に応じて引き返す選択肢も相談すべきだったのではないかと・・・。
結果論だから言えるのだろうというかもしれません。確かにそうです。
しかし、登山というものは、時々の状況に合わせた判断が必要なんだということを改めて学ぶものがあります。

 

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先日、山仲間たち6人と槍ヶ岳登山に行ってきました。
この時の登攀ルートは、東鎌尾根から槍ヶ岳を目指すコースでした。
天気が悪いようだったら東鎌尾根を登らず、槍沢ルートに変更することを事前に伝えていました。
更に、東鎌尾根に取り付いた時、強風(天気が良くても)があって登攀困難な状態であったならば、槍沢ルートに引き返すことを想定していました。
仮にそうした場面に遭遇した時(強風)、果たして今来た登山道を1時間かけて戻るのか?という判断ができるかということと同じなんですね。
これが単独行であれば即断(行くか戻るか)できますが、これが7人パーティーとなるとそうはいかない状況になります。
「この位だったらなんとか行けるよ」とか「ちょっと自信がないから止めようよ」という意見があります。
パーティー登山は、前述したように個々の力量(体力、経験、身体状況など)が違います。
では何に全体を合わせるかというと、それは最も低い力量の人に合わせるというのがパーティー登山の原則だと思います。
この力量には、精神的な面もあると思います。不安を感じる、自信がないということであれば、その人に合わせるということが最善の方法なのかもしれません。
登山においては、こうしたことを一概に言えないことやいろいろな場面に遭遇することがありますが、一つの大きな判断基準になるのではないかと思います。

今回の幌尻岳遭難事故は、同じように登山を愛好する者として心が痛みます。
なぜこうした事故が起きてしまったのかを検証すると共に、私たち登山愛好者がこの事故を教訓として学ぶことが必要だと思います。

 

日本百名山と登山スタイル

 

幌尻岳は日本百名山のひとつです。
登山を趣味にしている人たちにとっては、この百名山は憧れの存在だと思います。
今回遭難した8人パーティーの方々は、昨年も幌尻岳登山を計画していたそうですが、天候不順のため断念して今年決行したと報道されていました。
登山者にとって日本百名山の存在は、それだけ大きな魅力あるものだと思います。
そしてそのことは、今まで登ってきた百名山で多くの登山者との出会いからはっきり分かるものでした。
そんな中、登頂することだけが目的化、数を稼ぐことが目的化しているようなこともあるように思えます。
個々人によって登山スタイルはさまざまですから、他人がどうのこうのという筋合いのものではありませんが、「そんなに急がずもっと山自体(風景、動植物、季節の変化など)を楽しんでみてはいかがですか」と言いたい時もあります。

今年の北海道ロングステイの時、利尻島に一週間滞在しました。
この時、利尻岳に登る計画でしたが、あまり天気が良くないので諦めました。
意外と簡単に諦めた理由に、今思えば単独行だったこともあると思います。また天気の良い時に来ればいいやという思いでした。
これが「登頂することだけが目的」「パーティー」であれば多少天気が悪くても、はるばる利尻島まで来たんだから絶対登ろうということになっていたかもしれません。

私にとっての登山の魅力とは、登り下りしている途中の景色や頂上からの絶景、変化に富んだ高山植物の鑑賞です。
あくまでもその目的は ”登山の経過” にあります。
登頂も目的のひとつですがそれだけではないということです。
だから自分のペースや自分のスタイルで登山をする単独行が好きなのかもしれません。

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